大正時代の日本。
家族を鬼に殺された炭売りの少年・炭治郎は、鬼にされた妹・禰󠄀豆子を人間に戻すため、鬼殺隊に加わる。
修行を重ねた彼は仲間の善逸や伊之助とともに、乗客が次々行方不明になってゆく“無限列車”に乗り込み、鬼殺隊最強の剣士である“柱”の一人、煉󠄁獄杏寿郎と合流。
待ち受けていた下弦の壱・魘夢によって夢の中に閉じ込められた炭治郎たちは、覚醒して魘夢を倒そうとするが…。
2016~20年に連載されて大ヒットした吾峠呼世晴さんの漫画『鬼滅の刃』が、20年、21年に続いて舞台化。第三弾の今回は“無限列車編”を通して、人間と鬼たちの壮絶な戦いと炭治郎少年の成長を描きます(脚本・演出=末満健一さん)。
大きな話題を呼んだアニメ映画版は、アクション・シーンにおける迫力の映像美で観客の目を奪いましたが、本作では身体表現と映像を掛け合わせることで、舞台ならではの臨場感を創出。例えば伊之助が鬼たちと闘う際、(ワイヤーではなく)黒子にリフトされながら目まぐるしく技を繰り出し、背後の横断幕にカラフルな閃光が走るといった具合です。
また、本作は“ミュージカル”と銘打たれてはいないものの、全員が登場するオープニング以降、登場人物たちが要所要所で歌唱(音楽=和田俊輔さん)。場の空気を変える、キャラクターの造型や心情をより鮮明に印象付ける等、様々な効果をあげています。
特に炭治郎たちが無限列車内で出会う鬼・魘夢に関しては、声優・平川大輔さんがアニメ版で作り上げたインパクト大の口跡に対して、今回の舞台版では多くの場面で同役の内藤大希さんがアンニュイかつ骨太の歌声を披露。終盤の長台詞を自然に歌へと膨らませ、染み入るような魂のメッセージを炭治郎のみならず観客の心に遺す煉󠄁獄杏寿郎役・矢崎広さんとともに、舞台版ならではの魅力を放っています。
主人公の炭治郎を生き生きと、ひたむきに演じる小林亮太さん、キレのある動きで禰󠄀豆子の秘めた力を感じさせる髙橋かれんさん、“禰󠄀豆子ちゃん命”のコミカルさと戦いにおける真剣さがコントラストをなす善逸役・植田圭輔さん、顔が見えない分も溌剌たるアクションで存在感を放つ伊之助役の佐藤祐吾さん、鋭い身のこなしで猗窩座の底知れぬ強さを体現する蒼木陣さんら、それぞれに豊かな表情と熱量で物語世界を生きるキャストも印象的。
第三弾とは言っても、冒頭には炭治郎がこれまでの経緯を振り返るナレーションがあり、これまで本作に触れたことがない方であっても、あらましは呑み込みやすいことでしょう。10月23日の公演については、配信やライブ・ビューイングも予定されています。
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 舞台『鬼滅の刃』其ノ参 無限夢列車 9月10~11日=TOKYO DOME CITY HALL、9月16~25日=京都劇場、10月15~23日=TOKYO DOME CITY HALL (23日公演は配信/ライブ・ビューイングを予定) 公式HP 🄫吾峠呼世晴/集英社 🄫舞台「鬼滅の刃」製作委員会