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音楽劇『刻』観劇レポート:緊迫のドラマ、画期的な“変動価格制”を導入して上演

 

音楽劇『刻』🄫Marino Matsushima 禁無断転載

行方不明になった娘を探す、高峰夫妻。
娘は誘拐されたと考え、過去に猟奇殺人を犯した山本のもとを訪ねた二人は、犯人の行動を推測するよう頼みこむが、山本の態度はつれない。
そこに殺気立った男、北野が乱入してくる。
彼はかつて山本に娘を殺されたと言い、復讐を果たそうとする。
少しでも娘の手がかりが欲しい夫妻は北野を押しとどめ、山本の言葉を待つが…。

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2015年に劇団Innocent Sphereがストレート・プレイとして上演した戯曲を、作・演出の西森英行さんが音楽劇化。『SMOKE』『BLUE RAIN』等で知られるHUH, SOOHYUN(ホ・スヒョン)さんのエモーショナルな楽曲に彩られ、椅子とテーブルが置かれただけのシンプルな空間で、緊迫のドラマが展開します。

音楽劇『刻』🄫Marino Matsushima 禁無断転載

娘が囚われているならば、一刻も早く救い出したい。高峰夫妻の必死さに、突然押しかけられた山本も“復讐”だけが生きがいの北野も、半ば気圧されるような形で会話は進んで行きますが、やがて驚愕の真実が明らかに。濃密なワン・シチュエーション・ドラマはサスペンスの枠を抜け出し、“究極の愛とは何か”を問いかけます。

音楽劇『刻』🄫Marino Matsushima 禁無断転載

この日のキャストは高峰夫妻が東山光明さんと橘未佐子さん、山本(横山)が大山真志さん、北野が伊藤裕一さん。東山さんはゲネプロ後の挨拶で“熱演しています”と自認されていた通り、“父の愛”を体当たりで演じ、橘さんは娘の身に何が起きているか分からない状況下の母親のいたたまれなさを表現。

音楽劇『刻』🄫Marino Matsushima 禁無断転載

山本(横山)役の大山さんは中盤まで“何を考えているか分からない”風情で不気味さを醸し出し、クライマックスでの爆発とのコントラストを際立たせ、北野役の伊藤さんは一つの思いにとりつかれた男を切れ味鋭く体現。また頭上の演奏スペースからは、鈴木和生さん(斎藤章一さんと日替わり出演)のチェロの音色が、キャラクターたちの内面を抉るように響きます。
なお、橘さん以外のキャストは日替わり。この日は出演していませんが、大沢健さんもキャストに名を連ねています。組み合わせによってかなり異なる印象の人間模様が浮かび上がることでしょう。

音楽劇『刻』🄫Marino Matsushima 禁無断転載

また、今回のチケットには「価格変動制(ダイナミックプライシング)」という、画期的なシステムが採用されています。これまで小劇場でのセミロングラン公演の難しさを痛感してきたという主催者が、今回は実験的な内容で上演時間も短いこともあり、ふらっと劇場に足を運んだり、口コミをされる方が増えればという意図で導入したものだそう。価格は需要と供給を自動的に分析し、一日一回変更。執筆時点(8月5日)では3800円~9300円と、幅広い価格帯で販売されています。(価格帯は変更の可能性有)。都合さえつけば一回分の予算で二回観劇といったことも可能となり、シアターゴーアーにとっても初心者にとっても嬉しい取り組みと言えましょう。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 音楽劇『刻』8月4日~9月11日=浅草九劇 公式HP