Musical Theater Japan

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『ファースト・デート』村井良大インタビュー:“今この瞬間を生きる”ということ

村井良大 2007年、ドラマ『風魔の小次郎』で主演デビュー。近年の主な出演作に舞台『RENT』『デスノート』『生きる』『ローズのジレンマ』『魔界転生』『蜘蛛女のキス』『ミュージカル手紙2022』『スラムドッグ$ミリオネア』、映画『パティシエさんとお嬢さん』、ドラマ『教場』『邪神の天秤 公安分析班』『インビジブル』等がある。ドラマ『あなたは私におとされたい』(MBSほか)に出演中。こまつ座「きらめく星座」への出演も決まっている。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

NYのとあるレストラン。生真面目な金融マンのアーロンと、奔放な芸術家の卵ケイシーは「ブラインド・デート」で出会いますが、互いの第一印象は“自分には合わない”…。

でも、もしかしたら第一印象ではわからない何かが、相手にはあるかもしれない。
会話を続ける二人は、共通の話題で盛り上がったかと思えば“譲れない”問題が発生したり、妄想の中で互いの身内や親友、元カノが口を挟んできたり。想定外のデートの行方は…?

2013年にブロードウェイで初演、翌年早くも中川晃教さん、新妻聖子さん主演でシアタークリエにて日本初演が行われた『ファースト・デート』が、上田一豪さんの新演出で23年の初春、登場。デートや婚活の“あるある”満載の軽やかなミュージカル・コメディで今回、新たにアーロンを演じるのが、村井良大さんです。『ラヴズ・レイバーズ・ロスト』でも上田さんとタッグを組んでいる村井さんに、肩の力を抜いて楽しめる“王道ラブコメ・ミュージカル”の魅力をうかがいます!

『ファースト・デート』

――今回、本作に出演することになった決め手は?

「僕自身コメディが好きですし、この作品の面白さに惹かれました。『ラヴズ・レイバーズ・ロスト』でご一緒した、(上田)一豪さんへの信頼もあります。一豪さんは役者を信じて下さるし、こちらからの“こういうのはどうでしょう”と意見や提案を柔軟に受けて下さる方なので、とても稽古がしやすいです」

――『ラヴズ・レイバーズ・ロスト』での村井さんは振り回され、大汗をかく主人公という印象でしたが…。

「実際、かきましたね(笑)。あの時は出ずっぱりだったし、着ていたスーツがベロアで、熱が逃げない素材だったので…」

――今回もスーツをお召しになりますよね?

「スーツですね(笑)。初演の時の(アーロン役の)中川(晃教)さんも、途中でシャツを着替えていらっしゃいました。」

――それだけ大変なコメディなのですね。

「出ずっぱりですからね。ほぼ休みなしで、ずっと喋っているので…」

――コメディにはたくさん出演されている村井さんですが、ご自身は“コメディ”を演じる極意をどうとらえていらっしゃいますか?

「まじめにやることです。笑わせようとすると滑るし、お客様が引いてしまうので、とにかく真面目にやることです。“笑いなんて一切なかったですよね”くらいの感覚でやるのがちょうどいいくらいだと思っています」

――それはこれまでいろいろな作品に出演するなかで試行錯誤の末、つかんだという感じでしょうか?

「試行錯誤もありましたが、ダウンタウンの松本さんがあるところでされていた話も参考になっています。“俺が悲しい気持ちで喋ってても、周りは笑ってて。不幸な話をしているのに、なんで笑ってるんや!”というお話で、悲しさの中に笑いがあったんですね。その話を聞いて、笑いはあくまで結果であって、それまでの運転の仕方が大事なんだな、と感じました。こちらから笑いを取りに行くと5分で飽きる笑いになってしまうと思うので、ぎりぎりまで笑わないくらいの感覚で(芝居を)作っていくのがいいのかなと思うようになりました」

――悲劇よりもコメディのほうがむしろ難しい、とおっしゃる俳優さんもいらっしゃいます。

「(コメディは)難しいです。その場の空気感だったり、ニュアンスにもよります。一番大事なのは、“今その瞬間を生きる”ということなのかな。舞台って生ものなので、その日によって緩急やテンポが違ったりするけど、それに対して嘘をつかないことが大事ですね」

――本作は現代の婚活がテーマで、国こそ違えど、とてもリアルなドラマです。身近すぎるゆえの大変さというものもありますか?

「僕はあまり気にしないですね。ただ、作品が作られた10年前とは社会の在り方が変わっているので、気をつけないといけない部分もあります。作中、SNSに関して(軽く)言及されるところがあるのですが、特に日本ではSNSというものに対して社会が過敏になっている部分もあるので、それをどう扱うのか。そういったところで“笑い”の作り方が変わるかもしれないと思っています」

――アーロンたちが臨む“ブラインド・デート”は、それぞれ身近な人の紹介で面識のない同士がデートをするという、アメリカでは以前からよく行われている慣習。いわば“付き添いの無いお見合い”のようなものですが、見知らぬ同士が突然一対一で会うというのは、どんな感覚なのでしょう…?

「どうですかねぇ。でも初演時より、マッチング・アプリが流行っている今の人のほうが、理解しやすいかもしれないですよね。アプリ上では知り合っていても実際には会ったことがない人同士が、初めてリアルに会う…というシチュエーションに、ちょっと近くないですか? これをどれだけわかりやすく見せるか、僕たちにかかってくると思っています」

――アーロンは金融マンということですが、日本初演では冒頭、演じる中川さんがレストランで椅子の位置をああでもない、こうでもないと考えていらっしゃり、几帳面な人物なのかも…と感じられました。

「そこは中川さんご自身のアイディアか、もしくは日本初演ならではの演出のようです。今回は一豪さんが翻訳・訳詞も新たにされていて、だいぶ印象は変わると思います。初演を御覧になっていても、いなくても、楽しんでいただけたらと思います」

――アーロンとケイシーは互いに全く違う世界に住んでいて、出会ってすぐ別れてもおかしくないのに、第一印象の“先”にあるかもしれない何かを発見しようと、会話を続けます。元来、ポジティブなタイプなのでしょうか。

「第一印象で人を判断してしまったら、つまらないですよね。悪そうな人にもいい一面があるかもしれないし、逆にいい人そうな人にも怖い一面があるかもしれません。ブラインド・デートは基本的に恋人を探す機会なので、むげにはしないですよね。出会ってすぐ“無理無理、失礼します”ということになったりはせず、楽しくご飯を食べて最後に“次回があるか”を考えるのだそうです。例えばマッチング・アプリで画面を見てすぐ次の人に行くような感覚とは、ちょっと違うようです」

――相手のことをよく知ろうとするのと同時に、自分の恋愛観を確認する場でもあるのでしょうか。

「特にそれを思っているのが、ケイシーだと感じます。僕自身、本作の初演を観た時、ずっとコメディとして楽しく観ていたら、最後の最後に彼女が(恋愛観、人生観について)核心めいたことを歌っていて、その内容に“おお”と思いました。或る意味、深さというか、何ともいえない甘酸っぱさ、ラブコメとしての深いオチがあって、そこがすごく面白いと思いました」

――デートの序盤に、ユダヤ系のアーロンが、ケイシーがユダヤ系でないことを知り、がっかりするくだりがあります。…ということは、彼はあくまで結婚相手を探してこのデートに臨んでいるのですね。

「そうなんです。日本だと、初対面の時はただ会ってなんとなく喋って終わり…ということが多いかもしれないけれど、ブラインド・デートには最後に“結婚も視野に入れて付き合うかどうかを決める。付き合う場合は男性からキスする”という慣習があるそうです。アーロンとケイシーがどんな決断をするのか、予測するのも楽しいと思います」

――アラン・ザッカリー、マイケル・ウェイナーによる楽曲はいかがですか?

「面白いですよ、いい曲が多くて、歌っていても楽しいです。無理がないというか、ロックの部分もありますが、全体的にしっとりとして大人っぽいんです。壮大に音楽が鳴るという感じより、キャラクターそれぞれの気持ちがわかるナンバーが多くて、すっと感情移入できると思います」

――舞台上にはアーロン、ケイシーだけでなく、それぞれの近しい人たちがいて、妄想の中で様々に突っ込みをいれてくるのも楽しいですね。

「例えばアーロンにはゲイブという親友がいて、彼が喋りそうなことをアーロンが思い描いている筈なのに、途中からゲイブがアーロンを無視するようになったりして…」

――アーロンも大汗をかきそうですね(笑)。キャストには上田一豪さんの演出作品に出演歴のある方が多くいらっしゃいますが、村井さん的には初共演の方が多いようですね。

「皆さんの面白い瞬間がたくさん見られて楽しいです。ほぼほぼ初めましての方々なので、まだ本番でどうなるかわからない部分もありますが、皆さんが楽しめたらいいなと思います」

――現時点で、どんな舞台に仕上がるといいなと思っていらっしゃいますか?

「役者たちが笑いをこらえながら演じているくらいが一番いいですね。僕ら自身が“ここ面白いんだよな~”と、笑いを堪えてやれたらベストです。

一度、そういう経験があるんです。ある演目で、その瞬間、僕自身おかしくて、“なんでこうなるの⁈”と頭の中で叫んでいて、お客さんもめっちゃ笑っていました。どう考えてもこの流れにはならないだろう、と全員が突っ込みたくなるようなことが起こってしまい、まさにコメディの定石で。本人が(笑わせようと)意識しないでやると、コメディは俄然面白くなりますね。いい“初笑い”になればと思います」

『ファースト・デート』アーロン(村井良大)

 

――最近のご活躍についても少しお話をうかがわせてください。8月に出演された音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』では、主人公の親友サリムとシャンカールの二役を演じられましたが、特に善良にして薄幸な少年、シャンカール役が鮮烈でした。どのような心持で演じていらっしゃいましたか?

「とてつもなく純粋な子供、でしたね。“純粋”を表現するのはすごく難しいことなのですが、思いがあまりいろいろなところに向いていかないように、例えば“かゆい”と感じたらずっと同じところをかいているようなまっすぐさが彼らしさなんだろうな、と思っていました。そのいっぽうで、びっくりするほど“空気を読む”という一面も持っているんです。僕としては、とにかく“今、こうしなくちゃ”ということに対して一生懸命向き合うということを意識していました」

 

――終盤に歌ったソロ・ナンバーでの儚げなファルセット・ヴォイスも印象的でした。シャンカールの“純粋さ”の表現としてのファルセット・ヴォイスだったのでしょうか。

「もともと、あの曲はAマイナーで、大人っぽい曲だったんです。でも稽古を重ねるうち、そのままではどうしても8歳くらいの子供のナンバーとして表現できないなと思って、キーを上げさせていただきました。無邪気な子供が何の思惑も無く歌えるのがベストだと考えていたので、ああいった歌唱になったんです」

――最後の最後にもう一人の役、サリムの“その後”が描かれ、心から安堵しました。

「確かに(笑)。そこで“まとまった”という感じはありましたね。あの作品は、映画版をご存じという方が大半だったかもしれませんが、今回の舞台はどちらかというと映画版のようなきらびやかさより、原作小説の泥臭さが感じられるものでした。これを機に、原作はどうなっているんだろうと読んでいただけると、“なるほど”と思っていただけるかもしれないです」

――以前、お話を伺うなかで、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の話題が出ました。村井さんがこよなく愛する映画のミュージカル版が、その後ロンドンで開幕しましたが、もしかして既に御覧になっていますか?

「23年に観ようと思っています。サウンドトラックは既にCDで聴いていますが、ここはどんな演出でやるんだろうと気になる部分もありますので、ぜひ舞台を観てみたいですね。そして日本版の上演を、今も切に願っています(笑)!」

――23年はどんな年にしたいとお考えでしょうか。

「23年には35歳、30代の真ん中に立つことになりますので、自分としても、大人の芝居を…といっても昨年も『手紙2022』で高校生役を演じましたが(笑)、自分自身の精神も落ち着いてきて、大人の芝居にも取り組みながら、ネクスト・ステップも楽しく踏んでいきたいですね」

――“大人の芝居”とはどういうものを指すと感じていらっしゃいますか?

「誰もが子供の部分を残したまま大人になってはいくのでしょうけれど、簡単に言えば“深み”がそこに加わるかどうか、なのかな。深みのある役者を目指したいです。

どんな人でも歳をとりますが、役者も年齢を重ねることで変化していくものだと思います。舞台では60代でもランドセルを背負うと小学生に見えるという方もいらっしゃいますが、いっぽうでは年齢に合った、“今だからこそやるべき役”というのもありますから、そういうものを自分で見据えて、ちゃんと順応できるよう、人間力を鍛えていかないといけない、と思っています」

――ということは今後、小さい子のいるお父さん役といった役どころも増えてきそうですが、その前に、青春時代の集大成として、やはり『バック・トゥ・ザ・フューチャー』日本版が実現して、村井さんのマーティが観られたら…と思ってしまいます。

「僕も常に切望していますが(笑)、だからといって40代になっても待とうとは思わないです。役者にはその時々でぴったりの役というのがあって、40代、50代とそれぞれにふさわしいものがあると思っていますから。そもそも、僕は芝居を一生やっていく気でいますので、その時々の巡り合わせを大切にしていきたいです」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『ファースト・デート』2023年1月19~31日=シアタークリエ 公式HP
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