Musical Theater Japan

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海宝直人インタビュー『ロカビリー・ジャック』新境地に挑む

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海宝直人 千葉県出身。7歳で『美女と野獣』チップ役でデビュー。後に『ライオンキング』初代ヤングシンバとして同役を3年間演じる。長じて『ファントム』『レ・ミゼラブル』『アラジン』『ノートルダムの鐘』『ジャージー・ボーイズ』『ジーザス・クライスト=スーパースターin コンサート』等、様々な舞台で活躍。ロックバンド「シアノタイプ」のヴォーカリストとしても活動している。ヘアメイク:AKI スタイリング:鈴木拓人 (C)Marino Matsushima
2013年、15年に好評を博したオリジナル・ミュージカル『SONG WRITERS』のクリエイター・コンビ、森雪之丞さん(作)&岸谷五朗さん(演出)の新作が登場! 悪魔と契約してスターダムに駆け上がったロカビリー歌手、ジャックの愛と青春を、斉藤和義さんによるテーマ曲をはじめ、カラフルなオリジナル・ナンバーとともに描き出します。
 
この物語で、屋良朝幸さん演じるロカビリー歌手ジャックを子供のころから慕い、長じてはマネジャーとして支えるビルを演じるのが、海宝直人さん。『レ・ミゼラブル』『アラジン』等の大作ミュージカルでの活躍はもちろん、ロンドンの舞台への出演など様々な経験を通して着実に成長を続ける彼が、今回(おそらく)初めて演じるタイプの役柄とは? 刺激を受けっぱなしだという稽古の様子、最近の活躍の中で感じること等たっぷりうかがいました。
“絶妙なバランスの歌唱”を目指しながら、新境地を開拓

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『ロカビリー・ジャック』
――海宝さんは岸谷五朗さんの演出作には初めての出演ですか?
「はい、初めてです」
 
――“岸谷組”では通常、稽古前にたっぷりストレッチをなさると聞きましたが…。
「今回もやっています。ストレッチに始まって走ったりマット運動をしたりと、45分くらいのアップがありますね。本作ではアクション要素もあるので、怪我防止のためにも念入りにみんなで準備運動をしています」
 
――海宝さんも今回、アクションを…⁈
「僕はかっこいいアクションではなくて、いかにコミカルに見せられるか、というところで床とお友達になるよう努めています」
 
――なるほど。台本を読んでの第一印象はいかがでしたか?
「楽しい舞台になるんだろうな、と想像しながら読みました。登場人物たちもキャラクターが濃いし、ギャグもちりばめられていて。稽古に入ってみると、そこに皆がさらにアイディアを出しあっていて、すごく刺激的です」
 
――岸谷さんの演出はいかがでしょうか?
「台本からは想像していなかったような動きをつけて下さったり、台詞を足して思いもよらなかったシーンに仕上げていらっしゃったり、発想のジャンプというか、“そう来たか!”と驚くことの連続です」
 
――それは例えば…。
「場面転換の仕方もそうですし、登場の仕方も面白いですよ。僕が演じるビルの登場シーンも、台本を読んだときはごく普通に登場していましたが、稽古に入ってある趣向で演じることになりました。遊びの感覚で、お客様を沸かせたり、くすっとさせる要素をちりばめていらっしゃいます」
 
――音楽面では、テーマ曲を書かれた斉藤和義さんはじめ、さかいゆうさん、福田裕彦さんと複数の方が作曲に参加されています。一人の方がすべての曲を書くミュージカルが多い中で、珍しい形ですね。
「この作品にはすごく合っていると思います。リプライズ的なナンバーも少ないし、一つのモチーフを何度も出して繋いでいくという手法も使わず、状況やキャラクターに合った曲がパンパンと色鮮やかに飛び出してくる作品です」
 
――台本には“~~”みたいな曲調のナンバーを歌う、といった具合に、ト書きに既成のポップスの曲名がイメージとして多数挙げられています。海宝さんはご存じの曲、ありましたか?
「父がオールディーズ好きで、車の中でいつも聴いていたこともあって、知っている曲もありました。でも本作は音楽的な幅が広くて、登場人物それぞれの個性がわかるいろいろなナンバーが出て来るので、どなたでも楽しめると思います。僕の場合、ひたすらジャックへの愛に生きて彼のために奔走するという役なので、一人で思いを吐露するバラード調の曲が多いです。でもミュージカル・ナンバーという感じではなく、ポップス的な曲調です」
 
――ミュージカルのナンバーとポップスとでは、歌唱法も変わってくるのでは?
「ふだん、ミュージカル・ナンバーではいかに“語るか”を考えますが、今回はアーティストの方々が書き下ろした曲ばかりでそれぞれの個性が出ているので、それをどう生かすかを考えてやっています。ただビルの場合、心情を歌うナンバーでもあるので、バランスが難しいんです。(音楽監督補・ヴォーカルデザインの福井)小百合さんと相談して、ここはもっとアーティストぽく歌ってもいいんじゃない?と言っていただいたり、一緒に考えてやっています」
 
――ポップスだとその人の声質を活かしたり、意図して個性的な発声をしたりもしますよね。
「そこのバランスが難しいです。絶妙なところを狙っていこうと思っています」
 
――さて、ビルは兄貴分のジャックを慕っているわけですが、ただ慕ってるだけではないというのがミソ…というお役ですね。これ以上言うとネタバレになってしまうのですが…。
「そうなんですよね。そこがチャーミングというか、よく考えると、ビルの行動が矛盾を生んだり、騒ぎを起こしてしまう。この作品のドタバタはビルが起こしているのかもしれません。それで焦ったり、悩んだりするという(笑)。そういう葛藤はビルの魅力の一つになっていくんじゃないかと思います」
 
――一生懸命だけど結果的にコミカルなお役、これまでにも経験されていますか?
「今まであまりやったことはないですね。うまくキャラクターを作れたら、と思って岸谷さんに演出いただきながら、必死にいろいろ試しています。先日、(ヒロイン役の)昆夏美さんとも話していたのですが、お客様が入ってからでないと、意外にここで笑っていただけるんだとか、逆にここは笑いは起きないんだというのがわからない部分もあるんですよね。岸谷さんも“最高の未完成の作品を作りたい”とおっしゃっているので、開幕してからもトライをし続けて、前に進んでいけたらと思っています」
 
――海外発の大作ミュージカルに出演されることの多い海宝さんにとっては、“創る”場である新作オリジナル・ミュージカルは新鮮でしょうか?
「そうですね、今年はオリジナルの『イヴ・サンローラン』に始まって、3回目ですが演出助手が変わって新しいアプローチを試させていただけた『レ・ミゼラブル』、そして本作に出演させていただいて、いろんなチャレンジをさせていただけました。オリジナル・ミュージカルはゼロから作るので、いいか悪いかわからないけどお互いいろいろ(アイディアを)出しあって整理していけるのが、大変だけどやりがいがあります。今回もまだまだ模索中ですが、何かをつかめる瞬間を作っていけたらと思いますね」
 
――屋良さん演じるジャックとの関係性も、稽古のなかですっかり出来上がってきたのではないでしょうか。
「まだどうなるかわからない部分もありますが、ジャックという役柄が、台本のイメージよりチャーミングでかわいらしい役になってきていて、ビルに甘えたりとか、お互い甘えあう場面もあります。それを受けて、ビルとしては彼の弱い姿、悩む姿を陰で見守りながら、そういう部分も愛しく思える。そんな関係性が稽古の中で出来上がりつつあります」
 
――どんでん返しにはビルも関わっていますよね。
「まさかのまさか、ですよね(笑)。ここについても五朗さんがちょっとした演出を付け足していて、伏線を張っています。最後の最後に何が起きるか、楽しみにしていただけると嬉しいです」
 
――どんな作品になりそうでしょうか?
「お客様が観終わって“楽しかったね~”“もう一回観たいね”と言っていただけるような舞台になると思います。結末が分かったうえでもう一度観ると、2回目はきっと違って観えるんじゃないかな。笑って年末を過ごしていただければと思います」
終わりなき声の探求
 
――最近のご活躍についても少しだけうかがわせてください。近々ではラミン・カリムルーなど、国際的な布陣で上演された『ジーザス・クライスト=スーパースター』コンサートでの出演(シモン役)が話題になりましたが、いかがでしたか?
「経験出来てよかったです。(共演の)皆さんのパフォーマンスも素晴らしかったし、演出家のマークさんが、カンパニー一人一人の繋がり、コネクトすることの大切さを改めて感じさせてくれました。本番までは三日ぐらいしかなかったので、初日は歌稽古だけ、あとの二日間で舞台稽古というタイトなスケジュールでしたが、毎朝みんなで手をつないで、お互いに目を見て今日の気分などを語り合って瞑想のような時間を持って稽古に入るんです。国際的なカンパニーでも、言語やカルチャーは壁にはならないんだな、濃いコネクト(結びつき)が出来れば一つのものを作れるんだなと感じました。
シモン役については、客席のお客様たちも作品の中に巻き込んで、僕が客席を煽って盛り上げる演出だったので、ナンバーの盛り上がりがそのまま作中の熱狂に繋がっていったと思います。客席を巻き込んでいくのがとても楽しかったです」
 
――筆者は夏の終わりに『ジーザス~』の作詞家、ティム・ライスのお宅に遊びに行ったのですが、そこで今度こういうコンサートがあって日本の有望な若手がシモンを演じるという話をしたところ、ティムは「シモンは本作において扇動者。そのスタンスさえ守ってくれればきっと成功すると思う」とおっしゃっていました。まさにそれがかなったのですね。
「そうですね、いかに熱狂させられるかというのがテーマでした。お客様の拍手すら作品の一部になっていくのが実感できました」
 
――その前後のご自身のコンサートでも、大きな会場でたくさんの観客を見事に取り込んでいらっしゃいましたが、今は“(ミュージカル)作品の中に入る事”と“ご自身の世界を表現すること”という両輪を持つことが理想なのですね。
「まさにそうです。昨年は綱渡りもさせていただいたし、いろんな作品にめぐり合わせていただきましたが、来年も『アナスタシア』に始まって『ミス・サイゴン』など全然違うテイストの作品に挑戦させていただけるのが楽しみです。海外での活動についてもずっと思いがあるのでそれは続けていきたいし、バンド活動やソロ・コンサートといった自分自身の表現もやっていけたらと思います」
 
――日本を代表するような形で国際的な公演にも出演されるようになりましたが、歌唱についてはまだ満足されていない部分もありますか?
「もちろん、まだまだだと思っています。『ジーザス・クライスト=スーパースター』コンサートでも、他の皆さんのテクニックを間近に見ることが出来て、もっと上を目指したいという思いが強くなりました。やはりミュージカルは西洋発の文化と言うこともあり、彼らの音楽に対するアプローチには刺激を受けますね。すごくおもしろかったのが、ピラトのソロが終わった時に(そのシーンに出演していなかった)ラミンが舞台に上がってきて、“その声どうやって出しているの?”とピラト役のロベールに尋ねたんですよ。終盤のシャウトのところです」
 
――“Don’t let me stop!”のところですね。
「そうです。それに対してロベールは“こうやるんだよ”とやって見せていて、喉に負担なくエッジを効かして声を出す、いわゆるエフェクターみたいなことだとわかりました。その様子を間近に見ていて、声の探求って終わりがないんだな、底知れないものなんだな、と思いました」
 
――いろいろなものを持っている人との出会いが大切ですね。
「そう思います。影響を受けています」
 
――子役、少年、そして若手俳優として順調に成長を続けていらっしゃいますが、最近は“お兄さん”的な存在となりつつあるのも感じていますか?
「これまでは自分がカンパニー最年少ということが多かったけど、年下が増えているとは感じています。今年の『レ・ミゼラブル』のマリウスもトリプルキャストでしたが、若手の役者さんと同じ役だと自分の“今”の状況が改めて客観視できるんですよね。やはりフレッシュさという点においては、15年の(初めて出演した時の)感覚は出そうと思って出せるものではないし、それなら何ができるだろうと考えることが出来ました」
 
――今はある意味過渡期なのかもしれませんね。
「いろんな面で表現の幅を広げていきたいです。歌一つをとっても“こう表現したいのにこれがストッパーになっている”というものがあって、それが外れればもっと広がるのになという感覚がある。自分の表現したいものに対してテクニックで追いついてないものをまだまだ磨いていきたいと思っています」
 
――曲を書いたり、といったことはいかがですか?
「ずっとやりたいとは思っていて、バンドでも一曲書いています。ミュージカルでも作曲ができたら素敵だけど、ハードルは高いだろうと思います。今は役者として出来うる限りのことにチャレンジしていきたいです」
 
――観る人々にとってどんな存在でありたいですか?
「作品のテイストにもよるかと思いますが、自分が参加することで、作品のメッセージをきちんとお伝えしたいですし、お客様に“明日頑張ろう”と思っていただけたり、少しでも力づけることが出来たらと思っています。演劇をやっていくうえでそれは大切にしたいです」
 
――ご自身がどう、という以前にまず、作品主義。だからこそいろいろなお役で輝いていらっしゃるのですね。
「有難うございます。これからも頑張ります!」
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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公演情報『ロカビリー・ジャック』12月5日~30日=シアタークリエ、その後福岡、愛知で上演 公式HP
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