Musical Theater Japan

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『リトルプリンス』加藤梨里香インタビュー:“純化する魂”を演じて

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加藤梨里香 神奈川県出身。子役として活躍後、2012年に劇団ハーベストに参加。3000人以上の応募の中からオーディションで牧野つくし役に選ばれ、2016年『花より男子』に主演。その後『ビッグ・フィッシュ』『怪人と探偵』『サンセット大通り』『(愛おしき)ボクの時代』等に出演。『レ・ミゼラブル』(2021年)ではコゼット役を演じた。写真は『リトルプリンス』より。©Marino Matsushima 禁無断転載

砂漠に不時着した飛行士と、小さな惑星から旅してきた“王子”の出会いを描く、サン=テグジュペリの『星の王子さま』。1943年に刊行以来、世界中で愛されてきた本作を音楽座が1993年にミュージカル化した『リトルプリンス』が、東宝の製作で上演されます。

音楽座初演でもタイトルロールを演じた土居裕子さんとのダブルキャストで、今回“王子さま”を演じるのが加藤梨里香さん。『レ・ミゼラブル』のコゼット役が記憶に新しい若手注目株ですが、世代を超えて読み継がれる名作世界にどのように取り組んでいるでしょうか。稽古も佳境の某日、プロフィールのお話も交え、じっくりうかがいました。

余白の部分で“何か”を感じて
いただけたら嬉しいです

 

――加藤さんは音楽座の舞台は御覧になったことはありますか?
「舞台は映像で拝見したことがあるだけなのですが、楽曲は以前から知っていました。
私が習っている歌の先生がかつて音楽座の作品に出演されたことのある方で、練習曲に音楽座の曲が選ばれることが何度かあったんです。『とってもゴースト』の“デザイン”や『21C マドモアゼル・モーツァルト』のナンバーですとか、『リトルプリンス』の“シャイニング・スター”も取り上げられました。まさか後々、舞台で歌うことになるなんて思いもせず、練習していました」

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『リトルプリンス』©Marino Matsushima 禁無断転載

――音楽座のミュージカルについて、どんなイメージがありますか?
「きれいな楽曲が多いですよね。また『マドモアゼル・モーツァルト』に代表されるように、命が巡ってゆく作品というイメージがあります」

――今回は『星の王子さま』をミュージカル化した『リトルプリンス』にご出演ですが、『星の王子さま』といえば多くの方が子供時代に触れたことがあるかと思います。加藤さんはいかがでしょうか?
「私は小さいころ、『葉っぱのフレディ』という舞台に出たのがきっかけで『星の王子さま』を読みました。聖路加病院の日野原重明先生が『葉っぱのフレディ』の企画・原案をされていて、先生の“命の授業”を受けさせていただいた時に、この作品が紹介されたんです。
初めて読んだときにはよくわからないところがあり、難しいなと思ったのですが、年齢が変わるにつれてだんだん感じ方が変わってきました。物語自体は変わらないのに自分が変化していくのがよくわかる作品だな、と思います」

――箱根にある“星の王子さまミュージアム”にも行かれたのですよね。改めて感じたことはありましたか?
「サン=テグジュペリがどう過ごしてきたかをじっくり学べたことで、『星の王子さま』は彼が感じたこと(の投影)であり、彼の人生の中の本なんだなと改めて感じました」

――となると私小説的な部分も大きくなるわけですが、今回の舞台はどの程度の“サン=テグジュペリ度”になりそうでしょうか?
「本読みの後に、演出の小林香さんから、サン=テグジュペリがどう人生を過ごしてきたかというお話があり、皆でそれを共通認識として持って、彼の存在を意識しながら作品を作っているように感じます。例えば、(井上)芳雄さんが演じる飛行士はサン=テグジュペリの分身である、という認識を皆で共有していると思います」

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『リトルプリンス』©Marino Matsushima 禁無断転載

――そんな中で、加藤さん演じる王子さまは、どんな存在ととらえていますか?
「王子も飛行士の分身というか、もともと飛行士が持っていた心の一部なのかな、というふうに思っています。そして彼は飛行士を救うために現れたのかな、とも。
ただ、演じるにあたってはあくまで王子として生きるわけであって、舞台上では、王子が別の星でどうやって過ごしてきたか、彼の人生を一生懸命描いていこうと思っています。分身ということは私自身が理解していればいいことかもしれません。ただ最終的に余白の部分で、王子はもしかして飛行士の分身かな、というふうに感じて下さるお客様がいらっしゃったら嬉しいですね」

――本作には示唆に富むというか、謎めいたキャラクターばかり登場しますね。
「星巡りをしている中で出会う王様や実業屋さんは、人間誰しもが持っているであろう欲望のかけらを大きくした存在なのかなと思っています。そういった人たちと出会う星巡りをすることで、王子はいろんなことを学んでいきます」

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『リトルプリンス』©Marino Matsushima 禁無断転載

――人間世界を知ってゆく旅、なのですね。
「はい」

――例えば、蛇は何の象徴だと思われますか?
「蛇は悟っているというか、地球にあまり期待を持っていない存在なのかなと思います」

――では、花はいかがでしょうか?
「王子にとってかけがえのない、王子の全てなのだろうと感じています。
王子は、花のことを理解するためにいろんな星を巡り、最後に“自分の星に帰らなきゃ”という気持ちになります。花と一緒にいる時には言葉を聞こえたとおりにしか受け取れず、(彼女の真意を)わからなかったけれど、旅でいろいろなことを知り、彼女が自分にとってどれだけ大切な存在だったかを実感するための旅だったのだなと思います」

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『リトルプリンス』©Marino Matsushima 禁無断転載

――キツネというキャラクターも出てきて、彼とのシーンも胸がきゅんとしますね。ごく短い時間ですが、彼と出会い、友情を育み、別れる。人生が凝縮されたようなひとときです。
「そうなんです、曲もとても素敵なんです。王子はキツネに、(友情という)大切なものを教えられます。どれだけキツネと仲を深められるか、残りの稽古の中で頑張っていきたいです」

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『リトルプリンス』©Marino Matsushima 禁無断転載

――歌詞を読んでいくと、その一行一行で、二人が少しずつ距離を縮めている様子がうかがえます。これを実際に肉体で表現すると…。
「短い曲ではありますが、少しずつ少しずつ、友達になっていくことがきっと感じていただけると思います」

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『リトルプリンス』©Marino Matsushima 禁無断転載

――本作の中で加藤さんご自身がお好きなキャラクターは?
「つい王子目線で作品を考えてしまいますが、やっぱり私はキツネさん、大好きですね。最初は初めて出会う相手を警戒しているけれど、でもやっぱり仲良くなりたいという思いがあったり、ちょっと感動屋のところがあって、愛らしいんです」

――土居裕子さんが以前、王子を演じられたバージョンは御覧になりましたか?
「音楽座さんの初演を資料映像で拝見しましたが、本当に王子が乗り移ったかのような、魅力的な王子でした。
王子の曲ってすごく(音程が)高い曲も低い曲もあるんです。それを何の違和感もなく自然に歌いこなされていて、本当に素敵でした」

――では今回、加藤さんの王子はどんな王子になればと思っていらっしゃいますか?
「まっすぐに、自分の中に芽生えた感情や素直な気持ちを大事にしたいです。そして、花への想いを強く持った王子にできたら、と思っています」

――ご自身の中でテーマにされていることはありますか?
「いろんな意味で気をつけているのが“気にしないこと”です。王子は、相手の空気を読んだりすることがあまりないので、そこを今、課題にしています。どれだけ自分の興味にまっすぐにいられるかが大事だな、と」

――冒頭、飛行士にどうしても描いてもらおうと“ヒツジ、ヒツジ”と連呼するところとか?
「はい(笑)」

――そんな王子も、最終的には飛行士の気持ちを慮るようになるのですね。
「はい、飛行士を傷つけないように去っていこうと考えます」

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『リトルプリンス』©Marino Matsushima 禁無断転載

――終盤の蛇のくだりは、比喩的な表現だとお考えでしょうか?
「ミュージアムに行ったときに知ったのですが、サン=テグジュペリの弟さんが亡くなった時、彼は肉体がなくなっても人間の精神は生き続けるというようなことを感じたのだそうです。終盤で描かれているのは、“大事なのは魂”といったことなのかなと思います」

――科学を超越した哲学的なお話の中で、王子はどんどん純化してゆくのですね。
「怖い気持ちもありながら、王子としては花のもとに帰るんだという強い気持ちを持っているし、その後を思って幸せな気持ちも抱いていると思います。この最後のナンバーが“シャイニング・スター”で、どういう表現になるか、ぜひ劇場で見届けていただきたいです」

――『マドモアゼル・モーツァルト』の舞台美術では“円環”モチーフが印象的でしたが、今回はどんなヴィジュアルになるか、ご存じでしょうか?
「丸い形は…今回も舞台上にたくさんあります。音楽座さんの作品は円がポイントになっているものが多いのですね」

――共演の方々の印象もお聞かせ下さい。まず、飛行士役の井上芳雄さんはいかがでしょうか?
「すごく優しい方です。お稽古ではいろいろ仕掛けて下さって、毎回違うことをやってくださいます。悩んでることにもアドバイスして下さって、優しいな、と思いますし、素敵な歌声だな…とお稽古をしながらいつも思っています」

――“花”役の花總まりさんはいかがでしょう?
「王子にとって、花はまさに愛情の対象、とても大切な存在なのですが、花總さんは存在しているだけで華やかで、まさにお花のようです。花役は一見、意地悪に感じられるところもありますが、それも客席から観れば愛すべき強がりに見えるのだろうな、と稽古をしながら感じられる、とても可愛らしいお花です」

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『リトルプリンス』©Marino Matsushima 禁無断転載

――蛇役の大野幸人さんはダンスに定評のある方ですが、今回の蛇も踊られますか?
「蛇の振り付けは大野さんご自身もなさっていて、めちゃめちゃ踊ります!(笑) 先程の稽古で、(ダブルキャストの)土居さんが“思わず見入っちゃう”とおっしゃっていましたが、本当に素敵で、関節どうなっているんだろうと思ってしまいます(笑)」

――今回の『リトルプリンス』がどんな舞台になればと思っていらっしゃいますか?
「御覧になった方が、改めて大切なものを再確認できたり、そばにいる人を大切に思っていただけたら嬉しいです。
あと、この作品は、ご覧いただいた後に空を見上げると、(それまで以上に)星がキラキラ光っているように見える作品だと思います。私自身、お稽古帰りに空を見上げますし、夕焼けに見入ったりもしています。劇場からの帰り道に、ふと空を見上げていただけたら、出演者として嬉しいです」

 

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『リトルプリンス』©Marino Matsushima 禁無断転載

――プロフィールについても少しうかがわせてください。加藤さんはもともと子役出身だとうかがいましたが、どんなきっかけで始めたのですか?
「2歳半くらいの時に、おばあちゃんとひいおばあちゃんが新聞の子役募集の広告を見て応募したそうで、突然“書類が通ったから行ってきなさい”と言われました。
そのまま事務所に入ってタップダンスとヒップホップを始めて、そこで教えていらっしゃる先生の関係で4歳の時、初めてミュージカルに出演しました。その時“わたしこれ大好き”と思い、今までずっと続けています」

――本格的なデビューと呼んでいいのでしょうか、3000人以上の応募の中から選ばれて演じたのが、16年のミュージカル版『花より男子』つくし役。オーディションは熾烈でしたか?
「書類審査、2次審査、最終審査という3段階でしたが、最終審査が予定よりかなり長く、お芝居や歌、ダンスをじっくり観ていただきました」

――終盤に松下優也さん演じる道明寺と向き合い、思いが高まりゆくデュエットは、観ている側もドキドキしました。
「有難うございます。近づきそうでなかなか近づけない感じが曲で素敵に表現されていました」

――初の主演作として、手ごたえはありましたか?
「すごく楽しかったです。稽古期間の一か月は稽古しかしていない、と感じられるくらい濃密なお稽古が出来たので楽しかったですし、鈴木裕美さんの演出には厳しさの中に芯があって、私にとって大きな経験になりました」

――その後、メインのお役での出演が続くかと思いきや、『ビッグ・フィッシュ』等でアンサンブルとして出演されました。
「できることを精一杯やってきました。今、振り返ってアンサンブルが経験できてよかったなと思います。いろいろな人の気持ちを思うきっかけになりましたし、作品の見え方も違ってきました。アンサンブルがしっかりすると作品がより良くなる、と実感できました」

――明治大学では演劇を専攻されたそうですが、どのような内容だったのですか?
「文学部の中の演劇学専攻に在籍しました。西洋ですとギリシャ悲劇から現代演劇まで、日本ですと能狂言から現代までの演劇史や、戯曲の読み方、(表現が)時代によってどう変化していったか、といった座学でした」

――ちなみに卒論は…。
「如月小春さんという劇作家・演出家がどのように演劇活動をされていたか、お子さんもお持ちだった彼女がどう生き抜いたかを卒論にしました。
入学した当初は絶対ミュージカルについての卒論を書こうと思っていたので、この選択は自分でも驚きました。演劇専攻でいろいろ学ぶうち、如月さんの戯曲にご縁があって、書きたいと思うようになったんです。大学に行ったことで、自分の内面にも変化が生まれたと思います」

――ミュージカルが好き、という気持ちに加えて、“演劇人としてどう生きるか”を考えるようになったのでしょうか。
「はい。ミュージカルしか見たことがない自分に納得がいかなくて、いろいろなジャンルに触れました。そのうえで自分が好きなものを改めて考えることができた4年間だったと思います。改めてミュージカルが好きと思えましたし、他のジャンルにも興味が広がりました」

――今、改めてミュージカルの魅力をどうとらえていますか?
「ミュージカルは(一言でいえば)夢の空間ですよね。ちょっと日常とは別の世界に運んでくれたり、つらいことがあっても楽しい気分になれたりという魅力があるなと思います。歌があることで一瞬を3分に拡大したり、1年間を3分で表現出来るというのもミュージカルの魔法だなと感じています」

――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「演劇って(根本的には)全部嘘ではありますが、それを真実として伝えられる表現者となっていきたいと思います。そして、お芝居が始まる前と後で、ちょっとでもお客様の心を動かせる表現者になれたら、と思っています」

(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報『リトルプリンス』2022年1月8~31日=日比谷 シアタークリエ 2月4~6日=日本特殊陶業市民会館ビレッジホール 公式HP

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