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『Story of Aesops~イソップ物語の物語~』作・作詞・音楽 ソ ユンミ インタビュー:“断絶”のコロナ禍に生まれた、 “繋がり”の物語

musical 『Story of Aesops~イソップ物語の物語~』撮影・田中亜紀



今から2600年前に古代ギリシャで生まれ、今も世界中の人々に語られ、読み継がれる「イソップ物語」。それらは誰が、どのように語り始めたのか。
例えば、そこにはこんなドラマがあったのかもしれない…。

『ブラックメリーポピンズ』で知られる韓国の脚本・音楽・演出家、ソ ユンミさんが、“物語の起源”に思いを馳せ、優しい旋律と共に編み上げた『Story of Aesops~イソップ物語の物語~』(原題 MUSICAL『STORY OF AESOPS』)が、日本に上陸。奴隷として生まれた“物語りが得意な少年”ティモスの波乱の人生を、ティモス役の冨岡健翔さんと、他の諸役を演じる5名(wキャスト)が息もぴったりに描き出し、連日好評を博しています。

東京公演の後半には、作者のソ ユンミさんが来日。舞台をご覧になる直前に、本作誕生の背景についてお話いただきました。
終始穏やかに、そして時折ユーモアを交えながら語ってくださったユンミさん。“人類の長い歴史における、物語の中継者”として、彼女が作品に込めた深い思い、願いをお届けします。

 

【あらすじ】2600年前のギリシャ、サーモス島。
奴隷の乳母ハンナは、主人の娘タナエと自身の息子ティモスに得意の物語を語り、愛情深く育てるが、流行り病でこの世を去る。
ティモスは外出を禁じられたタナエを海に連れ出して主人の怒りを買い、同じく奴隷のペテゴレ爺さんとともに、アテネに売り飛ばされてしまう。
“必ず帰ってくる”とタナエと交わした約束を胸に、新天地で献身的な働きを見せるティモス。
感心したアテネの主人は、彼に思いがけない申し出をするが…。



musical 『Story of Aesops~イソップ物語の物語~』撮影・田中亜紀

 

――まず、本作の出発点をお教えください。なぜこの物語を書こうと思われたのですか?

 

「この仕事をしてきてわかってきたのですが、私の中にはいつも、以下の五つが心の中にあります。

真実、信頼、幸福、愛、そして連帯。

これらを追求し、守るために、私は今まで、いろいろな作品を通してこの五つを繋ぎ合わせ、物語を紡いで来ました。

本作を書き始めたのは、コロナ禍で誰も外に出られなかった頃のことです。私自身は罹患することはありませんでしたが、人々がマスクをつけ、警戒感を漂わせながら会っている状況を悲しく感じていました。

そんなある日、自宅でネット検索をしていると、ポータルサイトに一つの記事が現れたのです。ギリシャのサーモス島で地震が起きた、という内容でした。サーモス島という地名が綺麗な響きだったので調べてみると、とても小さく、美しい島でした。いつか旅してみたいなと思いながらさらに調べると、古代にピタゴラスが住んでいた、とありました。そしてイソップ物語のイソップも、2600年ほど前、イエス・キリストが生まれるさらに600年前に、この島に奴隷として暮らしていたとも。

イソップ物語は世界中で聖書の次に読まれているベストセラーだそうですが、2600年前には、書物はまだありません。口承文学として人から人へと伝わってきたわけですが、その時、何がその人の中に残り、また伝わってきたのだろう…と思いました。

イソップ物語のほとんどは、それほど“特別なお話”ではありませんよね。にも関わらず、2600年もの間こうやって伝えられてきたということは、話し手と聞き手の間で何らかの“モーメント”があり、何か心を動かす力があったのではないでしょうか。それは例えば、先程お話した五つの価値(真実、信頼、幸福、愛、連帯)だったのかもしれません。そしてそこにどんな困難があったとしても、人類は伝えることをやめなかった。だからこそ人間は、神に愛された。

これまで多くの人たちが関わって伝えられてきた物語の価値に耳を傾け、共感し、またそれを次の世代に伝えていけたら。物語の旅が続いていくよう、早く書かなくてはと思い、私は書き始めました」

 

musical 『Story of Aesops~イソップ物語の物語~』撮影・田中亜紀


――イソップ物語の作者の半生を描くドラマの中に、お馴染みの物語がたくさん散りばめられているという構造ですね。

 

「はい。イソップの生涯については、明確ではないものの、仮説はたくさんあります。

奴隷であった。
お話が上手で、王のためにたくさん物語を語った。
商人になってアテネに行った。
そしてあることで罰を受け、崖から落とされた。

そういった仮説を組み合わせ、さらに本作では、想像の姿ではありますが、2600年前の神も登場させています。

公務員のように一生懸命仕事をしている不幸の神と、人間を愛しすぎるあまり、人間の姿で登場する“魅力”の神。

(この世の)明暗を二人の神様を通して表現し、それ以外にも様々な材料を織り混ぜ、その世界の中に“小さいけれども偉大な”イソップ物語を組み込んでいったのです」

 

――水先案内人を一人登場させるのではなく、6人のキャスト全員が少しずつ語り継いでいくスタイルは、はじめから意図されていたのでしょうか?

 

「はい。古くから今に至るまで物語が伝わってきたのには、神々の働きもあったのではないかな、と私は想像しています。神と言っても大きな存在ではなく、小さな小さな、人間を愛する神たち。そういった神々が、人間たちと一緒になって物語を伝えてきたのではないかな、と思い、本作では彼らが少しずつ語り継いでいく、という構成にしています」

 

musical 『Story of Aesops~イソップ物語の物語~』撮影・田中亜紀


――いろいろなものに神が宿り、人間に影響を与えているというところで、日本の神道の感覚にも近しく感じられます。

 

「私自身はキリスト教信者です。定期的に教会に行くような熱心な信者ではないのですが、心のどこかでいつか帰れる場所というような感覚です」

 

――本作では何度か、登場人物が“約束”をする場面が出てきます。これは何かの象徴でしょうか。

 

「実は私自身、約束を大事にしていまして、自然と作品の中にこの言葉が出てくることが多いのです。普段の生活の中でも、約束を守ろうと努力しますし、その分、相手に約束を破られると、頭にきてしまいます(笑)」

 

musical 『Story of Aesops~イソップ物語の物語~』撮影・田中亜紀


――作曲もご自身でされていますね。

 

「音楽に関して、私は専門的に学んだことはありません。子供の頃はピアノが得意な方でしたが、成長するにつれて伸び悩み、ピアノ教室でも嘱望されず、ある時、私のレッスンがあることを忘れて先生が帰ってしまったことがありました。部屋は1時間予約されていたので、私はその間一人で、物語を思い浮かべながらピアノを弾きました。

以来、私はピアノを弾く度、ある場面を思い浮かべるようになり、それが私の創作スタイルとなりました。脚本を書く時には音楽も頭に浮かび、ピアノの方に行って思い浮かんだフレーズを録音しては、また執筆に戻ります。そして稽古が始まると、稽古場で俳優さんの様子を見ながら、その場で調整したり、ここではこんな音色があったらいいなと考えて楽器を確定しています。

本作では、(物語後半、奴隷の身分から条件付きで解放されたティモスの、希望に満ちたナンバー)“帰るよ”というナンバーが一番のお気に入りですが、(ティモスがタナエを海に誘い、互いの存在を心に刻むナンバー)“青く青く青い夜”や、(アテネの商人のもとに奴隷として売られたティモスの悲しみを風、水、大地が歌う)“ティモスの虹”、ペテゴレ爺さんが終盤に(みんなで創る物語は心を繋ぎ、永遠に生き続けると)歌う“くるくる、それは物語の旅”も気に入っています。ほとんどは台本執筆と同時に生まれた曲ですが、“くるくる、それは物語の旅”に関しては、台本を書き上げた後に作った曲です」

 

――日本版の舞台はこれからご覧になるそうですが、どんな期待をされていますか?

 

「プロデューサーさんがこの作品をとても愛して下さっているので、必ずこの作品を守り通して下さると信じています。

韓国では本作はいろいろなフォーマットで上演されていて、30席ほどの小劇場でも、600席の劇場でも上演されています。秋には大劇場で朗読劇として、フル・オーケストラで上演する予定ですし、香港やNYのフェスティバルでの上演も予定されており、それだけ柔軟性のある作品なのだと思います。

私としては、形態ではなく、“作品を愛して下さること”が(上演の)条件だと思っています。今回の日本公演はシンプルな形での舞台になりそうだとうかがいましたが、それは全く気になりません。旅には、小さな船が使われることもあれば、大きな船、速い船が使われることもありますよね。歩みを止めず、進んでいく中で、本質の価値が伝われば良いと思っています」

 

musical 『Story of Aesops~イソップ物語の物語~』撮影・田中亜紀


――現在、何か新作を執筆中ですか?

 

「はい、本作よりも本格的な、神と人間の話を書いています。本作ではギリシャの神々が登場し、若干ソフトな物語でしたが、今書いているのは、東洋の古典、英雄伝をモチーフにしています。スケールもより大きいと思います」

 

――韓国のミュージカルは近年、世界的な注目を集めていますが、この状況をどのようにとらえていますか?

 

「とても有難いことだと思っています。(再演を繰り返している人気作)『ブラックメリーポピンズ』を書いた時、周囲からは“なぜ韓国の話でなく、ドイツの話を書くのか?”と言われました。それくらい、韓国の創作ミュージカルは範囲が狭く、国内に限定された素材で書かれる作品がほとんどでしたが、この十年ちょっとの間に多様な素材を扱うようになりました。それでも変化についてきて下さるお客様がいたからだと思いますので、観客の皆さんの力で(韓国ミュージカルは)発展してきたのだと思います」

 

――(創作ミュージカルのメッカである)大学路(テハンノ)では、いわゆる美男子を前面に出した作品、恋愛ものなど、その時々でブームがあったようですが、最近はどのような作品が求められていますか?

 

「確かに10年、15年ほど前にはそういったブームがありました。その後、スリラー系が受けが良く、多く作られました。緊張感や暗い雰囲気が好まれたようです。

今は特定のジャンルが突出しているということはなく、スリラー系はもちろん、ユーモア溢れる作品、女性が中心の作品、時代劇、ファンタジーも人気です。ジャンルはかなり多様化していると思います。

初演時にはあちこち足りないところがあっても、いいところがあればずっと好きでいてくださる方が多いので、足りない部分を補強したり直しながら、再演、再再演と上演を重ねて行く。そのように、支えて下さる観客がいらっしゃることで、今の(韓国創作ミュージカルの)活況があると思っています」

 

――では最後に。本作をご覧になった方に、どんなものを持って帰っていただきたいですか?

 

「私は、イソップ物語はイソップ一人の作品ではなく、彼に影響を与えた(周辺の)人たちも共同作者だと考えています。

ティモス一人が全ての話を作ったわけではなく、例えばペテゴレ爺さんはウサギとカメの話を作りましたし、タコと漁師の話はハンナが語った物語です。

そしてこれらのお話は、古代から誰かと誰かが共有するということを繰り返し、それによって今も存在しています。私としてはこれからも、これらの物語が共有されていってほしいと思います。

目を合わせて、お話をすることの重要さ、価値を感じていただけたら嬉しいです。
そしてこのお芝居を、“皆で一緒に生きていく人生”の中の、一過程、一コマととらえていただけたらと思っています」

 

(取材・文=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報  musical『Story of Aesops~イソップ物語の物語~』7月12~26日=東京芸術劇場シアターイースト、8月8~9日=サンケイホールブリーゼ 公式HP
*ソ ユンミ 様々な作品を手掛けるクリエイター。主な作品に演劇『駆け引きの誕生』脚本・演出(2011年初演)、ミュージカル『ブラックメリーポピンズ』脚本・作曲・演出(2012年初演)、ミュージカル『イソップ物語』脚本・作曲・演出(2024年初演)等。ソチ冬季オリンピック(2014年)閉会式総合構成、APEC新羅文化祭テーマ公演『永遠の光・新羅』(2025年)総監督等もつとめる。
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