Musical Theater Japan

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『SHOW-ism Ⅺ BERBER RENDEZVOUS』観劇レポート:“輝ける彼女たち”が紡ぎ出す、親密で壮大なストーリー                                                                                                                                                                                                

SHOW-ism Ⅺ『BERBER RENDEZVOUS』©Marino Matsushima 禁無断転載

アラビア風の旋律が響き渡る中で舞う、二人の女たち。
良き相棒のようにも見える彼女たち(ベラッジョとハロッズ)はしかし、マントを脱ぐなり鋭い視線を交わす。

ただならぬ気配を残して、場面はサハラ砂漠に出現した、急ごしらえの映画スタジオへ。そこでは彼女たちを含む7人の女たちが、無機質な声が発する“ミッション”に耳を傾けている。「君たちには今から、映画を一本撮ってもらおう」。

SHOW-ism Ⅺ『BERBER RENDEZVOUS』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

タイトルは『ベルベル・ランデヴー』。
テーマは“What’s the human being?(人間とは何か)”で、期限は2週間。報酬は“カルメルタザイト”という鉱物の現物支給だという。

「映画の出来栄えは君たちの未来を決める」という謎めいた注意付きのミッションに女たちは戸惑うが、スタイリッシュな『常夜灯』を手始めに、数本の短編映画を通して人間の諸相を切り取ってゆく。
その過程であらわになる、ベラッジョとハロッズの因縁。二人の緊張関係は、共同作業を通して少しずつ変化してゆくようにも見えるが…。

 

SHOW-ism Ⅺ『BERBER RENDEZVOUS』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

演出家の小林香さんが独自の世界観と美意識をもって創り上げ、2010年の『DRAMATICA/ROMANTICA』以来、上演を重ねてきたステージ「SHOW-ism」。
その第11弾となる書き下ろしの新作『BERBER RENDEZVOUS(ベルベル・ランデヴー)』が、柚希礼音さん、美弥るりかさんら11人と日替わりのスペシャル・ゲスト、計12名の出演で開幕しました。

SHOW-ism Ⅺ『BERBER RENDEZVOUS』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

女たちが撮る短編映画として展開するショー・パートは、音楽・美術・振付のどれをとっても緻密に練り上げられ、迫力のダンスやドラマティックな歌声に心置きなく身を委ねられる仕上がり。とりわけ、望まない仕事に辟易した店員ドロシー(美弥さん)がチーフ(柚希さん)に魔法の眼鏡を渡され、幻想の世界を旅する『OZoo』のシーンでは、キャッチ―かつ変化に富んだ音楽(作曲=大嵜慶子さん)、色彩と光と影が戯れるヴィジュアル(美術=松井るみさん、照明=高見和義さん、衣裳=中村秋美さん、映像=大鹿奈穂さん)、そして親しみやすいコンテンポラリー系の振付(松出直也さん、原田薫さん)が絶妙に絡み合い、ドロシーの心の旅路を時に繊細に、時にダイナミックに描き出します。

SHOW-ism Ⅺ『BERBER RENDEZVOUS』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

いっぽうで、各シーンのテーマや歌詞には人間の“性(さが)”についての考察や懸命に生きてきた女性たちへの共感が滲み、作り手の思いがしっかりと感じられるのも本作の魅力。名も無き女性たちの生命のリレーを描く2幕の『ホロスコープ』では、祖母役・原田さん、母役・美弥さん、孫役・柚希さんとコーラス/親友役・JKimさんの歌を交えた芝居に深く心動かされる方も少なくないことでしょう。

SHOW-ism Ⅺ『BERBER RENDEZVOUS』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

日替わりのスペシャル・ゲストは2幕になって登場しますが、一般的な“日替わりゲスト枠”(顔を見せてアドリブ的なものを披露して去る)では全くなく、ストーリーに不可欠のキャラクターである点も本作の特徴。彼女の登場の意図が明かされるラストには作品のスケールが一気に壮大となり、改めて作り手が2022年の今、発しているメッセージが鮮明なものとなります。

SHOW-ism Ⅺ『BERBER RENDEZVOUS』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

ベラッジョ役の柚希さんは或るコンプレックスを秘めた元・女優の内向的な表現とショー・シーンでの華々しさとのコントラストが際立ち、ハロッズ役の美弥さんはベラッジョとの敵対関係が変化してゆくにつれ、人間的な柔軟性を帯び輝きを増してゆきます。“愛ゆえに殺す”人間の不思議をダンス劇で物語る『常夜灯』では、マイルス・デイヴィス的な濃密な音楽と、柚希さんが極める“男役”、美弥さんがしなやかに魅せる女性役のデュエットがぴたりとマッチ。

SHOW-ism Ⅺ『BERBER RENDEZVOUS』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

JKimさんは張り詰めた場をちょっとした一言で和らげるミョンドン役で成熟した女性の存在感を示し、ゴスペル調の楽曲でのリードもパワフル。鈴木瑛美子さん(トキオ)、佐竹莉奈さん(オルセー)、宮本美季さん(ソーホー)は『OZoo』でかわるがわる歌うソロ等でそれぞれの歌唱力をいかんなく発揮、原田薫さん(サグラダ)は謎の4人組(菅谷真理恵さん、中嶋紗希さん、RISAさん、宮城ユリカさん)との絡み等でユーモア・センスをのぞかせます。そしてこの日のスペシャル・ゲストは愛月ひかるさん。長身が映える白の衣裳で謎めいた「ノーウェア」役を爽やかに演じていますが、直近の出演作『ファンタスティックス』同様、微かに見せる微笑みにえもいわれぬ包容力があり、作品の世界観を代弁しているようにも見えます。

 

SHOW-ism Ⅺ『BERBER RENDEZVOUS』©Marino Matsushima 禁無断転載

 

目くるめくショー・シーンを肩の力を抜いて楽しむも良し、作品のメッセージに思いを馳せるも良し。自由な楽しみ方の出来る舞台ですが、創意溢れるステージからはきっと、作り手と演者が共有する、溢れんばかりの“思い”が伝わることでしょう。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 SHOW-ismⅪ『BERBER RENDEZVOUS』11月20日~12月5日=シアタークリエ 公式HP