Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

『ジャージー・ボーイズ』(2025)観劇レポート:人生の喜び、悲しみをハーモニーに乗せて

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


とある収録現場。ヒップホップ・ファッションに身を包んだ若者たちが、カメラの前で軽快にラップ風の楽曲を歌っている。2000年にフランスでナンバーワン・ヒットとなった“Ces soirées-là”だ。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


その光景を横目に現れた男(トミー)が、“あれは俺たちの歌だ。30年前の曲にしちゃ、悪くない”と言う。原曲はフォー・シーズンズの1975年のヒット曲 "December, 1963 (Oh, What a Night)"。誇らしげに、彼はこの伝説のグループ誕生の物語を語り出す。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載

ニュージャージーの悪ガキたちにとって、町を抜け出す道は三つあった。「軍隊に入る」「マフィアに入る」「スターになる」。三つ目を選んだトミーは、街灯の下で幼馴染のニックたちと声を合わせ、機会をうかがううち、天使の声を持つフランキーと出会う。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載

さらに作曲の才能に恵まれたボブ・ゴーディオも仲間となり、ころころ変わっていたグループ名は“フォー・シーズンズ”に定着。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


しばらくはバックコーラスに甘んじる日々が続くが、ボブ・ゴーディオが会心の一曲“Sherry”を書き上げたことでプロデューサーのボブ・クルーも首を縦に振り、フォー・シーズンズはファースト・アルバムをリリース。シングル3曲が連続チャート一位を獲得する。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載

瞬く間にスターの座を得た彼らだったが、夢のような時間は長くは続かず、ツアー続きで家庭を顧みることのなかったフランキーは、妻メアリーと離婚。いっぽうでトミーが巨額の借金を抱えていることが判明する。

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


フランキーはグループでトミーの借金を返済すると申し出るが、トミーへの不満を吐き出したニックはグループを去り、トミー自身もマフィアに睨まれ、やはり離脱することに。フランキーとボブは必死に音楽活動を続け、フランキーのソロ曲“ "Can't Take My Eyes Off You" が空前のヒットとなるが…。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


アメリカのポップス史に燦然と輝くグループ「フォー・シーズンズ」の光と影を描き、2006年にトニー賞ミュージカル作品賞を受賞したミュージカルが、日本で3年ぶりに上演。1階から3階までを可動式ステップで雛段状に繋げ、スターダムにのし上がる“ボーイズ”をイメージさせるお馴染みの空間で(美術=松井るみさん)、今回はTeam BLACK、Team YELLOW、Team GREEN、そしてNew Generation Teamの4チームが、メンバーたちの半生をシームレスかつ濃密に描きだします(演出=藤田俊太郎さん)。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


一人また一人とメンバーが加わり、下積みを経てブレイクを果たすフォー・シーズンズ。じっくりと描かれる成功までのステップの中で今回、特に出色なのが、4人目のメンバー候補、ボブ・ゴーディオの登場シーンです。ボブが“Cry For Me”の弾き語りを始めると、誘われるようにフランキー、ニック、そしてトミーも声を重ねて行く。生まれるハーモニーこそチームによって微妙に響きが異なりますが、どの歌声にも純粋な音楽の歓び、そして“4人の初ハーモニー”への手応えが溢れ、この上なく幸福なシーンとなっています。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


Team BLACKは中川晃教さん(フランキー・ヴァリ)、藤岡正明さん(トミー・デヴィ―ト)、東啓介さん(ボブ・ゴーディオ)、大山真志さん(ニック・マッシ)という顔ぶれ。20年(コロナ禍のため『ジャージー・ボーイズ イン コンサート』として上演)、22年に続いての登場とあって、醸し出されるリアルな“気心の知れた仲間感”が格別なチームです。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


フォー・シーズンズの成り立ちからロックの殿堂入りまでの膨大なレパートリーを、中川フランキーは“どこまでも自由”なハイトーン・ボイスを織り交ぜながら歌唱。いっぽうで中盤以降、妻とのすれ違いが決定的となる瞬間の苦渋に満ちた“My Eyes Adored You”や、ある悲劇の後のナンバー“Fallen Angel”を陰影濃く歌い上げ、2016年の日本初演からフランキーを演じ、役と共に生きてきたという確かな“年輪”が感じられます。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


やはり日本版初演から出演してきた藤岡トミーが一貫して放つのは、“油断のならない曲者”オーラ。グループの誕生は彼の才覚と強引さがあってこそ…と納得させるいっぽうで、終盤の再会時の口調には誰よりも“老い”が滲み、自業自得とは言え、哀愁の漂う造型です。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


東ボブ・ゴーディオは、才気煥発だが年若く、どこかアンバランスな風情。トミーから二番手として引き継ぐナレーションでは、フォー・シーズンズの上り調子の展開を、快活な口跡で大いに盛り上げます。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


そして大山ニックは、1曲歌うごとに礼をする際の清潔感溢れる所作が、当時と今とのポップスの在り方の違いを感じさせます。最後に脱退の“本当の理由”を明かす、人間くさい語りもチャーミング。

 

(花村想太さんがフランキーを演じるTeam GREENは未見)

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


今回初お目見えとなったTeam YELLOWは、新フランキーの小林唯さん、新ニックの飯田洋輔さんと、前回公演ではTeam GREENで出演したspiさん、有澤樟太郎さんが組む、フレッシュなチーム。日本版では同じチームが再登板するケースも多いため、今回生まれたハーモニーが今後、年月をかけてどのように深まって行くかが注目されます。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


小林フランキーは客席通路からまだ何者でもない、期待に胸膨らませた少年として現れ、そこから世間の、そして音楽業界の荒波に揉まれながら頂点を極め、そしてその代わりに何かを失ってゆく姿を、丁寧に描き出します。歌唱においては強靱な喉で地声とファルセットを行き来し、フレーズ終わりの歯切れの良い音処理に“オールディーズ”の味わい。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


前回公演までニックを演じていたspiさんは、今回はトミー役。序盤は“俺に任せておけ”オーラがふんぷんですが、グループが成長するにつれて取り残され、破滅。それでも“ジャージーの英雄”を自負しながら生きのびていく“しぶとさ”が憎めません。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


有澤ボブ・ゴーディオは、ジャージーの女子たちから“この辺の出ではないのね”と言われる、育ちのいい少年像に嫌味がなく、ソロでの温かな歌声でも観客を魅了。終盤の台詞における“美しい妻”という表現もいかにもゴーディオらしく聞こえます。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


また飯田ニックは、フランキーに歌唱指南をする場で“ボンボンボン…”と声を重ね始める姿があまりにもナチュラル。職人肌でありつつも、時折“自分のバンドを作ろうかな”と揺れる心がちらりと覗き、こちらもまた人間くさいニック像です。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


そして今回は画期的な試みとして、Team BLACK、YELLOW、GREENでは別の役で出演するキャストから選ばれた俳優たち(大音智海さん、加藤潤一さん、石川新太さん、山野靖博さん)がフォー・シーズンズを演じる“New Generation Team”が誕生。当初一回きりの予定が、発売即完売という反響により、計2回、公演を行いました。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


既に長く日本版『ジャージー・ボーイズ』に出演し、その世界観を醸成してきたメンバーは、新チームとは思えないほどの安定感でパフォーマンス。大音フランキーは持ち味明るく、“Can't Take My Eyes Off You"では内面の輝きがミラーボールを現出させているかのよう。歌唱においてはちょっとした瞬間に“独自のテイスト”が加わっています。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


加藤トミーはハチャメチャな言動が人懐こさでカバーされ、石川ボブ・ゴーディオには“侮れない鋭さ”。 山野ニックは低音の魅力に加え、どこか醒めたたたずまいが“リンゴ・スター的境地”を物語っています。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


今回、彼らが存分に実力を発揮したことで、今後日本版『ジャージー・ボーイズ』においてNew Generation Team公演が定着し、またそこから新たなスターが生まれてゆくことが期待されます。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


この企画が生まれた土壌とも言える、つわもの揃いのアンサンブルも、本作の財産の一つ。加藤潤一さん(Team BLACK)はフォー・シーズンズを成功に導くプロデューサー、ボブ・クルー役で海千山千の業界人の空気を醸し出し、原田優一さん(BLACK以外のチーム)は同役に頻繁にコミカルなタッチを加え、各場を楽しく彩ります。(筆者の鑑賞時はカーテンコールで見えなくなる瞬間までサービス精神を発揮。)

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


主にジャージーの“顔役”ことジップ・デカルロを演じる阿部裕さん(Team BLACK)、川口竜也さん(BLACK以外のチーム)は貫禄ある同役に加え、阿部さんは神父役での包容力、川口さんはDJ役での弾けっぷりで印象を残し、戸井勝海さん(Team BLACK)はノーマン・ワックスマン役で、トミーにも太刀打ちできない“凄み”を体現。畠中洋さん(BLACK以外のチーム)はノーマン役もさることながら、どこかドリフターズのコメディを彷彿とさせる、クリーブランドの警官役で場をさらいます。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


“ボーイズ”たちの夢の軌跡を追う本作において、女性キャストそれぞれの存在感は、彼らの人生に女性たちが与えた影響を裏付けています。メアリー役のダンドイ舞莉花さんは、初デートでフランキーの芸名にはっきりと物申し、記者ロレイン役の原田真絢さんも、フランキーと恋に落ちるいっぽうでトミーに関してはさらりと追い払うさまが小気味よく、フランシーヌ役の町屋美咲さんは、父フランキーの愛に飢えた娘の苦しさを、短い台詞と無言の芝居に凝縮。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


フォー・シーズンズと浮名を流すガールズ・グループ“The Angels”のリードエンジェル役、柴田実奈さんは、“My Boyfriend’s Back”でのびやかなリードボーカルを披露。LEI’OHさん(Team BLACK、New Generation Team)、大音智海さん(Team YELLOW、GREEN)も、ボブ・ゴーディオ登場前にフランキーたちが組んだ歌手ハンクや下積み時代のフォー・シーズンズにコーラスをさせる歌手役で、晴れやかな美声を聴かせます。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


ドニー役の山野靖博さん(Team BLACK)、山田元さん(BLACK以外のチーム)、ストッシュ役の杉浦奎介さん(Team BLACK)、伊藤広祥さん(BLACK以外のチーム)は、ナイーブなフランキーをベタな芝居で騙そうとするシーンを通して、冒頭でトミーが“町を出ていく”ことに言及した背景である、ジャージーのタフな環境を示唆。フランキーたちにボブ・ゴーディオを紹介するジョーイ役の石川新太さん(Team BLACK)は、直感と軽いフットワークの持ち主。同役の若松渓太さん(BLACK以外のチーム)には覇気が漲り、後の(ハリウッド俳優としての)大成を予感させます。

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載

2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


夢見る若者たちが、実力と運とで道を切り拓く――。こうしたサクセスストーリーは数あれど、本作の場合、成功以降も主人公たちが等身大の人物であり続け、人生の浮き沈みを体験しながらなお走り続けていると感じさせる点に、大きな魅力があります。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


特にフランキーが二度目の絶頂の直後に悲劇に見舞われ、“税金も払って社会を信頼してきたのに…”と、どこにもぶつけられない思いを生々しく吐露するくだりには、同様の悲しみを経験したことがある方ならばきっと胸が締め付けられ、そんな彼が最後に語る“僕は今もなお進み続けている”、つまり生きることを諦めていないという独白に、鼓舞されずにはいられないのではないでしょうか。

 

『ジャージー・ボーイズ』2025 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


彼らを見守っている間、そして観終わって彼らのことを思う度、あのハーモニーとその余韻に包まれながら、誰もが“ジャージーっ子”として、彼らと共に生きていると感じられる。それが、『ジャージー・ボーイズ』が多くの人の心をひきつけてやまない理由の一つなのかもしれません。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『ジャージー・ボーイズ』8月10日~9月30日=シアタークリエ 公式HP