バスケットボールのコートでスポットライトを浴びる高校生、マイク。有名大学のスカウトが視察に現れたその日、花形選手である彼はいつもの通りに活躍し、約束された未来へと踏み出す筈でした。
しかしそこに現れたGFスカーレットの様子がどこかおかしい。マイクが優しく尋ねてみると、彼女は妊娠しており、“あなたの邪魔になりたくない”と言うのです。迷わず彼女との人生を選ぶマイク。何と清々しい展開…。
と思いきや、次なるシーンは18年後。仕事もなく太ったお腹を持て余し、息子のアレックス、娘のマギーからは相手にされない中年男になっていたマイクは、疲れ切った表情のスカーレットに離婚を切り出されてしまいます。
うまくいかない人生をぼやいていると、通りかかった用務員の一言で不思議な現象が起こり、マイクはなぜか17歳の姿に。(タイムスリップした訳ではなく、肉体が17歳に戻っただけ、というのがポイントです)
“すべてがうまくいっていた頃”の容姿に戻ったマイクは、学生時代からの親友ネッドに匿われ、彼の息子マークとして高校に編入。アレックスとマギーがそれぞれに問題を抱え、スカーレットはと言えば新たな人生を歩むべく、他の男性とデートを約束していることを知ります。このままでは家族が崩壊してしまう、とマイクは…。
Z・エフロン主演のコメディ映画『17 AGAIN』(2009年)を、マルコ・ペネット(脚本)、『ファースト・デート』のアラン・ザッカリー&マイケル・ウェイナー(作詞・作曲)が ポップな楽曲をふんだんに盛り込み、ミュージカル化。谷賢一さんが翻訳・演出を担当する今回の日本版は、記念すべきワールド・プレミア(世界初演)です。
映画版では17歳と35歳のマイクを異なる俳優が演じましたが、舞台版では一人の俳優が演じているのが大きな特徴。1幕ではマイクが“若返り”を機に自分の家族を客観的に見つめ、“家族を、人生を立て直そう”と決意するまで、2幕ではそんな彼の奮闘を、主演俳優がほぼ出ずっぱりで演じます。体力的にも表現面でも圧倒的に要求度の高い役柄ですが、今回の主演、竹内涼真さんはバスケの選手として華麗な動きを見せる序盤から、終始驚異的な熱量を持続。きらきらとした17歳、冴えない35歳、そして“35歳の心を持つ17歳”をナチュラルに演じ分け、妻との男女の機微を描くシーンでは繊細さ、高校生たちやネッドとのカジュアルな台詞の応酬では持ち前のコメディ・センスを発揮。硬軟織り交ぜた演技で、物語を力強く牽引しています。
共演陣では、マイクに愛想をつかしながらも、どこかで彼への思いが残っている妻スカーレットの揺れる心を、ソニンさんがリアルに表現。オタク気質のネッドを無邪気に演じるエハラマサヒロさん、校長の厳格な表の顔と真の姿のギャップを楽しく見せる水夏希さん、マークと交流するうち“本来の自分”に気づく様を瑞々しく演じるアレックス役の福澤希空さんとマギー役の桜井日奈子さん、いじめっ子スタン役にワルの魅力を漂わせる有澤樟太郎さん、用務員役(バスケのコーチと二役)で謎めいた存在感を放つ角川裕明さんも、それぞれに好演。
ネッドと校長のナンバーで登場したキャラクターたちがそのまま次のシーンに移行する演出や、転校生マークの“イケメン”ぶりに女子たちが沸く際、背景一面に映し出されるSNSのコメントが一般公募によるもので、マーク役の竹内さんに対するファン心理がダイレクトに反映されているのも面白い趣向。ポイントとなる場面で様々な角度の雨状に降り注ぐ照明(原田保さん)も美しく印象的です。
作品こそアメリカ発ですが、この新作を是非とも成功させようと、一致団結したカンパニーの“心意気”がひしひしと感じられる舞台。物語が終わるころには、客席の誰もがマイク同様、当たり前に思っていた日常や身近な人々が“もう一度”愛おしく感じられることでしょう。
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『17 AGAIN』5月16日~6月6日=東京建物Brillia HALL、6月11日~13日=兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール、6月18~20日=鳥栖市民文化会館大ホール、6月26日=広島文化学園HBGホール、7月1~11日=御園座 公式HP