『デスノート THE MUSICAL』、ミュージカル『生きる』、ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』など、数々のオリジナル・ミュージカルを手掛けてきたホリプロがこの秋、新作を発表。題材に選ばれたのは、1991年にTVドラマ化され、社会現象を起こした柴門ふみさんの漫画『東京ラブストーリー』です。
バブル期の東京で4人の若者が繰り広げる恋の物語は今回、設定を2018年春からの1年間に移し、今を生きる人々がリアルに共感できる物語となる模様。「空」「海」の2チームのキャストのうち、「空」キャストのカンチ役・柿澤勇人さん、リカ役・笹本玲奈さんに、今、『東京ラブストーリー』を演じる心境をうかがいました。
【あらすじ】2018年春。愛媛に本社のある「しまなみタオル」の東京支社に異動になった永尾完治は、同僚の赤名リカと新プロジェクトを担当することになる。先に上京していた高校の同級生・三上健一と久々に会うと、そこには彼が高校時代に思いを寄せていた関口さとみの姿も。動揺する完治の前に、リカが現れて…。
“どうなるんだろう”から“めっちゃ面白い!”へ
――まずは『東京ラブストーリー』がミュージカル化されると聞いた時の、率直なお気持ちからお聞かせ下さい。
笹本玲奈(以下・笹本)「斬新だな、と驚くと同時に、正直、不安がよぎりました(笑)。本作は漫画が原作ですが、やはりドラマの印象が強烈に残っている方も少なくないと思うんです。それに、東京が舞台のストーリーだけど音楽はブロードウェイで活躍されているジェイソン(・ハウランド)さんが担当されるということで、初期の台本を読んだ時はどういう作品を目指しているのか想像がつきませんでした。。
でも、その後台本が新しくなって、半年くらい前に4人で読み合わせをした時に、“面白い!”と思えたんです。それにその時点で既に、4人のキャストがぴったりはまっていて。それまで勝手に不安を抱いていたのが、一瞬で払拭されました」
柿澤勇人(以下・柿澤)「僕も正直、はじめはどうなるんだろう…と思っていました。でもその一方で、海外ミュージカルばかりに頼るのではなく、オリジナルのミュージカルを作って行くというのはこれから先、日本でもやっていかないといけないことで、『デスノート THE MUSICAL』で海外に発信できる機会があったからこそ、こういうことを続けていかないといけないと感じました。そんな中で、『東京ラブストーリー』は日本ではおそらく誰もが知っているけれど、海外では知らない方もたくさんいらっしゃるし、チャレンジングで面白いプロジェクトになるんじゃないか、という予感もありました。
初めての読み合わせの時点では、まだ音楽が入っていなくて、どういう感じになるんだろうねと皆で言っていたんです。その後、少しずつジェイソンから音源が届いて、彼が日本語でも英語でもない出鱈目語で歌っていて(笑)」
笹本「ららら~、みたいな感じで」
柿澤「その出鱈目語の音楽が、キャッチ―で爽やかでめちゃくちゃ良くて…」
笹本「一度聞いてすぐ覚えられました」
柿澤「なので、あとは芝居をどうミックスするか、歌詞をどうはめるかということだな、と思えるようになりました。大変な作業にはなると思うけど、僕らで意見も言い合えると思うし、もしかしたら“海”チームと僕ら“空”チームでは(年齢が違うので)感じ方が違ってくるところもあるかと思いますが、それは“良い違い”だと思っています」
――ひところ“草食男子”という言葉がよく聞かれましたが、最近はそれを超えて全くデートをしない“絶食男子”も少なくない、と報道されています。そういう時代に今回、王道のラブストーリーを上演する意義はどんなところにあると感じますか?
笹本「私もその報道は読みましたが、リアルに対面していないだけで、オンラインゲームであったり、ネット上で恋愛している男子は多いんじゃないかな、と思いました。形が違うだけで、恋愛自体はしているんじゃないかな、と。
そのうえで本作のキャラクターを見てみると、(恋多き)三上は明らかに“肉食系”なので、彼みたいな男子は今は珍しいかもしれませんが、カンチに関しては草食というか、優柔不断で女性に振り回されるタイプ。今も“いるな、こういう人”と思えます。見方によっては可愛いし、母性本能をくすぐられるかもしれないですね。
リカみたいな女性も1980年代だったら異質かもしれないけれど、こういう自己主張のはっきりした女性って、女性が社会進出した今は普通ですよね。なので、時代設定は変わっても、普遍的に“刺さる”物語ではないかと思っています」
柿澤「(本作を通して)“恋愛してください”なんて押し付けるつもりはないけれど(笑)、個人的には、恋愛ものがすっごく久々なので楽しみたいと思っています。お客さんにしても、いろいろなキャラクターが登場するなかで、誰かしら自分にフィットする人がいると思んですよ。(彼らの恋愛模様を眺めながら)恋っていいな、と感じていただけたら嬉しいです。最近恋をしてないなという方たちが、“人を好きになるって素敵だな”と感じていただけるところまで行けたらいいですね。
今回はミュージカルですし、社会派ドラマのような堅苦しさもないと思います。キャストにはスーパーダンサーたちもいて、“ザ・ミュージカル”みたいなシーンもたくさんあるんじゃないかな。ジェイソンの音楽も心地いいものが多くなると思うので、思い切り楽しんでいただけたらと思っています」
笹本「韓国ドラマを見るような感覚でドキドキしながら見たり、私みたいに結婚している方が“自分の恋愛はこうだったな”と懐かしんだりとか、エンタテインメントとして楽しめる作品になるような気がします」
――設定をバブル期から2018年に移したことについて、何か思われることはありますか?
柿澤「バブルの頃と今では、例えばスマホが無くてすれ違いが起こりやすかった、というのはあると思います」
笹本「だからこそ燃え上がる部分もあったかもしれません」
柿澤「でも、僕らは今、(LINE等で)文字でやりとりしていても、心の中ではやっぱりリアルに会いたくなったりするわけで、そういう人間ぽさというのは今も昔も変わらない。そういう意味で、原作通りの時代よりも今に近い時代設定にした方が、リアルに感じられると思います」
――原作ではカンチやリカの上司は男性ですが、今回の舞台版では高島礼子さんが演じる女性のキャラクターに変わっていますね。
笹本「今の時代、偉い役職にも当たり前に女性が就いているという現実を反映していると思いますし、本作には“Me Too”ムーブメント的な要素が登場するので、そういう時代背景も描こうということで女性の上司になったのかな、と感じています。
今回の台本を読んで、私は“女性たちはいつの時代も一生懸命闘ってきたんだな”と感じました。バブルの頃、女性たちはセクハラを受けて“嫌だ”という気持ちがあっても、言い出せない環境があったかもしれません。そんな中で女性だからといってしょげるのではなく、発信していきたいという気持ちをリカは持ち続けていたけれど、今という時代設定ならそれが発信できる、ということがあったのかもしれません」
柿澤「90年代と今とでは(男女の在り方について)皆の考え方も変わってきているので、時代に沿った台本になっているなと感じます」
――現時点で、今回演じるキャラクターについて、人物像は固まってきていますか?
笹本「まだまだこれからですが、今の時点では、自分とリカの間には似ているところがあると思っています。ちょっと変わっているというか(笑)、突拍子のないことを言ったりやったり。そういう意味では自然に入っていけるけれど、きっともっと深掘りできる役だと思っています。4人でたくさん話をしたり、深く詰めて行く中で、(リカについて)違う見方も生まれてくるのかなと思っています」
柿澤「カンチはどっちつかずで優柔不断、女性に振り回される役柄だけど…どうなるんだろう(笑)」
――今までこういったお役は…?
柿澤「ないですね。大概叫ぶ役でしたね(笑)」
笹本「確かに。叫んでいるイメージが強いです(笑)」
柿澤「なので今回はもしかしたら疲弊しないかもしれない…。
でも、こういう振り回されるタイプって日本人ぽいと思うし、僕の中にもあります。男気で行きたいと憧れていても、いろいろ気にして“うぅっ”となっちゃったり。僕の周りでも結構いますし。その代表例(?)として、ニュートラルにいられたらいいなと思います」
――お二人は共演されているようなイメージがあるものの、舞台では今回が初共演なのですね。
笹本「意外ですよね、初めてだったんだと。(柿澤さんに対しては)これまで熱い役で拝見しているので、熱い印象しかないです。苦悩している人、であったり。純粋にラブストーリーを演じる姿が想像がつかないので、楽しみです」
柿澤「(笹本さんは)声のインパクトがすごいですよね。『ジキル&ハイド』のルーシーも、『日本人のへそ』のメリーさんも。芯のある声が歌の説得力に繋がっていると思います。リカ役はいろんなやり方があると思うけれど、僕の中では彼女のリカが想像出来ます」
――演出の豊田めぐみさんは『アリージャンス~忠誠~』の共同演出など、様々な作品を手掛けていらっしゃる方ですね。
柿澤「(演出助手として)巨匠たちとお仕事されて経験も豊富なので、いろいろなアイデアをお持ちの方です。今回の演出も相当練り込んでいらっしゃるようです。
俳優の芝居に関してもフラットに見てくれる方で、こちらにも寄り添ってくださるタイプ。あれはこうしないと、と決めつけず、柔軟に見ていただけるので信頼しています」
笹本「栗山(民也)さんの演出作品の時に(演出助手の豊田さんと)ご一緒しましたが、栗山さんがいない時にズバッと意見を言ってくださいました。作りたいものがはっきりしているタイプの方らしく、それは私が最も求めていることでもあります。こういうものにしたい、というものがきっちりある方なので、安心しています」
――どんな舞台になるといいなと思っていらっしゃいますか?
笹本「読み合わせの時に私が感じたように、皆さんがご覧になって、最初に出てくる言葉が“楽しかった”であって欲しいです。私自身、はじめはどこか『東京ラブストーリー』というタイトルに縛られていたけれど、読み合わせをして、その壁がすぐ無くなりました。稽古が進んで行く中で、さらにメッセージ的なものも生まれてくるのかなと思っています」
柿澤「先日、『東京ラブストーリー』のTVドラマ版で助監督をされていた方と食事をしている時に、今度ミュージカル版をやるんですよと話したら“マジで⁈ あの作品をミュージカルに⁈”とびっくりされました。
おそらく“どうして『東京ラブストーリー』をミュージカルにするんだろう”と皆さん思っていらっしゃると思うので(笑)、御覧いただいて“めっちゃくちゃ面白い!”と思っていただけたら。そして日本を飛び越え、どこかの国でも上演できるような、『デスノート』以上のものを作りたいです。世界(のミュージカル市場)で戦っていけるような作品になったら一番いいですね」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 ミュージカル『東京ラブストーリー』11月27日~12月18日=東京建物Brillia HALL 公式HP
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