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『アナと雪の女王』稽古場レポート:創造の場は愛に満ちて

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『アナと雪の女王』稽古より。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

運命に引き裂かれた姉妹の真実の愛を描き、世界的な大ヒットとなったディズニー映画を舞台化(2018年ブロードウェイ初演)。日本での初演が待たれていた『アナと雪の女王』が遂に来月、開幕します。

初日まで1か月を切った5月29日、あざみ野の劇団四季稽古場ではプレス向けの稽古場取材会が開催。今年最大の話題作がどのようなものになるのか、埋め尽くされたプレス席から静かな熱気が立ち上る中、稽古が始まりました。

披露されたのは3つのくだり。アレンデールの王女アナが歌う“生まれて初めて”は、成長したアナが初めて登場するシーン。演出アソシエート、エイドリアン・サープルさんが取材陣に向けた“Enjoy!”の声が合図となり、ドレスを持った侍女がアナの寝室に向かいます。
“お姉さまの戴冠式…そうよ、戴冠式だ‼”

飛び起きたアナは急ぎドレスを身に着け、これからどんな出会いがあるかと心躍らせます。♪生まれて初めて音楽に乗り…♪と、ピアノ伴奏で表情豊かに歌い上げるアナ役、町島智子さん。後半に現れるエルサ役・岡本瑞枝さんの憂い顔と好対照をなしています。

場面は続いて“サザンアイルズのハンス”~“危険な夢”へ。アナはクリストフ(北村優さん・山男らしい豪快なオーラ)の売りものである氷の上で、サザンアイルズの王子ハンス(塚田拓也さん・アニメ版とは異なる、優しく繊細な風情)と運命的に出会います。

“私、温室育ちだから生きてる人間って得意じゃない…でも、得意になりたいのよ”というアナに対して、自分は13番目の王子で、口下手で無様、英雄になれるはずもない…と語るハンス。コンプレックスを持つ同士、共感を抱いた二人は後の再会を約束し、戴冠式へ。

いっぽう、張り詰めた表情のエルサは“(私は)見かけほど冷たくない 知ってほしいけどそれは危険な夢…”と、心を閉ざさざるをえない運命に耐え、式に臨みます。

『アナと雪の女王』稽古より。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

『アナと雪の女王』稽古より。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

『アナと雪の女王』稽古より。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

無事に儀式が済み、人々が歓喜のダンスを始めても、彼女の心にあるのは妹のこと。子供の頃の事故以来、自分の持つ魔法の力を隠すため自室に閉じこもってきたエルサは“(そんな毎日も)これから変わるかしら…あなたが望むような私じゃないけど…あなたを知りたい”と一人、アナへの思いを募らせます。

さあ、この後はどんな展開に?…というところで、場面はストップ。エイドリアンさんらが俳優たちの目の前まで足を運び、身振り手振りを交えて細やかなダメ出しが行われます。

そして最後にエイドリアンさんが悪戯っぽく“次はおそらく皆さん聴いたことのない曲だと思います。一緒に歌ってください”と紹介し、“ありのままで”がスタート。舞台奥からしずしず現れた岡本エルサは、“降り始めた雪は 足跡を消して…”と、一言一言をかみしめるように歌唱。指先や腕を動かす仕草から、自身に宿る魔法の力を確かめ、徐々に解き放っていることがうかがえます。(実際の舞台では様々な仕掛けで、魔法が可視化される模様)

『アナと雪の女王』稽古より。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

『アナと雪の女王』稽古より。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

あまりにも有名なナンバーであるため、聴いているほうはメロディに身を任せたくもなりますが、岡本エルサの歌声はあくまで歌詞と連動し、エルサが心を決めてゆく過程を丁寧に、そして力強く描写。感情がクライマックスに達し、“少しも寒くないわ”と楽曲が締めくくられると、上手に集まっていた俳優たち全員が喝采を送り、町島さんが彼女に駆け寄る姿が見受けられました。本当の姉妹のように抱き合い、涙する二人…。

(左)『アナと雪の女王』「ありのままで」稽古直後のお二人。(右)合同取材中に思いがこみ上げる町島さんを気遣う岡本さん。©Marino Matsushima
キャスト&スタッフ合同インタビュー

この後、隣室で行われた合同インタビューにはエイドリアンさん、アソシエート・コレオグラファー(振付補)のチャーリー・ウィリアムズさん、劇団四季の吉田智誉樹社長、エルサ役候補の岡本さん、三井莉穂さん、アナ役候補の町島さん、三平果歩さんが出席。

『アナと雪の女王』稽古後の合同取材。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

映画版と舞台版の違いについて、エイドリアンさんからは「楽曲がかなり増えたことと、キャラクターたちの人間関係描写がより深まり、(物語の)背景が見えてくると思います」、チャーリーさんからは「単に映画版のコピーにならないよう、より身体言語をお見せしています。アナとハンスのナンバー“扉開けて”など、さらに躍動感あるダンス、多様な動きをご覧いただけると思います」と説明。劇団四季との仕事については「今回のキャストが誇らしいです。思っていたより先に進んでいます」(チャーリーさん)「これほど努力家で献身的なチームは世界のどこでも見たことがなく、とても満足」(エイドリアンさん)とのこと。

俳優の皆さんからは見どころについて「どこも見どころですが、テクノロジーを使いつつ、敢えて人の力で表現している場面もあり、人間だからこそのエネルギーを感じていただけるのでは」(岡本さん)「どのキャラクターも愛を持っていて、多くの方がどこかで共感していただけると思います」(三井さん)「姉妹の絆、愛をお届けしたいです。新ナンバーも楽しみにしていてください」(町島さん)「皆さんご存じだと思いますが、アナは終盤で凍ってしまいます。それが溶ける時、きっと感動が生まれると思います」(三平さん)と様々な側面が挙げられました。

オーディションに合格した時の心境について聞かれた際には、「嬉しかったです」と言いつつ、岡本さんは“これから(稽古を)頑張るぞ”と思った矢先にコロナで延期になり、言いようのない不安を感じてしまって…と言葉を詰まらせながら吐露。「でも社長はじめ皆さんの努力で(事態が前進し)海外スタッフも来日して下さって…感謝しています」。

シリアスな発言が続くなかで天真爛漫に場を和ませてくれたのが三平さん。「オーディションの時には絶対合格したいと思っていましたが、今は“なんでこんな大変な役をやりたいと思ったんだろう?”と思います」と笑わせた後、「10年以上城を閉ざされて、誰とも会ったことがないというアナの感情をどう理解したらいいでしょうか?」と突如、エイドリアンさんに質問。エイドリアンさんからは「アナは夏至にあたる6月21日、エルサは冬至にあたる12月21日が誕生日で、アナは本質が太陽、楽観的で、姉との愛も信じているんです」とヒントが渡されました。
吉田社長からは「現在、ファンクラブである《四季の会》先行予約が始まっていますが、劇団四季史上最高の売り上げ枚数になりそうで、改めて責任の重さを感じています。(お客様の期待に沿えるよう)いい舞台を作りたい。ひととき、あたたかい愛に包まれていただけたらと思います」とのコメントが。稽古場にも、インタビューにも“愛”が溢れる、エモーショナルな取材となりました。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『アナと雪の女王』6月24日~(12月31日分まで発売中)=四季劇場 春 公式HP