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『劇団四季のアンドリュー・ロイド=ウェバーコンサート~アンマスクド』観劇レポート:“ミュージカルの可能性”探求し続ける作曲家の軌跡

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『劇団四季のアンドリュー・ロイド=ウェバーコンサート~アンマスクド』(C) Marino Matsushima 禁無断転載

幕の上がった舞台。五線譜をかたどったバーが上がると舞台奥のスクリーンにロイド=ウェバーその人が映り、自らマナー喚起のアナウンスを始めます。
“(これらを守らないと)命はなくなるでしょう”という恐ろしい警告(!)が終わるなり、『ジーザス・クライスト=スーパースター(以下、JCS)』序曲がスタート。ドラムスとベースが地中深く埋め込むようにビートを刻み、ギターが熱情を響かせるなか、スクリーン上では数々の写真資料や新聞見出しがロイド=ウェバーの功績を伝えます。

『劇団四季のアンドリュー・ロイド=ウェバーコンサート~アンマスクド』(C) Marino Matsushima 禁無断転載

“史上最も成功した作曲家” “代表作は20作、今も増え続けている”…。ひとしきり紹介が済むと、舞台四方から俳優たちが登場。ユダ役の白瀬英典さんがジーザス役の山下泰明さんを見据え、“わたしは理解ができない…”と「スーパースター」を歌い始めます。客席を突き抜けてゆく明朗な歌声に谷原志音さんら、女性キャストの華やかなコーラスが重なり、場内にはたちまち熱気が充満。

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『劇団四季のアンドリュー・ロイド=ウェバーコンサート~アンマスクド』(C) Marino Matsushima 禁無断転載

曲終わりとともに再びスクリーンにロイド=ウェバーが登場すると、『JCS』(1973年日本初演)で始まった劇団四季、とりわけ浅利慶太さんとの縁への謝意を述べ、出世作となった『ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート』のエピソードを語ります。(端正で聴きやすい吹き替えは青羽剛さん。)
本作はもともと、ある学校から生徒たちが歌うものとして依頼され、ティム・ライスと書いた20分ほどのオラトリオ(物語性のある宗教曲)的な作品であったこと。
その後、エジンバラ演劇祭を経て現在のフル・ミュージカルに成長したこと。
ティムも自分も、これほどの成功を収めるとは思いもよらなかったこと。
ここで真瀬はるかさんが朗らかに“ヨセフのコート”を歌い始め、“レッド、イエロー、グリーン…”とコートの色味が増えてゆくコーラス部分では、わくわく感が最高潮に。

かくしてロイド=ウェバーが自身のキャリアを振り返り、数々のエピソードを語っては該当作のナンバーを四季の俳優たちが歌い上げるという形で、コンサートは進行。クリストファー・キーの演出で18年に英国でワークショップ上演、20年に米国でも上演されたコンサートとのことですが、今回は多数のロイド=ウェバー作品を手掛けてきた劇団四季による上演とあって、コメント映像ばかりでなくプログラムの一部も日本向けに変更されています(長野五輪開会式で歌われた「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド」が登場)。作曲家と劇団四季、両者の長年の信頼関係に根ざした、まさにスペシャルなコンサートと言ってよいでしょう。

『劇団四季のアンドリュー・ロイド=ウェバーコンサート~アンマスクド』(C) Marino Matsushima 禁無断転載

『ヨセフ~』『JCS』に続いては、ジュディ・ガーランドのショーを思い出しインスピレーションを得たという『エビータ』、そして『キャッツ』『サンセット大通り』『ラブ・ネバー・ダイ』『オペラ座の怪人』といった代表作が続々と登場。加えて、クラシック音楽教育を受けつつロックと出会い、広範な音楽的ボキャブラリーを得た彼の面目躍如たるパガニーニの変奏曲「ヴァリエーション33」(チェロ奏者の超絶技巧がクール)、当初チェロのために書いたため2.5オクターブの声域を要するという「遥かな調べ(『Tell Me on a Sunday』)」(真瀬はるかさんが丁寧に歌唱)等、日本ではあまりライヴで聴く機会のないナンバーも披露されます。

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『劇団四季のアンドリュー・ロイド=ウェバーコンサート~アンマスクド』(C) Marino Matsushima 禁無断転載

オーディションで選ばれた10人のキャストは、ソロナンバーとコーラスの双方で実力を発揮。笠松哲朗さんは『ヨセフ~』コーナーで、理不尽な事態を嘆く“クローズ・エヴリ・ドア”、希望に満ちた本作の主題歌“エニー・ドリーム・ウィル・ドゥ”という対極的な2曲を歌い分け、『キャッツ』ミストフェリーズ役では身体能力の片鱗を見せています。

山下泰明さんは一言一言に思いを込め、ジーザスの心の叫びを「ゲッセマネ」で鮮やかに描き出し、飯田洋輔さんは『オペラ座の怪人』『ラブ・ネバー・ダイ』での二つのファントム役をスケール感と艶やかさをもって体現。

『劇団四季のアンドリュー・ロイド=ウェバーコンサート~アンマスクド』(C) Marino Matsushima 禁無断転載

飯田達郎さんは「サンセット・ブールバード」(『サンセット大通り』)でジョー役のぎらつくような野心を歌い上げ、「スーパースター」で幕開けを担った白瀬英典さんはラストの「支配者に立ち向かえ」(『スクール・オブ・ロック』)で、ロイド=ウェバーが今、抱いている音楽への強い思いを、歌声にのせて放ちます。

『劇団四季のアンドリュー・ロイド=ウェバーコンサート~アンマスクド』(C) Marino Matsushima 禁無断転載

 

真瀬はるかさんは「オペラ座の怪人」クリスティーヌ役でもふくよかな美声を聴かせ、2幕も後半に差し掛かって登場する超高音ナンバー「ピエ・イエズ」(『レクイエム』)を、吉田絢香さんはゴシック建築の大聖堂さながら、天にも届く歌声で歌唱。

中音域のビブラートが魅力的な平田愛咲さんは「バッド・シンデレラ」(『シンデレラ』)のパンチのある歌唱で本編への興味を掻き立て、谷原志音さんは「ブエノスアイレス」(『エビータ』)のハリのある歌声が蠱惑的で野心に満ち溢れながら、若くして病に倒れたヒロインを思い出させ、再演が期待されます。そして『CATS』「メモリー」、『サンセット大通り』「ウィズ・ワン・ルック」等のビッグナンバーを担うのは江畑晶慧さん。情感溢れるダイナミックな歌声が、観客をそれぞれの作品世界へと誘います。

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『劇団四季のアンドリュー・ロイド=ウェバーコンサート~アンマスクド』(C) Marino Matsushima 禁無断転載

本作が一般的なトリビュート・コンサートと一線を画すポイントに、ナビゲーターをつとめるロイド=ウェバーがあたりさわりのないコメントに終わらず、常に順風満帆だったわけではないキャリアの中で得た実感を、英国的ユーモアをまぶしながらも生々しく語っている点が挙げられます。
“名曲”とされるナンバーの全てが、そのストーリーに即して生まれるわけではないこと。良いミュージカルに必要な黄金律とは。優れた才能が集まっても公演が成功するとは限らないこと…。
該当作品のナンバーを交えながらの“unmasked”…赤裸々なトークからは、数多くの傑作を生みだし、今や“大御所”と呼ばれるようになった彼が、一つ所に落ち着くことなく、最初にブレイクを果たした20代前半からずっと“チャレンジャー”であり続け、ミュージカルの可能性を探求してきたことがうかがえます。幾度となく失敗を経験しながらも前に進み続けてきたその生き方は、多くの観客に親しみを抱かせ、クリエイターを志す若い世代は大いに勇気づけられることでしょう。この稀代のミュージカル作家の軌跡を、彼が信頼する劇団四季によるパフォーマンスとともにじっくりと堪能できる、またとないコンサートです。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『劇団四季のアンドリュー・ロイド=ウェバーコンサート~アンマスクド』2021年12月5日=相模女子大学グリーンホール、12月10~19日=東京建物Brillia HALL、以降 神奈川、大阪、京都、福岡、宮城、静岡、愛知、広島、兵庫、札幌、神奈川で上演。公式HP