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『ジキル&ハイド』真彩希帆インタビュー:“今この時”、ルーシー役に真剣勝負で挑む

真彩希帆 埼玉県出身。2012年に宝塚歌劇団に入団し、2017年、雪組トップ娘役に就任。21年に退団後は『ドン・ジュアン』『笑う男』『流星の音色』『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト』等に出演している。©Marino Matsushima 禁無断転載

実験によって体内に別人格が生まれた博士の葛藤を描くドラマティック・ミュージカル『ジキル&ハイド』が、5年ぶりに上演。今回、ジキル/ハイドの双方と関わることになる娼婦ルーシーに初役で挑むのが、真彩希帆さんです。 
宝塚歌劇団でトップ娘役として活躍後、『笑う男』の儚げなデア役で鮮烈な帝劇デビューを飾った真彩さん。デアとは対極的に官能的な役どころへの挑戦を、ご本人はどうとらえていらっしゃるでしょうか。今回は過去の出演作の話題から順を追って『ジキル&ハイド』に迫って行きます! (*インタビューは開幕前に行われました)

『ジキル&ハイド』🄫Marino Matsushima 禁無断転載

――『笑う男』のデアは心臓が弱く、目も不自由という役どころでしたが、真彩さんのデアにはまるで雪のひとひらのように、触れたら溶けてしまいそうな儚さがありました。ご自身はどんなことを思いながら演じていましたか?

「作品に向かう時はいつも、何が求められているのか、自分の役がどうあるべきかを考えています。私自身はデアとは対照的に“生命力に溢れている”と言われる人間ですが(笑)、舞台上で彼女の命の灯火が儚く見えていたのであれば、嬉しく思います。

御覧になった方からは“カーテンコールまで本当に目が見えていないんじゃないかと心配でした”というお声もいただきましたが、実際にデアとして舞台に立っている間、なぜか視界がボヤ~っとしていて、ほぼほぼ目は見えていませんでした。役の感覚が勝っていたのだと思います」

――(兄のように慕う)グウィンプレンのことも、まさに心の目で見ていたのですね。

「そうですね。それに加えて、私は耳を澄ますようにしていました。私自身は生まれつき耳がいいようなのですが、デアも音や体温で敏感にものごとを感じ取るタイプだったのではないか。そう思って、お稽古場からいつもよりさらに聴覚を研ぎ澄ませるようにしていました」
 
――甲斐翔真さんのコンサートにもゲスト出演されていましたが、共演経験はあったのですか?

「無かったのですが、何かの舞台で私の歌声を気に入って下さったようで“もしよかったら一緒に歌ってもらえませんか⁈”とお声がけいただき、嬉しかったです。

私はデュエットする方のことを何も知らずに歌うより、少しでもその人の考えを知りたい人間なので、オケ合わせの時に“ちょっと話さない?”と甲斐くんとお喋りしたんです。こんな役をやるとしたらどうアプローチしたい?みたいなミュージカル話をしていたらあっという間に2時間経って、お芝居に対する感覚がめちゃくちゃ似てるね!と一気に意気投合し、面白かったです(笑)。本番でも楽しくご一緒できました!」
 
――歌唱力に定評のある真彩さんですが、歌は幼い頃から学ばれていたのですか?

「幼いころからは習っていませんでしたね。男役になりたくて、ものまねをして過ごしてきました。宝塚音楽学校に娘役として入学した後は、娘役さんの音域が上手く出ず、“こりゃあダメだ”と必死に勉強し直したくらいです。私はふだんの喋り声も低いのですが、入団してから作曲家の先生がソプラノ音域を当ててくださることが多くなり、鍛えられました」
 
――それが現在の真彩さんの武器となっているのですね。

「私は作品によって声帯の筋肉の使い方をかなり変える人間なので、例えばベルトの(太い)声を使う作品に出た直後にソプラノ音域を歌うということになると、出来るかなーとドキドキすることも(笑)。でもそこはお仕事ですから、当日までには乗り越えています」
 
――『天使にラブソング~』では、主人公デロリスとの出会いによって自分らしさに目覚めてゆくシスター・メアリー・ロバートを演じられました。

「ロバートちゃんはとっても“愛しい子”で、私自身もたくさん元気を貰える役でした。何かに一歩踏み出しチャレンジする、子供の頃のストレートな気持ちを思い出しながら演じました。誰かに(生き方を)いろいろ言われることがあっても、自分らしく生きるって悪くないなと、再確認させてもらった役ですね。やればやるほどエネルギーに満ち溢れるし、一歩踏み出すって勇気がいる事だけど、これからの演劇や役に対しての取り組み方について、この時期に出会えてよかったと思えた役でした」
 
――ここまでお話をうかがってきて、今回の『ジキル&ハイド』のルーシー役は意外というか、真彩さんの中にルーシー的な要素が見当たらないような気がするのですが…。

「おっと⁈ ですかね?(笑)」 

『ジキル&ハイド』🄫Marino Matsushima 禁無断転載

――まずは(ジキルの婚約者で清純な)エマ役、ではなく、はじめからルーシーでのオファーだったのですね。

「私もはじめお話をいただいたときにはびっくりして、ルーシー⁈大丈夫かな?と思いました。

でも私は、宝塚でお姫さまや少女的なお役より、色気の求められる大人の役が意外と多かったので、それでかなぁ~と(笑)。自分としては、『ジキル&ハイド』でルーシーをやるにはまだ人生経験が足りないというか、歌声や演技に深みがでないのではないかという気がしたのですが、音楽監督の甲斐先生も私のルーシーが楽しみとおっしゃってくださったこともあって、私自身、自分がルーシーになった時にどんなものが出てくるか、どういう声や感情が出てくるか楽しみにしよう、と思いオファーをお受けしました」 

『ジキル&ハイド』🄫Marino Matsushima 禁無断転載

――彼女は男性を誘惑する仕事をしているわけですが、ジキルに生まれて初めて紳士的に遇されたことで、どこか乙女心のようなものが芽生えます。そういう本質的な部分で、ルーシーと何か共通するものがあるのかも…?

「あるかもしれないですね。人をたぶらかしたりとか、恋の駆け引きをした経験はありませんが(笑)、ルーシーは仕事柄、いろいろな人を相手にする中で、自分の中で求めているものに、本当は気づいているけれど気づかないフリをしている人なんじゃないかという気がして、そういう部分でも過去の自分と共通点があるかもしれません。

宝塚ではあまり素直にハッピーでいられる役が少なく、なぜかな?明るい役もやってみたいなと思ったこともありましたが、“誰よりも明るい人だからこそ、ダークサイドの人間を表現した時に二重三重に、万華鏡のように積み重なった表現ができるんだよ”といろいろな方に言われまして、それからはいただく役に身を委ねるようになりました。ですので今回のルーシー役は、その路線に戻ったという感じなんでしょうかね(笑)。眉毛を描くにしても、デアやメアリー・ロバートではいかにほんわり見せるか注意していましたが、今回、宣伝ビジュアルの撮影では手が勝手に動いて、(きりっと)眉毛を描いていました。そういう面でも、今回はまた一つギアを入れて挑戦しています」
 

『ジキル&ハイド』🄫Marino Matsushima 禁無断転載

――宝塚ではセクシーな表現においてもお相手は清潔感のある男役スターさんだったのに対して、今回はリアルな男性たちとの共演とあって、また感覚も異なるでしょうか。

「リアルな男性ですけれど、共演者の皆様も男役スターさんと変わらないくらい清潔感にあふれているのと、性別を普段考えない人間なので、変な意気込みはないですかね(笑)。個人的には、ルーシーという役を演じるにあたって、ほんのり色気が滲み出て来るものがあったらいいなーと。出てくるかどうかわからないけれど、ルーシー、よろしくね!というところです(笑)」
 
――お話すればするほど、どんな“新・ルーシー”が生まれるか、興味が膨らみます。

「デアの時にもはじめは“デアをやるには生命力が強すぎるのでは?”と心配する声もあったようなのですが、御覧いただいた方からは“今にも消えそうで”と言っていただけて、そこが役者の面白いところですよね。直前の出演作のイメージと繋がらない、と言われることが多いのですが、今回も“あれ?同じ女優さん”と驚かれるくらい、作り込んでいけたらいいなと思っています」
 

――ルーシーはジキルと出会ってしまったことで、悲劇に巻き込まれて行きますが…。

「客観的な見え方と、その役の子自身の感覚というのは違うような気がします。
私、『笑う男』の初演を拝見した時に、悲劇だと全く思わず、“主人公たちは天国で結ばれて、なんて幸せなストーリーだろう”と感じたんです。デアの立場で観ていたのでしょうね。なので、今回のルーシーも人から見れば気の毒かもしれないけれど、彼女自身がどう感じていたかは別かもしれない、と思っています」

――真彩さんが感じるこの作品の魅力は?

「登場人物それぞれの人生が、ダイナミックに描かれているところかなと思います。その中で必然的に楽曲が粒だっているので、それをいかに丁寧に歌うかがポイントになってくるでしょうね。ダイナミックなストーリーの渦にお客様が飲み込まれるいっぽうで、私は飲み込まれず、しっかり立っていけたらと思っています」


――音楽はフランク・ワイルドホーンさん。“馬力”が必要とされる作曲家として有名です。

「『笑う男』もワイルドホーンさんでしたが、デアの曲は彼の中にある柔らかい側面が表現されていたのか、ワイルドホーンさんの楽曲の中では繊細な、オルゴールのようなテイストでした。今回は明らかにそれとは違うタイプの楽曲ですね」
 

『ジキル&ハイド』🄫Marino Matsushima 禁無断転載

――ちょっと太めの艶やかな声が求められそうですが、真彩さんのお得意なゾーンでしょうか?

「私はもともとベルトだったのが、宝塚でかなりソプラノの声になりました。声帯って筋肉なのでどうアプローチしたらいいかなと思いますが、『ジキル&ハイド』には先輩方がたくさんいらっしゃるので、学ばせていただいて頑張りたいです。私、他の人が歌っている時に観察していると、背中のこの辺りが動いているなとか、筋肉の動きがわかったりするんです。喉のどの辺りを意識して出していらっしゃるな、とか…。声帯の先生が向いているのかも(笑)。そういう発見を活かせるといいですね」

 

――どんな舞台になったらいいなと思われますか?

「宝塚在団中から、チケット代を払って大切な人生の時間を使って見に来て下さるお客様のありがたさを感じてきましたが、皆さんが使って下さったもの以上のことを、溢れんばかりにお返ししたいと思っています。舞台から感じられるものは人それぞれだと思いますが、エネルギーはしっかりお渡ししたいです」
 

――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「どんな役をやりたいとか、どうなりたいといったことはあまり考えたことがありません。誰かと競うとか、昔の自分と闘うといったタイプでもないです。でも宝塚時代にワイルドホーンさんに“君の声帯は(天からの)ギフトだ”と言って頂いたことがあって、与えられたものには意味があるのかな、と思うようになりました。なぜ自分が宝塚でトップ娘役になれて、退団後もいろいろな役を有難いことにいただけているのか。与えられているものに対して、自分がどれだけ向き合っていけるか、求められている以上のものを返せる人間でありたい。そこはかなり真剣勝負でやっていきたいですね」
 
――未来を見るというより“今この時”を大切に、ということですね。

「今をちゃんと生きないと、未来にはつながっていかないと思うんです。今与えていただいているお役にいかに取り組むかで“こういうことにチャレンジしませんか”と次に繋がっていくと思います。ミュージカルが初めてという方には“こんな世界があるんだ!”と、熱い思いを持って観に来て下さる方には“やっぱりミュージカルって最高!”と思っていただきながら劇場を出ていただけるよう、役者として努めることが大切じゃないかなと思っています」
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『ジキル&ハイド』3月11~28日=東京国際フォーラムホールC、その後ツアー公演として2023年4月8~9日=名古屋公演・愛知県芸術劇場 大ホール、2023年4月15~16日=山形公演・やまぎん県民ホール、2023年4月20~23日=大阪公演・梅田芸術劇場メインホールにて上演  公式HP

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