Musical Theater Japan

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ミュージカルが生まれるまでvol.2『(愛おしき)ボクの時代』オーディション・レポート②

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『(愛おしき)ボクの時代』脚本・演出の西川大貴さん、振付の加賀谷一肇さん 写真提供:シーエイティプロデュース

大劇場公演や海外進出も視野に入れつつ、稽古と公演双方にたっぷりと時間をかけ、丁寧にオリジナル・ミュージカルを創り上げようと発足した『(愛おしき)ボクの時代』プロジェクト。

小規模公演にも関わらず400名以上の応募があり、業界でも注目を集めたオーディション(2次)の模様は先日、レポートした通りですが、翌週にはコールバック(最終オーディション)が開催。その結果、17名のキャストと3名のスウィングが決定(公式HPにて発表)しました。ここでは6月25、26日の二日間にわたり、いくつかの組に分けられて行われたコールバックのうち、あるグループの模様をレポートします! 

恒例のアップ、ジェスチャーゲームには難問登場

200名程度が挑んだ2次オーディションの結果、70名弱に絞り込まれた候補者たち。そのうち20名弱が思い思いにアップする会場には、今にも実際に稽古が始まりそうな“現場”の空気が満ち満ちています。

挨拶に続き、“心のアップとして”前回と同じく数人ずつに分かれ、ジェスチャーゲームがスタート。“製氷機”“イリオモテヤマネコ”はどのチームからもまもなく正答が出ましたが、次は難問。出題担当がのたうち回りながらありとあらゆるジェスチャーを試み、解答者たちの口からも様々な答えが飛び出します。“戦い?”“台風!”…。そんな光景を前に“近い!近いよ!”と激励する本作の演出家・西川大貴さん。

ひととおりジェスチャーが出尽くし、同じ動きが繰り返され始めたところで、ふとあるチームから“蒙古襲来…?”との声が。西川さんの“正解!”の声に、安堵の声とともに座り込む皆さん。十分に頭と体の体操がなされたところで、歌唱審査のスタートです。

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『(愛おしき)ボクの時代』コールバックにて。写真提供:シーエイティプロデュース

今回は(前回と同じ)ポップスの課題曲と、好きなミュージカル・ナンバーを練習してくることになっていましたが、まずはミュージカル・ナンバーの方を歌うことに。誰もが知る大作からブロードウェイで一日しか上演されなかったレアな作品まで、様々なナンバーが歌われましたが、傾向としてはしっとりと入って終盤に盛り上がる曲が多く選ばれています。

中には、歌い終えた何人かに対して、西川さんが様々にリクエストを出すことも。その内容からは、技術的にも表現力の面でも、自分自身や身の回りで完結せず、観客までしっかり届く歌を歌える方を求めているらしいことがうかがえます。リクエストを受けて慎重に歌いなおす人、思い切ってがらりとアプローチを変える方など、リアクションもまたそれぞれ。

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『(愛おしき)ボクの時代』コールバックにて。写真提供:シーエイティプロデュース

続いてはダンス審査。課題曲と振りは前回と同じで、振付担当の加賀谷一肇さんから“今日は前回とはちょっと異なる部分も拝見します”と説明が。“でも(空気に)呑まれないように、忘れてもご自身を出して踊るという部分は同じです”ということで、前回同様、4人一組で踊りを披露。

2次オーディションではその場での振り移しでしたが、十分な練習時間を経た今回は、振りは全員、体に入った状態。同じ動きをするなかで丁寧にこなす人、踊る喜びが全身に漲る人、ごく簡単な動きであるかのようにさりげなく踊る人、 セクシーなニュアンスたっぷりの人…と、さまざまな個性が見て取れます。先ほどの歌唱審査とあわせてかなり個々の持ち味が見えてきたところで、演技審査へ。

役柄ごとの演技審査で見えてくるもの

今回はキャスティングのためのオーディションということで、コールバックでは受験者それぞれに異なる役割が充てられていました。そのため“モノローグを使った審査”“数名でシーンの読み合わせ”“ムーブメント中心の審査”と、審査内容もそれぞれ。“モノローグ”の方々は前回と同じ長台詞を喋り、西川さんはその都度、“毒林檎を持っているおばあちゃん風に”“自分を少年だと思って”等、テーマを投げかけます。受験者はその言葉からイメージを膨らませ、もう一度トライ。

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『(愛おしき)ボクの時代』コールバックにて。写真提供:シーエイティプロデュース

中には最適なキャラクターを見定めるためか、あるいはその人の柔軟性を見るためか、西川さんから“次はこういうふうに”“今度はこんな感じで”と次々にリクエストされる方も。二、三回目までは余裕でバリエーションを見せるもそれ以降は自分の持てるものを総動員し、死力を尽くす姿に、観ているこちらも力が入ります。

読み合わせ審査では、会議と思しきシーンで多くの男性受験者が呼ばれ、部屋の真ん中で車座になると、次々に組み合わせを変えて本読み。時折西川さんから“他人を見下している感じがほしい”“このキャラクターはごまかすことで社会を生き抜いてきた人”等のリクエストがあり、それを踏まえて各自の個性をのせることで、同じ人物がアグレッシブにもシニカルにも膨らんで行きます。組み合わせによっても確実にシーンの空気が変わり、あの組も、この組も面白く聞こえますが、西川さんのイメージにぴったり合ったのは果たして…。

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『(愛おしき)ボクの時代』コールバックにて。写真提供:シーエイティプロデュース

一方フィジカルな表現力が大いに発揮されたのが、ムーブメントを使った審査。審査ではまず、何人かの女性候補たちがペアになり、とあるテーマのもと向かい合い、ゆっくりと鏡のように同調しながら動きます。それぞれ自由に、手足をダイナミックに動かす組もあれば、協調性を意識しながら描写する組もあり、アプローチはそれぞれですが、いずれも確かな身体能力を持っていることがうかがえ、1分にも満たないこのシーンが本番ではどうなるか、仕上がりが俄然、楽しみなものに。

他にもいくつか短いシーン(役柄)の審査が行われましたが、その合間、合間には西川さんから“こういう役はどうですか?”“ダンスは好きですか?”等の問いかけがされることもあり、ちょっとした会話にその方の仕事に対する姿勢が垣間見えます。テクニックや役柄にマッチしているかはもちろん、その人の持つ“素”の部分等も重視されているのかもしれません。(基本的には皆さん自然体でしたが、そんな中でも、その仕事に対する思い入れというものはオーラに滲み出るものだと筆者は感じました)。

一人一人にじっくりと向き合い、丁寧に行われたこの組の審査は、四時間半をかけて終了。この組が最多人数でおそらく最長とは言え、二日間であと四組、この形でオーディションを行う西川さんたちスタッフの体力、集中力に驚きつつ、会場を後にしました。

(取材・文=松島まり乃)

*無断転載を禁じます 

【西川大貴さんコメント】

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『(愛おしき)ボクの時代』コールバックにて。写真提供:シーエイティプロデュース

・今回のオーディションについて

本当に様々なキャリア、キャラクターを持った方が参加してくださったオーディションでとても楽しかったです。

僕も参加者の方も、集中力的にはしんどかったと思いますが(笑)、ただセリフを喋ってもらって終わり、というのではなく少人数で話し合いながら1つのシーンを作ってみる、というようなことも出来ましたし、充実の時間でした。

 

・オーディションを経た今、作品はどんなものに?

脚本は第4稿まで進んでいましたがオーディションを経て色々感じたこともあり、現在第6稿まで来ています。もはや第1稿とは大きく違ったものになっています。

「いまの日本っぽさ」と、「ミュージカルらしさ」が不思議と融合してる。そんな作品になればなと。勿論日本人の言語感覚や身体感覚を大事にしたいと思っていますが、何でもかんでも"日本オリジナルです!"ってする必要は全く無いと思っていて。なのでちゃんとミュージカルらしさのある作品に出来れば、と思っています。

歌もダンスも芝居もしっかりウエイトがある作品になる予定ですし、会話劇のようなセクションもあれば、THEミュージカル!という様なダンスセクションも作っていければと。 

 

・今後オーディションに挑戦したいと思っている方々へのアドバイス

芝居も歌もダンスも、自分はこれを見せたい!こう見せたい!というものをしっかり提示すること、やり切る、ということが大切なのかなと思いました。

あとは用意してきたものと全く違ったアプローチをお願いした時、どれだけ柔軟に振り幅を見せてくれるか。そこを楽しんで、とりあえず失敗しちゃってもいいや!ぐらいの心意気で飛び込んでくれると、こちらも嬉しいしもっと色々な顔を見たいと思うし、ワクワクします。

書類や音源であったり、短いオーディション時間から得られる情報は多くないので、「安全な成功」を見たいわけではなく、そういった振り幅だったり「挑戦した結果の失敗」を見たいな、と僕は思いました。 

【加賀谷一肇さんコメント】

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『(愛おしき)ボクの時代』コールバックにて。写真提供:シーエイティプロデュース

・今回のオーディションについて

三次審査では、登場するキャラクターと擦り合わせるために、こちらでテーマを決め、インプロヴィゼーションをリクエストする内容も新たに追加しましたが、二次審査では短時間の中で移した振り付けを、今回は資料をお渡しして、練習してきて頂く時間を設け、もう一度踊って頂くという形をとらせて頂きました。

そうすることによって、人それぞれに見えてくるものが前回とはまた違い、とても興味深かく感じました。

このオーディションで一番疲れたのは、一人一人穴があくくらいに見つめていた眼です。(笑)

今回出逢った、レベルも高く、本当に素敵な個性を持った方々の顔を、恐らく僕は忘れないです。

ここからどんな御縁があるのかはまだわかりませんが、挑戦して下さったどの方とご一緒することになっても、クリエーションしていくのが今から楽しみで仕方ありません!

熱量と誠実さを持って臨んで頂き、本当にありがとうございました!という気持ちです。

 

・オーディションを経た今、作品はどんなものに?

まだ演出・脚本の大貴君からは、部分的なイメージしか聞いていなくて、具体的な話をしてイメージを広げていくのはこれからの作業になっていくと思いますが、せっかく今回のような企画内容なので、あまり決め過ぎず、大貴君のイメージを形にすることは勿論ですが、演者一人一人とも真摯に接して、持っているものや考えていることなども大切に反映させて行けたらより面白くなるんではないかなと思っています。

皆さん柔軟な方々でしたので、僕も柔軟に即座に対応出来るようにありたいです!

いつも心掛けているのは、一方通行なクリエーターにはならないように。です。

今は作品内容としての構想よりも、皆さんと熱くて楽しいクリエーションのことを考えてしまいます。