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『The Dream Co-Star』雅原慶インタビュー:“背景が見えてくるような歌”を目指して

雅原慶 兵庫県出身。大学在学中に舞台俳優を志し、卒業後の2008年に劇団四季研究所入所。『マンマ・ミーア!』で初舞台後、『キャッツ』ジェリーローラム=グリドルボーン、グリザベラ、『アイーダ』タイトルロール、『ウィキッド』エルファバ等を演じ2016年に退団。近年の出演作に『銀河鉄道999~GALAXY OPERA』『ふたり阿国』『メリリー・ウィー・ロール・アロング』等がある。🄫Marino Matsushima 禁無断転載


ミュージカル・ナンバーに歌謡曲、ジャズナンバーと多彩な楽曲を歌い踊りつつ、笑いがいっぱいのスケッチやミニ・ミュージカルでも魅せる“ドリーム”シリーズ。玉野和紀さん構成・演出・振付の人気のショーが、明治座の創業150周年記念公演として3度目の上演を果たします。

この公演に1回目に続いて出演するのが、雅原慶さん(友近さんとのダブルキャスト)。劇団四季時代には『ウィキッド』エルファバや『アイーダ』タイトルロール、『キャッツ』グリザベラ、ジェリーローラム=グリドルボーン等でパワフルな歌声を聴かせ、最近では『銀河鉄道999 THE MUSICAL』で急遽務めたシャドウ役の代役が大きな話題となった彼女ですが、“異種格闘技”状態(⁈)の今回はどんな舞台になりそうか、そこでどんな姿を見せていただけそうか、劇団時代の思い出も交え、稽古終盤に楽しくお話いただきました。

『The Dream Co-Star』明治座創業150周年記念公演
これまで大劇場では避けてきたあの曲を、
勇気を胸に歌います


――“ドリーム”シリーズの第一回公演出演にはどんな経緯があったのですか?

「過去に2回、明治座さんに出演させていただいておりまして(GALAXY OPERA『銀河鉄道999』『ふたり阿国』)、そのご縁からかなと思っています。私は真面目な劇団に10年近くいまして(笑)、こういったショーに無縁でしたので、こういう“笑わせるエンタテインメント”って重要なんだ、必要なんだと感じました」

――玉野さんのショーは体力もかなり要しそうですね。

「私もそう思いました。実際に出演してみると、“ドリーム”シリーズは歌の比重がやや大きかったのですが、それでもいろいろな要素をこなすので、裏では戦争でした(笑)。

――笑いも含めて、すべて細かく玉野さんが決めていらっしゃいましたか?

「枠組みは玉野さんが作られていましたが、その時は(東山義久さんら)既に顔見知りの方が多かったので、阿吽の呼吸と言いますか、俳優の方から自由にしたり崩したり“これどう?”と提案したりと、すごくいいバランスで進んでいましたね」

――初共演だったとのことですが、玉野さんは雅原さんの特性をすぐ見抜いていらっしゃいましたか?

「はじめは、どんなことが出来る役者なんだろうという探りはあったと思います。玉野さんのショーにはこれまで、宝塚OGの方はよくお出になっていますが、四季出身の出演者はあまりいなくて、読めない部分もあったのではないでしょうか。でも先日、玉野さんからは“慶ちゃんは大丈夫、安心してるよ”と言っていただきました。私も関西出身ということもあって、笑わせることは大好きなんです」

――雅原さんのピンクレディーを観て、楽しいおふざけを完璧にやってのける、これぞプロと思われた方も多いと思います。

「“真剣にふざける”ということが面白いのだと思います。歌をきちんと聴いていただくコーナーもあるので、そのギャップもこのシリーズの醍醐味ではないでしょうか。“あんなにちゃんとした人がここまでふざけてる!”という衝撃と言いますか(笑)」

――音楽的には、このシリーズでは“ミュージカル”“歌謡曲”“ジャズ”が中心ですね。

「個人的に、一番好きな3ジャンルです。歌謡曲は大好きで、特に自分の世代よりちょっと上の歌謡曲は、どこかミュージカルに似てドラマ性があってポエティック。説明しなくとも背景が見えるんです。そういう点で私としては、今のポップスよりとっつきやすいです。ジャズは女優になってから歌ううちに好きになって、最近もジャズシンガーの役を演じていました。勉強になりますし、ミュージカルと切り離せないジャンルです」

『The Dream Co-Star』明治座創業150周年記念公演 写真提供:明治座


――今回はどんなことをなさる予定でしょうか?

「ミュージカルのソロ・ナンバーは1幕と2幕で各1曲歌います。一つは劇団時代に演じた『ウィキッド』の“自由を求めて”、もう一つは某有名ミュージカルのナンバーで、二つとも重いですね(笑)。“自由を求めて”は、退団して以来、小さなコンサートでは歌っても大きな舞台で歌うことはどこか避けていて、今回が初めてなんです」

――“自由を求めて” はストーリーの流れと仕掛け(演出)が大きな要素となっている曲なので、確かにコンサートで一曲取り出して歌うとなると、大変ですね。

「抜粋して歌うことには抵抗がありましたし、ミュージカル・ファンがあの曲に対して持っている思いやこだわりもわかっている分、怖さもありましたね。でも、一つの曲として見てみても、あの曲には素晴らしいものがあるなと最近、改めて思いまして。一曲だけでも聴きたいというお客様がたくさんいらっしゃるのだから勇気を出して歌おう、と思うようになりました」

――コンサートで歌う時には、作品の中で歌うのとは違った歌い方をされる方もいらっしゃいますが、今回、雅原さんはどちらで歌われますか?

「玉野さんに、稽古が始まる前に“どちらをお求めでしょうか”とお尋ねしたら、“作品から抜きだしたようにやっていただけたら”という言葉をいただきました。でも衣裳も違いますし、雅原慶として歌っている部分もあるので、舞台と100パーセント同じということにはならないと思います。芝居のウェイトを多くしすぎず、音楽的な魅力を引き立たせつつ、そこからドラマや背景を感じていただいて、“この作品、観てみたいな”と思っていただけるようなところを狙おうかなと思っています」

――もう一曲のナンバーはどのように選ばれましたか?

「私のほうから挙げたリストの中から、玉野さんが選ばれました。私の中で、こういう機会に新しい歌にチャレンジしたいというのがあって、敢えて歌ったことのないタイプの曲を挙げました。今回、岡田奈々ちゃんたち若いメンバーがポップなカラーで歌われると思うので、玉野さんとしては、私には“重い系”のナンバーを任せようと思って下さったのかもしれません。玉野さんって本当に天才で、オリジナル・ショート・ミュージカルでは絶妙のタイミングで昭和歌謡を盛り込んでいらっしゃるんですよ。ちゃんと(芝居の内容に歌詞が)リンクしていて、よく思いつかれるなぁ、と思います」

『The Dream Co-Star』明治座創業150周年記念公演 写真提供:明治座

 

――雅原さんの“新たな一面”を拝見できそうでしょうか?

「これまでの女優人生で、一番おちゃらけた姿が御覧いただけると思います(笑)。これまでもちょくちょくバレてはいたと思いますが(笑)、ステージの上ではお見せする機会があまりなかったと思いますので」

――近年ミュージカルでも活躍されている堂珍嘉邦さんはじめ、共演陣は多彩ですね。

「前回(Dreamシリーズ第一弾に)出演した時は、ミュージカル界の方ばかりでしたので、こういう方向に行くだろうなというのは察しがつきました。いっぽう、今回は(出身畑が)バラバラなので、一言でいうと“渋滞”状態なのですが(笑)、それが楽しいんです。お互いに自分の持っていないものに興味津々で、堂珍さんとは、コントで相手役をさせていただく中で、歌い方を相談しあったり。平野綾ちゃんは、声の表現の幅がすごいんですよね。耳をかっ開いて皆さんの歌に聴き入っています」

――どんな舞台になったらいいなと思われますか?

「いい意味で、一つの色に染まっていない楽しさがあります。面白かった!と思っていただけるような舞台になれば、と思っています」

雅原慶さん。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

 

――プロフィールについても少しうかがわせてください。雅原さんは、ミュージカルを志したのが大学在学中、と遅めだったのですね。

「はい。子供の頃に何度かミュージカルを観て、いいなとは思いつつ、ちょっとドライな子で(笑)、あそこで成功する人はほんの一握りだと思っていました。でも就職活動を始めるにあたって、トライもしていないのに“いいな”と思ったものを諦めるのがかっこ悪く思えて、大学3年で挑戦してみようという気持ちになったんです。子供の頃にダンスを少しかじっていたくらいでしたが、卒業後に劇団四季研究所の試験に合格しました。その時点の能力より素質というか、料理に例えると、“この大根を使ったら美味しいものが出来そうだ”と思っていただけたのかもしれません」

――それは浅利(慶太)さんに?

「はい。浅利さんは、部屋に入ってきて名前を言った瞬間にその人の素質が分かるという方で、私の何かを見抜いて育てて下さいました。

といっても、500人くらいの大所帯です。入ってからも頻繁に抜き打ちオーディションがあって、“一時間後に集合!”と言われ、一人あたり30~40秒くらい歌ったり踊ったり、台詞を喋っては、ふるいにかけられていく。そんな状況が、研究所が終わってからも2,3年続き、必死でした。“歌は大したことはないけど声だけはいい”と浅利さんに言われ続けたことが支えでしたね」

――劇団時代で特に思い出に残る役は?

「一番長く演じたのが『キャッツ』で、ジェリーローラム=グリドルボーンとグリザベラの二つ、実質的には三役担当しました。共演した俳優たちとは“戦友”という感覚で、今でも家族のように感じています。作品的にも自分の体の一部みたいになっています。
『アイーダ』は観るのも演じるのも好きな、唯一“完璧な役”です。ストーリーや音楽はもちろん、照明、美術、衣裳の全てが好きですね。ディズニー作品ですがヴィジュアルがシンプルで、お洒落感がある作品です」

――終盤の、画面が狭まってゆく演出の間は演じていてどんな心持でしたか?

「苦しかったです(笑)。ずっと国を背負いながら、女王として生きるのか、女として生きるのかという選択を迫られてのあの流れですからね…。でも、オペラ版の『アイーダ』とは違って、このミュージカルには最後にエピローグがあるじゃないですか。あそこで少しだけ、2パーセントくらい(笑)救われていました」

――大活躍される中で2016年、退団されたきっかけは?

「そのまま続けるという道もありましたが、やりたい役をやり終えたので、自分の枠をもっと広げてみたかったのです。今回のようなコンサートであったり、いろんなジャンルの作品に出演して、引き出しを増やしたいなと思いました」

――振り返ってみて、劇団の日々はいかがでしたか?

「9年近く四季で培ったものがあってこそ今がある、と思えます。よく、四季の俳優たちは鬼のように稽古する、と(外部の方から)言われますが、当時はそれが普通だと思っていました。キャスティングされても、10年15年のキャリアがあっても、いつ解雇されるかわからない。ある日浅利さんが舞台をご覧になって“(演技が)ぬるくなっているな”と判断されたら、翌日はキャスト表から名前が消えてしまう、という中での生き残り合戦でした」

――その経験が、今年、急遽代役で出演された『銀河鉄道999 THE MUSICAL』シャドウ役にも生きたのですね。

「劇団四季で、(緊急事態に)対処するための基盤は身に着けていたのかもしれません。
出演した際、カーテンコールではとても温かい拍手をいただきました。客席を見渡して、この2千人の方々が、もし私が(代役を)していなかったらこの舞台をご覧になれなかったかもしれない…と思うと、皆さんのお役に立てた喜びでいっぱいでしたね。これも浅利さんに厳しく育てていただいたからこそだなぁ、私が世の中に対して出来ることは大してないけれど、舞台を通して誰かの役に立てるなら、これからもこの仕事をしていきたい、と強く思いました」

――今後、どんな表現者でありたいと思われますか?

「さらに幅を広げたいと思っています。これまで舞台がほとんどでしたが、映像関係であったり、主題歌を歌ったり、ミュージカル映画の吹き替え等、自分の歌や声を通して出来るものは、ジャンルを問わずやっていきたいですね。
舞台での表現に関しては、こういうことをやりたいなというイメージは、昔はあったんです。でも逆にそれが自分の幅を狭くしてしまうと気づいて、最近はとらわれないようにしています。
ただ、歌についての理想形は変わりません。“シング・ライク・トーキング”、喋るように歌う、です。喋っているとその延長線上に歌があった、と感じていただいて、(演じるキャラクターの)背景が見えてきたり、想像が広がりながら聴いていただけるよう、心がけていきたいです」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 明治座創業150周年記念公演『The Dream Co-Star』9月9~15日=明治座 (雅原慶さんは友近さんとのダブルキャスト) 公式HP
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