Musical Theater Japan

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親子で観たい!この夏のミュージカル①『カラフル』:思春期の子供と家族、それぞれの思いをヴィヴィッドに描く

『カラフル』©Marino Matsushima 禁無断転載

猛暑の中で幕を開けた、23年の夏休み。“子供とお出かけ、どこに行こう?”という方、今年は“親子でミュージカル鑑賞”はいかがでしょうか。選りすぐりの3本を、特にお勧めしたい年代ごとにご紹介します!

小学校高学年~高校生
思春期の子供と家族。それぞれの思いをヴィヴィッドに描く『カラフル』

家族が疎ましくなったり、“生きること”に疑問や不安を抱き始める…。そんな思春期の子供やその家族にぜひお勧めしたいのが『カラフル』。森絵都さんによるYA(ヤングアダルト)小説の名作を舞台化した作品です。

『カラフル』©Marino Matsushima 禁無断転載

ある罪を犯して亡くなった“ぼく”の魂は、天の思し召し(?)でセカンド・チャンスを与えられ、自殺を図った中学生、小林真(鈴木福さん)の体にホームステイしながら修行をすることに。真と家族の抱えていた問題に向き合ううち、思いがけない真実に辿り着きます。

『カラフル』©Marino Matsushima 禁無断転載

川平慈英さん扮する天使“プラプラ”のゴキゲンな第一声“おめでとうございます!抽選にあたりました!”で始まる舞台は、起伏豊かに疾走。自分を取り巻くのは最悪なことばかり、と絶望して自殺を図った真でしたが、尊敬できない父、母、兄にはそれぞれの思いがあったことを知り、学校では自分を見ていてくれた女子生徒(加藤梨里香さん)がいたことが判明。そしてひょんなことから、初めての“ともだち”も出来て…。

『カラフル』©Marino Matsushima 禁無断転載

脚本・演出の小林香さんは一つ一つのエピソードをテンポよく繋ぎつつ、キャラクターの心の叫びを丁寧に見せていますが、とりわけ、自分にとりえがないと思い込み、次々と習い事に手を出すうち自分を見失ってしまった母の告白が出色。演じる彩乃かなみさんの迫真の演技も手伝い、子供の付き添い気分で来場した大人たちもはっとさせられるようなシーンとなっています。

『カラフル』©Marino Matsushima 禁無断転載

組織に振り回されながらも、志を曲げずにサラリーマン道を行く父(川久保拓司さん)が繰り返す(『方丈記』の)フレーズ“ゆく河の流れは絶えずして…”も印象的。また終盤には、天使として飄々と存在しているように見えていた“プラプラ”の過去も明らかになり、“ぼく”の“生きること”への思いはいっそう深まってゆきます。

『カラフル』©Marino Matsushima 禁無断転載

シリアスな内容でも重くなりすぎないのは、ミュージカルという表現形態ならでは。大嵜慶子さんによる音楽はゴスペル調、タンゴ調など多岐にわたり、キャッチ―でありながら独創的。舞台袖のミュージシャンたちの生演奏が、楽曲にさらに豊かなニュアンス(特に弦楽器)を加えています。様々な方向に“傾いている”舞台美術(松井るみさん)も興味深く、その意図を親子で考察してみるのも面白いかもしれません。

『カラフル』©Marino Matsushima 禁無断転載

今抱えている個々の悩みに対して、ダイレクトな回答があるわけではなくとも、“人生をこうとらえてみては?”というヒントは見つかる本作。東京、愛知公演では、高校生以下1000円という破格のチケットもあり、“劇場は敷居が…”と感じている方も足を運びやすい演目です。

(取材・文・撮影=松島まり乃)

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*公演情報 7月22日~8月6日=世田谷パブリックシアター 公式HP  以後、兵庫、茨城、愛知でのツアー公演も有り。