Musical Theater Japan

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『パリのアメリカ人』石橋杏実・宮田愛に訊く、ヒロインたちの”女ごころ”

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(左)石橋杏実 英国に留学し、現地でダンス公演に出演。15年劇団四季オーディションに合格、『オペラ座の怪人』で初舞台。『ウィキッド』『ライオンキング』にも出演。(右)宮田愛 11年劇団四季研究所に入所。『美女と野獣』ベル、『クレイジー・フォー・ユー』ポリー、『ノートルダムの鐘』エスメラルダ等を演じている。©Marino Matsushima


ガーシュウィンの名曲をちりばめた50年代のハリウッド映画をベースとして、今、最も注目される振付家の一人クリストファー・ウィールドンが演出・振付を手掛けた『パリのアメリカ人』。独創的な振付と豊かなドラマ性、美しいビジュアルが評判を呼び、2015年のトニー賞では振付を含む4部門を受賞しています。

 

この大作が本年、劇団四季によって日本に上陸。ヒロインを巡る男性3人に注目が集まりがちですが、今回はリズとマイロという二人のヒロインに注目、リズ役の石橋杏実さん、マイロ役の宮田愛さんにそれぞれの切ない思い、そして作品の魅力をたっぷりとうかがいました! 

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『パリのアメリカ人』撮影:下坂敦俊

*ストーリー*第二次大戦直後のパリ。画家を志してパリにとどまることを決めた退役軍人ジェリーは、アメリカ人の作曲家アダム、そして資産家の御曹司アンリと友情を育む。大富豪の相続人であるマイロに気に入られ、支援を受けるジェリーはシャトレ座バレエ団のオーディションにやってきたリズに魅了されるが、そこで伴奏をしていたアダムも同時に彼女に心を奪われ、さらにアンリが幼馴染のリズにプロポーズしようとしているとは知る由もなかった。戦後の新たな時代の予感の中で、若者たちはひたむきに夢と恋に生きようとするが…。

 

“あの世界に触れたい”一心で取り組んだオーディション

 

――お二人は本作のオーディションにはどんな思いで臨まれたのですか?

 

石橋杏実(以下・石橋)「実は当時別の作品の稽古が決まっていて、今回は難しいかなと思っていたんです。でも受けてみませんかと声をかけて頂きアンサンブルを受けたところ、明日リズ役のオーディションに来てくださいと台詞と楽譜をいただいて。それまで長い台詞を喋ったことがなかったので、とにかく覚えなきゃと必死に覚えて臨みました。自分にとってチャンスと思い、全力で取り組んだ記憶があります」

 

宮田愛(以下・宮田)「私は『クレイジー・フォー・ユー』のポリー役を演じていてガーシュウィンの曲が好きだったのと、踊りや衣裳がとても素敵で、ぜひあの世界観に触れたいと思い、はじめはアンサンブルを受けました。マイロ役は舞台版を海外で観た方から“すごい色気で大人っぽい役だったよ”と聞き、自分向きではないのかなと思っていたのですが、募集要項を見て、年代的にも等身大でいられるかもと思い、挑戦することにしたんです」

 

――そして目出度く合格。稽古の段階ではどんなご苦労があったでしょうか?

 

石橋「私を含め演技経験の浅い方が何人かいたこともあって、まずワークショップがありました。ボールを使ったり、追いかけっこをしながら台詞を言うといった内容でしたね。振付の一部もこの時期に教えていただいたのですが、“こんな難しいことをするんだ…”というのが第一印象で。本作は一人で踊ることが少なく、私の役はほとんどがパ・ド・ドゥなのですが、(稽古でコンビを組むことの多かった)酒井大さんとはほぼ“初めまして”。人間関係を築くところから始まったので、初めはお互い気を遣い、それが踊りにも影響。二人で一つの踊りを創るって難しいなと感じました」

 

――劇中にも、リズが新作バレエを踊る中で、相手にリフトが怖いという台詞がありますよね。

 

「あそこも人間関係が影響していますね。リズが怖がっているのに相手役ががっと持ち上げようとして、モチベーションの違いが失敗に繋がるということを見せるようにしています。私たち自身、お稽古を重ねることで、危ない瞬間にもお互いどうすればいいか分かるので、失敗する前に対処できます」

 

指一本の動きもおろそかにできない振付

 

――石橋さん演じるリズのダンスにはフェミニンな味わいがあり、特にオーディションを受けるシーンでの腕の柔らかな表現が印象的ですが、どんなことを意識していますか? 

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『パリのアメリカ人』撮影:下坂敦俊

「ウィールドンさんの振付には物語があるというか、振りの全てに意味があって、表現力が求められるいっぽう、しっかりやれば踊りだけですべてが伝わると感じます。例えば(2幕のクライマックスの)バレエの最初のほうで、太腿に手をあて、包み込むように上に上げる動きがありますが、これは男女の色気を表現していて、体に電気が走るようにと言われました。また手の甲を返しながら前に差し伸べる動きにしても、一般的なバレエのように前に出すのではなく、顎を甲でなでるようにすることで艶めかしさが出る。指一本の動きもおろそかには出来ないと思っています。

 

オーディションのシーンについては、戦争中ずっとボーレル家に隠れていた彼女が解放され、踊れるようになった喜びを全身で表現してと言われました。そこが他の女の子たちとは違うところで、人の目を引き付けることに繋がるのだ、と。自分を解放することを意識して表現しています」

 

――宮田さんはマイロ役をどう作っていかれましたか?

 

宮田「はじめに、マイロ役はアメリカ人コレクターのペギー・グッゲンハイムがモデルで、芸術のパトロンだけどクリエイティブ・ディレクターといって、お金を支援するだけでなく自分のセンスを生かし、共同で芸術を作り上げるというスタンスで演じてほしいと言われました。海外スタッフの方からシーンの説明はありましたが、役の作り方に関しては委ねられた部分がけっこうありましたね。 

ジェリー役とのパワーバランス

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『パリのアメリカ人』撮影:下坂敦俊

稽古では松島勇気さんジェリーとのペアが多く、松島さんと私でジェリーとマイロのパワーバランスを作り上げてほしいと言われました。まず酒井さんと(同役の)岡村美南さんの稽古を見て、なるほどと参考にしたのですが、では自分はどうするかというところで迷いましたね。松島さんは私より先輩ですしご自分の見せ方も卓越していらっしゃるけど、役としてはマイロが引っ張っていかなくてはいけない。松島さんを掌の上で動かすにはどうしたらいいだろうと考え、まずはバックグラウンドを埋めようと、ペギー・グッゲンハイムの資料にあたりました。

 

すると、彼女のお父さんは野心家で富豪に成り上がった人物ですが夫婦仲が悪く、ペギーは愛情を受けてこなかったということがわかったんですね。そこでマイロを演じるにあたり、恵まれた家庭に育ったけれど愛に飢えていて、アートが好きでパリにやってきた。そこで情熱を燃やせるものを探していてジェリーに会ったというふうにすれば、松島さんを引っ張っていくようなエネルギーが出せるかなと考えました。(役柄の)芯にそういうものがあると、台詞を一言言うのも変わってきますよね。今はだいぶ自分の中で腑に落ちています。開幕後は酒井さんと共演することもありますが、パートナーごとにパワーバランスは変えていいと言われているので、組み合わせの変化もお客様は新鮮にご覧いただけるのではないかと思います」

 

ジェリーに対する恋心、リズの場合・マイロの場合

 

――リズもマイロもジェリーに惹かれるわけですが、彼の“どこに”惹かれたのか、は微妙に違うような気がします…。

 

石橋「リズは戦争中、アンリの家に匿われている間、本当に気を遣っていたと思います。いい子でいなければ、と自分を出せないでいたのではないでしょうか。

 

そんなリズの中から“本当のリズらしさ”を引き出してくれたのがジェリー。彼がアメリカ人らしくぐいぐい来るのを、フランス人の彼女ははじめ失礼に感じるけれど、彼がためらいもなく“美しい”と褒めてくることに、彼女は驚くんですね。美しいと言われれば、女性は誰でも嬉しい。自分の中に眠っていた、本来の元気な女の子を引き出してくれたこの人とだったらきっと自分らしくいられるということで、ジェリーに惹かれたんじゃないかなと思います」

 

宮田「マイロはいろいろと恋愛経験があるので、ジェリーに出会った時にはGood Looking Guyだな、かわいいなと思うし、彼の絵画作品にセンスを見出して後押しもしますが、その時点ではまだ“惹かれる”というほどではありません。それが後に彼の中からどんどん湧き上がる芸術センスに刺激されて惹かれてゆく、というのが一つ。 

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『パリのアメリカ人』撮影:下坂敦俊

もう一つは、マイロはお嬢様で、お金で何でも動かせると思っていますが、そんな彼女に唯一、ジェリーは“それは間違っているよ”とはっきり言います。彼に指摘されたことで、マイロは自分がそれまでがむしゃらに何かを求めて突っ走ってきたけど、実は自分は愛し愛されたかったのだ、芸術に目を向けて何かを表現し、認められたかった根本は愛を求めていた自分だったのだと気付く。そしてそれを教え、成長させてくれたジェリーに惹かれてゆくんです。自分がもがき苦しんでいたことが“ああそういうことなんだ”と気づかせてくれる男性って、きっと忘れられないだろうなと思いますね」

 

“誘う”ことの大変さ

 

――マイロの女ごころは歌によっても表現されますね。

 

宮田「『クレイジー・フォー・ユー』の時は“Shall We Dance?”は(主人公のボビーに)歌われる側だったんです。今回このナンバーを自分が歌うことで、誘うってすごくエネルギーの要ることなんだなと思いました。このナンバーは、マイロが4分以上台詞を喋って、その延長で歌うんです。だからすごくエネルギーが必要で、今ではだんだん慣れてきましたが、オーディションの時は酸欠になるんじゃないかと思いました(笑)。

 

But Not For Me”は片思いのような歌で、『クレイジー~』の時と同じような切なさを抱きながら歌っています。ガーシュウィンの歌って、まずリズムが大切で、それを無視して淡々と歌ってしまうと、メッセージが伝わらなくなります。歌いやすく聞こえるかもしれませんが、実際はとても難しいですね。“Shall We Dance”に関してはお風呂場の中で歌っている、あるいはバスローブで歌ってるようなイメージでと言われて、目を丸くしましたが(笑)、それくらい音楽を楽しむというのがポイントなのだと思います」

 

――リズは奇しくも3人の男性から同時に愛されますが、ご本人としてはどういう心持ちなのでしょう?

 

石橋「3人のうち、アダムの好意にはリズは気が付いていないんです。というのは、リズは14歳の時から匿われていて、おそらくボーイフレンドを持ったことがなく、男性の心がわからないんですよね。アンリに対しても、幼馴染として特別な感情はもちろんあっただろうけれど、それが男女の愛なのかというと、むしろ家族のように感じている。彼女としてはジェリーに出会って初めて愛を知ります」

 

――モテ期だわという自意識は無いわけですね(笑)。

 

石橋「ないと思います(笑)」

 

“もしかしてアダムが主人公⁈”という一瞬

 

――アダムに対して、リズは“あなたは私の、パリのアメリカ人”という言葉をかけますが、これはどういった意味でしょうか?

 

石橋「バレエのオーディションの時、遅刻してしまったリズにピアニストのアダムが“帰らないで”と言わなければ、リズはその後、アダムが書いた『パリのアメリカ人』という作品を踊ることはありませんでした。彼に感謝の気持ちを表そうと、このタイトルにかけて、リズはこの台詞を言うのだと思います。アダムはそれまでストーリーテラーをつとめていますが、この瞬間、或る意味彼が主役に見えなくもなくて、興味深いですね」

 

――横浜公演は夏まで続きますが、今後自分の役をどう深めていきたいですか?

 

石橋「キャスティングされてからずっとなのですが、リズにとって戦争による心の傷や恐怖感というのは想像できないくらいつらいことだったろうなと思います。追体験は出来ませんが、映画や写真などを通して理解を深めることで、リズがより謎めいた女性に見え、明るくてやんちゃな女の子という本来の姿とのギャップが見えてくると思います。もっともっと、戦争について勉強していかないとと思っています」

 

宮田「どんな時代でも人を愛する心はあるし、やっぱり愛は美しいということを、この作品を通して伝えていきたいですね。マイロは戦争に対してはアウェイというか、客観的に見ているようなところがあるのですが、ジェリーやリズ、アンリと知り合うなかで、戦争についても理解が深まる。特に自分と同じような境遇かと思っていたアンリの過去の経験を知ってびっくりもするし、尊敬もする。そして最終的にスピーチのなかで、マダム・ボーレルやアンリを称賛します。

 

彼女の精神的な成長過程を表現することで、お客様も戦争というものを知ることができる。マイロってそういう役割を持っているのかなと思います。私も戦争のことを調べ続けながら、マイロの成長を大事に演じていきたいと思います」

 

“初めての体験”を今後に生かして

 

――ご自身のキャリアにとって、今回の役をどんなものにしていきたいですか?

 

石橋「今回初めてヒロインを演じさせていただく中で、長台詞や歌のソロなど、初めての挑戦がたくさんあります。どうしたらいいんだろうというところから始まって、今もまだまだと思いながらも、私にとってターニングポイントといいますか、歌や台詞がとても楽しくなってきました。ゼロからのスタートなだけに、日々変わってきて、やればやるほど楽しいです。いただいた大きなチャンスに大切に取り組んでいきたいです」

 

宮田「これまで演じてきた役は、芯があって言いたいことを言えるような人間で、等身大で演じてきました。例えばエスメラルダ(『ノートルダムの鐘』)のように踊りが得意だったり、ポリーのように気が強くて自分に近いものがある役どころだったのですが、マイロはとにかく自信があって野心家で、色気もある。自分にないものがたくさんある役です。

 

そこでまずは立ち居振る舞いから始めてみようと思い、いろいろな映画を観て、お金持ちのお嬢様がどんな呼吸遣いで喜びを表現するかとか、たばこの持ち方なども研究しました。苦労はしましたがそれによって開けた部分もあったので、もっと深めていきたいと思うし、自分の持ち味プラス今回のマイロの作り方を、今後の役にも生かして、次のキャリアにつなげていきたいですね。マイロという役を、楽しみプラス可能性を感じつつ、これからも演じていきたいです」

 

バレエという表現の豊かさ、人生の美しさに触れられる作品 

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『パリのアメリカ人』撮影:荒井健

――では最後に、『パリのアメリカ人』の“特にご覧いただきたいポイント”を挙げるとしたら?

 

宮田「いっぱいありますよ!」

 

石橋「初めて『パリのアメリカ人』を観た時、ジャズ調の多いガーシュウィンの音楽がクラシックバレエと融合していて、こんなミュージカル観たことない!と思いました。ミュージカルってこんなものでしょと思わせないサプライズがありますし、登場人物一人一人が夢や悩みや友情、恋愛と様々なものを抱えています。美しいバレエをご覧になって、踊りってこんな表現ができるんだと発見していただくいっぽうで、登場人物たちが戦争を乗り越え明るく生きる様を見て、現代の私たちも、何かを得たり、感じたりできると思います。ぜひご覧いただきたいです」

 

宮田「最大の見どころは、やはりオープニングと1幕ラスト、そして2幕の14分間のダンスナンバーだと思います。ウィールドンさんの振付は、演者の身体表現や表情を通して、見事にストーリー展開がなされていて、ユニークな表現方法がたくさん盛り込まれているので、一人一人、見逃さずにご覧いただきたいです。私自身、初めて14分間のダンスを観た時は、涙が止まりませんでした。

 

もう一つは、テーマですね。ウィールドンさんは“人生は何もかもが美しい”とおっしゃっていました。きれいごとに聞こえるかもしれませんが、美しいガーシュウィンの曲に彩られたこの作品を作った方がおっしゃると、とても納得がいくのです。いろんなことがあるけれど、人生って美しいよね、うまくいかないことがあっても、この感情、この一瞬一瞬が美しいじゃない?…と、戦後の背景を通して言っているような気がします。そしてそれを、芸術を通して投げかけているのかもしれません。

 

踊りと音楽に身を委ね、それぞれの愛の形に触れていただきながら、やっぱり人生っていいな、美しいなと思っていただけたら嬉しいです」

 

(取材・文・写真=松島まり乃)

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*公演情報*『パリのアメリカ人』上演中~811日=KAAT神奈川芸術劇場 公式HP