Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

大貫勇輔が語る、“オールダー・ビリー”から見た『ビリー・エリオット』

f:id:MTJapan:20200913221235j:plain

大貫勇輔 神奈川県出身。バレエ、ジャズからアクロバットまでジャンルを超えて活躍するダンサー、俳優。近年の主な出演作品は舞台『ロミオ&ジュリエット』『メリー・ポピンズ』、ドラマ『グランメゾン東京』等。現在、主演アニメ『富豪刑事Balance:UNLIMITED』が放送中。ドラマ『ルパンの娘』続編は10月15日(木)からスタート予定。©Marino Matsushima

炭鉱の町でバレエと出会った少年が、壁を乗り越え、夢に向かってひた走る。2009年のトニー賞で10部門を受賞したミュージカルが2017年、満を持して日本初演。多くの人々の心を揺さぶった舞台が、新たなビリー役4名を迎えて現在、上演中です。実力派揃いのキャストの中から、初演に続きオールダー・ビリーを演じる大貫勇輔さんに、ビリーとの美しいダンス、少年たちの驚異のパフォーマンスがどのように引き出されているか等、本作の魅力をたっぷりうかがいました! 

クライマックスではビリー少年と
“言葉を超えた繋がり”を感じます


――当初は7月開幕の予定だったのが9月となったことで、稽古に影響はありましたでしょうか?
「僕の場合は稽古が何も始まっていなかった段階で止まったので、影響はなかったです。でもきっと開幕できる、と思っていたので、それに向けて準備はしていました。9月の開幕が決まって、もう一度褌を締めなおすというか、やってやるぞ!という気持ちになりました。多分みんなそうだったんじゃないかと思います」

――大貫さん演じるオールダー・ビリーは、2幕でビリーと踊りますが、このシーンはビリーの幻想というようなことでしょうか?
「映画版ではラストで成長したビリーが袖から舞台に出ていって、リアルな未来が描かれているんですよね。舞台では、ビリーが未来を想い描いているシーンかもしれないし、お父さんからすれば彼が練習する姿に可能性を感じるシーンなのかもしれない。お客様からすれば夢のショーなのかもしれません。いろいろな捉え方があっていいと思います」

――大貫さん自身は、このシーンで何らかの感情は抱いていらっしゃるでしょうか?
「オールダー・ビリーは未来のビリーなので、スペシャルに見えるということも大切ですが、ビリーとのコミュニケーションだったり、動きのリンクを意識しながら、この時間を楽しもうとしています。ビリーといっても演じる子役が4人いて一人一人違うので、その都度、少年一人一人と踊っているという感覚ですね。自分も昔、こういうふうにトレーニングしてたかな…という思いがよぎることもあるけど、過去の自分と踊っているということではなく、肉体から出る関係性みたいなものが滲み出るよう、意識しています。

このシーンで一番重要なのは、子供の可能性はこんなにも広がっていくんだ、ということをお見せすること。(それまでビリーがバレエを踊ることを論外だと思っていた)お父さんもこのシーンを観て、初めて心を動かされるんです。僕が何を感じるかというより、お父さんやお客様に何を感じていただけるか、だと思っています」

――序盤は二人が並び、全く同じ振付を踊りますが、同調している感覚でしょうか、オールダー・ビリーが導いているような感覚でしょうか?
「前回は完全にリンクさせていましたが、今回は演出チームから、そこまで合わせなくてもいいと言われています。本作はいろいろな国で上演されているけれど、毎回全く同じ演出というわけではなくて、例えば“これはどうですか”と提案して、それがいいと判断されれば採用されることもあります」

――椅子をくるくると回す振りには何か象徴しているものがありますか?
「あれは“時間の経過”を示しているそうです。時計の針が動くように椅子を回していて、進んでいる、あるいは戻っている時間、濃縮された時間を表現しています」

――椅子に続いては、オールダー・ビリーが少年ビリーをリフトする振りもあります。男性のダンサーの方は女性をリフトするのには慣れていらっしゃるかもしれませんが、相手が子供となるとまた違った感覚でしょうか?
「女性でも子供でも、“持ち上げられる感覚”を持ってもらえるか、でリフトしやすいかは変わってきます。一つ一つ、流れの中で“持たれ方”というのがあるので、それを意識してもらい、2人の息を合わせないとと出来ません。でもビリーたちは教えればすぐ出来るようになりましたね。持ち上げて改めて“軽いな~”と気づきましたが(笑)」

f:id:MTJapan:20200913221444j:plain

1カットごとにリズミカルにポーズを変え、それぞれが美しい。大貫さんの撮影はそれ自体が一つのダンス作品のようでした。(C)Marino Matsushima

――そして最後のクライマックス…。オールダー・ビリーはアシストしていますね。
「あそこはめちゃくちゃしんどいんですよ(笑)。その前に椅子を回す振りがあり、リフトがあり、ジャンプがあり…。僕もビリーもしんどいところでクライマックスに入るのですが、ともに苦しみを乗り越えてあそこのシーンになると、毎回、無条件に感動します。甲子園を目指してともに戦ってきた仲間のような、言葉を超えた繋がりを体感できる瞬間です。

あの場面では、僕たちだけでなく、袖にいるスタッフさんも含めて3人が協力しないと素晴らしいパフォーマンスにならないんですね。3人の目に見えないコミュニケーションがあの時間に凝縮されています。ビリーの姿勢や角度にも細かく決まりがあって、それらを一つずつこなしていって、できた!という歓びがある。それをお客様と共有できる。とても凝縮された時間です」

――彼のダンスを見届け、オールダー・ビリーは去っていきます。
「照明が光の道を照らし出して、僕としては彼に向って“俺は未来に戻る、お前は現実に戻れよ、ここからお父さんに向かって(バレエをやりたいという気持ちをぶつけて)行けよ、という感じで去っています」

――実はオールダー・ビリー役の俳優は他の役も兼ねているのですよね。
「炭鉱夫と警官とビリーのお父さんがロンドンで出会うダンサー役なども演じていて、けっこう忙しいですね。出ていないシーンのほうが少なくて、(裏で)着替えているか舞台の上か、という感じです。2幕ではドリームバレエがあるので出てないシーンもあるけど、1幕はかなり多くのシーンに出てるので、ぜひ見つけてほしいです」

f:id:MTJapan:20200914215309j:plain

大貫さんが兼ねている諸役のうち、警官役(『Solidarity』)。(C)Marino Matsushima

――本作のビリー役は出ずっぱりであるのに加えて歌もダンスも多く、かなりチャレンジングな役に見えるのですが、大人の俳優さんからご覧になっていかがですか?
「めちゃくちゃ大変だと思います(笑)。踊りながら歌うって一番しんどいのですが、そういうナンバーがたくさんあって、本当に大変です」

少年たちの熱量と成果に驚嘆

 

――以前、別件取材で前回公演の話題になって、ビリー役の子たちは当然のことながら最初からすべて出来ていたわけではなくて、それが指導のうまさと当人たちの努力であの素晴らしい成果が生まれたというお話をうかがいました。海外スタッフの様子をご覧になっていて、こういう声掛けは巧い、“魔法の言葉”だなと感じるようなものはありますでしょうか?
「振付補のトム・ホッジソンさんは、絶対に怒らないんですよ。たまに僕もダンススタジオで子供に教えることがあるので、怒らない、というのは衝撃でした。普通は、相手が出来ていないと、“なんで(できない)?”と言いたくなるんですよ。(笑)でも“なんで”は言わず、まず“ここはできてたよ”と褒める。そしてタイミングをみて“事実を伝える”。いいところは褒め、どうしてもだめな時はどうしたら出来るようになるかを伝える。気持ちの持っていき方が巧いな、と学びました」

――前回もビリー役の5人は個性豊かでしたが、今回の4人はいかがでしょうか。
「一番感じるのは、このコロナ禍で前半の公演が中止になってしまったけれど、その分、熱量がものすごく高くなっているな、ということです。ビリーって、年齢が決まっているから、また何年か後にできる役ではないじゃないですか。いったん休止となって焦りや不安がたまっていただけに、9月の開幕が決まった時の歓びは尋常でなかったと思います。稽古場では何を言われても、吸収しようとする姿勢がとにかくすごいんです。今回もお芝居をやっていた子、柔軟性に優れた子、歌が得意な子、バレエが得意な子、…と、一芸に秀でた子たちが選ばれていて、それが今や、よくそんなになんでも出来るなというところまで、皆全ての要素をこなしています。」

――どんな舞台になるといいなと思われますか?
「ストーリーはもちろん、楽曲も振付も含めて素晴らしい作品です。世界的な今の情勢、みんなの精神的状態もある意味リンクするような作品だと思うので、より心に刺さるのではないでしょうか。初演を経て、ここはこうするともっと良くなるのでは、というものが見えてきたし、再演というのはより磨きをかけられると思うので、さらに素晴らしい舞台をご覧いただけるのではないかと確信しています」

――昨年放映されたTVドラマ『ルパンの娘』では、大貫さん演じる円城寺によるミュージカル・シーンが毎回話題になりましたが、10月から続編が始まりますね。
「もちろん、出演しますし、今回もミュージカル・シーンが、あります。原作にはないオリジナルキャラクターでしたが、続投することが出来て嬉しいです。まだまだミュージカルを見慣れない方がいる中で、こうしたドラマで(ミュージカルに)触れていただくことで、舞台への足掛かりというか、舞台を観に行こうかなと思っていただけるようなワンステップになれればいいな、と思っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
公演情報 Daiwa House presentsミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』9月11日~14日(オープニング公演)、9月16日~10月17日=TBS赤坂ACTシアター、10月30日~11月14日=梅田芸術劇場メインホール 公式HP
*大貫さんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼント致します。詳しくはこちらへ。