Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

『アニー』観劇レポート:特別バージョンで描く“明日を信じる物語”

f:id:MTJapan:20210428120346j:plain

『アニー』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

1933年、世界恐慌直後のNY。11歳の孤児アニーは、まだ見ぬ両親がいつか迎えに来てくれると信じ、やはり身寄りのない女の子たちと孤児院で暮らしています。

そんな折、大富豪ウォーバックスの秘書グレースが孤児院を訪問。居合わせたアニーは彼女に気に入られ、ウォーバックスと休暇を過ごすことになります。ポジティブ・シンキングのアニーに魅了されたウォーバックスは彼女を養子にと考えますが、アニーが願うのは実の両親との再会。ならば、と政府にFBI捜査官の派遣を要請、高額の懸賞金も掲げてアニーの両親探しを始めます。

この話を孤児院の院長ハニガンから聞きつけたのが、彼女の弟で小悪党のルースター。彼は懸賞金欲しさにハニガンを巻き込み、一計を案じます。アニーの両親は見つかるのでしょうか。そしてルースターたちの計画とは…?

f:id:MTJapan:20210428143335j:plain

『アニー』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

1920年代に始まった新聞漫画『Little Orphan Annie』を舞台化し、77年にブロードウェイで開幕。以来世界各地で愛されているミュージカル『アニー』は、日本でも78年に東宝が初演、86年からは日本テレビの主催で毎年上演されてきました。

昨年はコロナ禍の影響で全公演中止を余儀なくされましたが、今年はその際に涙をのんだ子役キャストがそのまま出演し、本来は休憩含め上演時間2時間半あまりのところ、“休憩なし90分”の特別バージョンで上演されることに。

しかし開幕の前日に再び緊急事態宣言が発出され、21年東京公演は初日である24日の昼夜のみ上演。ダブルキャストである子供たちはそれぞれ1回きりの出演となりましたが、21年の“特別な『アニー』”は確かに誕生、観る者の記憶に深く刻まれました。

f:id:MTJapan:20210428143856j:plain

『アニー』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

軽やかな序曲(今年から音楽監督は小澤時史さんが担当)に始まって、舞台はアニー自身の身に起きる出来事に焦点を絞り、スピーディーかつ滑らかに展開。

f:id:MTJapan:20210428143732j:plain

『アニー』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

フル・バージョンを見慣れた身としては、アニーの悪戯心と機転がうかがえる電話中のウォーバックスへのちょっかい、満たされない私生活を送るハニガンがラジオドラマにかじりつく姿、大統領たちがアニーの前向きな発想に影響を受けるシーン、グレースの仄かな恋心等、今回割愛された要素も懐かしく思い出されるものの、それらを削いだことで、“明日を信じる主人公が幸せに辿り着く”という物語の骨格がより太くなった印象です。

何より、小さな子供たちにとっては90分間という、アニメ映画などで見慣れた尺で展開する舞台とあって、どのお子さんも気を散らす間もなく、引き込まれたことでしょう。必要に迫られて生まれたとは言え、新たな価値も認められる新版です。

f:id:MTJapan:20210428145220j:plain

『アニー』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

2チーム(ダブルキャスト)のうち筆者が観たのは“チーム・バケツ”で、アニー役は荒井美虹さん。アニーというと元気いっぱいのイメージが先行しがちですが、荒井アニーは11歳の少女なりの落ち着きや繊細さも湛えた上での“前向きな女の子”像が自然で、ウォーバックスに古びたロケットへの思いを訴える姿や、パーティーに誰を招きたいと問われてお屋敷の使用人一人一人の名前を挙げるくだりにほろりとさせられます。孤児役、ダンスキッズの子供たちも一つ一つの動き、台詞が完全に腑に落ちている様子で、それぞれに好演。

f:id:MTJapan:20210428123733j:plain

『アニー』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

大人キャストではウォーバックス役の藤本隆宏さんが、やや居丈高な実業家が徐々に優しさを帯び、アニーとの出会いを通して人生の意味を知る過程を体現。ハニガン役のマルシアさんは女性としての哀愁表現箇所が減った分、ヴィランとしての滑稽味を強調、豊かな表情とテンションの高さで登場シーンを盛り上げます。

秘書グレース役の笠松はるさんは凛として堂々たるたたずまいが“キャリアウーマンの先駆け”的存在に相応しく、ルースター役の栗山航さんと恋人リリー役の河西智美さんには悪党の色気が。

f:id:MTJapan:20210428143508j:plain

『アニー』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

アンサンブルの皆さんもNYの街行く人々やお屋敷の使用人役で各場の空気を瞬時に醸成していますが、中でもアニーが本意とは裏腹にお屋敷を去ることになった直後、暗転までのほんの数秒間(?)で執事(鹿志村篤臣さん)が見せる芝居に深い味わいが。彼がもう一人の使用人を慰める姿を通して、アニーと彼ら使用人たちとの間にも生まれていたのだろう心の絆がうかがえ、物語に奥行きが加わっています。フル・バージョンからこの描写を割愛しなかった演出(山田和也さん)も心憎いばかり。

f:id:MTJapan:20210428142415j:plain

『アニー』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

例年、夏休みには大阪などでツアーが行われる『アニー』。今夏の上演情報はまだ発表されていませんが、今度こそ一回でも多く、キャスト、とりわけ子供の出演者たちが存分に作品世界で輝けるよう、祈らずにはいられません。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報:丸美屋食品ミュージカル『アニー』4月24日~5月10日=新国立劇場中劇場←4月25日~5月10日の公演は緊急事態宣言を受け、中止に。公式HP