Musical Theater Japan

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ストレート・プレイへの誘い:伊礼彼方インタビュー『ダム・ウェイター』で初プロデュースに挑戦

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伊礼彼方 アルゼンチン生まれ、神奈川県出身。音楽活動を経て舞台に出会う。『レ・ミゼラブル』『ジャージー・ボーイズ』『ビューティフル』『王家の紋章』『テンペスト』『グランドホテル』等、ミュージカルからストレート・プレイまで多彩な作品で活躍している。

『レ・ミゼラブル』『ジャージー・ボーイズ』等、様々な作品で活躍中の伊礼彼方さんが、このほど初めて舞台をプロデュース。シェイクスピア劇出身の河内大和さんとともに、ハロルド・ピンター作の二人芝居、『ダム・ウェイター』に挑みます。

地下室で展開する殺し屋たちの物語にぴったりの劇場(小劇場 楽園)を得て、伊礼さんたちが目指す舞台とは? 途中で演出の大澤遊さんにもご登場いただきつつ、伊礼さんの“今の思い”をうかがいました。

*ハロルド・ピンター 1930年~2008年 英国ロンドン生まれ。舞台俳優を経て57年に劇作家デビュー。不条理な作風で知られ、代表作に『ダム・ウェイター』『管理人』『背信』など。『フランス軍中尉の女』『スルース』2007年版等、映画脚本も多数手がけている。2005年にノーベル文学賞を受賞。

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『ダム・ウェイター』
心のジェットコースターに乗っていただける
演目を、敢えて選びました

――今回は80席規模の劇場(当日はコロナ感染対策として、41席のみ使用)での上演ですが、以前から小劇場には興味があったのですか?
「小劇場、好きですね。以前から 「シアター風姿花伝」とか、よく観に行っています。自分でも150席くらいの規模の劇場では芝居をやったことがありますが、下北沢、そしてここまで小さい劇場は初めて。最初にこの劇場を見た時は、小ささに驚きつつ、“生の演劇”をお客様にご覧いただけるチャンスだな、やりたい!と思いました。(客席が舞台を2方向から囲む構造のため)観る方向で2通り楽しんでいただけるな、というのも魅力でした」

――演じる側にとって、小劇場の良さはどんな点にありますか?
「お客様が近くにいること、そして細かい芝居ができる点ですね。僕は大劇場でも細かい芝居をする方で、演出家から ”それは(後方のお客様には)伝わらないからいらないです“と言われることもあるけれど、役の持っている空気みたいなものは伝わると思っています。そういう部分にこだわっているので、つぶさに観て戴ける小劇場は魅力なんです」

――劇場の大きさによって芝居のテンポ感が変わってくることはありますか?
「音楽のある・無しで変わってくることはあるけれど、お芝居そのものはそれほど変わってきませんね」

――ミュージカルと演劇でも変わりませんか?
「その垣根を壊したいと思って活動しているので、あまり変わらないです。ミュージカルだと歌詞を間違えると(音楽が進行するので)言い直しができないのに対して、ストレート・プレイは言い直しができる、といった違いはありますが、役の作り方は同じですね」

――ストレート・プレイでは音楽がないことに、心細さを感じることはないですか?
「音楽が無くても、“血流”を聴いてそれを音楽にすればいいんじゃない?と思います。脈だったり心拍数だったり…。沈黙もある意味、音楽。音が鳴っていなくても役者同士でセッションはしている。だからあまり違いは感じないです。そういうリズムを自分で生み出せるようになると逆に音楽が邪魔に感じることもあるほどだけど、ミュージカルは楽曲が中心にあって、音楽によって芝居を変えなくてはいけないこともあります」

――今回はセルフ・プロデュース公演なのですね。
「いつもはオファーをいただいて公演に参加するという形ですが、今回は自分たちで一から組み立てています。やってみると、やはり大変ですね。ライブをやるのと規模が全然違います。ライブだと(自分以外には)音楽監督とミュージシャンがいればいいけれど、舞台公演となるとそんな比じゃない。一つの世界をどのセクションでも共通認識のもと1から作り上げる大変さと共に、それが舞台芸術の醍醐味ですね。
演出家はどうしようか、当初ダメもとで白井晃さんや小川絵梨子さんにも相談し、お二人ともスケジュールが大丈夫ならやりたい!っておっしゃって下さいましたが、今回、絵梨子さんから“ピンターなら!伊礼くんとも合うと思うよ”と、大澤(遊)さんを紹介して頂きました。大正解!でしたね。
僕は全体を裏側の立場から見るのも好きなので、今回、スタッフサイドにも立つことで、クリエイターの葛藤が分かるようになりました。お金がかけられるところとかけられないところがあったり、それを回収するにはある程度のチケット代を考えないといけないし、でもなるべく幅広い方にご覧いただきたい、という様々な葛藤だとか。大変だけど面白くもあります」

――河内大和さんとの共演も伊礼さんのご希望だったのですか?
「たまたま久しぶりの出会いがあって、この人とだったら絶対面白い芝居が出来る、と思って声をかけました。彼とは(白井晃さん演出のシェイクスピア劇)『テンペスト』でご一緒していますが、その時の彼は半分人間、半分魚の怪物、キャリバン役。その後の出演作を見ても、二癖も三癖もある役ばかり演じています。僕はいつも、自分だけの世界で生きるのはつまらない、まったく違うタイプの方から影響を受ければ自分の活力になるし、新しい自分が生まれると思っていて。今回、彼と一緒にやることで、僕が今まで経験したことのないような引き出しが出せるんじゃないか、と思いました」

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『ダム・ウェイター』ベン(河内大和)


――素材に『ダム・ウェイター』を選ばれたのは?
「(主戦場としている)ミュージカルは華やかなものが多いので、真逆なものがやりたいな、と思っていました。河内さんと“何をやろうか”と話し、いろいろな二人芝居を読みましたが、温和な芝居ではない、振り切った芝居が出来るのはどれか。ミュージカルのお客様がふだんご覧にならないようなものはどれだろう、と考えた時に出てきたのが本作です。難解だけど、だからこそやる意味がある。ふだんは大劇場で、細かいところまで気にせず観劇している方にも、細かい芝居で(物語を)お伝えしたい。歌が無くても、沈黙でもこんなに緊張感があるんだと知っていただきたい。地下室の物語というのも(地下にある)この劇場にはぴったりで、階段を下りる度に不穏な空気が募っていったり、不条理な展開で心のジェットコースターに乗っていただけると思います。
大作が続くと、こういうチャレンジってなかなか出来ないんです。ミュージカル界って、2年も3年も前からスケジュールが決まっていますから。今回、この作品に取り組みながら、時にはこういうチャレンジが必要だと心から思いました。ライフワークにしていけるといいですね」

――ネタバレが心配なので、恐る恐るお尋ねしますが(笑)、本作には二人の男が登場しますが、彼らは殺し屋であるわけですね。
「“今日は誰を殺すのか”という指示を、地下室で待っている状態です。ある時刻までそこにいて、その間の二人の葛藤が描かれます。余白の多い芝居で、そこは今、演出家と何度も読み合わせをしながら情景を想像しています」

――ダム・ウェイターとはレストランの料理の昇降機のことで、本作には部屋の真ん中にそれがあるという設定ですが、これは何かの象徴なのでしょうか?
「(社会的な)階級の象徴のようです」

(と、そばにいた大澤さんも話に加わり)
大澤遊「“ダム・ウェイター”というのはダブル・ミーニングで、“喋れない、待っている人”という意味でもあります。つまり主人公二人のことでもあり、昇降機のことでもある。それをお客さんがどうとらえるか、ですね」

(それをふまえて再び伊礼さん)
「これがお芝居の面白いところなんじゃないかな。知っているのといないのとでは観方が全然変わってくる。僕は割と知らないでおくタイプで、台詞に乗っていない部分を役者がどう表現しているかを観たいと思う。喋っていない人がどういう顔をしているんだろうと思って観るのが面白いんですよ。『ダム・ウェイター』は、まさにその積み上げが出来る芝居だと思うので、お客様は濃厚な時間を経験できるんじゃないかな」

――ベンとガス、二人の殺し屋のうち、伊礼さんはガスを演じるのですね。
「何も考えていないようで、いろんなことを深く掘り下げている人物なのかなと思っています。ぱっと読むとお馬鹿なのかなと思うけど(笑)、そこを演出家がうまく素材を引き出して調理してくれています」

(ここで再び大澤さん)
大澤「僕が思っている伊礼さんのお茶目な部分がガスの中にもあるし、鋭い視点、感覚が光る瞬間がある役です。ただお茶目なのではなく、ふだんは秘めているというのが面白いと思います。きっと伊礼さんご本人の人間的な魅力が垣間見えてくると思います」

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『ダム・ウェイター』ガス(伊礼彼方)

――ご本人的に、稽古の中でご自身が赤裸々になっている感覚はありますか?
「まだ落とし込めてないけど、それがストレート・プレイの好きなところですね。(音楽やダンスといった)助けてくれるものがない、そこが面白い」

――ご自身をさらけ出しながら役に取り組んで行かれる。役者さんって、つくづく勇気あるお仕事なのだなと感じます。
「変態ですよね、役者って(笑)。役だったら、脱げと言われたら躊躇なく脱ぎますもの。でも伊礼としてだったら無理ですね。ライブなどで「個」の伊礼彼方で活動すると、時々自分の世界の狭さを知って限界を感じるけれど、役に扮するとばっと世界が広がって、何でもやってみたくなる。一つ役のフィルターを通して人前に出ることには強い、こういう人って役者には多いんじゃないかな」

――(役だとしても)これはちょっと表現できない、と思ったことは無いですか?
「あります、もちろん。アドバイスしていただいて、ようやくつかめることもあれば、つかめないままということもあります。これが正解!っていうのがあるわけじゃないので、突き詰めれば役者って職人だな、って思います。どんなに周りが良いと言っても、自分が納得するまでは人前に出られませんし」

――今回、どんな舞台になるといいなと思われますか?
「本作を機に、ミュージカルとスト・プレの垣根を壊せればと思ってます。日本ではミュージカルとスト・プレがはっきり分かれている部分があって、僕としては敢えてどっちつかずの存在になっていきたい。ミュージカルをやる時にはスト・プレっぽい芝居、スト・プレの時は型にはまらない、“自由ですよ”という雰囲気の芝居をするといった具合です。コロナ禍に本多劇場さんとの出会いがあって、紆余曲折、二転三転あるのですが今回(本多劇場グループの)小劇場 楽園にたどり着きましたが、劇場総支配人の本多愼一郎さんとは、下北沢でもミュージカルを根付かせたいですね、という話をしたりもしています。どの業界も、コロナという事がきっかけにはなりましたが、新しいやり方を模索してますよね」

――ということは、今回が第一回目で本多さんとのご縁はこれからも続いていくわけですね。
「僕自身が次またここ(下北沢)に帰ってくるまでには時間がかかるかもしれないけど、例えば出演しなくても、企画だけや、アイディアならいくらでも協力できます。
なぜこれほどジャンルの垣根を壊すことにこだわっているかというと、僕は以前、バレエというものに対して、“台詞無しで芝居って伝わるのかな”といった先入観を持っていたけど、ある時『うたかたの恋』のバレエを観たら、はっきり物語が伝わってきて想像以上に感動したんです。
食わず嫌いはもったいないな、と。この体験が、視野を広げる活動の切っ掛けになりましたが、ミュージカルに先入観あって苦手意識がある人もたくさんいますし、逆にミュージカルしか観ない人は下北沢はちょっと…という人も。なので、こういう垣根がなくなればもっとエンタメ業界も元気になるし、自分もそういった活動をしていけたらと思ったんです」

――コロナ禍でともすれば気持ちが沈みがちな人も少なくない中で、伊礼さんのお話には前向きなパワー、希望が溢れているように感じます。
「そうですね。僕は、どんなピンチもチャンスだと思えるタイプなので。どんな状況にも、必ず明るい兆しはあるんですよ。暗く閉ざされてしまった中にも小さな光があって、それを見つけられるかどうか。その小さな光を集めたら大きな光にもなります。そういうものを探して繋ぎあわせる能力はあるのかもしれませんね」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『ダム・ウェイター』3月16~28日=下北沢・小劇場楽園 公式HP
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動画取材「伊礼彼方『ダム・ウェイター』の稽古場から」
一つの台詞が、言い方ひとつで全く違ったニュアンスを伝えることがある。そんなストレート・プレイの面白さをお伝えするべく、伊礼さんが大澤さんの演出のもと、本作の台詞の一つ“聞きたいことがあるんだけど”を様々な口調でトライ。本番ではどのバージョンが採用されるか(?)、楽しみにご覧下さい!(最後にご本人からのメッセージもあります)(2分10秒程度)

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