オンラインゲームを原案として、2015年にスタートしたミュージカル『刀剣乱舞』。歴史改変をもくろむ敵から歴史を守るため、様々な名刀が“刀剣男士”として集い、闘う歴史ドラマと、オリジナル衣裳を纏った刀剣男子たちによる煌びやかなライブの二部構成からなる舞台です。
日本史の“if”を巧みに用いたテーマと、“和”のテイストを現代的にアレンジしたビジュアル。そして刀剣男士役の俳優たちの魅力がないまぜとなった舞台は、国内のみならず上海やパリなど海外公演も成功。今や“2.5次元ミュージカル”を代表する作品の一つと言われるシリーズの最新作ゲネプロ・レポートをお届けします!
徳川家康の息子たちの葛藤を巡る物語
シリーズ第六弾にあたる今回の物語は、関ケ原の戦いを控えた慶長五年が舞台。徳川家康の一生を六振りの刀剣男士たちが見守ったシリーズ第三作『三百年の子守歌』とリンクする物語で、『三百年~』同様、千子村正(太田基裕さん)は井伊直政、蜻蛉切(spiさん)は本田忠勝として家康に仕えています。
(松平)信康、(結城)秀康、秀忠の三人の息子があった家康ですが、天正七年(1579年)に信康は家康の命で切腹させられており、この時点で後継ぎ候補は二人。井伊直政らは次男の秀康のほうが優秀であると進言しますが、家康は三男の秀忠を後継者に定めます。
長兄の信康を慕っていた秀康は幼くして豊臣秀吉、次いで結城家のもとに養子として差し出され、今また後継から外されたことに傷つきますが、そこに目をつけた歴史修正主義者は秀康に邪心を植え付け…。
歴史が変わってしまうことを防ごうと、物に眠る“想い”を目覚めさせる力を持つ“審神者(さにわ)”の命によって新たな刀剣男士たち―鶴丸国永(岡宮来夢さん)、明石国行(仲田博喜さん)、御手杵(田中涼星さん)、篭手切江(田村升吾さん)-が呼び集められ、慶長五年へと送り込まれる。そこで千子村正、蜻蛉切と合流、六振りとなった刀剣男士たちは歴史を守る戦いへと身を投じますが…。
誰もが知る“史実”に、もしもこんな背景があったとしたら…。一見荒唐無稽に見える物語は、表立っては語られない徳川家に関する“異聞”にインスピレーションを受けたもので、そのベースには作り手たち(脚本・御笠ノ忠次さん、演出・茅野イサムさん)の“平和への思い”が覗きます。
武器である刀剣が主人公であり、もちろん激しい立ち回りシーンも見どころとはいえ、目標地点が“戦い”ではなく、“平和”に置かれていることで、より多くの観客が受け入れやすい内容となっています。
また刀剣男士役を演じる面々も、怪しい色気を放つ千子村正を終始独特の体の角度、動きで魅せる太田基裕さん、
たたずまい・歌声共に安定感溢れる蜻蛉切役のspiさん、
つかみどころのない明石国行をシニカルな笑顔を織り交ぜながら演じる仲田博喜さん、
フレッシュなオーラに白い無垢な衣裳がフィットした岡宮来夢さん、
天下三名槍の一つである御手杵を長身を生かしておおらかに、情味を滲ませながら演じる田中涼星さん、
俊敏な身のこなしと少年の風情で場面の空気を変える田村升吾さん、
…と個性を異にしており、バランスのとれた座組です。
2時間強ノンストップでたっぷりと歴史ロマンに浸った後は、休憩を経て華やかなライブで大盛り上がり。“歴女”ならずとも、またもちろん原案となっているオンラインゲームをやったことのない方でも大いに楽しめる公演です。
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 ミュージカル『刀剣乱舞』 ~葵咲本紀(きしょうほんぎ)~ 8月3~18日=天王洲銀河劇場 以降大阪、兵庫、福岡、東京にて上演 公演HP