Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』観劇レポート

f:id:MTJapan:20220122165232j:plain

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

“負け組”を自認する男と壊れかけたロボットが出会い、世界を股にかけた旅の中で絆を深める『ロボット・イン・ザ・ガーデン』。デボラ・インストールの人気小説を劇団四季が舞台化し、2020年の初演が好評を博したミュージカルが再演中です。

アンドロイドが人間に代わって家事や仕事を行う近未来。両親が事故で亡くなって以来、心にぽっかりと穴のあいたベンは、獣医の夢も諦め、自宅で怠惰に過ごしています。

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』ベンの記憶の中の両親は、リタイア後の旅行を楽しみにしていました。小型飛行機で飛行するという彼らを、ベンは「危険だ」と止めようとしますが…。©Marino Matsushima 禁無断転載

ある朝、庭にぼろぼろのロボットが入り込んでいることに気づいた弁護士の妻エイミーから“あの粗大ごみを追い出して”と頼まれるも、“タング”と名乗る不格好で旧式のこのロボットに心惹かれ、仲良くなってしまうベン。エイミーは愛想をつかし、“離婚しましょう”と荷物をまとめて出てゆきますが、ベンはタング修理の可能性を模索し、カリフォルニアへと出発します。

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』カリフォルニアのアンドロイド製造会社では、研究員コーリーが旧式ロボットのタングに興味津々。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

アンドロイドの製造会社ではタングの故障原因はわからず、二人は紹介された博士リジーに会いにヒューストンへ。そしてリジーの紹介で東京へ。

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』コーリーの友人で宇宙博物館の博士、リジーにもタングを直す方法は不明。彼女は専門家のカトウを紹介します。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』ベンとの結婚生活に疲れ果てたエイミーに、義姉で友人のプライオニーは、新たな人生を踏み出すよう提案します。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

この間、ベンの姉でエイミーの親友でもあるブライオニーは、エイミーに新たな人生に踏み出すことを勧め、エイミーはパーティで出会ったロジャーと交際することに。

f:id:MTJapan:20220122165750j:plain

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』ヒューストンから飛行機で一路、トウキョウへと向かうベンたち。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

秋葉原で働くリジーの元恋人・カトウは、ボリンジャーという人物がタングを作ったのではないかと推測。今やすっかり良きバディとなったベンとタングは、意を決してボリンジャーが住むというパラオへと向かいますが…。

旅の過程で、人間とロボットの垣根を超え、絆を深めて行くベンとタング。©Marino Matsushima 禁無断転載

タングの“身元”にまつわる謎ときと、心に傷を負った主人公の再起が重なりゆく舞台。英国から米国、日本、そしてパラオへとダイナミックに旅する中で、社会からドロップアウトしかかっているベンとタングが心通わせ、いつしか互いにかけがえのない存在となってゆく過程が、長田育恵さんの脚本、小山ゆうなさんの演出で丁寧に描かれます。ポップで親しみやすい河野伸さんの音楽、『WAR HORSE』で世界的に注目されたトビー・オリエさんによる、見かけ以上に可動域の広いパペットデザインも魅力的。

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』アンドロイドを研究していたカトウは、タングを見てあることに気づきます。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

2年ぶりの東京公演は、初演の熱気はそのままに全体の流れがスムーズさを増し、ベン役・田邊真也さん、エイミー役・鳥原ゆきみさんはじめ、作品のあたたかな空気感を共有するキャストの誠実な演技にも引き込まれます。(ベン役に山下啓太さん、エイミー役に岡村美南さんら新キャストも誕生)。またタングのメイン・ヴォイスについては生形理菜さんが天真爛漫、長野千紘さんがきっぱりと意志を持った口跡で個性がやや異なるのが興味深く、配役によるベンとの関係性のヴァリエーションも楽しめそうです。

f:id:MTJapan:20220122165949j:plain

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』記憶の中のベンとエイミーの出会い。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

東京公演最終舞台稽古後の合同インタビューには、長田さん、小山さん、劇団四季社長・吉田智誉樹さんが出席。長田さんは原作小説の脚色に苦労されたとのことで、「小説は筋を運ぶもの。舞台では人物主体となるよう考え直し」、(観客が)共感できるよう、夫婦のくだりを丁寧に書き直したそう。完成した脚本について、小山さんは「長田さんの書かれた言葉はきらきらしていますが、決して簡単に書かれてはいません。(その意図を観る人に)自由にキャッチしていただけたら」と語りました。

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』すみずみまで作品の空気感が行き届いた舞台。ベンとエイミーの出会いのシーンでは、語らううち心通わせる二人をパーティーのゲスト役・本城裕二さんがあたたかく見守っていました。©Marino Matsushima 禁無断転載

後日、追加でうかがったところ、今回の再演での主な変更点としては、「ベンが旅立つときに歌うナンバーを一曲カットしました。旅立ち自体がまだ劇的なものではなく、タングとの交流によってベンの心に変化がおとずれる様子をさらに繊細に描きたかったからです」と小山さん。また今回、劇団四季での初仕事を通して、「劇団四季は浅利先生の言葉を大切にする基盤の上にミュージカルを作っていらっしゃるので、根本はストレート・プレイもミュージカルも同じだな」と感じたそうです。

東京公演の後は京都を経て全国公演も予定されている本作。コロナ禍で鬱々となりがちな中、“負け組コンビ”が繰り広げる旅に笑ったりほろりとしつつ、晴れやかな心持ちで劇場を後にできる作品です。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます

*公演情報『ロボット・イン・ザ・ガーデン』2021年12月22日~22年1月23日=自由劇場、2月23日~4月16日=京都劇場、5月14日~全国公演 1月22,23日公演はライブ配信も予定。公式HP