Musical Theater Japan

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『聲の形』観劇レポート:もがきながら見出す“人生の可能性”

『聲の形』Photo: Marino Matsushima 禁無断転載

一人の少女が舞台に現れ、胸の内を歌う。分かり合いたい、でもそうなれないことの苦しさ。それが彼女一人ではなく、登場する多くの人々に共通する思いであることを、観客は追々知ることになる…。

 

『聲の形』Photo : Marino Matsushima 禁無断転載

 

物語は5年前へと遡る。退屈な日々を送っていた小学六年生の石田将也は、先天性聴覚障がいを持つ転校生、西宮硝子に興味を持つが、うまくコミュニケーションが取れず、度々嫌がらせをしてしまう。級友たちもその様を笑って見ていたが、担任が将也を咎めると、手のひらを返したように将也をつるし上げる。硝子は転校。将也は孤立し、罪悪感を抱えたまま時が過ぎてゆく。

『聲の形』Photo: Marino Matsushima 禁無断転載

 

高校3年になった将也は、町で偶然硝子を見かけ、謝罪したい一心で追いかける。硝子の妹・結絃(ゆづる)や母に警戒されながらも、これまで覚えた手話で言葉を並べ、“友達になれるか?”と問う将也。二人は少しずつ、互いに心を開いて行くが…。

『聲の形』Photo: Marino Matsushima 禁無断転載

 

第19回手塚治虫文化賞新生賞を受賞し、2016年には劇場アニメ版も公開された大今良時さんの漫画『聲の形』を、ミュージカルカンパニー イッツフォーリーズが舞台化。板垣恭一さんの脚本・演出、桑原まこさんの音楽、山﨑玲奈さん、島太星さんの主演で開幕しました。

『聲の形』Photo: Marino Matsushima 禁無断転載

 

7巻に及ぶ原作を(休憩含め)3時間弱で見せる舞台は、6人編成の演奏がほぼ全編にわたって響く中で、スピーディーに展開。特に、水の流れを思わせる弦楽器の滑らかな音色が、主人公たちの心に寄り添うと同時に、巻き戻すことのできない“時”を痛感させます。

『聲の形』Photo: Marino Matsushima 禁無断転載

 

主軸となる将也の内面の変化が克明に描かれるいっぽうで、物語が進むにつれ見えてくるのが、硝子や周囲の人々がそれぞれに抱える、屈折した思い。衝突の中で傷を深めながらも“どう生きるべきか”もがく彼らの姿は、台詞や歌、身体表現、時には手話を用いて表現されます。

『聲の形』Photo: Marino Matsushima 禁無断転載

 

自分という存在が周囲の迷惑になっていると思い、心を閉ざしてきた硝子を演じるのは、山﨑玲奈さん。(今夏演じた『ピーターパン』でも終盤に一瞬見せた)寂しげな表情にニュアンスがあり、冒頭以降も時折差し挟まれる歌唱でしっかりと彼女の本音を聞かせつつ、何も表に出さない間にも心に降り積もる思いがあることを感じさせます。実年齢(16歳)よりも上の設定となる後半も全く違和感がありません。

『聲の形』Photo: Marino Matsushima 禁無断転載

 

膨大な台詞と歌(と手話)で物語を牽引する将也役は、明瞭な歌声がミュージカルによく合う島太星さん。エネルギッシュなガキ大将気質の少年が一瞬にして孤立し、人間不信に陥るが数年後、硝子に再会して希望を見出す、ところが再び過去の行いを指摘され…というアップダウンの激しい役どころを、驚異的なスタミナと誠実さをもって、生き生きと演じています。

『聲の形』Photo: Marino Matsushima 禁無断転載

 

将也の高校での初めての友人となる永束を飄々と演じ、登場の度に重い空気を和らげる宮下雄也さん、ストレートすぎる物言いが災いして人間関係がうまくゆかない直花を容赦なく、ちらりと乙女心も覗かせながら演じる大西桃香さん、全力で姉を守ろうとする妹・結絃を溌剌と、確かな歌唱を交えて演じる大川永さん(德岡明さんとのダブルキャスト)、短い出番ながら硝子と結絃が受け継いだ“芯の強さ”“優しさ”を体現する祖母・いと役の入絵加奈子さんら、主人公を巡る人々役もそれぞれに好演です。

『聲の形』Photo: Marino Matsushima 禁無断転載

物語後半で強い印象を残すのが、佐原(杉尾優香さんが切々と歌唱)が起点となって皆が歌うフレーズ“どうすれば自分が昔より 成長したことを証明できるんだろう”。10代の彼らの真摯で切実な叫びに対して、同年代として深く共感する人もいれば、彼らより長く生きてきた経験をふまえ、何か言葉をかけてあげたい気持ちに駆られる方もいらっしゃるかもしれません。“葛藤のその先”にあるものを考えさせるフレーズとして、多くの人の耳に残る一節でしょう。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 ミュージカル『聲の形』10月4~8日=サンシャイン劇場 公式HP 
アーカイブ配信 10月31日23:59まで。(チケット販売21:00まで)

*公演プログラムをプレゼント致します。詳しくはこちらへ。(締切 10/31)

『聲の形』取材会にて、左から脚本・演出の板垣恭一さん、大西桃香さん、宮下雄也さん、山﨑玲奈さん、島太星さん、大川永さん、德岡明さん、河内美里さん。役作りについて、山﨑さんは“家で耳栓をして、口元を見るだけで家族が喋っていることを理解できるか試しましたが難しく、そのストレスを体感しました”、島さんは“普段ダンスをしていますが手話には似た部分が無く、(形に)ヒントも見つからず、一つ一つ覚えるのが大変でした。聴覚障がいの方が御覧になっても伝わるように演じたいです”とコメント。Photo: Marino Matsushima 禁無断転載