Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

実咲凜音、“儚くも深い”『ライムライト』の魅力を語る

f:id:MTJapan:20190330191015j:plain

『ライムライト』

落ちぶれた老芸人と、生きる希望を失った若いバレリーナ。20世紀初頭、都会の片隅で出会った二人は支え合い、懸命に生き抜こうとするが…。

チャールズ・チャップリンの最高傑作との名も高い映画『ライムライト』を2015年に音楽劇化し、人生の喜びと厳しさとを美しく描き出して好評を得た舞台が、老芸人カルヴェロ役の石丸幹二さんに加え、新たにヒロイン・テリー役に実咲凜音さん、若い作曲家ネヴィル役に矢崎広さんを迎え、4年ぶりに上演されます。

チャップリンが自ら作曲し、アカデミー賞作曲賞を受賞した「エターナリー」等、心に染み入る楽曲もさることながら、本作には“自分自身と闘うのは苦しい。でも、幸せのために闘うことは美しい”等、老芸人の名台詞が数多く登場。ヒロインのテリーのみならず、多くの観客が彼の実感のこもった言葉に癒され、励まされることでしょう。バレリーナであるテリー渾身のバレエ・シーンも見逃せない作品です。

テリー役・実咲凜音さんインタビュー

f:id:MTJapan:20190330191243j:plain

実咲凜音 兵庫県出身。宝塚歌劇団に入団、2012年に宙組トップ娘役就任、2017年退団。ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』やTVドラマ等で活躍。2019年はこの後ミュージカル『FACTORY GIRLS~私が描く物語』『スクルージ~クリスマス・キャロル』に出演予定。(写真提供・東宝演劇部)

淡く、儚く見える作品世界には、じっくり味わっていただける“深み”があります

――初演ではこのテリー役を、宝塚歌劇団宙組の先代の娘役トップ、野々すみ花さんが演じていらっしゃいました。先輩から引き継ぐということで、思いいれもひとしおでしょうか?

「ご縁を感じますね。野々さんは91期さんなので4学年上なのですが、私も野々さんと同じように花組から宙組に移って娘役トップになって、同じような境遇で追いかけさせていただいていたので、今回また野々さんの後に演じさせていただけるのだな、と」

――その初演、いかがでしたか?

「テリーはバレリーナ役なのですが、野々さんが本当にトウシューズを履いて(本格的なバレエのシーンを)踊っていらっしゃることに感激しました。石丸幹二さん演じる(道化師)カルヴェロの台詞、一つ一つにいい言葉がちりばめられているな、とも思いましたし、余韻のあるラストシーンがとても印象的でした」

――現時点で、テリーというヒロインをどうとらえていますか?

「稽古に入る前と今とでは随分変わりました。1幕のテリーが(バレリーナでありながら)脚が動かなくなってしまうという人生のどん底で、ネガティブな発言ばかりしているので、当初私は彼女に対して内気なイメージを持っていたのですが、稽古に入って2幕までやってみると、テリーはカルヴェロに励まされて気持ちが晴れやかになり、もともとあった生きるエネルギーが溢れ出てくるんです。

カルヴェロが自分にはなくてはならない大切な存在なのだと信じ、“愛しています、結婚しましょう”と、彼女の方からプロポーズのようなことを言うところがあって、内気どころか、真逆の積極的で強い女性なんだと感じるようになりました」

――彼女の脚が動かなかったのは、精神的な理由によるものだそうですが、3歳からバレエをされてきた実咲さんはそういった状況もあり得ると思われますか?

f:id:MTJapan:20190330192319j:plain

『ライムライト』稽古より。写真提供:東宝演劇部

「どうなんでしょう。私自身は大きなケガも、精神的な理由で踊れなくなることもなかったですが、テリーは所属していたバレエ団の公演初日に、監督から自分の大切なお姉さんの秘密について言われ、衝撃のあまり大きなトラウマになってしまった。奥底で抱えていた爆弾がある日遂に…ということだったのでしょうね」

――そして2幕の積極的なテリーに対して、カルヴェロは自分よりも若いネヴィルと付き合ったほうがいいと身を引こうとしますが、それでも彼女は頑なに彼を愛し続けます。なぜ、カルヴェロだったのでしょう?

「私もなぜだろうと考えたのですが、テリーにとってカルヴェロは、自分が死のうとしたときに、生きる意味を教えて助けてくれた命の恩人でもあるし、この人がいないと自分はダメだ、彼は自分の人生の一部だと信じているんですね。愛を超えた何かが、彼女の深いところにあると思います」

“テリーとして踊る”ということ

――今回、ご自身の中でテーマにされていることはありますか?

「今回、(演出の)荻田(浩一)さんと初めてご一緒させていただくのですが、お稽古の中で自分はまだまだだな、と気づかされることがあります。というのは、自分は宝塚出身で、そこでは男役さんはリアルな男性ではないので作らなくてはいけないし、娘役も相手が見て可愛いと思える存在の仕方であったり、きれいと思える喋り方を作っていかなくてはなりません。

ある意味リアルではないところでお芝居をしていたので、声にしても何にしても、重心が高くなってしまうんです。そうではなく、重心を落としてお腹の底から出てくる感情を表現するようにしたいですね。

台詞の一言一言に秘められているもの、例えば嫌いといっても本当は愛しているのにという気持ちをどう、自分に落とし込んで表現するか。お芝居って深いなぁと思いながら頑張っているところです。

f:id:MTJapan:20190330192108j:plain

『ライムライト』稽古より。写真提供:東宝演劇部

もう一つのテーマは、バレエ。よくよく考えるとこれまで、バレエを踊っている姿をファンの方にもご覧いただいたことはあまりないんですよね。ミュージカルなのでただ上手に踊れればいいわけではなく、テリーという役としてどこまで踊れるかが課題だと思っています。

私自身、指先まで優雅に、繊細に表現できるバレリーナが好きなので、自分もそんな踊りをお見せできるよう頑張っています」

――お稽古も佳境に入ってこられたと思いますが、カルヴェロ役の石丸幹二さんはどんな相手役さんでしょうか?

「とてもニュートラルで、稽古場でも優しい空気ですね。歌もお芝居もお上手なので、以前は“完璧な方”と思っていたのですが、実際お会いしてみると、それだけでなく“努力の人”であることが分かりました。稽古が終わってからも毎日、自主稽古をずっとされているんです。そして常に柔らかく、包容力が凄い方です」

f:id:MTJapan:20190330191927j:plain

『ライムライト』

――先日、TVの情報番組で稽古風景を拝見しましたが、テリーを後ろから場面で非常に繊細なお芝居をされていました。

「そうなんです。台詞についてもふだんから考えていらっしゃって、尊敬しています」

――テリーの“初恋の人”である作曲家ネヴィル役の矢崎広さんはいかがですか?

「寡黙な方かなとイメージしていましたが、初めてお会いした時に役について情熱的に語っていらっしゃって、この方は内に秘めているものがすごくある方なんだな、と驚きました。稽古に入っても、ネヴィル以外に演じる(出番の短い)役を、ある日はこのパターンでやってみて、荻田さんから“違う”と言われると翌日は違うパターンで演じて、といろいろ試していらっしゃって、演じることが本当にお好きなんだなと感じます。

とにかく引き出しがたくさんあるんですよ。私には真似できないし、お芝居に対する“熱”を感じます」

――どんな舞台になるといいなとお感じですか?

「実際にお稽古する中で、この作品には物語的にも一つ一つの台詞にしても、心に響くものがたくさんあると感じています。映画版の『ライムライト』をご存じなくてもすぐ入り込めると思いますし、テリーがカルヴェロの言葉に助けられて、生きる希望を取り戻してバレリーナとしての輝きを取り戻せたように、ご覧になった方も“明日頑張ろう”と思っていただける作品だと思います。

f:id:MTJapan:20190330192851j:plain

『ライムライト』稽古より。写真提供:東宝演劇部

宣伝ビジュアルと同じように、この作品は一見、淡くほんわりとした世界に見えるかもしれないですが、実際は言葉の一つ一つに含まれているものや裏側があって、“濃い”作品です。お客様にそこまで感じていただけるよう、私たちも頑張りたいです」

宝塚トップ娘役としての怒涛の日々

――プロフィールについても少しお聞かせ下さい。実咲さんは宙組娘役のトップを5年間つとめましたが、5年間は娘役としては長い方なのかなと思います。男役さんとはまた違う責任感などもおありだったと思いますが、振り返ってみていかがですか?

「退団からもう2年も経ったんだなぁと思うくらい、時の過ぎるのが早いのですが、宝塚は(男役)トップさん以下、一つの組が80人いて、(外部のプロデュース公演とは違って)毎回、メンバーが同じなんですね。

そういう環境で、いかに私たちの成長をお見せできるか。公演と公演の間隔が短い中で、いかに一つ一つの作品で“こういうこともできるんだね”と新鮮に思っていただけるか、ということを常に意識していましたね。

娘役としては同じ女性から憧れられるよう、メイクや髪型にもこだわっていたし、相手役との関係、バランスを考えていました。作品によっては(シンプルな男女の愛ではなく)きょうだい愛であったり同志愛の方がふさわしいこともありましたし…。それがきちんと表現できていたかはわかりません。とにかく怒涛のような日々で(笑)、覚えていないというのが正直なところです」

――退団され、まずは『屋根の上のヴァイオリン弾き』で主人公テヴィエの娘たちの一人、ツァイテルを演じましたが、家計を助けるため常に手仕事をしている風情がリアルで素敵でした。ご自身の中では着実に歩んでいらっしゃる実感はありますか?

「私の中では毎回、課題があります。足りない部分も感じつつ、毎回勉強させていただいています。それを乗り越えて。少しでもいいものを、こういうのも出来るんだと思っていただけるようにと思いながら頑張っています」

――表現者として、どんなヴィジョンをお持ちですか?

「退団して、世の中には表現の方法がたくさんあることを知りました。舞台と映像をとっても、表現の仕方は違うんですよね。自分の幅を広げつつ、“ここだ”というものを見つけられたらいいなと思います。そして歌であれお芝居であれ、どんな形であれ、表現をし続ける自分でいたいです」

(取材・文=松島まり乃)

*公演情報*『ライムライト』4月9~24日=シアタークリエ、4月27~29日=梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、5月2~3日=久留米シティプラザ ザ・グランドホール、5月5~6日=日本特殊陶業市民会館ビレッジホール 公式HP 

*読者プレゼントのお知らせ 実咲凜音さんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼント致します。詳しくはプレゼント頁をご覧ください。

 

*無断転載を禁じます*