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『Glory Days』矢田悠祐・日野真一郎インタビュー:ヴィヴィッドに、繊細に描く青春群像

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(左寄り)日野真一郎さん、矢田悠祐さん。©Marino Matsushima 禁無断転載

高校時代に親友だった若者たちの再会と友情を描く『Glory Days』。20代のクリエイター(作詞・作曲=ニック・ブレマイア、台本=ジェイムズ・ガーディナー)による瑞々しい作風が2008年の初演で評価され、日本にも翌年上陸したミュージカルが、12年ぶりに上演されます。

元吉庸泰さんの演出のもと、2021年版の『Glory Days』で主人公ウィルをダブルキャストで演じるのが、矢田悠祐さんと日野真一郎さん。若者たちの揺れる心情を時に荒々しく、時に繊細な音楽で綴る本作をどのようにとらえ、取り組んでいるでしょうか。ご自身の“懐かしさをかきたてるもの”にも言及しつつ、語っていただきました。

【あらすじ】
5月のある夜。ウィルは高校時代の親友スキップ、アンディ、ジャックを5年ぶりに母校のフットボールフィールドに呼び出し、4人は久々の再会を喜ぶ。当初、彼らはウィルの発案でとある悪戯に熱中するが、ふとジャックが始めた告白によって絆にひびが入ってゆく…。

“人生で誰もが
経験するであろう瞬間”に
共感していただけたら

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『Glory Days』

 

――本作には学生時代に対する“懐かしい”という言葉が何度か登場しますが、お二人は高校時代のどんなものに懐かしさを感じますか?

矢田悠祐(以下・矢田)「場所であれば、高校時代にバイトをしていた原宿です。今も髪を切りに行ったりしていて、街は様変わりしているけれど、当時はほぼ毎日通っていたので、懐かしいなと感じますね。あとは修学旅行かな。僕はファッション業界に行きたくて、高校は途中で一度やめているのですが、修学旅行だけは行っておこうと思って行きました」

日野真一郎(以下・日野)「僕は母校のグラウンドですね。卒業後もみんなで集まってバスケしたり、本当はダメなんだけど夜に行ってみたことも(笑)。運動会や学祭も懐かしいです。今回、この役が決まって卒業した大学に行ってみたら、校舎は変わっても昔、通った喫茶店がまだそこにあって、当時の気持ちを思い出しました。そういう体験も今回の芝居にリンクできたらと思います」

――本作については、どんな第一印象を持たれましたか?

日野「ミュージカルって、非現実的なテーマを扱うことが多いけれど、この作品はすごくリアルで、人生で初めて経験する挫折という、誰にも共通するテーマを題材にしています。4人のドラマが唐突に終わる内容にびっくりしましたが、無理くりにハッピーエンドにしていない、だからこそリアルなんだな、と感じました」

――ウィルはこの日、仲間たちを集めてある悪戯を提案しますが、彼がこの再会で本当にしたかったのは何だったのでしょうか?

矢田「高校卒業から4年が過ぎて、それぞれ別の道を行った僕らの選択がどうだったのか、確かめてみたかったのかなと思います。でも若い彼らなので、単純に、昔の友達と再会して楽しみたかったというのもあるのかな。僕自身、20歳の頃はそれほど深く考えないで友達と会っていたような気がします」

日野「僕もそう思います。僕自身、友達に声をかける時は昔を思い出したいからというより、時間が空いたからちょっと会おうぜ、という感じで会っていました」

――こうして再会した4人ですが、そのうちジャックが、なりゆきであることを告白します。このジャックの秘密を、4人はもともと、薄々知っていたようですね。

矢田「…と思います。でもこの作品が書かれたのは10数年前で、当時はまだそのことについていろんなとらえ方をする人がいたのかもしれません。だから彼らは高校時代にそのことを敢えて話題にはしなかったのだと思います」

日野「けれど今回、ジャックの告白を聞いて、アンディだけが強く反応してしまう。おそらく彼の性格的なものによるのだと思いますが…」

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矢田悠祐 大阪府出身。2012年に俳優デビューし、同年ミュージカル『テニスの王子様』(7代目青学)で人気を博す。主なミュージカル出演作に『バーナム』『王家の紋章』『アルジャーノンに花束を』『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳~』など多数。©Marino Matsushima 禁無断転載

――それが発端で皆も感情をぶつけ合うようになっていきますね。

矢田「ウィルとしてはすぐには状況が呑み込めなくて。皆を傷つけまいとするのですが…」

日野「結果的に、ウィルは傷つく。大きな挫折だと思いますが、それは同時に新たに生まれ変わるということでもあって、ウィルは最後に、4人で新たに歩みだそうという思いが芽生えるナンバーを歌います。かつて挫折を経験したことのある方なら、きっと共感していただけると思うし、今、挫折している方が御覧になっていたら、少しでも勇気づけられたらと思います。そう思うと今回、とても素敵な役を演じさせてもらっているなと感じます」

――音楽的には、本作はいかがですか?

矢田「実はこの作品についての僕の第一印象が、楽曲についてでした。“難しくないか?これ…”と思ったのですが、実際歌稽古で歌ってみると…やっぱり難しかったです(笑)」

日野「不思議なことに、聴く分には難しく聴こえないんですよね」

矢田「なのに歌うとなると難しい。この難しさを分かってほしいです(笑)」

――ポップスの楽曲のようなわかりやすい構成ではなく、メロディがどんどん変わってゆくような音楽ですね。

矢田「そうなんです。Aメロ~Bメロ~サビ…といった構成ではなくて、あまり規則性がないんですね。おそらく、芝居にはまるように書いた結果そうなっていると思うので、お客様が(作品の中で)聴くと、すごく伝わる音楽なのではないかと思います」

――アンディとウィルが言い争うところなどで、その日たまたまだったのか、二人の音がハモらず、ぶつかっているように聴こえた記憶があります。実際はどう書かれているのでしょうか。

日野「これはですね、ぶつかっています。僕が感じているのが正解かどうかはわかりませんが、みんなの気持ちが一致して“こうしよう”となっている時はきれいなハーモニーになるけれど、気持ちがぶつかっているときは音もぶつかるように書かれているのかなと感じています」

矢田「不協和音ですよね。計算されているんだなぁと思います」

――人間の生理的にはハモりたくなるように思いますが、それに敢えて逆らって歌うというのは大変ではないでしょうか。

矢田「大変ですね(笑)。そんなところに行くんですかという音もいっぱい出てきます」

日野「稽古の初期段階で歌稽古を役ごとに行っていたのは、そういう理由もあったと思います。複雑すぎて、最初から全員で集まってしまうと大変なことになる、ということだったのではないかな」

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日野真一郎 福岡県出身。武蔵野音楽大学声楽科同大学院修士課程修了。主なミュージカル出演作に『ファントム』『SMOKE』がある。クラシックを中心とした男性ボーカルグループLE VELVETSのテノール担当としても活躍している。©Marino Matsushima 禁無断転載

――ご自身の中で今回、テーマにしたいと思っていることはありますか?

日野「(おそらく実際に)起こった事が題材になっていると思うので、リアルに役を作りたいと思っています。先程お話したように、音楽も4人が気持ちを沿わせている時にはハモり、心がぶつかっている時には音もぶつかるように書かれているので、自分がリアルに歌えば音楽も助けてくれると思います。あとは、10数年前の出来事を描いているので、“2021年”にどう寄せるのか、もテーマにしています」

矢田「どの作品であっても、僕は観た方に希望を持って欲しいと思っています。もしかしたらこの舞台を観て明日も生きようと思ってくれる人もいるかもしれない。そんなことを考えながらいつも舞台に上がっています。暑苦しい青春のドラマも、舞台上でちゃんとウィル役でいられれば演じられるんじゃないかなと思っています」

――どんな舞台になればいいなと思っていますか?

日野「オリンピックの報道を観ていると、メダリストたちは皆、誰かの存在があってこそ頑張れたとか、大きな挫折を乗り超えたからこそ今の自分がある、ということを語っていて、ウィルの物語が重なります。

今の世の中は、アップ&ダウンで言えばダウンのイメージかと思いますが、苦しいことが起こった後には絶対喜びが来ると思うので、新たな自分に生まれ変わろうとするウィルのナンバーを聴いて、そう感じていただけたら嬉しいです」

矢田「この物語でウィルは初めて壁にぶちあたりますが、そのあとどうなるかも考えて役を作りたいと思っています。コロナ禍で鬱屈した気持ちの人もたくさんいらっしゃると思うので、今はそういう状況だとしても、希望はあると感じていただきたいです。

それと、この話はまだまだ青臭い若者の物語で、傍からみれば“そんなことで(ぶつかるのか)?”とも思ってしまうけれど(笑)、若い時はエネルギーのぶつかりあいなんですよね。4人のエネルギーがぶつかりあうさまを観て、刺激を受けていただければとも思っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 BROADWAY MUSICAL『Glory Days』9月17日~10月3日=銀座 博品館劇場 公式HP
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