Musical Theater Japan

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藤岡正明、荒田至法、内海啓貴が語る『いつか~one fine day』

とある案件を任された、保険会社社員のテル。病気の妻を亡くした悲しみに耐えながら交通事故の原因を調べようとするが、植物状態で入院中の被害者・エミの関係者たちは協力を拒否。それでも病院に赴いた彼に、意識の無いはずのエミが話しかけてくる。自分にしかその姿が見えないことに戸惑いながらも、言葉を交わすうち、テルは彼女の、そして自分自身の真実と向き合うことになる…。


17年の韓国映画を原作として板垣恭一さんが脚本を執筆、“普通に”暮らしながらもそれぞれの状況下で懸命に生きる人々の姿を、心に染み入る音楽(桑原まこさん)とともに描いたミュージカルが誕生します。現実と虚構がナチュラルに交錯し、共感を誘うのは、ミュージカルという表現形態ならでは。藤岡正明さん(テル)、皆本麻帆さん(エミ)をはじめとするカラフルな布陣が、等身大の人々のドラマを丁寧に描き出してくれそうです。

藤岡正明さん、荒田至法さん、内海啓貴さんインタビュー:“人生がマラソンのようなものだとしたら、今の彼は、しゃがみこんでいる状態。でもいつかきっと…”。 

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左から・内海啓貴 95年神奈川県出身。ミュージカル『陰陽師~平安絵巻』『黒執事Tango on the Campania』等で活躍。藤岡正明 82年東京都出身。ミュージカル『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『ジャージー・ボーイズ』『タイタニック』等で活躍。荒田至法 94年東京都出身。THE CONVOY SHOW『asiapan』『星屑バンプ』演劇『ハイキュー!!』『マリー・アントワネット』等で活躍。(C)Marino Matsushima

――台本を読んでどんな印象を受けましたか? 

荒田至法(以下・荒田)「ミュージカルと言えば、フランスで革命が起こったり、死を象徴する人が出てきたりという作品が“王道”と呼ばれる中で、現代に生きる、普通に僕らの周りにいるような人たちの物語というのが素敵だな、と感じました。その人々が、僕ら同様思い悩んで生きて行く。こういう物語がどう舞台化されて、どう(お客様に)観てもらえるだろうと、楽しみになりました」 

内海啓貴(以下・内海)「“この物語がミュージカルになるんだ”という驚きがありました。歌無しで、ストレートプレイとして上演することもできるんじゃないかと思ったけど、曲を聴いて“こういうことか”と。うまく物語にマッチングしていて、きっとお客様にとっても驚きがあると思います」 

藤岡正明(以下・藤岡)「僕は以前、とある先輩に“台本を真に受けすぎるな”と言われたことがあるんです。“お前、もっと斜に構えてみたほうがいいぞ”と。正面から読んでしまうと、“この役はきっとこういうふうに思ってこれをこう言うんだろう”となって、余白がなくなっちゃうんですよ。別にひねくれたことをやろうというのではなくて、凝り固まらず、常に“もっと違う切り口があるのかも”と思うようにしています。 

そんな僕が今回、この台本を読んで思ったのは、“書いていらっしゃった時点で、(脚本・作詞・演出の)板垣(恭一)さんはご自身が悩んでいたんじゃないかな”ということ。ここにどう命を吹き込むか、板垣さんは“これで行くぞ”と決めてしまっているわけではなくて、稽古場で見つけようとしているのではないか。この人はどういう人なのか、この人の行動はこれでよかったのかという精査をしていかれるのだろう、それだけ稽古場に期待をしてくれているんだろうという気がしました」 

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『いつか~one fine day~』

――現時点で、ご自身が演じる役をどうとらえていますか? 

内海「僕が演じるタマキは、藤岡さんが演じるテルと同じ保険会社に勤めているのですが、まさに“平成生まれの子が大人になったらこういうサラリーマンになるのかな”と僕が思い描くサラリーマン。わからないことがあれば“わかりませんよ”と言うと思うし、どこかで“俺がこの世代を変えるんだ”と思いつつ、繕うこともなくて。僕自身もゆとり世代なので、自分らしさも出せればいいなと思っています」

 

――抱えているものが重い登場人物も多い中で、タマキさんは…。 

内海「彼の場合は、夢はあっても現実に押しつぶされて、もがいている状態ですね。会社では先輩であるテルさんを尊敬しているけれど…」 

藤岡「尊敬してる?」 

内海「めちゃくちゃしてます!」 

藤岡「プライベートで尊敬できないから芝居でも尊敬できないでしょ?」 

内海「そんなことないですよ、僕10代の頃、動画サイトで藤岡さんの歌い方が研究したくて、リアルに100回近く観ました。One Song Glory”です。稽古が始まる前にこの作品のPV撮影で初めてお会いしたんですが、その時“僕の歌の先生だ”って舞い上がりました」 

藤岡「教えた記憶はないけど…(笑)」

 

――繰り返し観た結果、マスターされたのですか? 

内海「しました!」 

藤岡「イベントで歌ってもらえれば、僕が採点するよ」 

内海「練習し直します!」 

藤岡「いや、こっちの(作品の)稽古しようよ(笑)」 

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『いつか』稽古より。写真提供:conSept

――荒田さん演じるトモは、ヒロイン・エミの親友でゲイという設定。病院を訪れたテルをはじめは冷たく追い返します。 

荒田「まっすぐ生きることについて疑問を持つというか、敷かれたレールの上をそのまま歩いていくことに悩んでいるキャラクターだと感じます。自分がゲイということを肯定しきれていないし、普通に仕事をされているゲイの方がたくさんいらっしゃるのに、自分にはそれもできず、これでいいのか、と思いながら生きている。理解できる部分はあります」 

藤岡「彼の近くにはゲイの人はあまりいないようなので、今度知り合いのゲイバーのママに相談しようかと思っているんですよ」

 

――ゲイバーにもお友達がいらっしゃるんですね。 

藤岡「けっこういるんですよ」 

内海「藤岡さんって…⁈」 

藤岡「僕、結婚して子供もいるけどね(笑)」

 

――では、藤岡さんは主人公テルをどんな人物ととらえていますか? 

藤岡「これは板垣さんから聞いた話ですが、病気で苦しんでいる人は“これ以上苦しみたくない”、そしてその周囲の人間は“これ以上悲しみたくない”と思うものだそうで、テルはまさに後者なんですね。奥さんを亡くしたことで、これ以上(近しい)人の死を見たくない、と物語の始まる時点では思っています。 

例えば人生はマラソンのようなもので、人生を終える瞬間がゴールラインを切った駅伝の学生選手がふぁーっと倒れ込む時のようなものだとすれば、冒頭のテルは、自分が一番疲れているつもりになって、しゃがみこんでしまっている。けれどもそれから紆余曲折があって、最後にもう一度、そのマラソンを走り出す。そんな人なんじゃないかと思っています」 

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『いつか』稽古より。写真提供:conSept

――テルには、植物状態でベッドに横たわる交通事故被害者、エミの魂が見えるのですが、なぜ彼にだけ見えるのでしょう? 

「亡くなった妻と会いたいと願っていたら、エミの魂とリンクしてしまったということなんじゃないかな。でないとただの超常現象になってしまう。必然が必要ですよね」 

真っ白なキャンバスにどんどん色が重なってゆくような稽古

――なるほど…。稽古は今、どんな状況でしょうか。 

藤岡「今日で全部のシーンの立ち稽古を終えて、明日からは二周目というか、はじめに戻って細かく作っていこうとしています」 

内海「これまでの稽古では、台本で読んでいたシーンが“こうなるんだ”と驚くことばかりで、それが(通し稽古で)繋がるとどういう作品に仕上がるんだろうというのが楽しみです。演出の板垣さんは、立ち位置とかも“決めずに動いていいよ”と自由に創らせてくれる。そこは甘えていけたらいいなと思ってます」 

荒田「今日、これから最後のシーンの立ち稽古があるのだけど、それによって作品の世界観も違って見えてくるのかなと思っています。これまでも台本を読んで“こういう感じかな”と思っていたものに、稽古をする中で何色も色が重なって来ていて。稽古前には絶対にわからなかったものになってきているけれど、最後のシーンによってどういう道筋が見えて来るのか、本当に楽しみですね。 

板垣さんは役者の能力を引き出してくださる演出家で、僕らから生まれるものを待ってもくれるし、もっとやってみろと言ってくれる。自分自身、毎日良くなってきている感覚はあるので、それに甘えつつ鞭打ちつつ、初日が開いてからも成長していける舞台かなと思っています。ご期待下さい!」 

藤岡「いいものになるという実感は掴んでいるけど、正直、全然まだまだ。本番までにはしっかり間に合わせたいですね。必ず、何かちゃんと持って帰ってもらえる作品にはなります。確固たるメッセージ性がある作品なのでそれは手放さないようにしないといけないし、僕自身が率先してそろそろギアを変えて取り組んでいかないと、と思っているところです」

 

—-お互いを役者としてどう見ていますか?まずは内海さんについて…。 

藤岡「彼は台詞まわしが自然なんですよ。ベテランでも、俳優さんの中には台詞を歌う人がいらっしゃるけど、僕は普通にふだん話している感じで台詞を言えたほうが自然だと思うんですよね。(内海さんは)それができる役者さん。フットワークが軽いんだと思う。瞬発力があるし、頭もいい」 

荒田「べた褒めじゃないですか(笑)。僕は、正直な人なんだなと感じます。常に思ったものをまっすぐに出してくる。現場で同い年に出会うことってあまりないんですが、彼は同い年で、出会えて嬉しいですね。近くにこういう人がいてくれることは有難いし、お互い一緒に頑張っていかないと、と思っています」

 

――では荒田さんをお二人はどう見ていますか? 

藤岡「あのね、不器用(笑)。自分を表現するのが不器用なんですよ。でもそういう人間の方が、あとからどこかで開花するんですよ。例えば、彼女が出来たことのないやつに恋愛相談しても“お前何言ってるの”ってことになるじゃないですか。 

それと同じで、役者をやる上で絶対手放しちゃいけないのが、劣等感や悔しさだと僕は思うんですね。自分に対してのはがゆさ、情けなさを思わなくなったら、表現なんてできないし、成長しなくなると思う。“どう?俺、最高でしょ?”なんて絶対に思えない。そういう感覚を僕同様持っているから、自問自答して必死にあがき続けることで、必ず開花すると思っています」 

荒田「ありがとうございます!」 

藤岡「でも今のところ凄い不器用です(笑)」 

内海「至法は僕同様素直で、似ている部分がある一方で、役者同士のコミュニケーションの取り方や稽古での“居方”はちょっと違う。演技を見ていても、僕がやらないアプローチを彼はやるので凄刺激にもなるし、面白いです」

 

――ではお二人からみた藤岡さんは? 

藤岡「二人とも、わかってるんだろうな(←と、内海さん・荒田さんに凄む。笑)」 

荒田「ひとことで言って、ピーターパンですね。この職業の人は少年の心を絶対持っていないといけないんだろうな、といろんな舞台を観たり先輩方とお話する中で感じるけど、藤岡さんはすごくピーター。自分の興味のあることはわーっとのめりこむ。でもどうでもいいことになったら遠くを見てる、みたいな」 

藤岡「ひどいやつみたいじゃない!(笑)」 

荒田「でも向き合ってる時のまなざしは、信じられないくらいかっこいい。これまで何作か一緒にやらせていただいていますが、この人のこういう顔をみて女性たちはファンになるんだろうなと思ってきました。と思えば、下ネタ言いながら上着脱いで走り回ったり(笑)。でももともとが面倒見のいいお兄ちゃんで、僕がどうしようと思う時は一緒に進んでいこうと手を差し伸べてくれる。幸せだな、と思います」 

内海「かつて動画を見ていた時は、リーゼントだったこともあって怖い人と想像していました。実際は、稽古になると役に入るけど、普段は本当に“少年”。素敵だな、将来僕もこういう大人になりたいな、と思いますね。憧れの方との共演なので楽しみです。舞台上で絡むところもあるので、学べるところは学び、吸収していきたいです」

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インタビュー後に始まったこの日の稽古は、テルと亡くなった妻マキ(入来茉里さん)の、ある重要なシーンからスタート。この場面を立ち稽古で行うのは初めてらしく、舞台セットの模型を使いながら演出の板垣さんがざっくりとキャラクターの出入り位置を説明した上で“やってみましょう”となりましたが、寄せては返す波音を思わせる桑原さんの楽曲に彩られ、初トライにしてしっとりとした一シーンが立ち現れます。

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『いつか』稽古より。写真提供:conSept

車椅子のマキに明るく語り掛けるテルの優しさ。それを受け止めながらも、ある思いを秘めたマキ。そのままでも十分、引きこまれましたが、板垣さんは入来さんに顔の角度についてちょっとしたリクエストを出し、それを受けてもう一度やってみると、なるほど観客から見てさらに彼女の内面が想像しやすいものに。緻密に、丁寧に進められてゆく稽古の様子に、全編の仕上がりがますます楽しみなものとなりました。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
 

*公演情報*『いつか~one fine day~』4月11日~21日=シアタートラム 公式HP

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