1972年に発表された萩尾望都さんの少女漫画が、舞台化を長年夢見ていたという小池修一郎さんの演出で18年、宝塚歌劇団で初演。それから3年、明日海りおさんが宝塚退団後第一作として主人公エドガーを再び演じる“男女混合キャスト版”が上演中です。
英国のとある森に捨てられ、老婦人に拾われた少年エドガーはバンパネラ(ヴァンパイア)の一族に加えられ、永遠の命を得る。妹メリーベル、そして養父母のポーツネル男爵夫妻とともに各地を転々とする中で、1879年、新興の港町ブラックプールに辿り着くが…。
エドガーがバンパネラとなるまでの経緯、そして少年アランと出会い、運命をともにするようになるまでをテンポよく描くミュージカル。物語世界をドラマティックに彩るのが、太田健さん(『るろうに剣心』)による楽曲の数々です。冷ややかに始まり壮大に展開する「ポーの一族」から幻想的な「ゆうるりと」、ロック調の「転校生~アランの規律」までカラフルな曲調で各場を盛り上げ、「ポーの一族」では刻み付けるような“ポーの、一族…”、「哀しみのバンパネラ」では憂いに満ちた“僕は…バンパネラ”など、しっかりと耳に残る締めのフレーズが観客を作品世界に誘います。
キャストの各役へのフィット感も申し分なく、エドガー役の明日海さんは序盤、弾むように動いたり、大人の男女の口づけを目の当たりにしてどぎまぎしたりと、人間の男の子らしいリアルな表現を見せますが、バンパネラ化してからは次第に背筋が伸び、所作も様式的な美しさを帯びてゆきます。ドレープの優美な白シャツをまとって見せる一挙手一投足には圧倒的な“この世ならぬ者”感があり、(男性である)千葉雄大さん演じるアランと並んだ際に全く違和感がなく、“共鳴しあう、二つの孤独な魂”に見えるのも見事。本質を掴んだ演技がジェンダーをも超えることの一つの例となっています。
そのアラン役・千葉さんは、裕福な家庭に生まれたものの、あさましい親族たちに嫌気がさしている少年を時に繊細に、時に体当たりで表現。やや軸の頼りない立ち姿がエドガーと好対照をなし、終幕の“バディ感”を予兆させます。エドガーと並んでバンパネラの“この世ならぬ者”感を体現するのが、ポーツネル男爵夫人としてエドガーの養母となるシーラ役、夢咲ねねさん。男爵との結婚前の“恋する乙女”ぶりから一転、バンパネラとなって以降は気品あるたたずまいに妖艶な色香をまとわせ、町医者クリフォードのみならず客席を魅了。一族の誇りを保ちながらも“生き残り”のプレッシャーにさいなまれる男爵を格調高く、憂いある歌声で演じる小西遼生さん、エドガーがその身に代えても守ろうとする妹メリーベルを愛らしく演じる綺咲愛里さんともども、“一枚の完璧な絵のよう”な家族を体現しています。
後半のキーパーソンとなる医師クリフォード役の中村橋之助さんは、生来の品が前途洋々の役柄に生き、そんな彼の人生設計がシーラとの出会いによって狂わされてゆく過程がスリリング。またこの公演では福井晶一さんと涼風真世さんが序盤に大老ポーと老ハンナ、中盤からはオルコット大佐と霊能者ブラヴァツキー、とそれぞれ二役を演じるのが見どころの一つとなっており、序盤は重厚感たっぷり、中盤からはコミカルな二人の演じ分けに唸らされます。とりわけブラヴァツキーをだみ声で演じる涼風さんの、一見どなたか分からないほど作りこんだ造型が痛快。
コロナ禍の緊張感の中でも大阪を経て東京でも順調に公演を重ねる本作。月末の名古屋公演大千穐楽はライブ配信も予定されており、諸事情で劇場に足を運べない方も楽しむことが出来ます。ひと時、現実を忘れさせてくれる絶好の“極上の美”の世界と言えましょう。
(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報 『ポーの一族』2月3日~17日=東京国際フォーラムホールC、2月23~28日=御園座、ライブ配信2月28日12時公演、ライブ・ビューイング2月28日12時公演(全国各地の映画館60館、台湾映画館6館)公式HP