Musical Theater Japan

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マイケル・K・リー インタビュー:親友たちのドラマとしての『ジーザス・クライスト=スーパースター』

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『ジーザス・クライスト=スーパースターin コンサート』2021より。撮影:渡部孝弘

若き日のティム・ライス(作詞)とアンドリュー・ロイド=ウェバー(作曲)が、キリスト最後の7日間をロック・オペラ形式で描き出し、英国ミュージカル界を代表する存在となるきっかけとなった『ジーザス・クライスト=スーパースター』(以下『JCS』)。シングル・レコード(69年)からレコード・アルバム、コンサート版、舞台版、映画版と発展を続け、日本でも1973年から劇団四季が断続的に上演している人気作が、2019年に続き、インターナショナル・キャストによるコンサート版で登場します。

19年公演で絶賛されたユダ役・ラミン・カリムルー、ピラト役・ロベール・マリアンが続投するほか、日本からはシモン役で柿澤勇人さん、ヘロデ王役で藤岡正明さん、カヤパ役で宮原浩暢さんらが出演。その中でタイトルロールを演じるのが、マイケル・K・リーさんです。

ブロードウェイ版『ミス・サイゴン』でトゥイを演じたほか、『太平洋序曲』『アリージャンス』(フランキー役)などで活躍。今年1月に『ニューイヤー・ミュージカル・コンサート2021』で初来日を果たした彼ですが、『JCS』には過去に何度か出演済みです。プロダクションによって人物像が若干変わるジーザス役を、今回はどのように演じようと考えているか、じっくりとうかがいました。

『JCS』は私自身を
映しだす作品です

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マイケル・K・リー 1995年『ミス・サイゴン』でブロードウェイデビューを果たし、『ジーザス・クライスト=スーパースター』『レント』『太平洋序曲』などに出演。第二次世界大戦時のアジア系米国人をテーマにした『アリージャンス』ブロードウェイ公演にはオリジナルキャストとして出演。 現在はアメリカ・韓国の双方で活動中。韓国での出演作に『ジーザス・クライスト=スーパースター』『ノートルダム・ド・パリ』『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』『ロッキー・ホラー・ショー』などがある。

――マイケルさんにとって『JCS』はどんな作品でしょうか?

「私にとって非常に重要な作品です。まず、私は歌やダンス、テキスト(言葉)を通して人々に物語を届ける“ミュージカル”という表現形態をとても愛していますし、小さい頃はクラシック音楽を聴いて育ちましたが、ロックに出会ったことで人生が変わりました。またカソリック・クリスチャンの家庭に育ったので、キリスト教の物語は私の人生の大きな位置を占め、イエスの人生や教えは知らず知らずのうちに私を形作っていました。

『JCS』はまさに、これらの三つの要素…キリスト教の物語、ミュージカル、ロック音楽を合体させた作品。いわば私を映しだす作品とも言えましょう。ですので私にとってはずっと関わり続けたい作品なのです」

――以前、他のプロダクションで『JCS』に出演する韓国人の方、何人かにインタビューした際、彼らは敬虔なクリスチャンであるため、この作品に出演し聖書の中の人物を演じるのはなかなかにプレッシャーだとおっしゃっていました。マイケルさんはいかがですか?

「彼らにとってどういう点でプレッシャーだったのかはわかりませんが、こういう有名な物語の場合、観る方の“期待”というものはどうしてもあると思います。
例えばもし今、『鬼滅の刃』のミュージカル版を上演するとすれば、こういうヘアスタイルのこういう男の子が主演で、原作や映画と同じ台詞を喋ってほしいといった期待はあるでしょう? 『JCS』に関しても、原作があまりにも多くの人々が聖書やその物語を知っているために、“こうあってほしい”という期待があって、それを裏切るわけにはいかない。そういったプレッシャーはあります。でも私はそれをチャレンジ、エキサイティングなものととらえ、自分ならではの観点から演じる人物を表現し、それを皆さんとシェアしたいと思います。中には“違うな”と思われる方もいらっしゃるかもしれないけれど、だからといって自分の表現を変えなければいけないというプレッシャーは、私は感じたことはありません」

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『ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート』

――ジーザスという人物の造型は公演ごと(演出ごと)に異なりますが、今回はどのようなジーザス像を考えていらっしゃいますか?

「私はこれまで2つのプロダクションを経験しています。はじめは2011年にシアトルで出演した、ブライアン・ヨーキー演出版。彼はピューリッツァー賞とトニー賞の受賞作である『Next to Normal』の作者で、このプロダクションでは意気軒昂で鮮烈、そしてエネルギッシュなジーザスを求めていました。演出の過程で、オーガニックで大地に根を張り、愛や怒りを隠さない革命的なリーダー像が生まれました。

いっぽう、その後、韓国で3回ジーザスを演じましたが、そこではより神格化されたジーザス像を求められました。(後半のナンバー)“ゲッセマネ”では(父なる)神に対して挑むように歌いますが、それまでの間は何が起こっても平静に、落ち着いていてほしいということで。“無感情”というわけではないが、激しい人間の感情を見せないように、美しく、天使のようなジーザスであってほしいという演出でした。

素晴らしいことに、今回の日本版では初めて、私自身のアイディアを持ち込んで演じることができます。周囲の方々との兼ね合いもあるので正直、どうなるかわからない部分もありますが、現時点では、2011年のヨーキー版と韓国版での経験を織り混ぜたジーザスをお見せ出来たらと思っています。このキャラクターの魅力は、人間であり神であるということ。自分の宿命…世界の人々を救うために自分の命をあきらめなくてはならない…と知った時、それは彼にどんな影響を与えるのか。世界はどう違って見えてくるのか。

また、今回はコンサートバージョンということもあって、より自由度も高くなるでしょう。現代的な表現もできますね。探求するのが楽しみですし、わくわくしています。今は考えすぎないようにしていますが、ジーザスの新たな一面を見つけることが出来たら。ヒューマンで、エキサイティングなジーザスをお見せしたいです」

――この作品で興味深い点の一つに、ジーザスとユダの関係性があると思います。ユダはジーザスの最良の理解者を自負し、彼の心の奥に到達したいと願っていますが、ジーザスは彼を拒絶する。コミュニケーションの不成立というテーマが浮かび上がる気がします。

「『JCS』を非常によく理解されていますね。本作はミス・コミュニケーション(誤った、もしくは不十分な意思伝達)と誤解の物語であると感じます。まだ今回の演出家に方向性をうかがっていないのでわからない部分もありますが、他の人間同様、ジーザスは何千人もが聞いているプラットフォームを与えられることで…今であればSNSでフォロワーが増えることで、より自分が大きく見えてきます。ツイッターやtiktokで100万人もフォロワーがいると、自分が実像より重要な人物だと錯覚するのと同じです。そのため、彼が群衆を前に天の王国への道のりを語り始めたとき、ユダは混乱し始めたのだと思います。おいおい、そのフォロワーたちではなく、僕こそが君の親友だったではないか。ずっと隣にいた僕を、突然今になって遠ざけようとするのか。このことにユダは傷つくのです。

この二人の関係性こそが『JCS』の面白いところで、二人のどちらが正しく、間違っているのかは、観客の観方次第。彼らの悲劇の発端はミス・コミュニケーションだったのか?そうかもしれません。誤解だったのか?そうでもあるでしょう。

ユダは本作では最もつらいキャラクターで、彼の運命はジーザスのそれと同じくらいハードです。ジーザスは人々のために命を諦めなくてはならない役割を(神から)与えられ、ユダは親友を裏切る役割を与えられてしまったのですから。何というドラマだろう、と思います」

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「ニューイヤー・ミュージカル・コンサート2021」でのマイケルさん。

――ところで、ジーザスの第一声“Why should you want to know?”の“Why”はとても高い音ですよね。以前、この役をやった俳優さんからこの音の大変さを聞いたことがありますが、この音にはどのような意味があると思われますか?

「確かに高いですね(笑)。優れた作曲家は音によってその役の感情を表現するものですが、高い音というのはそこで言っていることの重要性を示しているのだと思います。皆さん、私は説教をしているのですよ、私の言うことに耳を傾けないのですか、と。とてもスマートに書かれた楽譜だと思います。

もう一つ思う理由は、本作はロックンロールですからね。ロックンロールってラクチンに歌うものじゃないですから(笑)。本作には簡単な要素は全くありません。だからこそエキサイティングなんです」

――日本の観客に本作をどう楽しんでほしいですか?

「日本のお客様には、どうぞオープン・ハートでいらして下さいと申し上げたいです。どの作品でもそうですが、本作にはとりわけ、タイトルのために“こういう作品なんじゃないか”というイメージがあるかと思います。教会で語られる、ナザレのイエス様の偉大な物語なんじゃないか…と。でも実際はそうではなく、本作は二人の親友の物語だと私は思っています。誰しも、親友や親しい人との関係が壊れたり、傷ついたりといった経験はあるかと思いますので、次第に自分の身に置き換えて御覧になることが出来るのではないでしょうか。

そしてもう一つ、最高のコンサートを経験したい方はぜひこのショーにいらしてください。今回の舞台には世界各地から最高のミュージカル俳優たちが集結しています。ラミン(・カリムルー)はもちろん、ピラト役のロベール(・マリアン)の『ノートル・ダム・ド・パリ』は最高でしたし、ペテロ役のテリー・リアンはNYでの僕の大親友です。彼の『アラジン』も素晴らしかった。マグダラのマリア役のセリンダ(・シューンマッカー)も最近舞台で輝いていましたし、シモン役の(柿澤)勇人さんについては『デスノート』の楽曲を歌っている資料を聴いて、とてもロック味があって惹かれました。
最高のコンサートを求めている方にとっても、親友たちの関係性や革命を起こそうとしている人々のドラマをご覧になりたい方にとっても、エキサイティングな舞台になると信じています。とにかく、“教会のお説教物語”にならないことは確かです(笑)」

(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報『ジーザス・クライスト=スーパースター inコンサート』7月12日~13日プレビュー、7月15~27日=東急シアターオーブ、7月31日~8月1日=フェスティバルホール 公式HP