Musical Theater Japan

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『スルース~探偵~』観劇レポート:スリリングこの上ない“言葉の死闘”

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『スルース~探偵』撮影:渡部孝弘

英国ウィルトシャーの瀟洒な邸宅。リビングで推理作家アンドリュー・ワイクが執筆していると、妻の不倫相手、マイロが招待に応じ、訪ねて来ます。初対面の気まずさが飲み物で和らぐと、アンドリューは早速、本題へ。妻は君に譲るが、浪費家の彼女と暮らすには金が必要だろう。邸宅の金庫に眠る宝石を君が泥棒に扮して盗み出し、それを元手に妻と暮らす。私は宝石にかけていた盗難保険をせしめ、愛人と幸せに暮らすというのはどうだろう、というのです。

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『スルース~探偵』撮影:渡部孝弘

マイロははじめこそ、これは妻を寝取った自分に対する罠では、と警戒しますが、計画の完璧さを強調するアンドリューの口車に乗せられ、「やりますよ」と決意。ピエロの衣裳を着込み、”泥棒”の痕跡を残して宝石を手にするのですが…。

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『スルース~探偵』撮影:渡部孝弘

初老の作家と若い男の頭脳戦を描いたアントニー・シェーファーの二人芝居『スルース』。1970年の初演以来、映画化を含め世界各国で上演、日本でも劇団四季などで何度も上演されてきた傑作芝居が、吉田鋼太郎さん、柿澤勇人さんの新コンビで上演中です。

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『スルース~探偵』撮影:渡部孝弘

吉田さん自らが演出を担当する今回、舞台は”今”に設定されているらしく、アンドリューはタイプライターではなくPCで原稿を執筆、また固定電話ではなくスマホを使用。様々な小道具が鍵となる作品ながら違和感はなく、逆に終盤、PCが持ち主の内面を象徴する形となり、新たな効果をもたらしています。

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『スルース~探偵』撮影:渡部孝弘

それ以上にスリリングなのが、吉田さんと柿澤さんの鮮やかな「言葉のボクシング」。はじめは互いに距離を保って相手を観察しながらそつなく喋っている風情ですが、グラス片手にやや打ち解けたところで、柿澤マイロが椅子に腰かけようとした瞬間、吉田アンドリューが唐突に「君は私の妻と結婚したいんだろう」と不意打ちし、マイロはびくり。ここでゴングが鳴るごとく、吉田アンドリューは圧倒的饒舌さでマイロを丸め込みにかかります。一方、柿澤マイロはアンドリューの女性蔑視的発言に憤慨。ここぞというタイミングで鋭くコメントを返し、逆転とはならぬまでもじわじわと心的ダメージを与えて行きます。1幕のたった一時間ほどの間に、二人の関係性は“探り合い”から“敵対”、“意気投合(?)”…と目まぐるしく変化し、目が離せません。

1幕後半では決定的な台詞を吉田さんが畳み掛けるように繰り返し、アンドリューの本性が明るみに。一方、柿澤マイロの方も、もともとは純粋な男で、アンドリューの計画に乗るのもあくまで愛する人のためだったが、彼の言動によってコンプレックスやイタリア系の“血”が呼び覚まされるという造形。前半の受動的な姿から後半は一変し、大技を繰り出すのみならず、ちょっとした台詞でも、“老い”を自覚するアンドリューを若さゆえの残酷さをもって追い詰めます。そんな二人が行き着く先は…。

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『スルース~探偵』撮影:渡部孝弘

もちろん結末は脚本にある通りで従来版と同じなのですが、今回、終盤の吉田アンドリューには、これまでのバージョンでは見られなかった、吉田さんならではとも言える表現が見て取れます。ネタバレ回避のため詳述はできませんが、この表現があることでラストの余韻が大きく変化。“サスペンス劇”というジャンルを超えた、人間の“性(さが)”のドラマが浮かび上がります。

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『スルース~探偵』撮影:渡部孝弘

ストレート・プレイではありますが1幕ではオペラ、2幕では某ミュージカルの主題歌に合わせ、柿澤マイロが歌や踊りで遊び心を発揮する場面も。二人の俳優が惜しみなく、死力を尽くして演じる姿に、改めて演劇の面白さ、醍醐味を感じられる舞台となっています。


(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報『スルース~探偵~』1月8日~24日=新国立劇場小劇場 その後大阪、新潟、仙台、名古屋で上演 公式HP