Musical Theater Japan

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北翔海莉、『CLUB SEVEN』との“運命の出会い”

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『CLUB SEVEN ZERO Ⅱ』

スタイリッシュなダンスから歌、芝居、ミュージカルに捧腹絶倒のスケッチまで、多種多様なエンタテインメントが次々飛び出す『CLUB SEVEN』シリーズ(玉野和紀さん作・演出・振付)。2003年の第一弾以降、レジェンド・メンバー(玉野さん、吉野圭吾さん、東山義久さん、西村直人さん)と確かな腕を持つスターたちが競演してきた人気のショーの最新作『CLUB SEVEN ZERO Ⅱ』に、元宝塚歌劇団星組トップスター、北翔海莉さんが出演します。

例年、開幕までは秘密のベールに包まれている『CLUB SEVEN』シリーズですが、今回はいったいどんなことに? 北翔さんの近年のご活躍、舞台への思いとともにたっぷりうかがいました。

一流の“マルチマン”たちが進化し続けてゆく『CLUB SEVEN』

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北翔海莉 千葉県出身。1998年宝塚歌劇団に入団、宙組公演「シトラスの風」で初舞台。2015年、星組トップスターに就任。2016年11月20日東京宝塚劇場公演「桜華に舞え」「ロマンス!!(Romance)」をもって、宝塚歌劇団を退団。その後『パジャマゲーム』『ふたり阿国』『蘭 ~緒方洪庵浪華の事件帳~』等の舞台で活躍している。©Marino Matsushima

――北翔さんはもともと『CLUB SEVEN』シリーズはご覧になっていたのですか?

「はい、(宝塚歌劇団)現役中に観たことがありますし、エンターテインメントをやる人間にとっては憧れの舞台でもありますから、今回お声がけいただいて本当に光栄に思いました。

お芝居はもちろん、ダンスはタップからフォッシー的なナンバーまで多彩ですし、ジャズを聴かせるシーンもあります。フレッド・アステアの時代のレビューという土台がありつつ、令和の流行りのものまで取り入れられていて、どの年代の方にも受け入れられるショーだと思います。

お客様に楽しんでいただく引き出しがたくさんある作品ですが、特に今回は、エンターテインメントの道に憧れている若い方に観てほしいなと思います。一口にエンターテインメントと言っても、歌うだけ、踊るだけでなく、歌って踊ってお芝居もする。そんな“マルチマン”がいろいろな引き出しをお見せしているのがこの作品ですので、そこに憧れてほしいです」

――北翔さんも素敵なマルチマンですよね。

「いえいえ、この現場に来ると皆さん腕を持っていますから、自分がこれまで培ってきたものをしっかり発揮しないとついていけないし、『CLUB SEVEN』初期のころからのお客様もいらっしゃるなかで、今回北翔さんが出て良かったよねと言われるようなパフォーマンスを見せないとファンの方にも失礼なので、全ての力を出し切りたいです。

ベテランの玉野さんがまだまだ進化してゆく精神を見せてくださる姿は、自分がこの道を進んでいくうえで出会わなくちゃいけなかったと思うし、共演の方々も今だからこそ出会ったのだなと思える方ばかり。吸収できるものはいっぱい吸収したいですね」

――以前、(作・演出の)玉野さんにお話を伺った時に、宝塚出身の方々に対する信頼を非常に感じました。

「音楽学校でいろいろなことを勉強しているというのはあると思います。それに加えて、宝塚って一組80人いるので、その中でいかに自分の個性を磨いていこうかと常にアピールの仕方を考えますので、そういう意味では恥ずかしがっていられません。玉野さんが“こういうのやってみて”とおっしゃったときに“わかりました!”と、恐れを知らずぶつかっていける根性があるかもしれません」

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『CLUB SEVEN ZERO Ⅱ』宣伝ビジュアルより、北翔海莉さん

――『CLUB SEVEN』では毎回、様々なシーンが登場しますが、今回、北翔さんの第一印象は?

「発想が面白いし、このメンバーだから出来る発想だと感じますね。一人でも欠けたらこれにはならないなと。作り手の玉野さんがキャストそれぞれの個性をよく見抜いているし、みんなが目立つように愛情たっぷりに作品を考えて下さってると分かります」

――『CLUB SEVEN』の名物と言えば、怒涛の“50音ヒットメドレー”。50音それぞれにあてはめた曲が少しずつメドレーで登場しますが、それぞれに意表をついた演出がついていて、目まぐるしく切り替わっていきます。さぞや大変なのではとお見受けしますが…。

「大変ですね。いつもこんなに大変なんですかとお尋ねしたら、9人編成の時にはパートを割り振るので少し楽らしいです。でも、これこそ自分がやりたかった世界観。苦しいし吐きそうだし(笑)、これ以上体が動かないよとも思うけど、やっていることが嬉しくてたまらないです。

ただふざけてやっているのではなくてストーリーになっていて、これだけネタを見つけてやっているというのが本当にすごいと思います。玉野さんの発想はもちろん、音楽・照明・衣裳・ヘアメイクと全員の力が発揮されないとこれだけのことは出来ないと思います。“みんなが作り上げている”と特に感じられるのがこの50音ヒットメドレーです」

――素朴な疑問ですが、これだけ多くの要素が詰め込まれていると、途中でごっちゃになったりといったことは…。

「ないです!(笑)。50音順だし、一場面一場面のインパクトが非常に強烈なので、真っ白になることはほとんどありません」

――このシリーズの宣伝ビジュアルはいつもは“本編とは関係ありません”なのですが、カウボーイ姿がみなさん、はまっている今回はもしかしたら…という噂を聞いております。

「そこは皆さんのご想像にお任せします。来てくださった方のお楽しみということで(笑)」

――北翔さんは玉野さんとは以前からお仕事をされているのですね。

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玉野和紀さん

「(出演作に)振付で入っていらっしゃったことがあります。玉野さんの課題は“それ、無理です!”というものが多いけれど(笑)、“大丈夫だよ、練習すれば出来るよ”と引っ張り上げてくださるお師匠さんで、自分のレベルアップのためには有難いです」

――共演の皆さんについてもコメントをいただけますか?

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吉野圭吾さん

「吉野圭吾さんは誰よりも早く来て誰よりも遅くまで稽古する、理想的な舞台人。徹底的に積み重ねて最高のパフォーマンスが出来上がっていく過程が、共演していてわかります。台詞の言い方一つ一つについても答えが見つかるまで時間をかけている姿に、いい役者さんに巡り合ったなと感じています。

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東山義久さん

東山義久さんは玉野さんのおっしゃることを瞬間的にキャッチしてぱっとその場でやれる、天才型の方です。人間でない役が多いのですが、“こんな動き”“あんな動き”と言われたことがその通りにやれて、本当に観ていて面白いんですよ。頭のやわらかさと身体的な引き出しは、東山さんならではだと思います。

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西村直人さん

西村直人さんは、この方の朗読劇を聞きに行きたいと思えるくらい、喋っただけで全部ドラマが見えてくる方です。踊りも、フォッシーの帽子を持って踊る手の形からして、基礎をきっちりなさった方だなと観ていてわかりますね。稽古でどの形をとればいいかなと迷った時には、まず西村さんを見てしまいます。

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大山真志さん

大山真志さんは正統派の歌い方も現代の歌い方も出来る、七色の声をお持ちの方です。歌だけでこんなに表情がつけられる方に久しぶりに会いましたね。それと、皆さん大山さんは“大きな方”というイメージがあるかと思いますが、とてもダイナミックに踊られるんですよ! それにつぶされないよう(笑)、頑張っています。

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沙央くらまさん

こまちゃん(沙央くらまさん)については言わなくてもいいかな(笑)。(宝塚歌劇団で)同じ組ではないけれど特別出演とかの時に一番仲が良かったので繊細な話も出来るのが彼女で、今回共演できることを玉野さんに感謝しています。信頼があるので、安心しています」

なぜ、この道を進み続けるのか。

――退団後のご活躍についてもお聞かせ下さい。まず退団後初舞台はブロードウェイ・ミュージカル『パジャマゲーム』でのヒロイン役でした。

「ブロードウェイ・ミュージカルが本来どういうものを見せるものかがしっかり見えた作品でした。自分がこの道を選んできた意味を理解しましたし、パフォーマンスをすることの喜びも実感できましたね。

一番嬉しかったのは“スチーム・ヒート”でフォッシー・ダンスを踊れたことです。(本来このナンバーはヒロインが踊るものではないのですが)ある日演出家のトムと振付家のニックから踊りを見せてほしいと言われ、一人オーディションがあったんですよ。フォッシー・スタイルのダンスはただ踊れるかどうかではなく、フォッシーの形がとれるかどうかがポイントで、その点、私は宝塚時代にフォッシー・スタイルを教えて下さるケンジ中尾先生のレッスンを、18年間受けていたんです。

選ばれたときに、まず“先生のレッスンに出ていたことでパフォーマンスできるようになりました”と感謝のお電話を中尾先生にさせて頂きました。宝塚ってこういうことも教えているんだね、すごいところなんだねとトムやニックに認めてもらえたのがとても嬉しかったです」

――先月は『ふたり阿国』に主演。凛としたたたずまいと端正な踊りが印象的でした。

「明治座は憧れの舞台でしたし、出雲阿国という、舞台人というか、芸能の原点になるような役を演じるにあたって、芸能は本来鎮魂の行事であるという台詞に、改めてこの踊り、この歌でどれくらいお客様の心に寄り添って癒すことができるだろうと深く考えながらステージに立つことができました。この年齢で、歌劇を卒業して阿国という役に巡り合えてよかったと思います」

――現時点で表現者として、どんなビジョンをお持ちでしょうか。

「『ふたり阿国』が終わった時もそうでしたが、今回の舞台が終わった時に、いろんな考えを持っていると思います。なぜ自分がこの道を選んだのか。与えられた宿命というか、自分がどこまで人々の心に寄り添ってパフォーマンスしていけるか。そしてその理由がどんどん今、見つかってきています。

私は明治座やシアタークリエといった大きな舞台に立つだけでなく、老人ホームも回っているのですが、どこであれ、その場所でお客様の心に寄り添ってパフォーマンスするという答えが見つかった時に、この道を選んだ喜びを納得する日が来るんだろうなと思っています」

――老人ホームには退団後まわっていらっしゃるのですか?

「はい、全国をまわっています。歌劇の時はそういった活動は禁止されていたのでできませんでしたが、2500人の劇場でトップになること、スポットライトを浴びる事が全てとは思っていなくて、いつかこういう活動をしたいと思っていました。

老人ホームでは皆さんが知っている歌を歌うだけでなく、踊りも体操もしますし、ことわざゲームなども自分で考えて取り入れています。皆さん、青春時代を思い出して大合唱になりますし、踊りだす方も多いんです。施設のスタッフの方からは、ふだん笑いもしない、返事もしない方たちが…と驚かれますね。涙を流しながら“また来て頂戴ね”と手を離さない方々の姿に、寄り添うということが一番大事なんだな、視界の中に自分から入るのが大事なんだなと痛感しています」

――ミュージカルって敷居が高いと思われがちな中で、とても素敵で尊いご活動ですね。

「簡単なことです、声がかかればどこにでもうかがいます。この後も『蘭 ~緒方洪庵浪華の事件帳~』という作品で全国をまわりますので、各公演翌日にそこの老人ホームを訪問するようスケジュールを組んでいます。自分から足を運びたいなと思っています」

(取材・文・写真=松島まり乃)
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公演情報*『CLUB SEVEN ZERO Ⅱ』6月15~30日=シアタークリエ、7月3日=日本特殊陶業市民会館ビレッジホール、7月5~7日=梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ    公式HP

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