Musical Theater Japan

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水田航生、B級コメディの中に“怖さ”が潜む⁈『リーファー・マッドネス』を語る

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『リーファー・マッドネス』

世の中にこれほど破壊的なミュージカルってある?というほどハチャメチャなB級コメディミュージカル『リーファー・マッドネス』。原作である1936年の映画はリーファー(大麻)の害を訴えるべく米国政府が作ったもので、その荒唐無稽さゆえにカルト化し、98年にLAでミュージカル版が誕生。好評につき01年にオフブロードウェイに進出するも世界同時多発テロ勃発のため短期間でクローズしてしまった“伝説のミュージカル”が、演出家・上田一豪さんによって発掘され、日本に上陸します。

 

とあるハイスクールの講堂で講師が語るのは、リーファーという世にも恐ろしい麻薬によって引き起こされる悲劇。この啓蒙のための“劇中劇”で、ガールフレンドとのダンスが上手になりたかっただけなのに、レッスンにかこつけて怪しげな館に招かれ、リーファーを吸わされてしまったがために狂気の世界にからめとられ、遂には死刑の宣告を下されてしまう高校生ジミーを演じるのが、水田航生さんです。

 

『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』のクールな悪役から、ストレート・プレイ『金閣寺』での光り輝くような高校生まで、幅広い役柄を演じ分ける水田さんですが、今回ほど“振り切った”役は初だとか。稽古終盤、全体像が見えてきた中でお話をうかがいました。

 

「さんざん笑った後に、ゾクッとしていただける作品になる予感があります」

 

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水田航生 90年大阪出身。第一回アミューズ王子様オーディションでグランプリを獲得。『金閣寺』『ロミオ&ジュリエット』『マイ・フェア・レディ』地球ゴージャス『ZEROTOPIA』『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ1812』等の舞台、TVドラマ、映画等で多彩に活躍している。『怪人と探偵』『ウエスト・サイド・ストーリー』season1等、今後の出演作も控えている。©Marino Matsushima


――今回、出演を決めるにあたって作品はご覧になっていましたか?

 

「粗筋は読んでいました。決定してから(05年のアメリカのTV映画版の)映像を観ましたが、もともと肩に力を入れず観られるコメディやB級映画は大好きだったので、こういう作品に出られることがすごく嬉しかったです」

 

――ここまで突き抜けた作品はこれまで経験されていますか?

 

「福田雄一さん演出作品に何度か出させていただいていますが、福田さんの舞台では“くだらない”というのが誉め言葉なんですよね。“くだらなさ”を追求する稽古が楽しかったです。

 

でも今回はリーファー(大麻)の話ということもあってちょっとエログロな部分があって、そういう意味では初めてのタイプの作品かもしれません」

 

――TV映画版では登場人物のほとんどが凄まじいハイテンションで叫んでいる場面が多々ありましたが、今回の舞台版も…?

 

「そうなんです(笑)。だからいわゆるリアルな芝居ではない、というか。それをあえてやっている面白さを追求してる感じがしますね。普通に会話していてもわざとアメコミみたいなリアクションをとったり、あえて大げさにデフォルメしたりといったことはやっています」

 

――少し『ロッキー・ホラー・ショー』のような雰囲気もありますが、『ロッキー~』は若者が一つの出来事を通して大人になっていく“通過儀礼”的な内容ですよね。こちらの方はいかがですか?

 

「大前提として“大麻をやってはいけないよ”と訴えてはいるのですが、それだけではなく、全てが皮肉なんですよね。あえて大きくやっている芝居もある意味皮肉だし、大麻だけでなく世の中のダメなもの、信じてはいけないもの、グレーなものについて“信じていいの?”と、放送コードギリギリの言葉で問いかけたり。全てが正しいわけじゃないんだよ、それをこんなにあからさまに大げさに演じている僕らをみてどう思います?ということも匂わせていて、観終わった後にちょっとゾクっとするものがあると思います。映画版はそこまで描いていないんですけど、舞台版ではそういったアンチテーゼというか怖さも感じていただけるのではないでしょうか。

 

演出の上田一豪さんも、本作はちょっと人を食ったようなエンディングだけど、最後のtruth(真実)という歌を鬼気迫る表情で“お前ら本気だからな”と(客席に)迫るように歌って、とおっしゃっていて、そういうものが伝われば面白くなるだろうな、と感じています。もう一つ、学校の講堂で行われる劇中劇という形式にも面白さがあると思います。講師が出てきて、そこで講義を行う。これはいったいどういう集団なんだろう?と謎が残るかもしれません」

 

――この作品に水田さんが、というのははじめ意外にも聞こえたのですが、よく考えれば『マイ・フェア・レディ』のフレディにちょっと通じるものがあるかもしれないと思いなおしました。単なる二枚目の青年ではなく、ちょっと変わったところのあるフレディをさらりと演じていらした水田さんだからこそ、この作品の世界観が表現できると(プロデューサーたちに)期待されたのでは、と…。

 

「そういうふうに見て下さったのかもしれないですね。もともと、二面性を出せる役は好きで、デフォルメした好青年が堕落していったりというような役どころを楽しんできました。今回も序盤はくすっと笑えるような好青年が転げ落ちていくさまをお見せしたいです」

 

――TV映画版の主人公は16歳という設定ながら、どう見ても16歳には見えない大人が“敢えて”演じていましたが…。

 

「今回もそうです(笑)。そういった部分の面白さもあると思いますね。とはいえ16歳ということにとらわれるのではなく、“とびぬけてる感”を追求しようと思っています。“こんな16歳いないだろう”というものを敢えてやろうと」

 

――テンションをずっと保つ秘訣は?

 

「真ん中に立つ人って、自分からああしようこうしようとしなくても、周囲の影響を素直に感じて翻弄されていけば自然とそういうていになっていくんだなと感じています。だから翻弄されるという部分だけはリアルに。ちょっと悪いことやってみたいなと好奇心を持っている青年が、うまくそそのかされて悪い方向にはまっていってしまう。それを最終的にいかにデフォルメするかなんだな、と思っています。ふざけているように見えるけれど、ただふざけているんじゃない。そういう難しいところを攻めていかなくちゃいけない作品だ、と」

 

――共演の方々、例えば“悪役”の岸祐二さん、いかがですか?

 

「面白いですね。今回初めてご一緒するのですが、声優のスキルもお持ちなので、舞台でふつう出したら怒られるような面白い声色を使われていたりとか、くだらないことを真面目にしっかりなさるところが素晴らしいです」

 

――では保坂さんは?

 

「二度目の共演なんですが、あれだけ歌も踊りも芝居も素晴らしい方が、あえて芝居くさくやっているという面白さが伝わるといいなぁと思います」

 

――演出面で何か面白い趣向はあるでしょうか?

 

「テクニカルな部分で、面白い手法を試みていて、アトラクション的に楽しめるかもしれません」

 

――音楽はいかがですか?

 

「かっこいいですね。いろいろなミュージカルなメソッドを使っていると思いますが、キャッチ―だったり、くだらない感があったり。楽譜にも“ここは『(演目名)』の雰囲気で”と書き込まれていたりして、そういうところから、現地でもパロディ色の強い作品だったのかなと感じます。直訳の台本でも、パロディの元ネタがたくさん書いてあって、今回は日本のお客様が楽しめるような“舞台あるある”に翻案されています」

 

――今回、ご自身の中でテーマにされていることはありますか?

 

「コメディって(いろいろなジャンルの中でも)怖いもので、太刀打ちできるようしっかり稽古していかないといけないなと思っています。これだけB級コメディでありながら、歌にしても踊りにしても大劇場で活躍されている方々ばかりで、うまければうまいほど(B級コメディをやる)面白さってあると思うんですよ。

 

その中で真ん中に立たせていただくという説得力がないといけないので、まだまだ真剣に稽古をしていかないとと思っています。あと、コメディの部分ではやりすぎて独りよがりにならないように。身内ネタになってお客さんがわからないものにならないように。そのあたりのセンスは絶対になくしてはいけないし、稽古場では知っている人たちの中での笑いになるので、一歩、二歩引いて自分を見る目をなくしてはいけないと思っています」

 

――どんな舞台になりそうでしょうか?

 

「新宿村という、あまり大きくない会場で4日間だけ行う作品ですが、後々“凄いのがあったらしいよ”みたいな口コミがどんどん広がっていったら、と思っています。その後行く現場、現場でみんなが“やばかったらしいね”と言ってくれて、僕はそれに照れて“いや、まぁ”とお返事する…みたいなことになったら(笑)。そしてご覧になった方には中毒性というか、“もう一度観たい”と思っていただけるような舞台になるように、くだらないことを真剣に考えて真面目に、誇りを持って作っています」

 

――では最後の質問です。順風満帆なキャリアを築いている水田さんですが…。

 

「とんでもないです」

 

――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

 

「今回、この作品のことを調べていたら、本作はオフ・ブロードウェイでちょうど9.11(米国同時多発テロ事件)の直後に、街が閑散とした中にも関わらず始まったそうなんです。その話を聞いて、僕は以前から、一人でもお客様がいらっしゃれば全力でやりたいなと思うタイプだったので、強く感じるものがありました。
 

それと同時に、役者というのは誰かに見てもらわないと始まらない仕事ですので、常に“求められる”存在でありたいと思っています。お客様、作り手、同業者から、“この人の演技を見たい、一緒に仕事したい”と思っていただけるよう、パワーをつけていきたいです」

 

(取材・文・写真=松島まり乃)

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*公演情報『リーファー・マッドネス』7月4~7日=新宿村LIVE 公演HP

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