Musical Theater Japan

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村井良大『ラヴズ・レイバーズ・ロスト~恋の骨折り損』でシェイクスピア・ワールドを楽しむ

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村井良大 東京都出身。06年にデビュー、TVドラマ・映画『仮面ライダーディケイド』、舞台『弱虫ペダル』『里見八犬伝』、ミュージカル『RENT』『あなたの初恋探します』『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』等多彩に活躍。来年は『デスノートTHE MUSICAL』に出演予定。(C)Marino Matsushima


中世にピレネー山脈西部に実在したナヴァール(ナバラ)王国を舞台に、「3年間は勉学に集中」「恋愛禁止」の誓いを立てた国王ファーディナンドとその学友3人が、美しき女性たちと禁断の恋の騒動を繰り広げる『ラヴズ・レイバーズ・ロスト(恋の骨折り損)』。シェイクスピアの喜劇の中でも軽やかな傑作と言われる本作が、2013年、NYでロック・ミュージカルに大変身。スタイリッシュな衣裳に身を包んだ男女のラブコメ・ミュージカルとして上演され、評判を呼びました。

この話題のミュージカルが、上田一豪さん演出で日本に上陸。国王の親友で弁の立つビローン役で綺羅星のようなキャストをリードするのが、村井良大さん。『RENT』のマーク役で鮮烈な初登場を果たして以来、相性抜群のシアタークリエで、満を持して(⁈)シェイクスピアものに挑みます。演劇人ならば一度は通過せずにはいられないシェイクスピア・ワールドに、村井さんはどんな思いで足を踏み入れようとしているでしょうか。プロフィールについてのお話とともに、じっくりうかがいます!

いつか挑んでみたかった、
シェイクスピアの豊饒な言葉の海

――村井さんはシェイクスピア関連の作品は今回が初でしょうか?

「初めてです。シェイクスピアというと、朗々と言葉が連らなったり難しい言い回しがある一方で、感情を掻き立てられる言葉が多くて、やってみたいとは思っていました。(言葉の量が多いので)覚えるのはきっと大変だろうけれど、自分で構築していくのは楽しそうだな、と」

 

――言葉の多い台詞劇願望があったのですか?

「言葉が少ないものも好きなんですが、特に舞台の場合、静かな演目より言葉の多い作品のほうが(メリハリがあって)面白いじゃないですか。以前、四人芝居をやった時はずっと喋りまくって、相当頭を使ったので疲れはしたけれど、面白い作品だったのでやってよかったなと思えました」

 

――シェイクスピアといっても様々なタイプの作品がありますが、どんなジャンルのものがお好きですか?

「日本人は愛を語るのが苦手というのもあってか、今回のような“恋物語”系に奥深さを感じますね」

“禁を破る”というモチーフに
西洋人ならではの開拓精神を感じます

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『ラヴズ・レイバーズ・ロスト~恋の骨折り損』

――村井さんが今回演じるのは、ナヴァール国王ファーディナンド(三浦涼介さん)の学友3人組の一人、ビローン。どんな人物をイメージしていますか?

「設定としては頭脳明晰な人物で、そういう人ってコミュニケーションがうまくて話が旨いという印象がありますね。(他者との)セッションがうまくてウィットにとんだ会話ができるのかな。堅いイメージは全くないです」

 

――最近、世の中は“無理に恋愛しなくても生きていける”と、草食化が進んでいるとも言われていますが、そんな中で“恋したい!”という心理が核になっている本作を演じることをどう感じますか?

「非常に欲深い言葉が並んでいる作品だけど、それが本来のあるべき姿なんじゃないかという気がしますね。稽古が始まったら、みんなで体験談を話したりしてもいいんじゃないかな。やっぱり実体験して(恋の)苦しみも喜びも知ってる人の表現が一番はまると思うので。あと、この作品は“恋愛禁止”という禁を破るというのがポイントになっていて、それって一つの快感ですよね。一つの場所にとどまる方が幸せ、みたいに保守的な日本にはない、開拓精神のある西洋的な発想なのかなと思います」

ビローン役のモデルに
上田一豪さんはピッタリかも⁈

――演出の上田一豪さんとはご一緒されたことがあるのですね。

「シアタークリエの10周年シリーズ『TENTH』の、『next to normal』でご一緒しました。一豪さんこそビローンのような頭脳明晰さで、演技から照明まで舞台のあらゆることをいつも考えながらも、そのビジョンが的確で、信用できるんですよね。役者がこうやりたいというのもすごく汲んでくれて、これってああですかねこうですかね、と相談しやすいんです。『next to normal 』は難解な作品と言われることもあるけど、僕はもともとこの作品のファンだったので、台本から感じ取ったものを自分なりに出して、一豪さんと“ここはこういう感情だよね”というのを一つ一つ確認していけたので、大変さはありませんでした」

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TENTH『next to normal』写真提供:東宝演劇部

――『ラヴズ・レイバーズ・ロスト』に戻りますが、音楽的にはいかがでしょうか?

「僕の好きなジャンルですね。ロックミュージカルですし、ライブ感覚で観て頂けるのではと思います」

 

――NYで上演された時には、男性たちそれぞれ、ソロナンバーでタップを踏んだりファルセットで歌ったりと、或る意味“技の出し合い合戦”の様相を呈したようですが、もし何でもあり!となったら村井さんは何をなさいますか?

「その役柄に合うかというのもあるかと思いますが、僕、タップは好きですよ。暇があると踏んでいます」

 

――今回、ご自身の中でテーマにしたいことなどありますか?

「ラブコメで楽しく見られる作品だと思うので、楽しくはやりたいです。ラブコメって、やっている側が楽しくないと成立しないんですよ。それを大切に、なるだけ新鮮な新しいものを持ってこれるよう、みんなの芝居を見ながら自分の役柄も作っていきたいです」

ずっと憧れている
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の完成度

――プロフィールについてもうかがいたいのですが、村井さんはもともとどのジャンルを志望されて芸能界入りされたのですか?

「最初から変わらないのが、舞台と映画を一緒にやりたいという思いです。舞台でも映像でも面白い俳優さんが目標です」

 

――子供の頃にどなたかに憧れたりというのはありましたか?

「特定の俳優さんではないのですが、映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が好きです。あまりに完成度が高くて、ここまで練り込まれた作品にはなかなかお目にかかれないけど、こういう作品を作りたいなといつも思いますね」

 

――ということはクリエイターもやってみたいと?

「クリエイタ―の能力は無いと思うので、演技で作品に参加したいです。役者は雇われる側なので、いただいたものを最大限努力して頑張るというのが僕の考え方。でももちろん、やりたい作品はありますよ。それこそ『next to normal』はあの世界観に入りたいってずっと思っていて、すごくやりたい作品だったし、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も今度、ミュージカル版がロンドンで開幕するので、日本でやることがあれば何が何でもやりたいです。一つ言えるのは、日本であの主人公が一番できるのは俺です!もうDNAレベルまでしみ込んでいますから(笑)…と、これからはあちこちで言っていこうかなと思っています。そうそう、僕自分は意識していないけれど、よく、芝居が(『バック~』に主演した)マイケル・J・フォックスに似てるね、とも言われるんです」

ミュージカルも“芝居”なんだという基本を
忘れずにいたい

――筆者的には、村井さんというとミュージカルで驚くほど自然な演技をされる方、という印象があります。歌の面でも、地声のままでかなりの高音まで歌われますよね。

「声域が広くてファルセットにする必要がないだけ、とも言えます(笑)。でも最近は、ファルセットの方がきれいなこともあるから、自分の幅を広げる意味でも、練習しようと思っていますね。
根底にあるのは、ミュージカルであってもこれは“芝居なんだ”という考えかもしれません。芝居から突然歌に変わるというのではなく、芝居の延長で歌になっていたというのが理想です」

 

――何か特定の作品でご自身の演技が変わったということはありましたか?

「あんまり変わってはいない気がしますが、昔の方が自由だったかもしれません。最近は、この前(別の演目で)見たこういうものをとりいれようとか、このシーンにはこういう芝居が的確だろうというイメージを持ってやっているけれど、昔はそういうものがなく“僕はこう思います”という感性だけでやっていたから、或る意味自由。今はいろんな正解、不正解が分かるじゃないですか。そういう意味では、芝居は変わっていないけれど価値観は変わっているかもしれません」

 

――2.5次元ミュージカルにも出演して来られましたが、一般のミュージカルとどんな面で違いを感じますか?

「その役にはまった演技のよりどころが、一般のミュージカルは台本であるのに対して、2.5次元は原作漫画ということなのかなと思います。僕も漫画を読むので、2.5次元の舞台で登場するキャラクターが漫画のそれと似てなかったら嫌だけど、それって例えば長年『レ・ミゼラブル』の舞台を観てきた人が、もし今までと全然違う演技をする人が出てきたら嫌だなと感じるだろうことと同じで、根本的には同じだと思うんですよね。一般のミュージカルに出るようになっても、自分の中で違和感ややりにくさはなかったですよ。(マーク役を演じた)『レント』は、衣裳もよりどころになりました」

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『RENT』写真提供:東宝演劇部


――ご自身にとってミュージカルとの出会いは必然でしたか?

「『RENT』との出会いは必然だったと思います。自分の人生が変わりました。こんな世界があるんだということをダイレクトに教えてくれたというか。『RENT』にはRENTイズムというものがあることを知ったし、『RENT』に出た人たちがみんな家族のようになるというのがどういうことか分かりましたし…。僕の場合は劇場で観たことがないまま出演したのですが、そういう出会いが逆に良かったなあと思います」

誇りを持ち、誰よりも楽しんで役割を全うしたい

――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「自分が作ったものに対して誇りを持てる表現者になりたいですね。舞台であっても映像であっても後悔せず、これでいいと思えるものを作っていきたい。でないと、何かを指摘された時に修正することもできないし、作品を作るうえで自分がそのエッセンスになるとしたら、しっかり誇りを持ってやっていきたいと思います。

 

――今まではそれが出来てきたという手ごたえが?

「それはご覧になった方の価値観に委ねたいです。あまり自分で決めたくなくて、作品は自由なものだし、価値観や個性って人それぞれですので、面白いという人もいればつまらないという人もいる。お客さんが観ていてつまらないと思ったら、帰っていただいてもいいんですよ。僕は映画館に行くと、エンドクレジットまで観てから判断するタイプですが、つまらなかったらそれはそれでいい。逆にそれがすごく面白いという人もいますし。
ただ、自分が芝居をするときは一番楽しんでやりたいと思います。その作品の役に立ちたいし、役割を全うしたい。そこまでは全力です。でもその後の感想というのは、ご覧になる方にお任せします」

 

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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公演情報『ラヴズ・レイバーズ・ロスト~恋の骨折り損~』10月1日~25日=シアタークリエ、その後兵庫、福岡、愛知で巡演 公式HP
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