Musical Theater Japan

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『ビッグ・フィッシュ』川平慈英インタビュー:大人の心を震わせるミュージカル

 

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川平慈英 沖縄県出身。大学在学中に舞台デビューし、「雨に唄えば」「キャグニー」「シューズ・オン」「ショーガール」等多くの作品に出演。スポーツキャスターとしても活躍している。スタイリスト:関恵美子、ヘアメイク:森川英展(NOV) (C)Marino Matsushima

自分の体験談をあり得ないほど大げさに語るエドワードと、そんな父が疎ましい息子ウィル。父が病に倒れたと聞き、身重の妻と里帰りしたウィルは、ある事をきっかけに父の本当の姿を知る…。

風変わりな父親に翻弄される一家を通して普遍的な男女の愛、親子の愛を描くティム・バートンの自伝的映画を、アンドリュー・リッパ(『アダムス・ファミリー』)の躍動感溢れる音楽で彩った舞台版は、2017年に日本初演。普段は劇場に縁遠い中高年の男性客を含め、幅広い層に愛され、再演が決定しました。“なぜ、そんなに?”と周囲が困惑するほど“盛った”話ばかりする主人公エドワードを、前回に引き続き持ち前の人懐こさで明るく、情味豊かに演じるのが川平慈英さん。話せば話すほどエドワードと重なってくる(?)生来のエンターテイナーに、その芯にあるスピリットをたっぷりうかがいました。

”後にも先にもない“作品

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『ビッグ・フィッシュ』

――二年前の初演は、ご自身のなかでどんな思い出として残っていますか?
「毎回毎回、完全燃焼するイメージでした。ああいうミュージカルは後にも先にもないですね。出ずっぱりのミュージカルはあってもあそこまでの熱量、カロリー消費量、精神的エナジーを要する作品は。
僕が演じるエドワードは最後に昇天するのですが、そこは多くのお客様が涙を流して下さる(感動的な)場面でありながら、僕にとっては逆に生を受けるようなシーン。生き急いでいるような彼が最後に浄化されるというか、エネルギーをもらうんですよ。だからこそ次の日も舞台に立てたんですね。今でも思い出すだけで心が震えてきます」


――そう感じられたのは、物語の中で次の世代に命のリレーができたと実感された故でしょうか?
「あとは圧倒的な音楽の力ですね。人間讃歌というか、家族、生に対する讃美歌のような音楽が見事で、歌えなくなるくらい毎回感情が込み上げてきたのを覚えています。千秋楽で思いが溢れるって、よく聞くじゃないですか。でもこの作品は初日から溢れてきました。高橋亜子さんの訳詞も素敵で、歌っていて琴線に触れるんですよ。毎公演生きる喜びをもらっていましたね。
僕は中学でミュージカル部に入っていたんですが、その恩師が今でも出演作を全部見てくれているんです。その先生が初演を見に来て“初めてお前の芝居で泣いたよ”って言ってくれたのも嬉しかったです。
ただエドワードのナンバーはキーが高くて、千秋楽まで(喉が)持つかとひやひやしました。そういう意味でも常にエッジ、縁にいるような感覚で。お客様と一緒に生の讚美を共有する日々は大きな体験でした」

“物語”の幼時体験 

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『ビッグ・フィッシュ』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

――川平さん演じるエドワードさんは、変わり者と呼ばれる人物ですね。
「本当にめんどくさい男ですよね(笑)。あんな親父じゃあ息子も妻もたまったものじゃない。妻はまだしも、息子はね。僕の父は熱心なクリスチャンで生真面目な父親像しか見てこなかったので、正反対ですよね。それなのにみんな、エドワード役は僕にぴったりと言う(笑)。これでも本当は繊細で臆病なんですよ(笑)。でもストーリーテラーで小さいときから目立ちたがり屋で、みんなを楽しませるためによく話を盛っていた点は、確かに似てるかもしれませんね」

 

――国、民族によっては、ああいった「物語り」は「文化」として普通に受け止められたりしますよね。
「ありますね。僕の親戚にもエドワードに似たおじさんがいました。子供の頃、僕たちを呼んでありえない話をしてくれてね」


――(沖縄の妖精の)キジムナーの話とか?
「キジムナーの話とか、自分は忍者だったとかね(笑)。子供にとっては最高のストーリーでしたよ。そのうち、そんなのありえないとわかってくるんだけど、僕は好きでした。次はどんな話をしてくれるんだろうと、楽しみでしたね。よく泡盛を飲みながら、俺は魔物を見たとか、鉄砲玉を歯で受け止めたことがあるとか(笑)話してくれたなあ」

 

――大人としては、子供を喜ばせようという一心だったのでしょうね。
「そうですよね、パンチのある話でね。でもエドワードの話では、(単なるほら話ではなく)最後にええっという展開があって。良く出来た物語ですよね。それに少し年配で、大きな子供のいる男性が主人公というのが嬉しかったです。最近はどちらかというと女性がターゲットの作品が多い中で、見に来てくださった男性のお客様の心をぐっと掴むことができた作品ではないでしょうか。楽屋まで挨拶に来てくれた男の友人たちが皆、楽屋でも泣いてくれていたんですよ」 

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『ビッグ・フィッシュ』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

――女性のお客様が男性を連れて来てくれるといいですね。
「そうですね。これから父親になる男性とかね」

 

――前回、特にお好きだった台詞やナンバーは?
「最後のナンバーに集約するんですよね。それまでビルドアップ(蓄積)してからの曲ですから。一幕から積もっていたものがどかーんと、ダムの決壊みたいに感情が溢れ出る。相当ヤバいです(笑)。あと、ナンバー的に好きだったのは、“Out There on the Road”。巨人に対して“君はできるよ”って奮起させる内容なのだけど、カントリーポップ的な曲調で。日本代表のサポーターのように、行ける、勝てるよ、レッツゴー! 洞窟から出て冒険に行くぞ!っていう。曲調がいいんですよ」

初演からの仲間たちとの絆

――初演からキャストがほとんど変わっていないのも本作の特徴ですね。
「子役は大きくなるから変わるのも仕方ないけれど、それ以外の人がみんな集まってくれたのは嬉しいことですよ。再演自体、僕らがやりたいって言っただけではできないことです。再びこの作品を上演できるように尽力してくださった皆さんにも感謝ですね。あとは僕らがどこまで劇場をいっぱいにできるか。頑張ります!」

 

――息子役の浦井健治さんとはどんな親子でしたか?
「健ちゃんはいつも自然体で、大好きですね。初演の時は毎日僕の楽屋に“今日もロックンロール!”って言いに来てくれてね。友達みたいな、兄弟みたいな関係でした。でも舞台上の彼はホントに憎たらしい息子でね。それが最後の曲で目と目が合って…、本当に涙腺が決壊しそうになるんです」 

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『ビッグ・フィッシュ』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

――妻役の霧矢大夢さんとは?
「長い公演中にはお互いいろんなことがあるじゃないですか。二人で歌う曲の霧矢さんのパートは僕に合わせているので音が高かったり低かったり、かなり高低差があるんですよ。喉を気にされていそうな公演があると僕が“大丈夫、全然声出てる”、逆に僕が炎症起こして危ないときには霧矢さんが“大丈夫、楽~に歌ってください”とお互い言い合って。ビッグハートな方で、毎回癒されてましたね。この瞬間を一緒に生きている、と肌感覚で感じられました。彼女でなければあそこまで表現できなかった。だから再演の話をいただいたとき“絶対(妻役は)霧矢さんで”と言っていたくらいです」

 

――再演にあたって新たなテーマなどはおありですか?
「実は無いんですよね。とにかく白井さんの演出、音楽監督の前嶋さん、そしてみんなを信じて、最後に自分を信じてその瞬間、瞬間を前回のように生きるだけです。50歳を越えて、初演から2年半以上の間を空けての再演となるわけですが、どこまであのスケジュールを生き抜いていけるか。きっとお客様から逆にエネルギーをいただいて、それが源になって最後まで走り抜けるのではないかなと思います。
体力的な部分では、今回生まれて初めて高地トレーニングをやっています。標高3000メートルくらいの負荷をかけると、15分くらい走るだけでフルマラソンに匹敵するそうですよ。だからといってとんでもない体力が蓄えられるかは未知数だけど(笑)。あとはサウナですね」

 

――効きますか⁈
「僕には効きますね。30年前からやっているデトックス法で、毎日入らないと気持ちが落ち着かないくらい。お薦めしますよ。内臓強化になるし、風邪も引かなくなります。
先頭を突っ走っていかなくちゃ行けない責務もあるので、しっかり体調管理もしつつ、エンジョイしていこうかなと思っています」

生きていることの祝福を感じられる舞台に

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『ビッグ・フィッシュ』2017年公演より。写真提供:東宝演劇部

――どんな舞台になればと思っていらっしゃいますか?
「母がアメリカ人だったので、子供の頃僕ら兄弟は順繰りに一年間、アメリカのジーン叔父さんの農場に手伝いに行かされていたんです。その後、病と闘うようになった叔父がどうしても打ち勝てず、余命幾ばくもないとなった時に“僕の葬式はフィエスタ、宴にしてくれ”と言ったんですよ。クリスチャンの彼は、“(死ぬことで天国という)もっといいところに行くのだから、僕が昇天するのはグッドニュースなんだ”ととらえていた。この言葉が、前回にも増して思い出されるんですよね。生きていることの祝福を感じられるような舞台に出来たらいいなと感じます。そのためには死ぬほどの練習が必要だけど、本作はメンバーがいいんでね。12人編成なので、舞台では11人の仲間たちとともに最高のサッカーチームのように、素晴らしいゴールを目指していけたらと思っています」

”和顔愛語“の人を目指して

――川平さんはいつもポジティブ・オーラが漲っていますが、その秘訣は?
「そうでもないですよ(笑)。打たれ弱いし、コンプレックスもありますし。でも基本的に、沖縄のDNAなのか、人が好き、人を喜ばせるのが好きなんですよ。それに人を笑わせると、逆に僕がエネルギーをもらえる。 “ポジティブ”というのは難しいことで、おそらく本当にポジティブな人って、自分がポジティブって気が付いていないと思うんですよ。そうであることすら意識していない、自分がそのままで一番comfortableな状態でいられる人がポジティブ。僕なんか蚤の心臓で、それを隠そうと思って“Let’s go positive!”とやっているんです(笑)」

 

――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「いい質問ですね。僕の座右の銘は、父から教えてもらった“和顔愛語”という言葉なんです。仏教用語だけどキリスト教にもある言葉で、人に対して柔らかな顔で、愛情あふれる言葉をかけられるように。そういう演技を発信できるように…といつも思っていますが、実際は周りに愚痴をこぼしたり…まだまだです(笑)」

 

――でも『ショーガール』(シルヴィア・グラブさんとの二人ミュージカル・レビュー)を拝見したりしていると、川平さんには出来ないことがないように思えてしまいます…。
「出来ないのが悔しくてやっているだけです。できるように見せることはうまいんですよ(笑)。
大きな目標としては、人を癒せるような人間になれたら、と思います。年をとればとるほど父のようになりたいと思いますね。これまでは親父も仕事が忙しかったから密接な絡みはなかったけれど、今になって、父親の存在が大きく感じられるんです。近づいていけたらと思います」


(取材・文・撮影=松島まり乃)

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*公演情報『ビッグ・フィッシュ』11月1~28日=シアタークリエ 公式HP

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