Musical Theater Japan

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屋比久知奈『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』にときめいて

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屋比久知奈 沖縄県出身。16年に帝国劇場で開催された「集まれ!ミュージカルのど自慢」に出場し、最優秀賞受賞。ディズニー映画『モアナと伝説の海』モアナ役の日本語吹き替えを担当し、一躍人気に。『タイタニック』『レ・ミゼラブル』に出演、本作の後は『ミス・サイゴン』キム役が控えている。(C)Marino Matsushima

場末の歌手と修道女たちがひょんなことから出会い、心通わせてゆく1992年のコメディ映画を舞台化し、11年にブロードウェイで開幕した『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト』。山田和也さんによる演出で14年に実現した日本初演も大きな話題を呼び、16年の再演を経て今年、再再演が決定しました。

殺人事件を目撃してギャングに追われ、修道院に匿われることになったクラブ歌手のデロリス。自由奔放な彼女と慎ましく生きる修道女たちは当初、到底うまくやっていけるようには見えませんが、デロリスが彼女たちのコーラスを指導するうち、いつしか不思議な絆が生まれる。身一つで生き抜いてきたデロリスが友情の素晴らしさを、そして厳格な世界で生きてきた修道女たちが自分を信じて壁を乗り越えることを学んでゆく過程が感動的なこのドラマで、とりわけシャイな修道女見習い、シスター・メアリー・ロバートを演じるのが、屋比久知奈さんです。

気負いのない伸びやかな歌声を武器に、ディズニー映画『モアナと伝説の海』日本語版モアナ役の吹き替えで彗星のように現れ、今年は『レ・ミゼラブル』でエポニーヌ、来年は『ミス・サイゴン』でキム役と、次々に大きなチャンスに恵まれている屋比久さん。そんな彼女にとって、本作はとても思いいれのある作品なのだとか。努力家の一面がうかがえるデビュー前のエピソードを含め、たっぷりとお話をうかがいました。

『レ・ミゼラブル』出演で学んだこと

――屋比久さんは今年、まず『レ・ミゼラブル』に長期間出演されました。エポニーヌ役はいかがでしたか?

「エポニーヌはこの作品を初めて観た時、一番印象に残った役だったので、(出演が)決まった時はとても嬉しかったのですが、ロングランも、キャストの組み合わせがここまでたくさんある公演も初めてでしたし、自分がどこまでエポニーヌの魅力を伝えられるか、始めは不安でした。

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『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

でも、稽古が始まると自分だけで対処するのではなく、みんなで舞台を創り上げるという空気感があったことで、周りの皆さんとしっかり向き合っていけば大丈夫なんだと分かり、精いっぱい役に取り組み、皆さんにぶつかっていこうと気持ちを切り替えることができました。本番に入ってかなり経ってから、キャストの組み合わせが変わると舞台の上の空気が変わるのを楽しめるようになりましたし、音楽にもここにはこういう意味があるのかなという気づきがあったりもしました。やればやるほど深められる作品ですね。今となっては、苦しんでいた時間を含めて、幸せだったと感じます。」

――エポニーヌ役は名曲と言われる“オン・マイ・オウン”を含め、音楽的に求められるものも多かったのではないでしょうか。

「オーディションの時に、“一日の終わりに”の最初の音階をすごく難しく感じたのを覚えています。『レ・ミゼラブル』の曲はどれも耳に残るけれど、実際歌うとなるとフラットが多かったり、第一印象と違うフレーズがあったりしました。最終的には“歌”というより“言葉”としてお客様に伝えられるよう、これからも研究を続けていかないと、と思っています」

メアリー・ロバートを通して
“私も一歩踏み出してみようかな”と思っていただけたら嬉しいです

――次に控えるのは『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト』。主人公デロリスとの出会いで内気な性格が変わってゆくシスター・メアリー・ロバート役を演じるのですね。

「帝国劇場で初めて観た舞台が2016 年の本作で、音楽的にも物語としても元気になれる作品だと感じました。『レ・ミゼラブル』とも違うエネルギーに満ちていますよね。一緒に観た家族もハッピーをいただきましたが、その舞台に自分も出させていただけるようになるなんて想像もしていなかったので、とても感慨深いですし、家族も喜んでくれています。

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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト』

シスター・メアリー・ロバートは舞台を観た時、道を切り開こうと動き出すまでに時間のかかる私とどこか似ていて、共感できる部分があるなと感じました。オーディションを受けることになり、この共通点をうまく使おうと思いながら臨みました」

――メアリー・ロバートは若くして大都会の中の異次元とも言える修道院にいますが、なぜそもそも修道院にいるのだと思いますか?

「おそらく他の修道女たちは信仰に向き合った結果そこにいるのだろうけれど、メアリー・ロバートについては、自分の意思だけではないような気がします。果たしてここにいていいのかな、本当はやってみたいことがたくさんあるけれど言い出せないな、と悩みながら過ごしている…というイメージが現時点ではあります。だからこそ(奔放な)デロリスと出逢って、彼女に魅力を感じるのではないでしょうか。

実生活でも、一歩踏み出す勇気があればと思っている方が、メアリー・ロバートを通して踏み出してみようかなと思っていただけるよう、しっかり演じたいと思っています」

――デロリスのコーラス指導を受けるうち、それまで弱弱しい声しか出なかったメアリー・ロバートはとてもパンチのある声で歌えるようになるのですよね。

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『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト』シスター・メアリー・ロバート(屋比久知奈)

「それまで秘めていたものが外に出て来る。それぐらいの強さを秘めていたわけで、ただの内気で弱い子ではないと思っています」

――アラン・メンケンの音楽はいかがですか?

「はじめはメンケンさんの音楽とは知らず、この癖になる感じは何だろうと思ったらメンケンさんの音楽であることがわかり、彼の音楽を聴いて育ってきただけに感動しました。シスターたちが皆で歌う曲も素敵だし、メアリー・ロバートのソロも、どちらかというと静かだけど、聞き終わると心に残る曲で、大好きです」

――全般的にモータウンサウンド風の香りもありますね。

「あの修道女の衣裳からは想像もできない、ノリノリで歌うのには私も衝撃を受けました。それまであまり聴いたことのなかったジャンルだけに、今はたくさん聴いて体にしみこませています。勉強しつつ、楽しんで歌えたらと思っています」

――デロリス役をダブルキャストで演じる森公美子さんとは『レ・ミゼラブル』でも共演されましたね。

「エポニーヌのお母さんのマダム・テナルディエ役でいらっしゃいましたが、実は親子役なのにあまり絡みはなかったんです。なので今回、しっかり絡めるのが嬉しいですね。森さんの歌のパワーは本当に半端ないので、食らいついていきたいです」

――デロリスとメアリー・ロバートには後半、心通わせるとても感動的なシーンがありますが、リピーターとしてはあの場面になる度、“彼女たちの靴のサイズは同じなのか”が少々気になります(笑)。

「そうですね(笑)。私もあのシーンは大好きです」

――どんな舞台になるといいなと思っていらっしゃいますか?

「ポジティブなエネルギーに満ちた作品なので、お客様にもそのエネルギーを持って帰っていただきたいです。作品の世界観をお届けできるよう、しっかり準備していこうと思いますし、私自身も楽しんで演じたいです」

全てを出し切れたと思えた『ミス・サイゴン』オーディション

――その後の来年には『ミス・サイゴン』でキム役を演じることも発表になりました。

「これからメアリー・ロバートに向き合うというところで、まだ心がキムには追い付いていないのですが、とてもやりたかった役なので嬉しいですし、キムが歌うのはビッグナンバーばかりなので、時間をかけてしっかり身に付いた状態でお目にかけたいと思っています」

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『ミス・サイゴン』

――オーディションはどんなものだったのですか?

「もし受からなくても、今の自分の力ではダメだったのだと諦めがつくくらい、今までで一番全力でやりきったと思えたオーディションでした。最初のオーディションはソロナンバーでの審査で、コールバックをいただいた時はクリス役の候補のかたとご一緒でした。まず一度目は自由に演じてみて、と言われ、次はこういう風なイメージでという指示をいただき、ワークショップのような感じだったのですが、私にとっては難しいと同時に得るものも多く、とても楽しい、価値あるひとときでした」

――キムの境遇は今どきの日本の女の子には想像しづらい部分もあるかと思いますが、自分の子供のためなら命をあげようという彼女の発想、どう理解していらっしゃいますか?

「正直、まだ全部は理解できたわけではありませんが、いろいろ想像するなかで、キムはこういう感覚だったのかなというものが自分の中に芽生えました。その感覚を大切に、来年稽古に臨んでいきたいと思っています」

ご縁が繋がり、必死に取り組んできて“今”がある

――プロフィールについても少しお聞きしたいのですが、資料を拝見して驚いたのが、英語のTOEIC910 点越えというスコアでした。帰国生でもハーフでもないのですよね。

「はい。小さいときから母が英語に触れる機会を作ってくれたのと、沖縄は比較的そういう機会が多いような気がします。自分から英語に興味を持ったきっかけは、小学生の時、テレビで『ハイスクール・ミュージカル』というアメリカのドラマが好きになって、何を歌っているのか理解したくなったんです。歌詞をノートに書き写して、その下に読み方と意味を書き込んだのをきっかけに、いろいろな曲を調べていったり、英語を使った仕事を夢見て、高校でアメリカに留学したりしました。高校留学はすごく濃い時間で、周りの人たちも親切に私の英語に付き合ってくれ、英語力的にも性格的にも、大きな影響を受けたと思っています」

――そこからミュージカルの道に進んだのは?

「大学では英語科に進んだのですが、その時点では通訳や翻訳、特に英語字幕に興味がありました。それが2年生の時、学校の伝統で英語に楽しく触れるという主旨で英語でミュージカル劇をやる機会が有ったんです。そこで総監督の先生に声楽の手ほどきも受け、ミュージカルってこんなに楽しいものなんだと魅了されましたが、ミュージカルだけで食べていくことは私には無理だろうなと思えましたし、英語のお仕事への興味も依然としてありました。

そうして心揺れていた時に、当時出会った方のご縁がいろいろ繋がって、映画演劇文化協会主催の『ミュージカルのど自慢』に参加する機会を頂いたんです。これがミュージカルと関わる最後かもしれないという気持ちで、『ミス・サイゴン』の“命をあげよう”を歌いました。舞台袖で待機していると皆さん、とてもうまくて、賞を取るという気は全くなく、ただただ生演奏で歌わせていただけることが嬉しかったです。今思えば、雑念なく歌えたのが良かったのかもしれません」

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「集まれ!ミュージカルのど自慢」帝国劇場グランドファイナルより

――そこでグランプリを受賞し、事務所の方にスカウトされたのですね。

「大学四年生でしたので、その時スカウトしていただかなければそのまま英語を使うお仕事に進んでいたかもしれません」

――ディズニー・アニメーション映画『モアナと伝説の海』の日本版モアナ役の吹き替えに始まり、大きなチャンスを次々とものにされています。

「あっという間の3年間で、一つ一つ必死にやってきた結果、今に繋がっているという感覚です。モアナ、コンサートやテレビへの出演、エポニーヌと、振り返って初めてことの大きさに気が付くと言いますか…。“初めて”は一度しかないので、それぞれの“初めて”を大切に自分の中にとどめながら、それを糧に成長していきたいです」

――デビューまもなくのTV出演など拝見していて、ぶれることのないのびやかな声が印象的でした。

「実際はめちゃめちゃ緊張しましたし、今も舞台に立つ前は緊張します(笑)。でも人からは緊張していないように見えるらしくて。小さいころからバレエをやっていたので、そういう舞台度胸は身についているのかもしれません。でも舞台の上で声を出したことはなかったので、声を出せるというのは当初、不思議な感覚でしたね。緊張していない、と自分に暗示をかけて舞台に出るようにしています」

お客様の記憶に残る表現が出来るようになれたら

――このお仕事でも英語力が生かせる機会があるといいですね。

「最近改めて勉強し直したいと思っています。英語もバレエも、これまで培ってきたものがいざチャンスが来たときに活かせるよう、準備していきたいです」

――どんな表現者を目指していますか?

「具体的にはあまり決めていませんが、観てくださった方の記憶に残る表現ができるようになりたいです。私にしかできない表現がきっとあると思うので、それを見つけていきたいですし、舞台の上で“演じる”と言うより“生きられる”ように、自分の引き出しをたくさん作って、考えなくてもそこにいられるようにたくさん経験を積んで、舞台だけでなく映像や音楽活動にも挑戦していきたいです」

――書いたり、というのはいかがでしょう?

「やってみたいです。もともと本が好きで、小さいころに家族とお話を作って遊んだりしていたので、歌詞を書いたり翻訳もしてみたいです。いろんな可能性を拡げていきたいですし、常に視野を広くもっていたいです」

 

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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