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劇団ぼるぼっちょ『魔女のメヌエッサ』稽古場レポート:ウィットに富んだ“シェイクスピア×おとぎ話” 音楽劇

『魔女のメヌエッサ』稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載

安倍康律さんが主宰し、作・演出・作詞作曲・振付を担当している劇団ぼるぼっちょが、前作『パンピスの森』から4年ぶりに新作を上演。前回はユーモアたっぷりのメルヘン調音楽劇でしたが、今回はいかに? 佳境に入ったある日の稽古をレポートします。

『魔女のメヌエッサ』。宣伝美術は廣瀬友祐さんが担当。

“では安全第一で行きましょう!”
安倍さんのひと声とともに、それまで和やかに談笑していたメンバーはすっと劇世界へ。

風吹きすさぶ空間に現れた一座が、観劇マナーを喚起するユーモラスな前口上をかわるがわる述べた後、「魔女の歌」の合唱と共に本編が始まります。

『魔女のメヌエッサ』稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

“綺麗は穢い、穢いは綺麗…”。
シェイクスピアの『マクベス』が想起される歌いだしですが、その後の魔女たちのやりとりからうかがえるのは、人間を“闇”ではなく“光”に導こうというスタンス。
民衆を見下す領主、オーディル伯爵を“悲劇にさらす”ことに決めた彼女たちは早速、彼の館へと向かいます。

嵐の中、一夜の宿を求めた老女…に化けた魔女に、伯爵は(予想通り)すげない態度。もとの姿に戻った魔女は、赦しを乞う伯爵を“醜い心に相応しい”姿に変え、“愛し愛されること”を知るまではそのまま、と呪いをかけます。

『魔女のメヌエッサ』稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載

この展開、どこかのミュージカルでも見かけたような…?と思いきや、ここで心優しき執事が、呪いについての持論を披露。ポジティブすぎる彼の勘違い(?)は伯爵をも納得させ、魔女のもくろみはおかしな方向へと転じて行きます。

もつれた糸をほどこうと、騎士バルコスに預言を授ける魔女たち。しかし民兵スクフォー、騎士の思い人エレナーデ、そして魔女たち自身も巻き込んで、事態はさらに複雑化し…。

『魔女のメヌエッサ』稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載

人間たちと魔女たちが繰り広げる騒動を、リズミカルな台詞と親しみやすい楽曲を織り交ぜながら描く音楽劇。やりとりの中でころころと関係性が変わってゆく様を、魔女役の高橋由美子さんはじめ、岡田亮輔さん、石井雅登さん、那須愛理佳さん、田中秀哉さん、碓井菜央さん、そして安倍さんという精鋭キャストが(人によっては二役を兼ねながら)生き生きと見せ、“人の心は御しがたい。だから人間は、面白い…”といった、ポジティブな余韻を残します。

特に卓越した歌声の持ち主が何人もいるカンパニーとあって、コーラスの美しさは特筆もの。上演会場は“全員が特等席”状態の小劇場、“浅草九劇”ですので、厚みのある“声の響き”も楽しめそうな作品です。

《魔女役・高橋由美子さん、碓井菜央さんミニ・インタビュー》

(写真右)高橋由美子 埼玉県出身。1989年に女優、90年に歌手デビューし、音楽、TVドラマ、映画、CMなど幅広く活躍。ミュージカルの出演作に『モーツァルト!』『ミス・サイゴン』『レ・ミゼラブル』『怪人と探偵』『GREY』等がある。(写真左)碓井菜央 神奈川県出身。2011年『ロミオ&ジュリエット』出演を機に、主に舞台で活躍。2017年に劇団ぼるぼっちょに入団。最近の出演作に『キング・アーサー』がある。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

――台本を読まれての第一印象はいかがでしたか?

高橋由美子(以下・高橋)「どうやって(こんなにたくさんの)台詞を覚えればいいんだろう?と思いました(笑)。韻を踏んでいる台詞がすごく多いので、お客様に伝えるのが難しいなと思ったのが第一印象ですね」

――どことなくシェイクスピア劇的ですね。

碓井菜央(以下・碓井)「まさに稽古の初日に、(作・演出の)安倍さんからそういう話がありました。今回はいろんな畑から集まっているキャストだからこそ、シェイクスピア的な、重厚感がある感じで作っていきたい、と。でも喜劇ですので、どこで笑っていただけるか、稽古の中で模索したりもしています」

『魔女のメヌエッサ』稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載

――お二人が演じる“魔女”は、どのような存在ととらえていらっしゃいますか?

碓井「“いい魔女”と自称しているので、より良い世の中になるように(人間たちを)流していく存在なのかなと感じています」

高橋「魔女というより“人”なんですよね。魔法をかけるシーンは一か所ありますが、あとは言葉巧みに人々を、決して悪い方向ではなく、いい人間になれるほうに導いているといった感じで、毒々しいイメージではないんです」

『魔女のメヌエッサ』稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載

――碓井さんは今回、振付も担当されていますね。

碓井「ほとんどは安倍さんがなさっていて、私は自分のソロの部分を振りつけています。イメージとしては平和を祈る踊りで、今日の稽古では即興的に動きましたが、安倍さんからは“ジャズダンス風にバキバキやって”というリクエストもいただいています」

――今回のカンパニーはどんな空気ですか?

碓井「ぼるぼっちょの空気は毎回違うのですが、今回は“初ぼるぼっちょ”の方が多くて、安倍ちゃんもシェイクスピア色を意識していらっしゃるので、いつもとひと味違って新鮮です」

高橋「初日の二週間前に通し稽古が出来ているというのがすごいです。順調に進行していると思います」

『魔女のメヌエッサ』稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載

――安倍さんはどんな演出家ですか?

高橋「破天荒ですよね(笑)。台本を書ける才能はすごいと思いますし、演出では、伝え方が粗いかな?というところもあるけれど、いいものを作ろうという気持ちが伝わってきて、“違うんじゃないかな”と思うところがあっても、“そういうふうにするにはどうすればいいかな”と歩み寄ることができる方です」

碓井「演出も歌もお芝居も、すべてにおいてパワフルな方です!」

――どんな舞台に仕上がったらいいなと思われますか?

碓井「とにかく、楽しい舞台になったら最高です!」

高橋「何回か観たら面白い部分が毎回違う作品だと思います。言葉遊びの部分も魅力ですが、役者たちの壊滅的なパワーというか(笑)、頭ごなしにじゃなく、じわじわくるような面白さがあるので、何回も観て頂けるような作品になればいいなと思っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 劇団ぼるぼっちょ『魔女のメヌエッサ』9月7~17日=浅草九劇 公式HP
*キャスト全員のサイン入り『魔女のメヌエッサ』オリジナル・トートバッグをプレゼント致します。詳しくはこちらへ。

*前回公演『パンピスの森』が期間限定で無料配信中です。URL:youtu.be/sL9xJ2fYCYA 上演時の稽古場レポート&安倍康律さんインタビューはこちら