ホイットニー・ヒューストン主演で一世を風靡した映画の舞台版で、英国はじめ各国で上演されているミュージカル『ボディガード』。ストーカーに狙われる歌姫、レイチェルとボディガードの秘めた恋を、華やかなショー・シーンを織り交ぜながらスリリングに描く“王道エンタテインメント”の日本キャスト版が24年春、再び上演されます。
この舞台で今回、レイチェルのマネジャー、ビルを演じるのが、吉本新喜劇の内場勝則さん。同じくレイチェルの広報担当サイを演じるのが、水田航生さん。内場さんは初演からの続投、水田さんは初演以来の2回目となります。
宣伝ビジュアル撮影のため、久々に再会したお二人でしたが、瞬時に和やかな談笑が始まったのには、実はお二人の意外な「師弟関係」が影響していた模様…⁈ これまでの思い出や作品について、そして今回の抱負などをうかがいました。
“僕ら、師弟関係なんです(笑)”
――今日は3年ぶりの再会とうかがいました。
水田航生(以下・水田)「そうなんですよ」
内場勝則(以下・内場)「初演の時はコロナ禍が始まった頃の上演だったので、毎日“明日どうなる、やるのか?”という状況で…」
水田「大阪で5回、公演をやったところで中止が決まったけれど、その時はまだ“東京公演はできるかも”という可能性があったので、内場さんとも“じゃあまた、東京でお逢いできたら”という感じでお別れしたんですよね」
内場「そうね」
水田「結局、東京公演も無くなってしまったので、“じゃあまた”は今日になってしまったんです(笑)」
内場「彼はね、ダンスの師匠なんです」
水田「そんな、やめてください(笑)」
内場「カーテンコールで一人ずつ踊るところがあって、“好きに踊ってください”って演出家が軽くおっしゃられて、“無理です!”って言っていたら、(水田さんが)振り付けてくれたんですよ」
――もしかしてカニさんみたいなポーズのところでしょうか?とてもお茶目で印象的でした。
内場「最後のそのポーズは(演出・振付の)ジョシュア(・ベルガッセさん)なんですが、(水田さんは)それまでの振りをつけてくれて。再演の時もそのままの振付で踊らせてもらいました」
水田「僕の振付というほどのことでもないんですけれど、でも嬉しかったです。再演は(観客として)東京で観させていただいたのですが、カーテンコールの時に内場さんの踊りを見て“やってくださってる!”って。あの時は、カーテンコールの時に(舞台上の)みんなが僕に気が付いてくれたのも嬉しかったですね」
内場「みんなすごく敏感でしたね。初演メンバーの子役のあの子が来てるね、とか…」
水田「(作品の)中にいる時には気づかなかった部分があったけれど、(再演を)外から観ることで、みんながそれぞれに輝いているし、シリアスなシーンもありつつ幸せな空気が流れるエンタテインメントだな、と感じました。初演は5回しかできなかっただけに、再演はより絆が深まっているのだろうな、とも思いました」
――内場さんは本作が初ミュージカルとのことですが、普段の吉本新喜劇とは空気は違いましたか?
内場「違いますね。体育会系ですね。僕らはふだん、だら~だらやってるんで(笑)。ここでは皆さん、ダンスもあるから怪我しないよう時間かけてアップしているし、きびきび、生き生きした感じで、これまで生きてきた世界と違いますね。
それと、コロナ禍という、残念なことがきっかけではあるけど、逆に一つになれたということがすごく感じられましたね。本当にみんなが一つの方向を向いていると感じられて、見習わなと思ったけど…アップの仕方が分らへん」
水田「(笑)」
――皆さんの様子を見ながら、ストレッチをしてみたり?
内場「皆さんの真似したら、体が折れてまいます(笑)」
水田「いろいろなミュージカルがある中でも、本作のダンスは特にハードですよね」
内場「しかもマスクしながらの稽古で、本当にすごいと思いました」
――新喜劇ではアドリブもお楽しみ要素の一つかと思いますが、本作では…。
内場「そんなのできないですよ! いったん始まったら音楽も鳴っているから、(流れは)止められません。きちっと次に渡さないかんし、大阪弁なら返しも出来るんですけど、標準語でしょ。やっぱり戻せないんですよ、行ったら行きっぱなしになってしまいます」
――そんな中でも、内場さんらしさが活きた箇所はしっかりありましたね。
内場「ジョシュアさんが(吉本新喜劇の)ビデオを見て気に入って下さって“大阪バージョンでやってください”とおっしゃって。分かりはるのかな?思いながらも、皆さんがずっこけるような芝居をやらしていただきました。やって~ゆうたらやりますけど、バランスがとれるのかどうなのか、それが心配で。“ええんかな”と思いながら、緩いところでやらしていただいたりしました」
――“大阪バージョン”ということは、東京ではまた違う演出に?
内場「(あの演出は)大阪で終わったつもりだったけど、“東京でもやってくれ”と言われて、“無理です、僕~”と言いながらやってました。東京だと“ミュージカルを観に来てるんです”という(真面目な)お客さんばかりだから、途中で演出家の方に“これあかん、ダメですって”と言ったんですけど、“いけます、笑ってます”ということで。こちらとしては、“聞こえてこないですけど…”という感じだったんですけど(笑)」
――内場さんが入られたことで、普段のミュージカルにはない空気が生まれたのでは?
水田「ジョシュアが前のめりに、内場さんに新喜劇のネタをやってくれと言っていたのを覚えています。動画サイトで新喜劇の映像を見た彼から“これは何?”と聞かれて、“有名なネタですよ”と答えた記憶もありますね。日本人としては内場さんのネタをここで観られるのは、嬉しい驚きだと思います。ふだんのミュージカルにプラスアルファをして下さっているんじゃないかな。でもお笑いのシーンばかりでなく、お芝居のシーンでも内場さんはたくさん魅せてくれます」
――バックステージもの的な側面もある本作では、アメリカの“スター”の世界が興味深く描かれていますね。歌姫レイチェルの屋敷にビルやサイ、そしてダンサーたち…と大勢が始終出入りしている日常に驚かされます。
内場「お抱えの人々ですよね。一つのチームとして、彼女のステージを創っているんだと思います」
水田「あれだけの大スターなので、アメリカだと当たり前なのかもしれないですね。僕たちスタッフも、彼女のステータスが上がればそれが自分のステータスにもなる、というところで頑張っているのだと思います」
――ある種の野心も持ちながら…?
水田「サイは設定的にも“若手の広報”ということで、若くしてレイチェルのようなスターに付いているので、相当クレバーだし、打算的に生き抜いていたのだと思います。周りに参考になるような人がいないので、想像しながらではあったけれど、感情的にはリアリティを持って演じました」
――水田さんの事務所にはいらっしゃらないタイプ…?
水田「いないですね(笑)。時代的な違いもありますよね。今はSNSや動画を使ったPRが注目されるから、そういうこと(スキル)が重視されたりもするのでしょうね」
――ビルはどんなマネジャーさんでしょうか。
内場「みんなそれぞれビジネスライクだったり、(華やかな世界で)ちょっと浮かれてるところもあるけど、ビルはちょっと年長で、(彼にとって)レイチェルは娘みたいな存在なんです。映画版だとビジネスライクにばしっとやってるけれど、それは無理やなと思って、僕の演じるビルは(ストーカーに狙われている)レイチェルを心配しています。彼女を売れさせな、賞もとらせなあかんけど、身の安全が第一。仕事のパートナーというより父親目線くらいの、もっと入り込んだ感じですね。
この世界は厳しいけれど、自由にもさせてあげたい、でもそうすると誰かが(彼女に)目をつけてえらいことになる…。だからボディガードとして、敏腕のフランクを呼ぶんです。でもえらいことが起こって、僕はあまり(レイチェルに)知らせないほうがええと思ってるんですけど、やっぱり危ないということでどんどん事態がシリアスになっていくんです」
――サスペンスではあるけれど、ホイットニー・ヒューストンの名曲の数々がちりばめられていて、音楽的な魅力もたっぷりの作品ですね。
内場「みんな知っている曲ばかりですからね。強みですよね」
水田「確かに!」
――本作の英国版(現地での上演バージョン)は特にショー・シーンでのド派手な演出が人気ですが、日本版は繊細な表現に重点を置いているように見えます。
内場「僕も来日版は観ましたが、ストーカーがマッチョで、“あんた(ストーカーしなくても)モテるでしょ”という方でしたね(笑)。
日本版の演出のジョシュアさんは、芝居を重視されていて、チャレンジが凄いですよね。(日本の観客の好みを)よく分ってはるなと思いました。すごく深いところを見ていらっしゃいます」
水田「僕もジョシュアさんは豪快さより繊細さを大事にされていて、日本人的な方だと思いました。感情の機微を大事に掘り下げていって、稽古ではみんなに“大丈夫?何考えてる?”と気遣ってくれて、(アメリカ人と日本人の)マインドの違いを感じなかったです」
――特にお気に入りのシーンはありますか?
内場「ニッキーかな。レイチェルの姉で、もともとは自分も歌手を目指していたけれど今は彼女のスタッフになっているんです。(日陰の身の)彼女が酒場で歌うシーンがあってね、悲しいなぁって」
水田「切ないですよね」
内場「でも圧巻はやっぱり最後の♪エンダー(“And I…”)♪のくだりでしょう(笑)。全部を吹き飛ばすもの」
水田「ですよね。僕は、自分が出ているシーンで言うと、アカデミー賞の授賞式のシーンが好きですね。式に臨むレイチェルに向かって、スタッフのみんなが楽屋で一言ずつ“頑張ってね”と言うのが印象的で、再演を観たときも“いいシーンだな”と思いました。
さきほど内場さんがお話されたように、僕らスタッフは最初こそ自らのステータスのために集まっていたかもしれないけれど、いろんなことを乗り越えて、一つのファミリーのようになる。サイもいろいろ言ってきたけど、最後にあの場面で“君が最高なんだよ”と言うのは、ビジネスではなく、心から言っているんだと思います。心があたたかくなるシーンですね。その後、みんなが笑顔で踊るカーテンコールを客席から観たときには、すごく幸せな光景が繰り広げられていて、泣きそうになりました。あのカーテンコールもすごく好きです」
――今回、ご自身の中でテーマにしたいと思っていることはありますか?
内場「そんなに変える必要はないと思うんですよ。初めて御覧になる方もいると思うし、今までやっていたことをふまえて、自然に任せますね」
――“もっとお笑いを入れて下さい”とジョシュアさんに言われたら…。
内場「“こんなんどうですか”というのはやってみますね」
水田「楽しみです! 僕は初演以来ですが、初演からずっと出演されている(新妻)聖子さんや内場さんたちがいらっしゃる一方で、May J.さんとは初めてですし、他にも初めましてのキャストがいらっしゃいます。共演者が変わるとその人が発するものも違うと思うので、敏感にキャッチしていきたいです。自分が(芝居を)変えるつもりはなくても、自然と変わってゆくんじゃないかな。絡むシーンの多い(レイチェルの旧来のボディガード役の)トニー役も(加藤潤一さんに)代わるので、どんなやりとりになるか楽しみです」
――24年の『ボディガード』、どんな舞台になるといいなと思われますか?
内場「緊張感あるサスペンスでありながら、歌もダンスもたっぷりあって、本当に楽しい。本物のエンタテインメントになると思いますね。長年、新喜劇をやってきたけど、ミュージカルの“歌の感動”には勝てないと思います。音楽って、全世界が分かるじゃないですか。僕ら小さい頃はビートルズを聴いて育ったけど、英語が分からなくても感動できましたからね。しかもミュージカルは“生”で、ライブならではの良さがあります。いい作品に携わらせてもらったなと思いますね。
個人的には僕、(開幕して)第一声を担当するんですよ。“フランク!”って。ドキドキしますけど、お客さんに楽しんでもらえたら、その一心です」
水田「内場さんがおっしゃった通り、エンタテインメントの素晴らしさをお客さんに受け取っていただいて、その表情をカーテンコールでステージから見るのも楽しみですし、今回はぜひ内場さんに違う振付を…(笑)」
内場「そんなんあるんか‼(笑)」
水田「ご提供できれば(笑)」
内場「師匠‼ 頼みますよ(笑)」
水田「二人で踊ってるかも⁈(笑) とにかく、これまでのものを踏襲しながらも、ジョシュアや皆さんで再再演ならではのものを、よりこうしたら面白くない?みたいなものを創っていけたら、僕らも楽しいし、お客さんにも喜んでもらえるかなと思っています。余白みたいなものを自分に課しながら、取り組んで行きたいです」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*公演情報 『ボディガード』2024年2月18日~3月3日=東急シアターオーブ、3月9~10日=やまぎん県民ホール、3月30日~4月7日=梅田芸術劇場メインホール 公式HP
*内場勝則さん、水田航生さんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼント致します。詳しくはこちらへ。