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『るろうに剣心 京都編』観劇レポート:激動の時代にひしめく、鮮烈な“生”

ステージがぐるりと客席を囲む、円形の場内。錫杖と思しき音とともに幕が開くと、まずは京都を舞台としたプロローグが描かれます。

ミュージカル『るろうに剣心』撮影:引地信彦

元治二年(1865年)、夜の祇園。すずろ歩きをしていた桂小五郎らは、沖田総司ら新撰組の襲撃を受ける。そこに現れたのが、世に“人斬り抜刀斎”と恐れられている緋村剣心(ひむら・けんしん)。彼が次々と敵を倒す様子を、一人の男が凝視している。彼、志々雄真実(ししお・まこと)は“自分の腕の方が上だ”と言い放って倒幕派に気に入られ、“人斬り”を任ぜられることになる…。

やがて江戸城が明け渡され、維新は成就。客席はゆっくりと動き、剣心が死者たちの塚に自分の刀を差し、刀鍛冶の赤空(しゃっくう)に“不殺(ころさず)の誓い”を明かす場へと移る。これからは刀に頼らず、新たな世界で生きると言う剣心に、餞別として、逆刃刀(峰の部分が刃となった刀)を渡す赤空。

ミュージカル『るろうに剣心』撮影:引地信彦

時は過ぎ、東京で穏やかな日々を送っていた剣心は、志々雄が京都で国家転覆を図っていることを知る。志々雄は人斬りとしての凄腕がたたって明治新政府に疎まれ、体を焼かれ全身火傷を負っていた。

再び剣をとって志々雄の野望を阻止するよう大久保利通に乞われ、ためらう剣心。しかし大久保が志々雄一派によって暗殺されると、薫や左之助ら、道場の仲間たちを振り切り、京都へ。薫たち、新撰組の生き残りで今は警官である斎藤一、江戸城御庭番衆最後の御頭・四乃森蒼紫(しのもり・あおし)も、それぞれの思いを抱えながら京を目指す。

道中、くノ一の操と知り合った剣心は、志々雄が拠点とする村へ。ところが志々雄一派の宗次郎に逆刃刀を折られ、このままでは志々雄を倒せないと痛感。体得していなかった奥義を求め、師匠・比古清十郎(ひこ・せいじゅうろう)を訪ねるが…。

ミュージカル『るろうに剣心』撮影:引地信彦

シリーズ累計発行部数7200万部を超える和月伸宏さんの剣劇漫画が、小池修一郎さん(『エリザベート』『ロミオ&ジュリエット』)の演出・脚本で再び舞台化。宝塚歌劇団で初演後、松竹・梅田芸術劇場主催で(“浪漫活劇『るろうに剣心』”のタイトルにて)上演された第一弾では、長大な原作のうち主に“東京編”のエピソードが描かれましたが、今回は“京都編”が取り上げられています。

実写映画版では2本に分けて描かれた物語を、脚本も担当した小池さんは休憩含め、3時間20分の舞台に凝縮。暗い過去を背負った主人公が、葛藤を経て新たな一歩を踏み出すまでの“心の旅”を軸としながら、手に汗握るアクション・シーンを次々と展開。華やかな群舞、バラードにラップにサンバ風(!)と多彩な楽曲(音楽=太田健さん、和田俊輔さん)もふんだんに盛り込み、見ごたえたっぷりの作品に仕上げています。

ミュージカル『るろうに剣心』撮影:引地信彦

特に心憎いのが、ナレーターとしての“娘義太夫”(鈴木梨央さん、城妃美伶さん)の起用。三味線の凛とした音に伴われた彼女たちの快活な声が、舞台に華やぎをもたらし、そのわかりやすく簡潔なナレーションが、スピーディーな展開に貢献しています。語りそのものは現代口調にアレンジされていますが、登場時には(俳優が扮する)大向こうから掛け声もかかり、娘義太夫が今で言うアイドルさながらの人気だったという当時の空気感も楽しめる趣向です。

また後半、葵屋と志々雄のアジトで同時に行われる死闘は、一般的な舞台であれば廻り舞台の表裏で展開させるところですが、今回は客席自体が廻り、行きつ戻りつ見守るスタイル。観客は“自ら戦況を観に行く”ような臨場感を抱くことが出来、この劇場の特殊な舞台機構が十二分に活きた場となっています。

ミュージカル『るろうに剣心』撮影:引地信彦

主人公・剣心役の小池徹平さんは、俊敏な中にも時折ふわりと浮遊感を織り込んだ立ち廻りで、唯一無二の剣豪を体現。加えて、“不殺の誓い”のくだり等での苦悩を刻み込んだ台詞・歌唱が際立ち、道場仲間たちや清十郎とのユーモラスなやりとりとの対比も鮮やかです。今回の舞台が剣劇エンタテインメント一辺倒というわけでなく、人間ドラマとしての奥行きも見せているのは、“小池・剣心”の牽引に負うところが大きいでしょう。

黒羽麻璃央さんが演じる志々雄は序盤以降、全身が包帯に巻かれ、表情の演技を封じられた難役。しかし黒羽さんは型にはまらず、狂気をはらんだアクションと“色悪”的な口跡を駆使しながら、野心が肥大化し、無敵化してゆく人物を存分にあらわしています。変わりゆく世から取り残され、孤独を深める四乃森蒼紫役・松下優也さんは旋回時のコートのシルエット込みの立ち廻りが美しく、力まず、自在な歌声も魅力的。

ミュージカル『るろうに剣心』撮影:引地信彦

岐洲匠さんは道場の仲間で血の気の多い左之助を豪快に演じ、奥野壮さんは志々雄への恋心を原動力とする本条鎌足をキュートに、井頭愛海さんは剣心を思い京へと向かう神谷薫を一途に表現。鈴木梨央さんはくノ一の少女、操を溌剌と、伶美うららさんは志々雄の寵愛を受ける駒形由美を妖艶に、猪塚健太さんは元官僚で今は志々雄に心酔する参謀、佐渡島をファナティックに、また郷本直也さんは左之助に“二重の極み”を伝授する安慈を人間味豊かに演じています。

阿部裕さんは元・御庭番で現在は葵屋の主人、柏崎念至役でお茶目なナンバーを率いるなど達者なところを見せ、山口馬木也さんは熟練の刀さばきで元・新撰組の斎藤一役に凄みをプラス。そして加藤和樹さんはぶっきらぼうだが情味があり、剣の使い手としては最強と言われる比古清十郎役がぴたりとはまり、2幕におけるヒロイックな活躍ぶりは痛快そのものです。

ミュージカル『るろうに剣心』撮影:引地信彦

一本のミュージカルではありえないほど多くの、個性的なキャラクターがひしめく本作。見せ場につぐ見せ場の連続の中で彼らの“生”が輝き、あるいは散ってゆくさまは何とも鮮烈で、まさに“激動の時代”を体感させる舞台となっています。

(取材・文=松島まり乃)
公演情報 ミュージカル『るろうに剣心 京都編』5月17日~6月24日=IHIステージアラウンドシアター 公式HP