時は近未来。アンドロイドたちが人間の仕事の一定部分をスマートにこなす傍ら、彼らに職を奪われた人間たちが抗議活動を展開するオープニング・ナンバーを経て、舞台は英国の田舎町に住む主人公・ベン宅へ。
数年前に事故で両親を亡くし、心を閉ざしたベンは働きもせず、かといって主夫業をするわけでもなく、弁護士として多忙を極める妻・エイミーをいら立たせる日々。その朝、なぜか庭に古びたロボットが迷い込んでいるのを見かけた彼女は“粗大ごみを追いやって”と言いおき、仕事に出かけてゆきます。
ベンが庭に出てみると、ロボットは四角い箱に排水管のような手足がついた、いかにも雑な作りで、最先端のアンドロイドとは似ても似つかないものですが、ベンが話しかけると名前は“タング”だと言い、知能はまだ生きているらしい。何かを感じたベンはこの壊れかけたロボットを調べ、シリンダーを替えれば直るのではと考えますが、帰宅したエイミーは呆れ、遂に家を出て行ってしまいます。
ショックを受け、両親との最後の会話も思い出されてふさぎ込むベンですが、タングを直してやらねばと思いつき、製造元があるらしいカリフォルニアへと、タングとともに旅立ちます。それが世界各地を巡る長い旅になろうとは夢にも思わずに…。
1964年初演の『はだかの王様』以降、様々なオリジナル・ミュージカルを発表してきた劇団四季にとって、昭和の歴史三部作の第三弾『ミュージカル南十字星』以来、16年ぶりとなる一般オリジナル・ミュージカル。題材として選ばれたのは、2015年に出版されたデボラ・インストールの小説で、台本・作詞の長田育恵さん、演出の小山ゆうなさん、作曲の河野伸さん、音楽監督の清水恵介さん、装置デザインの土岐研一さん、パペット・デザインのトビー・オリエさん(『リトルマーメイド』)と、数多くの外部スタッフが参加しているのが画期的です。
原作は妻が庭のロボットを発見する瞬間から始まりますが、今回の舞台では人工知能(AI)と人間の関係性がいびつになりつつある時代背景を印象付ける描写からスタート。そのうえでベンと壊れかけたロボット、タングの旅物語が展開し、ロボットと人間の友情、夫婦愛と、いくつもの要素が重なってゆきます。純粋に友情、愛の物語として楽しむこともできますが、人類の未来についての考察、一種の問題提起ととらえることも出来るかもできません。
ひときわ強い印象を与えるのが、ベンとタングが早朝、カリフォルニアに到着し、仮眠のため宿を探そうとするシーン。迷い込んだ宿は実は“春をひさぐアンドロイドたち”と、彼・彼女たちと遊ぶためにやってきた人間たちの定宿で、彼らはヘビーメタル調のナンバーに乗り、激しく踊り狂います。ベンたちの探求にとって重要なエピソードというわけではないのですが、アンドロイドの中には女性だけでなく男性も存在することで、この世界ではもはや“LGBT”はマイノリティ視されていないのだろうか、彼らを束ねる男役の本城裕二さん(この日のキャスト)が天を突くような歌声で“愛を”と歌っているが、ここで言う愛の定義は何なのだろうか等、近未来における人間の性や愛を観る者に考えさせる、興味深いシーンとなっています。
演技面ではまず、小学生ほどの背丈のパペットを二人がかりで遣い、はじめはぎこちなく歩き、喋り、次第に“学習”して人間に近づいてゆくタングを表現する二人(この日は斎藤洋一郎さんと長野千紘さん)が、ごく自然に見えるほど役をものにされています。腰をかがめた状態で台詞も(主に斎藤さん)発するのはフィジカル的に決して楽ではないと思われますが、二人の息もぴったり。見事にパペットに命を吹き込んでいます。
人間役ではベン役の田邊真也さんに、相手が人間であれロボットであれ分け隔てしない優しさが滲みます。もちろん数々のストレート・プレイ経験者とあって口跡もゆるぎなく、同じ田邊さんのベン役でストレート・プレイ版の本作を観てみたい気も。
今回、外部から大量の新風が吹き込まれたことで、劇団内に新たな創造の基盤が生まれたであろうことは想像に難くありません。再演を機に本作がフレキシブルにブラッシュアップされることもあるかもしれませんし、将来を見据えた様々な試み、アイディアも生まれてくることでしょう。海外作品上演のクオリティの高さによって英米の製作会社からも“SHIKI”が高く評価されているのは周知のとおりですが、それに加えて劇団が国際競争力のあるオリジナル・ミュージカルを創るカンパニーになってゆくのか、今後ますます目が離せなくなっていきそうです。
(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報『ロボット・イン・ザ・ガーデン』10月3日~上演中=自由劇場 公式HP
*配信情報 11月22日、23日13時公演が劇団初のライブ配信を予定。「劇団四季ライブチャンネル」「U-NEXT」「Rakuten TV」にて。