Musical Theater Japan

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『四月は君の噓』観劇レポート:日米のコラボで描く、眩くも儚い青春

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

広い舞台空間の中央に浮かび上がる、一台のグランド・ピアノ。
いたいけな少年がベートーベンの「月光」第三楽章を弾く様を、高校生になった彼…有馬公生が見つめます。
華麗に指を滑らせていた少年は、ある箇所でミス・タッチを繰り返し、先に進めなくなってしまう。記憶の中の母との会話を差し挟みながら、公生は自身のトラウマ…母の死をきっかけに、ピアノを弾くとその音が聴こえなくなってしまったこと…を吐露します。この絶望、この孤独はいつまで続くのか。「月光」のモチーフを織り込んだ激しいサウンドに乗せ、一人叫ぶ公生…。

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

チャイムが鳴り響き、場面は放課後の音楽室へ。
公生が譜面起こしのアルバイトをしていると、窓ガラスを割って飛び込んできたソフトボールが彼を直撃、幼馴染の椿がボールを探しにやって来ます。二人でガラスの破片を片付けていると、サッカー部のスターである友人の渡(わたり)も登場。女子たちに大もての彼は屈託なく、異性との交際を勧めますが、公生は“僕には無理”とうつむきます。

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

翌日、椿に言われてしぶしぶ公園にやってきた彼は、ピアニカを演奏しながら一人涙する女子…かをりに遭遇。そしてヴァイオリニストの彼女が音楽コンクールで自由な演奏を楽しむ姿に衝撃を受け、モノクロームだった公生の世界はカラフルに色づき始めます。かをりは渡に好意を抱いているらしく、“友人A”でしかない公生はぞんざいに扱われますが、彼女からコンクールでの伴奏を命じられ、再び音楽と向き合うことに…。

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

2011~15年に連載後アニメ化、また実写映画化された新川直司さんの同名漫画を、坂口理子さん(『メアリと魔女の花』共同脚本)の脚本、フランク・ワイルドホーンさんの作詞・作曲、上田一豪さんの訳詞・演出でミュージカル化。2020年7月に開幕目前で中止となった公演が、メインキャスト6名全員が再結集するかたちで遂に実現しました。

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

ワイルドホーンさんと言えば出世作の『ジキル&ハイド』に始まり『モンテ・クリスト伯』『デスノート』『フィスト・オブ・ノーススター』等、肉厚でエネルギッシュな音作りに定評のある作曲家ですが、今回は繊細な青春群像劇に対して、柔らかな旋律でアプローチ。いっぽうで激情やエネルギーの迸る場面では従来の持ち味を活かし、スケール感のある音楽世界を創り上げています。

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

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上田さんの演出は公生を主軸としつつ、かをりや椿たちの心情も浮き彫りとなるよう丁寧に、たっぷりと各場を描写。一方で学生生活を謳歌する高校生や、一度きりの演奏に懸けるコンクール出場者役の俳優たちからとびきりのエネルギーを引き出し、メリハリある舞台にまとめあげています。流麗な桜モチーフをあしらった額縁や可動式のブリッジも、作品世界に優しい表情をプラス(美術・伊藤雅子さん)。

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

公生役の二人はどちらもこの役の心の痛みをしっかりとベースに持ちつつ、小関裕太さんは桜の花びらが似合うほわりとしたオーラで恋愛下手の男子を体現し、木村達成さんは特にかをりの秘密を知って以降の感受性の豊かさがドラマに陰影を与えています。

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

生田絵梨花さんが演じるかをりは、ある秘密を抱えながらも自由奔放な魅力を放ち、公生に新たな人生の扉を開かせる人物。ともすれば非現実的に映り得るキャラクターですが、生田さんは驚異的なナチュラル感をもって演じ、この存在に確かな“生”を与えています。公生を手招きするくだりなど、ちょっとした仕草の愛らしさも見逃せません。

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

公生の幼馴染・椿役の唯月ふうかさんは、快活な体育会系のオーラを漂わせつつ、公生の変化にともなって自身にも芽生えた複雑な感情をソロ・ナンバーで描き出し、水田航生さんは柔和でスマート、寺西拓人さんはキャプテンらしい牽引力と軽快さをもって渡を演じています。

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

また、かをりの両親役の原慎一郎さん、未来優希さんは娘に対する愛に溢れ、幼い頃に公生のライバルだった武士役のユーリック武蔵さん、絵見役の元榮菜摘さんは、ピアニストとしてのプライドとライバル同士の不思議な連帯感を漲らせています。

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

本作のナンバーの歌詞には“掴みとれ 今この瞬間”等、随所に“カーぺ・ディエム(今を生きる)”的メッセージが現れますが、これは演出の上田一豪さんが『Play A Life』等、自身の作品で大切にしてきたテーマでもあり、上田さんとしてはまさに“腕が鳴る”作品ではないでしょうか。またとない適任の演出家を得たことで、ミュージカル版『四月は君の嘘』は眩くも儚い、かけがえのない時間に浸れる舞台となっています。

『四月は君の嘘』©Marino Matsushima 禁無断転載

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『四月は君の噓』5月7~29日=日生劇場、以降群馬、愛知、兵庫、富山、福岡で上演 公式HP

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