Musical Theater Japan

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『メイジ・ザ・キャッツアイ』美弥るりかインタビュー:明治レトロの世界で魅せる"謎多き執事”役

美弥るりか 茨城県出身。2003年に宝塚歌劇団に入団。男役スターとして活躍し、2019年に退団。以後、『SHOW-ISMS』を皮切りに、『The Parlor』『クラウディア』『BERBER RENDEZVOUS』舞台『キングダム』『ヴァグラント』『TOHO MUSICAL LAB.』等話題作に出演している。©Marino Matsushima 禁無断転載


1981年に連載開始以来、アニメや実写ドラマ、映画にと多方面で展開、現在も人気の漫画『CAT’S♥EYE』(北条司さん作・コアミックス)が、明治座創業150周年のラストを飾る舞台となって登場。明治時代を舞台に、藤原紀香さん、剛力彩芽さん、高島礼子さん演じる三姉妹の怪盗が活躍する物語で、謎めいた人物を演じるのが美弥るりかさんです。

宝塚歌劇団で男役スターとして確かな存在感を示し、2019年に退団後も『キングダム』『ヴァグラント』等話題作に引っ張りだこの美弥さんですが、今回はこれまでの蓄積がたっぷり生かされ、彼女だからこそ可能な(⁈)キャラクターが誕生する模様。果たしてその人、“藤堂薫”の人物像とは…? 少女時代の揺れる思い、宝塚時代に目標としてきたこと、そして今、抱くヴィジョンなども含め、じっくり語っていただきました。

 

盛りだくさんの舞台で担うのは“一人ミュージカル”⁈

 

――まずは今回の舞台『メイジ・ザ・キャッツアイ』について、台本の第一印象からお教えください。

「初めて読んだ時は、内容があまりに盛りだくさんで、“これはいったいどういう形になるのかな?”というのが第一印象でした。

いろいろな人間関係があり、彼らの“本当の顔”がある中で泥棒事件が起き、なおかつコメディ要素もシリアス要素も盛り込まれ、歌やダンスも登場する。どんな舞台になるんだろう、とわくわく感もある中で稽古してきました。

最近、初めて1幕の通し稽古を終えたところ、既に全てを堪能したような充実感があって、私自身、2幕分の体力を使っていました(笑)。これは2幕まで通したら大変だ…と、覚悟しているところです」

 

舞台『メイジ・ザ・キャッツアイ』

――どの要素が一番強い作品でしょうか。コメディ、冒険活劇、ミステリ劇などなど…。

「一番は、コメディでしょうか。もちろんお話的には、大変な事件が起きているのですが、河原雅彦さんの演出では、すべてを重く見せすぎないんです。(横溝正史の)金田一耕助の事件というよりは(名探偵)コナンの事件、という感じでしょうか。エンタテインメント性の高い作品になるのかなと感じています」

 

――そんな中で、美弥さんが演じる藤堂薫という人物は、どんなキャラクターでしょうか?

「藤堂は“栞さま”というお嬢様に長年仕える執事なのですが、性別をちょっと伏せておりまして(笑)、謎多き人物です。

“何をやってもさまになる”というキャッチフレーズがついていまして(笑)、私の印象としては“一人ミュージカル”なキャラクターです。他のみなさんがナチュラルに喋っているのに対して、私は歌うように喋ったり、ステップで移動したり。一応“かっこいい人物”なのですが、コメディに出てくるかっこいい人なので、くすっと笑っていただける部分を、ちょっとずつ入れている感じです。ただただ二枚目のかっこいい人ではなく、かっこいいけどちょっと笑える、というポジションでいたいなと思っています」

 

――笑える要素もありつつ、“デキる”執事さんなのですね。

「隙がなく無駄がないというか、お嬢様が手を伸ばしたら、ほしいものをさっと出せるような人です。言葉も巧みでして、キャッツ・アイの(三姉妹の)皆さんが経営している喫茶店を訪ねると、そこにいる女性客たちが“わぁ素敵”とみんな惚れてしまうような人物ですね」

 

――まさに完璧な人物に聞こえますが、ご自身的にはそういうキャラクターは作りやすいものでしょうか?

「ふだんの自分はけっこう抜けていますし(笑)、のんびりした性格なので、今回のように俊敏に、スマートに動く役は、自分的にはかなり意識しないといけません。こういう役をいただくことが多いので、皆さんの中に役と同じ印象があるのかもしれないけれど、本当の自分とは隔たりがありますね(笑)。今回は性別も公開されていない役なので、宝塚時代に培った男役の所作や発声方法、ポージング、ダンス…と、学んだことをふんだんに使うようにしています」

 

――それはご自身のアイディアによるものでしょうか、演出の河原さんのリクエストでしょうか?

「台本自体がそのように書かれていたので、私に求められているのはこういうことかなと考えてやっています。ネタバレになってしまうのであまり多くは語れませんが、観て頂くと、なぜ私がこの役をやっているか、わかっていただけるかなと思います。

藤堂という人物の謎は今回の作品で大事なポイントになっているのですが、河原さんからは、キャッツ・アイ役のお三方が非常にゴージャスな女優さんたちなので、お三方と違うところで勝負するというところで美弥さんにやってほしかったです、と言っていただいたことがありました。ですので、私が宝塚で培ったものを出すことで、役を確立するということが大切だな、と思っています。

最初は稽古場でどれだけ“異色”でいたらいいのかわからず、小出しにしていたのですが(笑)、少しやってみて“これはもう思いっきり振り切ったほうがいいな”と思いまして。台詞がない瞬間も藤堂の不思議さ、異色さをどう出せるか、どんどんやっていきたいなと思っています」

 

――初共演の方が多いのですね。

「はい、多いです。はじめは緊張していたのですが、(藤原)紀香さんはじめみなさん気さくな方で、自然体で過ごしていらっしゃるので、今はコミュニケーションも円滑です。本作は台本が分厚くて、“これが2幕で終わるのかな”というほど台詞が多く、それだけテンポのいい芝居が必要とされているので当初は皆さん、集中して稽古されていたのですが、だんだん完成に近づくにつれ、お喋りする機会も出来、あたたかな空気が流れています。

私の席は長谷川初範さんに近くて、はじめダンディな印象を持っていたのですが、稽古では少年のようなかわいらしさも発揮されていて。音楽のお話や、これまでどんなお芝居や役柄を経験されてきたかといったお話もしてくださって、今はその時間がすごく楽しいです」

 

――明治座という劇場は昨年『ヴァグラント』でも経験されましたが、どんな劇場でしょうか?

「舞台から見ると、二階席の方も近く感じて観劇いただけるような印象があります。後ろのほうじゃない感じがする、と言いますか。

あと、『ヴァグラント』の時には登場しなかったのですが、今回は花道を使う予定で、私も生まれて初めて歩くのを楽しみにしています。宝塚にも銀橋という、ちょっと似たものがありますが、どれくらい遠いのかな、と想像したり。本舞台のシーンが終わってすぐ花道で次のシーンが始まったりということもあると思うので、どんな感じで進んでいくかなと思っています」

 

――今回は美弥さんのどんな新たな一面が見られそうでしょうか?

「“かっこよさ”という意味では、燕尾服を着ますし、懐かしさも感じていただけると思いますが、そこにちょこちょこ入ってくる“なんかこの人おもろいな”という感じが、これまでにない一面かと思います。

これまでやったことのないコメディだけに、“美弥さん、馴染んでないよ…”と心配される方もいらっしゃるかと思いますが(笑)、その“馴染んでない、慣れてない”感は、敢えて追求しております。“私はそこを目指してます”と、声を大にして言っておきます(笑)」

 

――『メイジ・ザ・キャッツアイ』、どんな舞台になるといいなと思われますか?

「『CAT’S♥EYE』と聞くと、ほとんどの方が“3人組”“ボディスーツ”“泥棒”といった連想をされると思いますが、それ以外の(事前の)情報がなくとも楽しんでいただけると思います。時代設定も明治時代になっていますし、原作に出てこない面白いキャラもたくさん出て来て、1秒も見逃せないと思います。1幕だけでも2幕分の情報量があって、展開も早いですし、観て下さる方も私たちと同じくらい、忙しいかもしれません(笑)。

セットも明治時代のアンティーク調の家具が出てきたりと、ゴージャスなものになりそうです。世界観の細かいところまでこだわって作られた、素敵な作品になっていると思いますので、一秒も見逃さず、聞き逃さずに御覧いただければと思います」

 

美弥るりかさん 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


――ご自身のプロフィールについても、少しお話をうかがえればと思います。美弥さんは宝塚を目指す過程でバレエを始め、コンクールで入賞されたこともあるそうですね。バレエに進むという選択肢もあったにもかかわらず、やはり宝塚を目指されたのはなぜだったのでしょうか?

「バレリーナを目指そうかなと思った時期も確かにありまして、フランスにバレエ留学していました。でもその時、海外生活がちょっと難しいなと思ってしまったんです。

最近は日本でも職業=バレリーナとして生活している方がいらっしゃいますが、私が小さい頃は、海外で一度名をあげて凱旋という形をとらないと、バレリーナとして生きていくのは難しい…と言われていて、海外経験は必須だなとわかっていました。

そこでフランスに行ったのですが、いろんな国の人と話したり世界のトップレベルの方とレッスンする中で、私は宝塚を目指してからバレエを始めたので皆さんより全然経験が短かったのもあり、圧倒されてしまったんです。皆さんの“前に前に”精神というか、“私が一番うまい”という自信に気圧され、落ち込みながら帰国して、本当に私にバレリーナが出来るのだろうか、あの世界の中で勝ち進むことが出来るだろうかと、中学三年で進路を考える時期だったこともあり、悩んでしまいました。

そこで自分の心を整理しようと、少しバレエから離れてみました。そしてその時期にふと宝塚の舞台を観て、“私はそもそも男役になりたくてバレエを始めたんだな”という気持ちになり、そこから切り替えたという感じです。バレエ経験を活かすことも出来るし、歌などのスキルを身に着けて挑戦するのも人生経験としていいんじゃないかな、と思い、宝塚受験を決意しました」

 

――その時の逡巡があってこそ、今の美弥さんがいらっしゃるのですね。無事合格され、宝塚在団中は様々なお役を演じられましたが、中でも非常に強いインパクトを残したのが、2016年の『アーサー王伝説』モーガン役でした。独特の妖艶さを放っていらっしゃいましたが、ご自身としては、どのような表現者を目指していらっしゃったのですか?

「私は二枚目と呼ばれるような、ヒーロー的なポジションに憧れたことが一度もなく、どちらかというと癖のある役、悪役にチャレンジしたいなと思っていました。

男役としては背が低かったり体が細かったこともあって、女性の役をあてがわれることも多く、はじめのうちはどうして?と思っていましたが、次第に“これが自分の武器になるのでは”と思えるようになってきました。

骨太の男役というよりは“中性的”というか、ジェンダーフリーと思えるような男性像を目指し、男女の間をフラットに行き来できるような役者になりたいな、そういう人、宝塚にいないじゃない?と思っていました。自分にしかできないジャンルを作りたいな、と。

そういう個性を確立してから卒業したいと思っていたので、今おっしゃっていただいた、妖艶さも強さも必要なモーガンのような役に出会えたことはすごく嬉しかったです。自分がやっていきたい役そのものだったので、やりがいもありましたし、楽しく演じていました」

 

――宝塚で得た一番大きなものを振り返ると、やはりご自身の個性の確立だったでしょうか。

「はい、自分の個性を見つけられたことだと思います。もう少し早く辞めていたら、成し遂げられなかったという思いが残って、後悔していたかもしれません。でも、自分のマイナスだと思っていたコンプレックスを自分の武器にし、悔しいこともバネにして切り替えることが出来るようになり、それによって私の個性に興味を持って下さり、応援して下さる方が増えたと思っています。その個性がなければ今、応援して下さるファンの方々にも出会えなかったと思うので、そこは自分の中で大切な、良かったなと思っている部分です」

 

――退団後も順風満帆にキャリアを積み重ねていらっしゃいますが、今の時点では、どのようなヴィジョンをお持ちですか?

「基本的には宝塚時代の個性は、形は変わってもこだわっていきたいなというのはあって、ジェンダーフリーということを大切にしていきたいと思っています。ですので、今回のお役は理想に近いものでしたね。

退団時には、女戦士と魔女の役をやりたいなと思っていたのですが、有難いことにすぐに叶いましたので(笑)、また違う域に行けたらと思っています。

例えば今回は男役の経験を活かせるお役でしたので、次は母性が必要になるような役にも挑戦したいですし、繊細なお芝居が必要とされる、歌のないストレート・プレイにも興味があります。そうそう、朗読劇もこれまでやったことがなく、挑んでみたいものの一つです。

身体に頼らず、感情と声だけで、観客の心にストレートに届けるという世界が個人的にも好きで、私自身、よく行っています。ぜひ、自分でもやってみたいと思っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 舞台『メイジ・ザ・キャッツアイ』2月6日~3月3日=明治座 公式HP
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