“Smile though your heart is aching…”(心が痛む時も微笑んで…)
ナット・キング・コールの穏やかな歌声に包まれる場内。ステージ上には一本のゴーストライト(裸電球)とともに、一人の男(中山秀征さん)が現れます。
彼…ロバートは既にこの世を去っているのですが、生前、自身がオーナーを務めていた「クラブ・スマイル」が、借金苦で閉店寸前。経営を引き継ぐことになった娘メアリー(平野綾さん)の行く末が心配でたまらない彼は、別人に姿を変え、この店を愛するゴースト、フランク(玉野和紀さん)とともに現世へと舞い戻ることにします。
そんなこととは露知らぬメアリーは、なんとかショーをヒットさせて借金を返そうと、ダンサーのパトリシア(花乃まりあさん)、ロバート(入野自由さん)、デイビッド(松平和希さん)とともに振付を考える日々。そこにギャングのジェイムズ(屋良朝幸さん)、ウィリアム(中村浩大さん)、マイケル(鯨井未呼斗さん)が現れ、彼らのボス・ヴィンセントからの、借金返済猶予の条件を提示します。何とそれは、ショーの主役にジェイムズを据えること!
素人のジェイムズを主役に、という難題にメアリーたちは頭を抱えますが、ストリップ・ダンサーのリンダ(妃海風さん)も加わり、皆で踊ってみたところ…。ギャングは“俊敏さが命”とあって、図らずもジェイムズの才能の片鱗が明らかに。大いに気に入った振付家フランク(=舞い戻ってきたゴースト、玉野和紀さん)は、早速ジェイムズを主役にワークショップを開始しますが、実はジェイムズは“潔癖症”で“高所恐怖症”、そして“金属アレルギー”なのだとか。人との接近は禁止、階段は3段まで、金属の小道具は扱えない…という演出泣かせの状況の中、果たして一座はショーを成功させることが出来るでしょうか?
コロナウイルス禍により本来予定されていた演目に替え、急遽、玉野和紀さんが書き下ろした『Gang Showman』。時間的にも表現面でも、様々な制限がある中でのクリエーションであったことが想像されますが、そこはこれまでも『CLUB SEVEN』シリーズなどで創意あふれるショーを発表してきた玉野さんのこと、“ソーシャルディスタンス”もバリエーション豊かな“タップでの会話”で克服するなど、様々なアイディアで舞台人の“底力”を見せてくれます。
それが叶うのも、“出来る”キャストの存在があってこそ。滑らかな身のこなしで各振付を美しく咀嚼する屋良朝幸さん、コメディ・センスと清純さのバランスが程よいヒロイン役・平野綾さん、水先案内人かつ物語のキーマンとしての存在感と包容力たっぷりの中山秀征さんら、安定感あるキャストが奇想天外な物語を鮮やかに、楽しく演じ、観客を魅了します。
冒頭と終幕に登場するゴースト・ライトは、劇場の慣習で終演後や公演のない日に、舞台上で灯され続けるものなのだとか。主に安全上の理由で使われるこのライトは、今回の舞台では娘の奮闘を見守るロバートと二重写しに見えると同時に、自粛期間中も決して失われることのなかった玉野さんたちの“エンターテイナー魂”の象徴のようにも映ります。柔らかく周囲を包み込むその光とともに、再び流れて来る“Smile”をバックとしたラストの小粋な演出が余韻を残す舞台です。
(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報『Gang Showman』9月18日~10月3日=シアタークリエ 10月3日12:30~の千穐楽はLIVE配信も有。公式HP