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『ビリー・ホリデイ物語』A・マクドナルドの絶唱を、映画館で。

『ビリー・ホリデイ物語』Lady day at Emerson's Grill and Bar ©Evgenia Eliseeva

20世紀を代表するジャズ・シンガーの一人、ビリー・ホリデイの晩年のライヴを描き、オードラ・マクドナルドがトニー賞主演女優賞を受賞した音楽劇『ビリー・ホリデイ物語(“Lady Day at Emerson’s Bar and Grill”)』が、〈松竹ブロードウェイシネマ〉に登場。3月10日より全国の映画館で上映されます。

『ビリー・ホリデイ物語』Lady day at Emerson's Grill and Bar ©Evgenia Eliseeva

時は1959年3月、こぢんまりとしたバー・レストランの客席をかきわけ、一人のシンガーがステージへ。「女が男を愛する時」や「月光のいたずら」といった持ち歌を次々と歌いながら、彼女-ビリー・ホリデイ-はその半生を語ります。
劣悪な環境で生まれ育ったこと。歌で道を切り拓いてからも人種差別に苦しみ、体はドラッグとアルコールに蝕まれていること…。ショーの間もグラスを手放せないビリーは次第に足元がふらつき、伴奏者のジミーに休憩をとるよう勧められますが…。

『ビリー・ホリデイ物語』Lady day at Emerson's Grill and Bar ©Evgenia Eliseeva

ニューオーリンズに実在する店で撮影された本作は、A・マクドナルドのクローズアップを中心に客席からの眺め、客席の光景も差し挟み、実際にライヴに参加しているような臨場感を味わえる作り。本来はクラシカルな唱法を得意とするマクドナルドのジャジーなビブラートの“巧さ”も聴きどころですが、屈辱的な人種差別体験を面白おかしく語った後、ジミーが「奇妙な果実」のイントロを弾き始めると“今、これを歌うの?”といぶかしむような表情を見せ、しかし決意をもってこの、米国南部で日常茶飯事だった黒人虐殺を告発するナンバーを絶唱する姿が衝撃的です。2014年に『レディ・デイ』のタイトルで日本版が上演された際には、安蘭けいさん演じるビリーのラストが強烈な印象を残しましたが、今回のラストは舞台版とは異なる演出となっており、映像ならではの余韻に浸ることができるでしょう。

なお、今回は本作の上映を記念して、これまで〈松竹ブロードウェイシネマ〉シリーズで上映された6作品(『キンキーブーツ』『ジャニス・ジョプリン』『ザ・ウィローズ』『パリのアメリカ人』『シラノ・ド・ベルジュラック』『プレゼント・ラフター』)もアンコール上映。映画館の大きなスクリーンで、英米の舞台をまとめて楽しめる機会となっています。

(取材・文=松島まり乃)
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