Musical Theater Japan

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上田一豪に訊く、文芸大作『笑う男』日本版の演出ポイント

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『笑う男』

話題の文芸大作がヴェールを脱ぐ

ミュージカル化された代表作『レ・ミゼラブル』『ノートルダム・ド・パリ(『ノートルダムの鐘』原作)』を通して、日本のミュージカル・ファンにも広く親しまれている19世紀フランスの文豪、ヴィクトル・ユゴー。その“もう一つの傑作”と呼ばれる『笑う男』が、韓国での世界初演(18年)を経て、日本に初上陸します。

フランク・ワイルドホーン(『ジキル&ハイド』『スカーレット・ピンパーネル』)のエネルギッシュな旋律に彩られるのは、『ノートルダム~』同様、“迫害される弱者”の物語。見世物のために幼い頃、口を裂かれた純粋な青年グウィンプレンの人生が、思いがけない出来事によって逆転するが…。ユゴーの作風であるヒューマニズムが、強烈なまでに浮き彫りとなる作品です。

韓国版では脚本も手掛けたロバート・ヨハンソン(『マリー・アントワネット』)が演出を担当し、豪華絢爛たる舞台美術(オ・ピリョン)も大きな話題を集めましたが、日本版では上田一豪さん(演出)、小澤時史さん(音楽監督)ら、新進気鋭のクリエイターを起用。『キューティ・ブロンド』『オン・ユア・フィート!』とノリのいい作品での成功が記憶に新しい二人ですが、『WORKING』『Suicide Party』と過去にはドキュメンタリータッチの社会派作品も手掛けてきているだけに、本作をどう立体化するか、興味は尽きません。

またキャストには浦井健治さん(『ゴースト』『ブロードウェイと銃弾』)、山口祐一郎さん(『マディソン郡の橋』『レベッカ』)をはじめとする実力派スターが揃い、ミュージカル上演史に新たな“文芸大作”が加わるのでは、と大きな期待が寄せられます。 

演出・上田一豪さんインタビュー

主人公の心の痛みをしっかりと描き、お客様が“応援したくなる”物語を目指しています

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上田一豪・84年熊本県生まれ。劇団TipTapを旗揚げ、オリジナル作品を作・演出。東宝演劇部契約社員として様々な大作にも携わる。(C)Marino Matsushima

――韓国での初演は、眩いばかりの絢爛豪華な舞台美術が大きな話題となりました。日本版でも同じセットが使われるのでしょうか?

 

「韓国版のデザイナーさんが使用したものをお借りして、日本の劇場用に合わせて作っているところです。というのは、韓国で上演された時の劇場と(東京公演の)日生劇場のサイズ感が異なるので、コンセプトは同じだけれど中身は変わって見えるかもしれません」

 

――…となると、上田さんの演出もおのずから(ロバート・ヨハンソンさんによる)韓国版の演出とは違った形になってくるのでしょうか?

 

「そうですね、セットで圧倒してということではなく、より“人”にフォーカスしていく形になるかと思います」

 

――登場人物の造型ですね。

 

「韓国版を観た時、そのヴィジュアルやキャラクタライズのされ方という部分で、リアルな物語というよりファンタジーに近いのかなという印象がありました。


ロバートさんは2012年に公開されたフランス映画版のイメージで演出されたそうなのですが、今回はユゴーの原作や昔のサイレント映画版に近いイメージでやってみたいと思い、ロバートさんに承認をいただいて構成を少し入れ替えています。


なるべく主人公のグウィンプレンや(養父の)ウルシュスの感情がしっかり見え、日本のお客様がご覧になった時にグウィンプレンを応援したくなるようにということを考えています」
 

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グウィンプレン(浦井健治)

――その結果、グウィンプレンについてはどんな部分がより見えてくるのでしょうか?

 

「ロバートさんともお話したのですが、彼の台本ではグウィンプレンのバックグラウンドや心の痛み・苦しみがあまり描かれず、むしろポジティブなキャラクターとして描かれていました。いわゆる“満たされていない”人としては描かれていないんです。

 

ただ、それだとグウィンプレンが(やはりウルシュスに養女として育てられ)妹のように育ったデアを愛していても、彼女とは結婚できない、結ばれるべきではないと考えていることの理由が見えにくいのです。


顔に傷があるということがどれだけ、彼の成長に影響を与えていて、デアと一緒になりたいという思いの障害になっているか。その葛藤をスタートラインにすることで、それをどう乗り越え、その結果、世界を変えたいと考えるようになってゆくか、その道筋をつけさせていただきました。グウィンプレンの思考が一定であって、ブレないようにということが少しは達成できたかなと思います」

 

――その葛藤を表現する上で、数々のストレート・プレイで磨かれた浦井健治さんの演技力が活きているのでしょうね。

 

「そう見せられるといいなと思ってやっていますね。浦井君とは、グウィンプレンの痛みという部分が少しでも深く表現されるといいね、と相談しながら作っています。

歴史上の人物ではない(フィクションの)人物であるだけに、グウィンプレンの解釈の仕方はいろいろありますが、お客様が観て腑に落ちる人物像になるよう、浦井君と諦めずに取り組んでいるところですね。構造的に難しいものがあるけれど、さてその中でどう呈示しようかと、一緒に試行錯誤しています」
 

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ウルシュス(山口祐一郎)

――グウィンプレンの養父ウルシュス役を演じるのは、山口祐一郎さん。同じくユゴーが原作を手掛けた『レ・ミゼラブル』でジャン・バルジャンを演じていらっしゃる方だけに、今回はどんな人物造型をされるだろうと楽しみです。

 

「ウルシュスは、韓国初演では怒りの感情にフォーカスが当てられた人物のようにも見えましたが、ユゴーの原作や昔のハリウッド映画版では、とてもセンシティブでペーソスを感じさせるキャラクターです。

彼は世界に対して憤りを持っていて、世を嫌い、この世界は残酷で冷酷なものだと諦めている。人間に対しても希望を抱いていない人物だったのですが、グウィンプレンやデアと出会い、育ててゆくことによって心を開き、感情が豊かになっていきます。

 

ここがしっかり描かれないと、ウルシュスもどういう感覚を持っている人なのかが分かりにくい。今回の日本版では、愛情を深く持ってる人物としての側面も表現しようと、(演じる)山口さんと相談しています。

グウィンプレンやデアには家族として、人間として相対していて、愛情があるあまりに衝突したり、直線的な感情の動きをしてしまう。僕らが“お父さんってこうだよね”と納得しやすいウルシュスになればというのが、今回の描き方であって、人間らしい形になっているのではないでしょうか。

 

本作は構造的に、フランク・ワイルドホーンさんの楽曲を歌って歌って、そこに台詞が差し挟まれるという作りで、コンサート形式に近いものがあります。そのためドラマを描くには、俳優の皆さんの力に委ねなければなりません。韓国版では、キャストが迫力をもって歌っていくことで舞台の見せどころを作っていたけれど、日本では日本の見せ方があります。


登場人物たちが何を感じ、どんな葛藤を抱えているのか。そしてどこへ向かっていきたいのか。そういったものを感じ取り易くすることが大切だと思っています」

 

――繊細なドラマとして仕上がっていきそうですね。

 

「そうありたいなというところですね。キャラクターの感情の機微をわかりやすく、ということを何より心掛けています」

(取材・文=松島まり乃)

 

*公演情報*『笑う男』4月9~29日=日生劇場、5月3~6日=御園座、5月10~12日=新川文化ホール、5月16~19日=梅田芸術劇場メインホール、5月25~26日=北九州ソレイユホール 公式HP

 

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