Musical Theater Japan

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『メリー・ポピンズ』小野田龍之介インタビュー:楽しさの連続の中、ふと目頭が熱くなるミュージカル

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小野田龍之介 神奈川県出身。幼少よりダンスを始め、その後ミュージカルに出演。2011年、シルヴェスター・リーヴァイ国際ミュージカル歌唱コンサート・コンクールに出場し、リーヴァイ特別賞を受賞。主な出演作に『レ・ミゼラブル』アンジョルラス、『ミス・サイゴン』クリス、『ウエスト・サイド・ストーリー』トニー、リフ、『メリー・ポピンズ』ロバートソン・アイ、『ラブ・ネバー・ダイ』ラウル『フィスト・オブ・ノーススター』トキなどがある。©Marino Matsushima 禁無断転載

パメラ・トラバースの名作小説を2004年に舞台化し、2018年に日本初上陸した『メリー・ポピンズ』。初演でバンクス家の使用人、ロバートソン・アイ役を飄々と演じた小野田龍之介さんが、2022年の再演ではバート役を演じます。

つい先日まで『フィスト・オブ・ノーススター』で猛々しい作品世界を生きていた小野田さんですが、今回は打って変わり、カラフルで底抜けに楽しい作品。前回公演の思い出からメリー・ポピンズという摩訶不思議な存在と現実世界を繋ぐバートという人物像まで、たっぷり語っていただきました。

“バートのすべてがつめこまれたシーン”を改めて読み返し
涙が止まりませんでした

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『メリー・ポピンズ』歌唱披露イベントでの小野田龍之介さん。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

――前回公演については、どんな思い出がありますか?

「思い出はたくさんありますが、とりわけロバートソン・アイというキャラクターを“もう中学生”さんとダブルキャストで演じたのが印象深かったです。全く性質の違う二人で演じたのが楽しかったですね。

渋谷のど真ん中(のシアターオーブ)にリチャード・エアさん(本作のオリジナル演出家)とキャメロン・マッキントッシュさん(プロデューサー)の二人が降り立ったのも、日本初演ならではでしたね。

でも開幕までは大変でした。『メリー・ポピンズ』という作品のことは(関係者の)みんな大好きなんだけど、何せ初めてのことで“この後は何だっけ、どうするんだ”ということの嵐で。でも“この作品の世界観を絶対に表現しよう”とみんなが気持ちを一つにして、ファミリーのように集中しながら稽古を乗り切っていきました」

――今回のバート役は、オーディションを経て決定したのですか?

「もちろんです。でも僕としては再演にあたってロバートソン・アイを続投できればと思っていたので、バート役でオーディションを受けることができることになり驚きました。これまでマッキントッシュのプロデュース作品では『ミス・サイゴン』のクリス、『レ・ミゼラブル』のアンジョルラスと重圧のかかる役をやらせていただきましたが、『メリー~』に関してはロバートソン・アイというポップな役で、キャラクター的に演じる楽しみがありましたが、バートとなると“また比重の重いパートだな、どうしよう…”と。

でも実は僕、日本初演は当初、バートでオーディションを受ける予定だったんです。怪我で踊るのがつらくなってしまい、やめますと言ったら“では踊りのほとんどない役で”と勧められたのがロバートソン・アイでした。そういう経緯があったので、またバートに挑戦する機会があるならぜひ、と思い、挑戦させていただきました」

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『メリー・ポピンズ』歌唱披露イベントでの小野田龍之介さん(メリー役・笹本玲奈さんと)。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

――オーディションでは、歌唱力は当然として、何を一番求められたと思われますか?

「やはりキャラクター性だと思います。『メリー・ポピンズ』のバートというと、エンタテインメント性に溢れすぎて、とかく“歌えて踊れるお兄さん”とイメージされがちですが、それはメリーと一緒にいるからなんですね。本来のバートは、普通の労働者の男性なんです。

だからオーディションで、最初にぼーんと(強い押し出しで)表現したところ、“リュウノスケが歌えることは分かった。だけど、バートはそういう役じゃないんだ。普通に、リュウノスケが語っているところを見たい。ずっと(煙突掃除夫として)働き続けてきた一人の男、労働者の体の重さを見せてほしい。こういう課題を渡すから、また今度見せて欲しい”と言われました。

それで次のオーディションで、前回とは全く違う表現をやってみました。審査員の中には『ミス・サイゴン』や前回の『メリー・ポピンズ』でご一緒したことのあるスタッフもいて、すごく信頼していたので、彼らの意図に乗っかろうと思い、全く違うバートの歌を歌ってみたんです。それが評価していただけたようなのと、久しぶりのタップダンスだったので集中的にレッスンを重ねて臨んだら“行けるだろう”と思っていただけたようです。キャラクター性が一番大きかったんだなと感じています」

――そのバートの人物像ですが、彼はどこか謎めいたキャラクターですよね。後半にバンクス家のお父さん、ジョージに対して達観したようなことも言っています。

「〈ステップ・イン・タイム〉の後のシーンですよね。2回目のオーディションを受ける前に、“このシーンにバートのすべてが詰まっているから、台本を読んできて下さい”と言われて改めて読み込んでいたら、涙が止まらなかったです。

ここはジョージの(家族観が変わる)シーンですが、彼に影響を与えるのがバート。家族に対する思い、祈りを彼らしく語っているんです。バートはメリー同様に魔法の世界の人というか、そう思われても致し方ない描かれ方をしていますが、あくまでも普通の人間で、子供の時にメリーに育てられた人物だそうです。“メリー・ポピンズが空から家族を見守るのに対して、バートは大地から家族を支える人。大地の人間というイメージで演じてほしい”と言われました」

――バートが語るこの家族観は、メリーにも共通しているのでしょうか。

「そうですね。その上で、メリーはバートに、ジョージのもとに行くよう言ったのかもしれません。というのも、バートもきっと子供の頃、あまり父親に相手にしてもらえず、ジョージと同じような境遇だったんじゃないかな。当時、お父さんに言えなかったこと、感じていたことを、ジョージに対して吐露しているのかもしれません。

他にバートについてわかっていることとしては、彼はメリーと違って、子供を子ども扱いせず、いつも対等に喋っているということ。そして子供の頃、自分を育ててくれたメリーがまたいつか自分の前に現れるんじゃないかと待ちわびていたところに、本当に舞い降りてきてくれた。だから(本作で描かれているように)メリーが登場したことは、彼にとってはものすごく嬉しいサプライズだったと思います」

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『メリー・ポピンズ』歌唱披露イベントにて。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

――ミュージカル版『メリー・ポピンズ』にはビッグナンバーが続々登場し、見せ場に次ぐ見せ場となりますが、バートの視点で見てみると、ひと味違う深みや陰影があるのですね。

「『メリー・ポピンズ』って本当に、明日を生きるエネルギーになる演目ですよね。悲劇的な瞬間がまるでなく、人生をポジティブに生きていくヒントがつまっていると思いますし、〈ジョリー・ホリデー〉しかり〈ステップ・イン・タイム〉しかり、ビッグナンバーの連続でただただ楽しい。でもなぜか、目頭が熱くなる。何かがつまっているんだと思います。

それに加えて、今はコロナ禍であることで、初演の時以上にエネルギーが感じられるかもしれません。抑圧された生活の中で、皆がそれぞれに楽しみを見つけたり抜け出そうとしているなかで、メリーという光が差し込んで来ると、その輝きは倍増して感じられます。

それは先日、英国のTV番組でウェストエンドの俳優たちが“ステップ・イン・タイム”を披露しているのを観たとき、“待ってました感”というか、彼らの放つ光の明るさで痛感しました。未来はどうなるか分からない。だったら今をポジティブに、明るいものを掴みにいこうよ、そんなメッセージの込められた作品なのかもしれません」

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『メリー・ポピンズ』歌唱披露イベントでの小野田龍之介さん。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

――小野田さんに前回、インタビューしたのは(別媒体ですが)2018年で、最後に俳優としてのヴィジョンをお尋ねしました。

「『ラブ・ネバー・ダイ』の時でしたね」

――それから今日まで、着々とキャリアを重ねて来られる中でコロナ禍にも直面された小野田さんですが、ヴィジョンに変化はありましたでしょうか?

「コロナ禍が始まった頃、僕は『ミス・サイゴン』の稽古中でした。それまで30年間、ミュージカルの音楽を聴かない日はなかったのに、自宅で2か月間待機するなかで、僕は初めて聴くのをやめました。どうせできないのなら、という(悔しい)思いで…。

でもある日、何気なく〈ブイドイ〉(『ミス・サイゴン』)が耳に入ってきて、その瞬間“なんで僕は離れようなんて思ったんだ”と思えたんです。ミュージカルってこんなにも力強いメッセージを送ることができる、心を動かせる仕事じゃないか。それに現実では絶対に経験できないような人生を、役を通して生きることができるじゃないか、と。
改めて覚悟を決めて、これからは職人的に仕事をしていきたい、と思いました。

どの俳優もそうだと思いますが、皆でご飯にいくようなこともなくなり、作品に目を向ける時間が増えました。稽古ではマスクをしているので、(表情が見せられない分)、言葉でどう届けるか、ごまかすことはできません。そういう状態で演技を作れるようになってきた手応えはあります。

もちろんコロナ禍は大変なことばかりでいい期間だったとは到底言えないけれど、そんな中でもやっていくための心構えや感受性は見つけられたような気はします。30歳になって、できる役柄も増えてきたので、そういう意味ではこれからが楽しみでもあります」

――思えば、小野田さんに初めてインタビューしたのが『Love Chase!』の時で、“まだ22歳です”とおっしゃっていました。やっと30歳なのですね(笑)。

「やっと30です(笑)。責任も大きくなってきました。『Love Chase!』の頃はエンタメ的な役柄が多かったのですが、当時培っていたものを前回、ロバートソン・アイ役でお見せできたのが嬉しかったです。今回はバートとして、メリーや子供たちとしっかり対話する姿をお見せ出来るよう、がんばります」

――〈ステップ・イン・タイム〉での、重力に逆らったダンスも楽しみです。

「僕もです。本当に楽しみです!」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『メリー・ポピンズ』3月26日~5月8日(プレビュー3月20~25日)=東急シアターオーブ、5月20日~6月6日=梅田芸術劇場メインホール 公式HP

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