Musical Theater Japan

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『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』観劇レポート:“不思議な植物”を巡る、破天荒なホラー・コメディ

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『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』©Marino Matsushima 禁無断転載

紗幕の向こうにうっすらと浮かび上がる、都会の裏通り。遠いパトカーのサイレンや犬の鳴き声が生活感を醸し出す中、「このお芝居で唯一まともな人」シーモアによる注意事項アナウンスに続いて、大仰なナレーションが流れます。

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『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』©Marino Matsushima 禁無断転載

「今からそう遠くない遠い昔の話…
人類は突然、存続を脅かす存在に遭遇した…」
何やら不穏な言葉に続き、
「身を守るために、サングラスを肌身離さず持つのだ。必ず必要になる!」
と放たれる警告。

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『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』©Marino Matsushima 禁無断転載

入場時に配布されたサングラスが、いったいどう身を守ってくれるのか?
…と考える間もなく賑やかな演奏が始まり、場内は女性シンガー3人組のパワフルな歌声に包まれます。
♪Little shop, little shoppa horrors...♪

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『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』©Marino Matsushima 禁無断転載

浮き浮きとした曲調とはうらはらに、舞台上では売れない花屋で店員のシーモアが植木鉢を落とし、もう一人のスタッフ、オードリーは目の周りに(彼氏からのDVによると思われる)痣をつけて大遅刻。そして客は今日もゼロ…。

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『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』©Marino Matsushima 禁無断転載

うんざり顔の店主ムシュニクは店をたたもうとしますが、慌てたシーモアが先日買った不思議な植物を店頭に置いてみたところ、忽ち通りがかりの紳士が来店。100ドル分の薔薇を購入していきます。大喜びのムシュニクはシーモアにこの植物を常に店頭に置き、大切に育てるよう命じますが、シーモアが“オードリーⅡ”と名付けたこの植物には、すぐに弱ってしまうという欠点がありました。なぜなら、それが求めていたのは水や陽光ではなく…。

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『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』©Marino Matsushima 禁無断転載

1960年のホラー・コメディ映画を若き日のハワード・アッシュマン&アラン・メンケンが舞台化し、1982年にオフ・ブロードウェイで開幕。86年には映画化もされ、日本でも度々上演されてきた人気ミュージカルが、昨年のコロナ禍による一部公演中止を乗り越え、シアタークリエで上演中です。

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『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』©Marino Matsushima 禁無断転載

都会の片隅でくすぶっていた小市民が、ほんの小さな“欲”を抱いたばかりに破滅に向かってゆく姿を、演出の上田一豪さんは徐々に毒気を増しつつ、躍動感をもって活写。内容的にもサングラスを使った演出をとっても、彼が一昨年に手掛けた『リーファー・マッドネス』との相似性が感じられる方も多いかもしれません。

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『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』©Marino Matsushima 禁無断転載

多くが昨年からの続投となったキャストも作品の世界観を存分に体現し、シーモア役の鈴木拡樹さんはコメディの間合いをよく心得た芝居で物語をリード。いっぽう三浦宏規さんは冴えないが誠実な青年をリアルに表現。前半のアプローチは異なる二人ですが、どちらも狂気に駆られてゆく後半とのコントラストが鮮やかです。

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『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』写真提供:東宝演劇部

オードリー役の妃海 風さんは(DV被害者という)気の毒なヒロインにふんわりと軽やかさを纏わせ、井上小百合さんは逆境にあってもうっすらとした希望が仄見えるヒロイン像が可憐。そのオードリーの彼氏で歯科医のオリン役・石井一孝さんは、善良で気弱なシーモアをして大きな決断をさせるほどの“酷い男”でありつつ、どこか憎めない…という難役を、余裕たっぷりに演じています。彼が登場するなり名刺代わりに歌う“Dentist!”は、観客参加型の楽しさ満載のナンバー。

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『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』写真提供:東宝演劇部

阿部裕さん演じる、商魂ゆえに身を亡ぼす店主像には人間味があり、“三歩進んで一歩下がる”的な“ムシュニク・ステップ”もお茶目(振付・藤林美沙さん)。そして初登場時は可愛い鉢植えだったのが次第に巨大化し、本性をあらわしてゆくオードリーⅡの声を演じるのは、デーモン閣下。芝居っけたっぷりの台詞とソウルフルな歌声で、強烈な存在感を示します。オードリーⅡが喋りだすくだりでクレイジーな動きを見せる“中の人”も好演。なお、公演序盤は女性シンガー役の一人、清水彩花さんが休演となりましたが、急遽入ったラリソン彩華さんのエネルギッシュな代役ぶりも記憶にとどめたいところです。

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『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』©Marino Matsushima 禁無断転載

コロナ禍という“人類の敵”との闘いが続く中で、本作の設定にはどこか一笑に付しがたい空恐ろしさもありますが、今はあまり深く考えず、無邪気に向き合うのが上策かもしれません。メンケンによる、とびきりご機嫌なモータウン調サウンドに身を委ね、例のサングラスで身を守りつつ(?)、破天荒な展開を大いに楽しみたい舞台です。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』8月26日~9月11日=シアタークリエ 公式HP