Musical Theater Japan

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2019年7月のミュージカルPick Up

朝顔が鮮やかな季節、いかがお過ごしでしょうか。ヴァカンス・シーズンももうすぐ到来ですが、劇場街ではこの時期、戦争を回顧する作品が続々登場。今回は沖縄戦を直接・間接的に描く二つのミュージカルをご紹介します。決して薄れてはいけない日本の“記憶”を、舞台を通して受け取ってみてはいかがでしょうか。

 

7月の“気になる”舞台】

『ひめゆり』711日開幕/『てだのふあ』710日開幕←あめくみちこさん・佐伯亮さんほかインタビュー

 

【別途特集の舞台】

『エリザベート』←古川雄大さんインタビュー/『リーファー・マッドネス』←水田航生さんインタビュー/ 『ラ・マンチャの男』←上條恒彦さんインタビュー/『ビッグフィッシュ』←川平慈英さんインタビュー

 

ひめゆり学徒隊の物語を通して沖縄戦の実像を伝える、ミュージカル座の代表作『ひめゆり』

71115日=戸田市文化会館 公式HP 

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『ひめゆり』

《ここに注目!》

第二次世界大戦末期、苛烈を極めた沖縄本土戦のエピソードを、14歳以上の女学生が従軍看護婦の代用として集められた“ひめゆり学徒隊”を中心にまとめ、1996年に初演されたミュージカル座の代表作。敗戦色が濃くなる一方の中で、動けない負傷者に青酸カリ入りのミルクが配られたり、防空壕の中で泣く乳児が糾弾されたりといった悲惨な実話を交えながらも、女学生たちの本能的な生への憧れを美しいメロディで表現するなど、ミュージカルという形式が活きた作品です。 

主人公で学徒隊の一人キミ役を黒沢ともよさんがつとめるほか、上原婦長役で吉沢梨絵さん、桧山上等兵役で原田優一さん、滝軍曹役で岡幸二郎さんらが出演。今回は初めてミュージカル座の本拠地である埼玉の劇場での上演となります。 

11歳の“ふうちゃん”がお父さんたちの戦争体験を学びながら成長してゆく物語『てだのふあ』

71015日=紀伊國屋サザンシアター 公式HP 

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『てだのふあ』

《ここに注目!》

1970年代、沖縄から神戸に移住して料理店を営む一家を描いてベストセラーとなった灰谷健次郎さんの児童文学『太陽の子』が、ラサール石井さんの脚本で舞台化。いずみたくさんが創設したミュージカル劇団イッツフォーリーズが、東京ヴォードヴィルショーとコラボし、初演します。 

作者のラサールさんは本作の背景をどうしても知りたいと思い立ち、スケジュールをやりくりして日帰り沖縄取材旅行を敢行したのだとか。11歳のふうちゃんがお父さんたちの戦争体験を少しずつ知ってゆく原作の物語はそのままに、プロローグとエピローグに成人後のふうちゃんを登場させ、“今”の日本とリンクさせた台本に彼の強い思いが感じられます。成人後のふうちゃんと70年代のふうちゃんの母役をあめくみちこさん、ふうちゃんが出会う孤独な少年キヨシを2.5次元舞台で活躍する佐伯亮さんが演じ、ふうちゃん役の中学一年生の平垣心優さん・星茜音さんは大量の台詞と格闘しつつ、明るく天真爛漫な少女を体現。出演者全員で三線の特訓も行ったそうで、涙と笑いの心温まるミュージカルに仕上がりそうです。 

大嶺芙由子/おかあさん役・あめくみちこさんインタビュー「苦労しながらも懸命に生きる、素敵な人々のお話です」 

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『てだのふあ』おきなわ亭に関わる大人キャスト。手前右があめくみちこさん。

――あめくさんは沖縄生まれだそうですね。 

「はい、8歳の夏休みに、父の仕事の関係で上京しました。当時はまだ返還前だったので、パスポートを取得して行ったんですよ。その表紙には“琉球政府”と書かれていましたが、実際にはアメリカの植民地。核弾頭が何百発も隠されていたということを大人になって知り、そういうところに住んでいたんだとぞっとします。私がいたころはベトナム戦争中で、沖縄から爆撃機が毎日飛んでいて、その騒音は凄かったですね。いう事を聞かない子供に大人が“あの飛行機に乗せるぞ”というと子供はぴたっと静かになる、というくらいみんな怖がっていました。東京に出てきた私は、クラスメートたちに“沖縄の人たちは英語を喋るんでしょ”と言われて、どれだけ認識がずれているんだろうと感じながらも、早く東京に馴染もうと子供心に思ったのを覚えています」

 

――今回の原作『太陽の子』はご存知でしたか? 

「出演が決まって初めて読みました。沖縄から神戸に移住してきた人たちの物語というところに、作者の灰谷さんの視点を感じます。内地で苦労しながら一生懸命生きている沖縄の人たちの物語が、とても素敵です」

 

――今回は主人公・ふうちゃんの成人後と、ふうちゃんのお母さんの二役を演じるのですね。 

「小学6年生のふうちゃんはまっすぐでピュアないい子で、爪の垢を煎じてのみたいくらい(笑)。未来のふうちゃん役が私でいいのかしらと思いますが、灰谷さんの思いが詰まったふうちゃんという存在が、ミュージカルという形式で、理屈ではなく歌やお芝居で届けられたらいいなと思います」 

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稽古でのあめくさん。(C)Marino Matsushima

――“成長したふうちゃん”のくだりは、原作には登場しない脚本家・ラサール石井さんのオリジナルですね。 

「成人して教育者となったふうちゃんは、あちこちの小学校を転々としながら沖縄のことをきちんと教えています。そういう先生がいっぱいいればいいのに、というのがラサールさんの思いなのではないかと思います。社会科の授業で現代史まで教えられることが少ないなか、ふうちゃんのようにこつこつやっている先生がいてほしい、と」

 

――お稽古はいかがですか? 

「イッツフォーリーズの皆さんとご一緒なので、歌がお上手な方々の中で足をひっぱらないようにと(笑)。ふうちゃん役の二人が12回ですぐ歌えてしまうほど覚えるのが早いので、歌に関しては子供のふうちゃんに頼って楽しく歌っています」

 

――お客様に今回の舞台をどうご覧いただきたいですか? 

「ミュージカルですので、歌や踊りを交えてわかり易く、楽しくご覧いただけると思います。その上で、沖縄に限らず、世界中のいろいろな問題を、もし自分に起きたらという感覚で、少しでも考えていただければ素敵だなと思っています」 

キヨシ少年・佐伯亮さんインタビュー「世界がふうちゃんみたいな人ばかりだったら、と心から思います」 

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佐伯亮さん(中央)と平垣心優さん(左)、星茜音さん(右)撮影:日高仁

――イッツフォーリーズさんとは以前からご縁があったのですか? 

「今回が初めてです。ふだんは一人、二人知り合いがいるのですが今回は全員“初めまして”だったので、顔合わせの時はめちゃめちゃ緊張しました(笑)。2.5次元の舞台では最近は年長になりつつありましたが、今回、ふうちゃん役以外では一番年下で、皆さんにかわいがっていただいています」

 

――台本にはどんな印象を持たれましたか? 

「登場人物がみんな優しい心を持っていて共感できることがたくさんありましたし、ふうちゃんのお父さんが沖縄戦を体験した設定なので、当時のことをいろいろと調べ、感じることがあって、今この作品に出逢えてよかったと感じています。 

今回、共演している嶋田翔平さんという沖縄出身の方から、623日は沖縄の終戦日で学校はお休みだと聞いたのですが、僕の出身の広島では、86日が逆に登校日なんです。(原爆が落とされた)815分に皆でお祈りをしたり、平和公園にある高校の慰霊碑を掃除して年配の方の体験談を聞いたりという習慣がありました。ですので上京したとき、86日が普通に過ぎていくということへの驚きはありました。どんどん薄まっていっているんだなと」

 

――キヨシは母親に捨てられ、孤児のような育ち方をして悪い仲間とつきあってきました。壮絶な生い立ちですが、何を手掛かりに演じていますか? 

「序盤のキヨシは、ふうちゃんと二人で喋るシーンしかないんです。僕が出てない(ふうちゃんの両親の店である)おきなわ亭のシーンは賑やかでみんな仲良くて、それを見てから自分が舞台に出ていくと、それだけで寂しさが体感できます。 

性格的にも僕はキヨシと似ているところがちょっとあって、彼の素直になりきれないところ、わかります。例えば、何人かで話していて盛り上がっている時、自分も入っていきたいけど入れないという葛藤がある。そんな部分を膨らませてキヨシを作っていけないかなと思っています」 

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稽古での佐伯さんとふうちゃん役・星茜音さん。(C)Marino Matsushima

――キヨシは痛みを伴いつつも不良の世界から抜け出しますが、それが出来たのは…。 

「もちろんふうちゃんのおかげです。ふうちゃんはいい意味で何も知らない真っ白な子で、思ったことを口にするし、素直に泣いたり笑ったりする元気の源。こんな人ばかりだったら平和になるのになと思います。キヨシにも真っ白な部分はあるけど、素直に表現できない。そんなキヨシだからふうちゃんに染まっていけるんでしょうね。 

それに今回、ふうちゃんを演じる(平垣)心優(みゆ)ちゃんと(星)茜音(あかね)ちゃんが、本当に素敵な目をするんですよ。何も悪いことを知らないんじゃないかと思える。それはキヨシが変わる大きなきっかけになったんじゃないかと思います」

 

――稽古も佳境のようですが、いかがですか? 

「楽しいです。先輩方が盛り上げて下さっていますし、(沖縄の楽器の)三線も皆で稽古していて、何とか弾けるようになりました」

 

――どんな役者さんを目指していますか? 

「僕が観ていて素敵だと思う役者さんは、役をしっかり表現しつつ自分を表現しています。優しかったり面白かったり、その人の良さが垣間見えると、こういう役者さんになりたいなと思う。自分の良さを出せる役者さんになりたいです」 

ふうちゃん役・平垣心優さん・星茜音さんインタビュー「私と同い年くらいの子たちにも、このミュージカルで沖縄のことを知ってほしいです

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茶碗を作るおじさんの話を通して、人間が自然の一部であることを学ぶ“ふうちゃん”(平垣心優さん)(C)Marino Matsushima

――今回はオーディションでふうちゃんを演じることになったんですね。 

茜音「はい、以前、心優と一緒にミュージカルに出ていた時、脚本のまきりかさんからこのオーディションのことを教えてもらいました」

 

――ミュージカルは楽しいですか? 

二人「楽しいです!」

茜音「歌やダンスが大好きなので、それが一つになるミュージカルに出逢って楽しいです」

心優「もともと歌が大好きだったけど、ミュージカルを始めてからお芝居も楽しくなってきました。舞台に立った後によかったよと言われるのが嬉しくて、やっています」

 

――学校では沖縄のことは何か学んでいましたか? 

心優「社会で戦争のことは習ったけど、沖縄の話は全然出てきませんでした。でも音楽の教科書に沖縄の歌が載っていて、みんなで歌ったりしました」

茜音「4年生の時に体育で“ゆいまーる”という沖縄のダンスをやりました」

 

――今回の台本を読んでどう思いましたか? 

茜音「これまで一つの作品で多くても台詞は5個くらいだったので、100頁以上の台本で、一頁に5個くらい自分の台詞があってびっくりしました。どうしよう、無理かなと思ったけど、心優が頑張っている姿を見て、私も頑張ろうって思って、何時間も覚える練習をしました」

心優「面白いシーンは爆笑しながら読みました。でも真剣なシーンもあるし、ふうちゃんは喜怒哀楽が激しいのでやりがいがあるなと感じました」

 

――同年代の子たちも観にいらっしゃると思いますが、どう観てほしいですか? 

茜音「沖縄のことを知ってほしいです。この舞台で伝えられたらと思います」

心優「途中で“沖縄の勉強”というナンバーがあって、学校でほとんど教わらないことが歌で聞けるんです。戦争のつらさを知ってほしいなと思います」

 

(取材・文・写真=松島まり乃)

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