Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

May’n「明日を生きるパワーを、たくさんの方に」:『生きる』を語るvol.2

f:id:MTJapan:20200816103625j:plain

May’n(めいん)愛知県出身。ホリプロタレントスカウトキャラバンをきかっけに2005年、15歳でメジャーデビュー。多くのTVアニメ、ドラマ、映画、ゲーム主題歌を担当しトップチャート入りを果たす。日本武道館や横浜アリーナでの単独公演や、世界ツアーも開催。18、19年「WEIBO Account Festival」にてROCK歌手賞、最優秀ライブパフォーマンス賞を受賞。19年ASIA MUSIC AWARDでも日本人として初の受賞を果たした。18年『生きる』でミュージカル初出演。©Marino Matsushima

黒澤明監督映画の“まさかのミュージカル化”として2018年の初演時、大きな話題を呼んだ『生きる』。ふだんは劇場に足を運ばない層にも口コミで広がり、熱狂的な支持を得た舞台できらりと光っていたのが、生きがい探しに戸惑う主人公・渡辺勘治に気さくに接し、大きな影響を与える女性“とよ”と、勘治の息子の妻・一枝を日替わりで好演したMay’nさんです。再演ではさらにいい芝居を、と意気込む彼女に、初演時のこと、今の思いをうかがいました。

名優に教えられた
“大切なこと”

――初演でのMay’nさんは自然に劇世界に溶け込んでいらっしゃる姿が印象的でしたが、ミュージカルには初出演だったそうですね。演技は以前から学ばれていたのですか?
「小さいころからミュージカルがすごく好きで、デビュー前に地元の市民ミュージカルに参加したこともありました。歌手活動をしながらも観劇は続けていたので、漠然と“いつかミュージカルをやれたらな”とは思っていましたが、当然ながら(ミュージカルには)演技があるので、初演の稽古が始まる少し前からレッスンを受けました。
でもいざ、『生きる』の稽古が始まるとわからないことだらけで。出来ない自分にいら立ったり、どうしたらできるんだろうと不安で一杯でした。
何が問題だったのかというと、台本に書いてあることだけうまく表現しようとしていたんですね。市村(正親)さんがしょっちゅう“May’n、やるぞ!”と本読みに誘って下さって、“台本に書いてないことは自分で作らなきゃダメなんだぞ。何人きょうだいで、どういう家庭で育ったとか全部自分で作っておかないと、ウソのお芝居になっちゃうんだよ”と教えて下さったんです。そこで、自分の中で想像してとよや一枝の人生を組み立てて、ノートにいっぱい書き込んで。そうしていくうちにすごく(お芝居が)やりやすくなっていきました」

f:id:MTJapan:20200816104620j:plain

一枝(May'n)『生きる』2018年の舞台より。撮影:引地信彦

――初舞台なのに日替わりで二役というのは…。
「それも大変でした(笑)。一つの役でも難しいところを、単純に覚えることが二倍で。でも終わってみると、全ての公演に参加させて戴けたのはとても嬉しい事でした。それまで、wキャストの公演を観たことはありましたが、自分が関わってみて、一つの役をいろいろな方が演じることでそれぞれの解釈が生まれることがwキャストの醍醐味、面白さなんだという気づきもありました。市村さんの勘治と鹿賀(丈史)さんの勘治は全然違うし、新納慎也さんの小説家と小西遼生さんの小説家も違う。そして“これが正解”というものもない。
私自身、唯月ふうかちゃんとwキャストでしたが、ふうかちゃんはこれまでミュージカルの世界でたくさんキャリアを積まれているし、単純に見た目も違うので、彼女と同じことをやるのは違うな、と思って、ディスカッションはしても(彼女から)あまり影響を受けないということは大事なんだな、と思いました」

自由奔放なとよ、向上心溢れる一枝

――とよと一枝、それぞれどんな人物として演じましたか?
「とよはとにかく自由奔放で明るく、誰にも気を遣いません。(演出の宮本)亞門さんは“今で言うKYなんだよ”とおっしゃっていましたね。自分の上司に対しても忖度せず、ずけずけ物を言うというのは私とは違うなと思って…だって、例えば私が市村さんにそんなことをするってものすごく難しいじゃないですか(笑)。はじめは難しくとらえていたのですが、そこではなく、勘治に元気になってほしい一心に集中して演技をするよう、心がけました」

f:id:MTJapan:20200816104803j:plain

(左から)小説家(新納慎也)、渡辺勘治(鹿賀丈史)、とよ(唯月ふうか)『生きる』2018年の舞台より。撮影:引地信彦

――とよは自分の余命を知った勘治に乞われて、これまで行ったことのなかった場所を訪ねるのにつきあってあげますよね。彼の事情を慮ってのことでしょうか?
「私の解釈としては、単純に楽しかったんだと思います。一緒にいて楽しい友達見つかった、という感覚だったのが、だんだん“もしかしてこの人、私のことを異性として好きなのかな?”と疑い始めて、一度は離れる。でも彼の心の奥底を知って胸打たれて、“いい友達”から“親友”になっていく…という感じなのかな、と思っています。
一枝も私、すごく好きなんです。私の中には一つこの役でテーマとして思っていることがあって、決して“意地悪な人”には見せたくないんです。原作映画でもこの役は気が強くて、ちょっと意地悪に見えがちなんですが、生きていくうえで彼女には彼女なりのテーマがある、ということだと思うんです。夫とこれから生まれる子供と自分との暮らしがこうなっていきたい、という未来への向上心がはっきりとある、強い女性なのではないでしょうか」

――最後に一枝は義父である勘治の真実を知るわけですが、この後、どう生きていくのでしょう。
「(めまぐるしく変わっていく)時代を生き抜いていかなくちゃ、という姿勢はぶれないで持ち続けるんじゃないかと思います。夫の光男を激励し、支えていくのではないかな。そういう意味でパワフルな女性だと思います」

“作っては壊し”を
繰り返した現場

――亞門さんの演出を受けてみての印象はいかがでしたか?
「あの(モノクロの)映画をこれだけポップで華やかなミュージカルに仕上げてしまう亞門さんは天才だな、と思いました。でもそこに至るまでには作っては壊し、を何度も繰り返されるんです。台詞のちょっとした語尾でも、劇場入りしてからも5回ぐらい変更があって、よく“あ~~覚えたのに~”と慌てました(笑)。そういうこだわりがあってこそのあの舞台なんだな、と思います」

――ジェイソン・ハウランドさんの音楽はいかがですか?
「素晴らしいですよ。音楽もすごくこだわって作られていて、途中で公開されたナンバーの歌詞ががらっと変わったことも、曲自体変更になったものもありました。もっともっと作品を良くしていこう、という強い思いが溢れていて、オリジナル作品の強みだなと思いました」

歌手として学んだこと

――アーティストとして歌っている時とミュージカルでは、歌唱法は変わりましたか?
「変わりました。もともと自分は滑舌はいいほうだと思っていたけど、J-POPではニュアンスを重視しているのに対して、ミュージカルではニュアンスは削ったほうがよくて、とにかく言葉が聞き取れないと台詞としては成り立たない、ということを目の当たりにしました。知らず知らずポップスの歌い方になっていることに気づいて、音楽的な抑揚はミュージカルではいらないんだなと学びましたし、それが公演後、自分の歌にも役立ちました。それまで以上に歌詞を思って歌えるようになったと思います」

――ミュージカルを初めて体験されて、ミュージカルっていいな、と思えたことはありますか?
「大変なこともたくさんあったけれど、キャストの皆さんが本当に助けて下さいました。先ほどお話した市村さんもそうですし、私が“師匠”と呼んでいる川口竜也さんも演技についての本を貸して下さったり、他の方々もちょくちょく“どうした?”と声をかけて下さって、たくさん相談させて頂きました。私は普段はソロ・アーティストとしてステージに立っているので、自分が引っ張っていかなきゃ、という意識が強いんですが、みんなが同じ温度感で一つのものを作り上げるってこんなにも心強いんだな、と新鮮に感じました。
もう一つ、舞台の空気がその日のキャスト、お客様によって全然変わってくるのも印象的でした。これまで音楽の世界で10年以上、ライブ感を大事にやってきたので、ミュージカルのライブ感もとても気に入っています」

f:id:MTJapan:20200816103827j:plain

(C)Marino Matsushima

――さきほどからお話していて、May’nさん、ちゃきちゃきと快活な語り口の方だなぁと感じますが、元来、とよのように“陽”のタイプなのでしょうか。
「初演にあたり、プロデューサーさんがライブでの私を見て、“とよ”だと直感してオファーして下さったそうです。自分としては一枝タイプかなと思っていたけど、そう見ていただけたなら、どちらの役も自然にできるのかな、と勇気づけられました」

さらに充実した再演に

――再演にあたってテーマにされていることはありますか?
「前回は初めての挑戦で、精一杯やって当時の最高の自分で舞台に立ちましたが、今回も同じ、ではなくステップアップした自分でないといけないと思うので、前回以上のとよと一枝をお届けしたいです」

――今回は一枝の夫である光男役は村井良大さんということで、また違った夫婦像になるかもしれませんね。
「楽しみです。村井さんの舞台はこれまで『デスノート』や『君はいい人、チャーリー・ブラウン』などを拝見させて頂いて、いろいろな村井さんを観てきましたので、光男だったらどうなるんだろうと思いました。新たな光男に対して、一枝も違った部分が見えて来るかもしれません」

――どんな舞台になるといいなと思われますか?
「この作品の一番の魅力は、とにかく“生きるパワー”だと思っています。とよも“ワクワクを探そう”というナンバーを歌いますが、本作は(悲しい要素があるにもかかわらず)観終わった時に“明日から頑張ろう、毎日ワクワクしていこう”とハッピーなパワーをもらえる作品だと思うんです。今回は東京以外でも公演ができるということで、たくさんの方に生きるパワーを届けられることを本当に楽しみにしています」

“支えられている”ということを胸に

――数か月の“自粛期間中”には、皆さんいろいろなことをお感じになったと思いますが、May’nさんはいかがでしたか?
「人との繋がりについて、いろいろと考えました。私はもともと、仲間たちとわいわい過ごすようなタイプではなかったけれど、それでもなかなか人と会えない状況の中で、親しい人たち、ファンの皆さんにお目にかかりたいな、会うことで自分はパワーをもらっていたんだなと再確認しました。『生きる』の初演の時だって、もし独りぼっちだったら“とよ”や“一枝”は絶対出来上がりませんでした。多くの人に支えてもらうなかで、自分は生きているんだ、と改めて感じます。
そういう思いも込めて、今回の舞台にも立ちたい、これからもミュージカルにチャレンジしていきたいです。お姫様の世界のミュージカル、『レ・ミゼラブル』のような文芸作品などいろいろ観てきていますので、そうした世界に自分も関わっていけたら、と思っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『生きる』10月9~28日=日生劇場 公式HP
*May’nさんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼントします。詳しくはこちらへ