Musical Theater Japan

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祝祭と“熱い思い”の90分:『劇団四季The Bridge~歌の架け橋~』観劇&囲み会見レポート

2020年7月に開場予定だった劇団四季の新劇場、JR東日本四季劇場[春]が、新型コロナウイルス感染症の影響により2021年1月に開場。こけら落とし作品として、劇団のレパートリーから選りすぐりの名曲を再構成したショー『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』が10日に開幕しました。新劇場に俳優たちの歌声、そして喝采が響き渡った初日公演、また終演後に行われた劇団の吉田社長、本作演出の荒木美保さん囲み会見の模様をレポートします。(出演者名はこの日のキャストです)

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2021年1月10日、『劇団四季The Bridge~歌の架け橋~』をもって開場したJR東日本四季劇場[春] 撮影:阿部章仁
『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』
初日レポート:劇団の歴史を回顧し
”今”を伝える、祝祭の90分

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『劇団四季The Bridge~歌の架け橋~』撮影:荒井健

“皆様、本日は劇場にようこそ。劇団四季 The Bridge、開演です。”
端正なアナウンスに続いて場内は心浮き立つ音楽に包まれ、幕の上にはハート型の照明。幕が上がると舞台上の俳優たちが、朗誦を始めます。
“地球の大火事がおさまって八つ目の春(中略)十匹の若い猫たちが集まっていた…。”
劇団創立メンバーたちの“志”を、ジェリクルキャッツに例えて描いた長編詩「ハングリー・キャッツ」に続き、劇団が繰り返し上演してきた『オンディーヌ』『ひばり』の台詞もかわるがわる紹介されます。
ストレート・プレイという劇団の原点が示された後、出演者中、最ベテランの飯野おさみさんが夢の配達人の台詞を語り、舞台は『夢から醒めた夢』の世界へ。20人弱の出演者たちが溌溂と「遊園地のパレード」を歌い、踊り始めます。(本編ではジャズダンス系振付ですが、ここではクラシック・バレエの香りを帯びた松島勇気さんによる振付。)こうして90分間ノンストップ、“名曲の玉手箱”と呼ぶにふさわしいショーがスタート。

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『劇団四季The Bridge~歌の架け橋~』撮影:荒井健

舞台は「劇場」「人生」等7つのテーマで構成され(構成・台本=高橋知伽江さん)、音楽的にもヴィジュアル面でもそれぞれに趣向が凝らされていますが、とりわけ洒落っ気のある演出が光ったのが、ファミリー・ミュージカルがテーマの第三場。舞台上方の額縁の中のスクリーンに1964年、日生劇場で上演された『はだかの王様』に来場した子供たちの記録映像が映し出され、続いて演目の映像が…と思いきや、いつしか額縁の中はリアルな俳優たちに入れ替わり、「幕をあける歌」を歌い始めます。“手をたたいて(パンパンパパン)”の部分では本編の上演時同様、自然に場内に手拍子が起こり、和やかな空気に。子供の頃から数十年見続け、即座に“童心に帰れる”ファン層もいる劇団ならでは、の現象でしょう。『魔法をすてたマジョリン』『人間になりたがった猫』『ジョン万次郎の夢』等のナンバーが、カラフルなリボンや傘など様々な小道具を用い、途中皆で船を漕ぐような動きなども取り入れつつ、躍動感たっぷりに描かれます(振付・謝珠栄さん)。心の温もりをわけあおう、世界に目を向けて心を開こう、勇気をもって飛び立とう、などやさしく前向きな歌詞の数々にも心癒されるこの場の結びには、俳優たちが再び額縁の中に戻ってゆき、次の場へ。

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『劇団四季The Bridge~歌の架け橋~』撮影:荒井健

「平和」がテーマの第五場では、大戦の経験者である浅利慶太さんの“語り継ぐ使命感”が色濃く反映された昭和三部作が登場。歴史のうねりに巻き込まれた人々の、国や愛する人に対する思いが切々と歌われてゆきますが、祖国に利用されてきた個人がもう一つの祖国に裁かれようとする『李香蘭』のクライマックスが再現され、いたたまれない空気が流れると、少しの“間”の後、舞台奥から一人の俳優(飯田達郎さん)が登場。争いがなくなり、人々が平等に生きられる日が来ると祈ろう、と『ノートルダムの鐘』の「いつか」を、清々しく歌いあげます。日本から中世のフランスへと舞台が飛ぶことで平和というテーマの普遍性が際立ち、選曲の妙、前述の“少しの間”の演出の妙にも唸らされます。

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『劇団四季The Bridge~歌の架け橋~』撮影:荒井健

続く六場は青山弥生さんの「サークル・オブ・ライフ」(『ライオンキング』)から。日本初演(1998年)のオリジナル・キャストである青山さんのいっそうパワフルな歌声が響き渡り、ビタミン系のカラフルな衣裳(ファッション・デザイナーの丸山敬太さんがデザイン)もあいまって、場内には一気に生命感が満ち溢れます。続く「ブエノスアイレス」(『エビータ』)でも野心に燃えるヒロインのポジティブな“気”が谷原志音さんによって放たれ、「ザ・ミュージック・オブ・ザ・ナイト」(『オペラ座の怪人』)では、怪人のロマンティックな愛を清水大星さんが艶やかに歌いあげます(この一曲だけでなく本編での怪人役も観てみたいところ)。他にも三代川柚姫さん、笠松哲朗さんコンビの瑞々しいデュエットが新鮮な「儚い喜び」(『アイーダ』)、本編ではエルファバが一人で歌うところを飯田達郎さん、笠松哲朗さんの男性二人が力強く歌う「自由を求めて」(『ウィキッド』)など、「人生」をテーマとしたこの場は俳優たちのボーカルをじっくり、存分に味わえるひとときです。


「明日」をテーマとした最終章では、「メモリー」に続いて冒頭に登場した「ハングリー・キャッツ」の続きが語られ、完結。ショー全体も「ワン」(『コーラスライン』)で華々しく締めくくられます。俳優たちの挨拶の後、カーテンコールで歌われたのは、コロナウイルス禍によって世の空気が暗く傾きがちな中、素朴に、温かく心に寄り添う一曲、そして立ち上がって一緒に踊りたくなる気持ちを抑えるのが大変な(?)あの曲。今年68周年を迎える劇団の歴史を振り返りつつ、彼らの“今”を堪能できる、そして何より、俳優たちから放たれるエネルギーと“思い”に胸熱くなるショーとなっています。


劇団四季 吉田智誉樹社長、演出・荒木美保さん 終演後囲み会見レポート

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(左より)吉田智誉樹・劇団四季社長、演出・荒木美保さん。荒木さんは1998年に入団、俳優として『クレイジー・フォー・ユー』『美女と野獣』等の舞台に出演するかたわら、浅利慶太さんの演出アシスタントとして多くの現場に参加。現在は演出チームの中心として活動しつつ、人材育成にも力を注いでいます。オリジナル作品演出は本作が初。(写真提供:劇団四季)
公演が延期された分、作品に対する皆の思いが
より、深くなりました

初日を終え、ほっとした表情で現れた吉田社長、荒木さん。初日を迎え、荒木さんは「本作には新劇場オープンにあたっての私たちの決意と祈りを込めました。昨年、公演が打てなくなった時に、舞台ができるというのは当たり前のことじゃないんだなと強く感じ、今回もう一度取り組むにあたり、その思いに助けられました。本日開幕して、お客様が入って(ショーは)完成するのだと実感しています」と感慨を語ります。


また本作に関して、お二人からはエピソードとして
*本作では言葉とその意味を大切にしたいと思い、最初の稽古で皆で椅子を丸く並べ、それぞれ、なぜ四季を志したかを語り合った。そこで自分の原点、劇団の目指す方向を確認しあってから、全ての言葉に向き合った
*コロナ対策として今回、キャストは2班に分け、接触せずに稽古を進行。もう一班の稽古を見学する際にはマスクとゴーグルをつける、もしくは2階から見学。加えて換気を頻繁に行っていたため、寒さの中の稽古でもあった
*上演延期が決まって以降、作品は大きくは変わっていないが、差し替えで「人間に戻りたい」(『美女と野獣』)が入り、全体に(皆の作品に対する)思いが深くなった。「人間に~」の、魔法でモノに変えられているお城の人々の「戻れたらこうしよう」と夢見る心情は、今、様々な制限の中で生活する私たちの心情とフィットすると感じている
*本作の柱となっている詩「ハングリー・キャッツ」は、皆でアイディアを出し合う中で企画開発室室長の 久保拓哉さんが探し出し、提案。荒木さんは“まさに私たちに必要なもの”と思ったそう
*本作ではお客様の見やすさのため舞台に4度の傾斜がついている。俳優たちにとってはただ立っているのもキツいが、その中で踊りきる、それだけでも一つのメッセージが届くと思う
*6,7場は生きる喜びを描く場であるため、前向きなエネルギーとキャスト一人一人の魅力を描きたいと思い、丸山敬太さんに衣裳デザインを依頼。実際にキャストに会っていただき、それぞれの印象にあわせてデザインしていただいた


といったお話がありました。

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囲み会見では緊急事態宣言の影響に関する質問も。「影響は甚大で、発出後、チケットのセールスは相当落ち込んでいます。しかしこれは仕方がないと考え、今はじっと耐えています」と吉田社長。(写真提供:劇団四季)


筆者からは今後の劇団の方向性について吉田社長にお尋ねしましたので、その部分をご紹介します。
――今回の舞台は劇団の素晴らしい財産、レパートリーを回顧するものでもありましたが、今後は新作、既存のオリジナル作品、海外作品をどのような比率で上演されていこうとお考えでしょうか?(質問・松島)
吉田社長(以下・吉田)「コロナ禍の状況で、以前のように全てをやるということは収支を考えると難しくなってきており、チョイスをしなくてはなりません。コロナがいつ終息するかわかりませんが、おそらく今年、来年ごろまではこの態勢が続いていくと思います。そうすると厳選していかなければならないわけで、何が残るかといったときに、やはり新作のオリジナルを作るということ、年に一本のオリジナル作品を作って世に出していくことだと思っており、現に数年前から創作を始めています。一昨年『カモメに飛ぶことを教えた猫』を作り、去年は『ロボット・イン・ザ・ガーデン』、今年の夏には『はじまりの樹の神話』、とこうした形で年に一本のミュージカル、ファミリー・ミュージカルをと思っています。海外の新作については、現在こういうことで(現地の演劇界が)止まっていますが、いい作品が出たらとは思っています。いずれにしても2023年以降かなと思います」


――劇団内には多数の才能溢れる方々がいらっしゃることと思いますが、座内にとどめず、世の中全体を巻き込むような形での創作もといったことはいかがでしょうか。他のカンパニーでコンペをなさっているところもありますが、四季さんはいかがでしょうか?(質問・松島)
吉田「実はそういったものもいろいろ考えていたのですが、コロナでストップしている状態です。企画開発室の久保には考えるよう言っておりまして、24年ぐらいには何かできればと思いますが、今は生き残ることが最優先になっています」


――『カモメに~』はファミリー・ミュージカルでしたが、『ロボット~』は大人向けの作品ですよね。今後はどのような方向性での創作をお考えでしょうか?(質問・松島)
吉田「最も大事な原則は、我々がやる作品はすべて、人が生きることは素晴らしいんだ、人生は生きるに値するというメッセージを持っているかどうか。これは浅利慶太が最も大事にしていたことなので、僕らとしてもしっかり守ろうと思っています。具体的には、創作を担当するセクションを作りまして、そこから候補が挙がってきます」
久保室長「企画開発室の久保です。『カモメ~』から(舞台化の素材を)探していまして、今後も様々な原作本にあたっていくと思います。もしかしたら本という形でなく、何かのエピソードをもとにということもあるかと思いますが、今は本が中心です」
吉田「このセクションは面白くて、本を読んでいる人と、走り回っている人の二種類がいるんですよ(笑)」
久保「僕は走り回っている人です(笑)」


(取材・文=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『劇団四季 The Bridge~歌の架け橋~』1月10日~2月11日=JR東日本四季劇場[春]、3月14~28日=キャナルシティ劇場、4月16日~=全国公演 1月10,11,14,15日にライブ配信も予定。詳しくは公式HPへ。