一組の男女の出会いから別れまでの5年間を、ジェイソン・ロバート・ブラウン(『パレード』)が緻密に描写。2001年の初演以降、世界各地で愛されているミュージカルが、3組のキャストによって上演されます。
このうち、2010年公演にも出演した村川絵梨さんとタッグを組むのが木村達成さん。昨年の『プロデューサーズ』はじめ大作ミュージカルでの活躍目覚ましい期待の若手ですが、今回は初めて“二人ミュージカル”に挑戦します。等身大の恋が描かれる本作をどのようにとらえているか、ご自身の恋愛観もちらりと交えつつお話いただきました。
【あらすじ】舞台はNY。夫ジェイミーとの結婚が破綻した女優の卵キャシーは、心の痛みを抱えながらこの5年間を少しずつさかのぼり、振り返る。
いっぽうジェイミーの物語は5年前の時点から始まる。新進気鋭の作家ジェイミーは、キャシーと出会い有頂天に。仕事でも徐々に成功してゆくが、彼女のほうはオーディションに落ちる日々。二人は強く愛し合うが、少しずつ心に隙間が生じて行く…。
僕自身は愛する人にとって
「最初で、最後の人」になりたいです
――台本を読んだ第一印象はいかがでしたか?
「まだ最終的な台本はいただいていなくて、全貌はつかめていないのですが、常に考えながら演じたい作品だな、と感じました。
二人ミュージカルということで、覚えることがたくさんありそうですし、そもそも二人で空間を埋めるってなかなか難しいことだと思います。
僕は計算高くやるタイプではないけれど、今年28歳になりますし、そろそろ“考えて挑む”ということが出来てくると、役者としても強みになるのかな、と思っています」
――二人芝居は初ですか?
「朗読劇はやったことがあるけれど、ミュージカルは初めてですね。しかも、今回はカップルという役柄ではあるけれど、(二人が別の時間を演じるため)デュエットも少なく、一人で歌い上げていることが多いんです。だからこそ、常に頭の片隅に愛や思いやる気持ちを置いておきたいですね。ジェイミーが歌ったり、喋っているのはほとんどがキャシーのことなので、彼女を思いやることが今回、この役を演じるうえでのテーマになるかなと思っています」
――一人芝居が二つ並列するようなイメージでしょうか?
「演出される小林香さんとまだお話してないのでどうなるかわかりませんが、イメージとしてはそうかもしれません。でも(共演の)村川さんは日本初演にも出られているので、僕は少し安心感があります。お互い妥協せずに、素敵なものを作れるのではないかなと(稽古が始まるのを)楽しみにしています」
――男女の愛、という普遍的なテーマの作品ですが、木村さん的には共感できる部分もありますか?
「キャシーに対してもジェイミーに対しても、台本を読んでいて共感しっぱなしでした。キャシーについては、女優を目指してオーディションに落ち続けているという役どころで、僕もそういう職業なのでオーディションに落ちることもあるし、(身近な)誰かの成功は嬉しいけどそれが悔しさだったり嫉妬に変わることもあるのはすごく理解できます。
ジェイミーについては、物事に優先順位をつけてしまったり、後先考えずに行動してしまったりという面が“わかる”と感じました」
――一人は上昇気流に乗っているけれど、もう一人はそうならない。二人の人生をすり合わせられたらどんなにいいかと思いますが、実際は難しいものですね。
「難しいです。それに、どこかで犠牲も払わなくてはいけない。犠牲という言葉は違うかもしれないけれど、“give and take”の“take”を求めてしまうと、少しずつ溝が深まっていくというか、それは恋愛だけでなく、普通に僕らが生きていても、人間関係で起こることですよね。アメリカ人の話だけれど、日本人の僕でも共感できるということは、人間って誰しも、そういう欲を持っているのかな。そんな考えに及んだりもします」
――本作では、女性は現在から過去へと時間をさかのぼり、男性は過去から現在へと進んで行きますが、これは男女それぞれの特性を反映しているのでしょうか?
「男性については、そうかもしれないですね。特にジェイミーみたいに若くて勢いに乗っている時って、過去を振り返っているような余裕もないし、“前だ、前を向け”みたいな方が多いような気がします。僕自身、よく“過去なんかに囚われないで生きていきたい”って言ってますしね。それに対して、女性は過去を振り返って“あそこがこうだったから今度こうしよう”と考えたりする方が多いんじゃないかな」
――何かの格言で、“女性は男性の最後の女(ひと)になろうとする、男性は女性にとっての最初の男になろうとする、と言いますね。
「僕は両方求めますね。最初の男にも、最後の男にもなりたいです。“あなたといるのが一番楽しかった。だからこれからもよろしくお願いします”と言われたいタイプです」
――それは素敵すぎます…。お稽古はこれからということですが、キャシーと同じ空間にはいても別の時間を生きているということで、どんな感覚で稽古することになるのか、計り知れないですね。
「最終的には別れるとしても、最高な時がないと最悪は味わえないから、そういう、“やっぱり君だよね”という瞬間は村川さんと作っていきたいですね。稽古でこそ、“このペアでよかった”という気持ちは掴めると思うんです」
――では、(二人にとって絶頂の)プロポーズの瞬間から稽古してみるとか…?
「それも素敵ですよね。稽古を、ただジェイミーが孤独を味わうような時間にはしたくないです。彼が歌ったり喋っているのはキャシーのためであって、どこかしら頭の中に彼女の存在がないと歌えないので、常に感じ取って歌いたいです。そのために稽古場での(村川さんとの)コミュニケーションは大事にしたいです」
――本作は最初から結末が分かっているという珍しい作品ですが、ジェイミーとしては最後にどんな心情にたどり着きそうでしょうか?
「僕はハッピーエンドが好きなんです。この時はお互いのことを考えてそういう結果に至るわけだけど、人間、タイミングによって考え方は変わると思うんですね。この時はこういう考え方しかできなかったわけだけど、一回意気投合しているということは、お互いを許すこともできるんじゃないか。“Give and take”に関係なく、寄り添っていたいと(いつか)思えるようになるといいなと思います」
――ジェイソン・ロバート・ブラウンの音楽はいかがですか?
「難しい曲ばかりだと思いますね。出演が決まって映画版のサントラを聴いてみたのですが、(英語だと)すごくのびのび歌い上げてるけど、和訳すると(言葉で音を)刻まないといけないところがあって、速いテンポの中の優雅な心境であったり、駆け巡るような疾走感がどうしても落ちていくこともあると思います。より正確に、喋っているように相手に伝える、ということをテーマにしたいなと現時点では思っています」
――演出の小林香さんとは初めてのお仕事でしょうか?
「初めてです。(別の組でジェイミーを演じる)平間(壮一)さんと水田(航生)さんが“すごく優しい方”とおっしゃっているので、時に優しく時に厳しく接していただいて、素敵な作品に仕上がるといいなと思っています」
――ご覧になる方にとって、どんな体験になるといいなと思われますか?
「とても大きな出来事が起こるというような話ではありませんが、だからこそ一つ一つの瞬間に共感ポイントが見つかるほど、前のめりになれると思います。最終的にどちらかに感情移入できると思うし、観終わって今後この二人はどうなるのか、想像してみたりしていただけるといいなと思っています」
――プロフィールについても少しうかがわせてください。そもそも木村さんは、どんな理由で芸能界に入られたのですか?
「高校生の頃、将来パソコンで仕事をしたり、営業に行ったりしている自分が想像できなかったのが大きいです。自分がやったことに対して人が笑顔になってくれたり、何か影響を与えられる仕事についてみたいなと思って、芸能界ならなにか合うものがあるかなと思って飛び込みました。
(漠然と)芸能界の仕事というだけで、役者を目指していたわけではなかったのですが、最初に受けたミュージカル『テニスの王子様』のオーディションに受かって、歌って踊ってお芝居をするようになりました」
――とはいえ、何も準備せずに“テニミュ”には出られないと思いますが…。
「高校生の頃に、お芝居のワークショップには参加していました。ジェイミーじゃないけれど、後先考えずにただやってみたいと思って参加しましたが、高校が芸能禁止だったので仕事はできず、ほぼ1年間、ただワークショップに通うだけの日々でしたね。
大学に入ってから仕事を始めましたが、はじめは自分ができないことに対して、むかむかする感覚が強かったです。“なにくそ”と思うことが多かったですね」
――それで作品ごとに一つ一つ努力をされてきたのですね。
「そうですね。前もっての練習は得意でないので、作品ごとに努力してきました。上には上がいるので、彼らと渡り合うためには練習が必要でした」
――初の大作ミュージカル、『ラ・カージュ・オ・フォール』では鹿賀丈史さんや市村正親さんら錚々たるスターたちと共演されましたが、その中で埋没せず、存在感を放っていらっしゃいました。
「有難うございます。これまでの一つ一つの出会いが自信やオーラになっていったのかもしれません」
――昨年の『CALL』では、“芯のできる役者さん”なのだと感じた方も多いかと思います。
「そう言って頂けると嬉しいですね」
――もう一つの『プロデューサーズ』では、新境地を拓かれましたね。
「あの時は絶望感を持ちながらやっていました。あの(強烈な)面々に囲まれたとき、自分は“終わった”とさえ感じてしまって…」
――まさかそんな…。指先まで神経が行き届いた、素敵な“ゲイの振付家助手”でした。
「見た目から構築することは、2.5次元ミュージカルで叩き込まれていました。形を作るということと、(役の)内面を作るということ。その順番はどちらが先でもいいと思うんです。舞台は全身で表現するものなので」
――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「そうですね…。今、僕はどう見えていますか?」
――これからが楽しみな方、ですね。
「それで行きましょう!(笑) 次に何をやるんだろう、と40歳になっても50歳になっても、ずっと思ってもらえる。そんな役者になれたらと思います」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『The Last 5 Years』6月28日〜7月18日=オルタナティブ・シアター その後、大阪で上演 公式HP