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『モダン・ミリー』中河内雅貴インタビュー:最強ハッピー・ミュージカルで挑む“レアな役どころ”

中河内雅貴 広島県生まれ。ジャズダンスとクラシック・バレエを瀬川ナミ氏に師事。ミュージカル『ALTAR BOYZ』『ザ・ビューティフル・ゲーム』『アリージャンス』『ジャージー・ボーイズ』『ウエスト・サイド・ストーリー』『ビリー・エリオット』舞台『ヘンリー五世』等様々な作品で活躍している。©Marino Matsushima 禁無断転載

“モダン”な女性に憧れるミリーが、夢に向かって突き進む…。
1967年にジュリー・アンドリュース主演で公開された映画を2002年に舞台化し、トニー賞作品賞を受賞した痛快ミュージカル『モダン・ミリー』。2020年にコロナ禍のため中止となった公演がこの秋、ついに実現します。

華麗なダンス&歌を交えて描く本作で、ミリーに惹かれてゆく青年ジミーを演じるのが、中河内雅貴さん。“狂騒の時代”と呼ばれる1920年代に縁があり、ダンス巧者でもある中河内さんにはぴったりの演目ですが、ご自身は作品世界をどうとらえているでしょうか。2年前には開幕目前でストップという悔しい思いをされただけに、再びの稽古スタートが楽しみでならないご様子の中河内さんにうかがいました。

『モダン・ミリー』

【あらすじ】
1922年のNY。カンザスの田舎町から出てきたミリーは、大都会に着いて早々財布を盗まれ、偶然出会ったジミーから「プリシラ」というホテルを紹介される。
中国人のミセス・ミアーズが経営するその宿には、NYでの成功を夢見る若い女性たちが長期滞在しており、ミリーは新入りのドロシーらと親しくなりつつ、仕事探しに奔走。速記の腕を買われて入社した保険会社の社長グレイドンにときめき、彼へのアタックを始めるが、ドロシーが行方不明になってしまい…。

ファッショナブルな1920年代に
“ご縁”を感じています

――本作は1920年代のNYが舞台となっていますが、中河内さんは『スコット&ゼルダ』(2015年)で「1920年代の象徴」という抽象的な概念を、スタイリッシュに表現されていました。今回はまさに同時代のお話ですね。
「1920年代に“縁”があるのかな、と勝手に思っています(笑)。僕は以前から20~40年代のファッションが好きで、注目していました。特に女性のファッションは(社会における女性解放の気風にともなって)この時代にどんどん華やかになっていって…」

――スカート丈が短くなり、自由でお洒落な女性たちは“フラッパー”と呼ばれたそうですね。
「当時は“奇抜”という見方もあったようだけど、21世紀の今、見ても素敵だと思えます」

――ダンスについてはいかがでしょうか?
「僕の大好きなフレッド・アステアが活躍し始めたのが、20年代。クラシック・バレエをベースとした“王道のジャズダンス”で、今、存在するダンスの多くはここから派生していると言っていいと思います。一見、シンプルに見えても、踊るとなると難しくて、基礎が整っていないと綺麗なダンスにはなりません。クラシック・バレエをやったうえで、長い年月をかけて磨き、踊れるようになるダンスです」

――クラシック・バレエだと、まず一つ一つのポジションをしっかりこなすことが求められますが、それがこのダンスにも当てはまるのでしょうか。
「バレエだと、それぞれのポジションがきれいに出来るようになったうえで、自分の色や“味”を出しますが、アステア・ダンスも同じです。アステアは一つ一つの動きを美しく見せながら、コンプレックスだった大きな手をフレックスにして(手首を返して)踊ることで、独自のスタイルを作って行きました。今回、僕が演じるジミーも台本で“アステア風に”と書かれているところがあるので、手首をフレックスにして踊っています」

――『モダン・ミリー』について、中河内さんがまず惹かれたのはどの要素ですか?
「初めて作品に触れたときは、耳に残る曲ばかりで、音楽がめちゃくちゃいいなと思いました。古めかしさは全くなかったです。どの曲もメロディに壮大な膨らみがあって、華やかなテーマパークにでもいるような感覚でしたね。
内容的にも、ブロードウェイ・ミュージカルでここまで笑いの多い作品はなかなか無いんじゃないかな。そういう意味では新鮮さもある作品ですね」

 

『モダン・ミリー』ジミー(中河内雅貴)

――中河内さんが演じるのは、ミリーがNYで最初に知り合う男性ジミー。プロフィール的にはあまり情報がなく、ちょっと謎めいた人物ですね。
「その答え合わせは最後に出てきます(笑)。ラストまで御覧いただければ“そうだったのか”とわかる部分がいろいろあると思います。
2年前に稽古していたときは、それを“匂わせる”芝居はしなかったので、もし開幕していたら、確かにはじめは謎めいた男性に見えたかもしれませんね」

――今回はその時の役作りに何かプラスしていこうとお考えでしょうか。
「この作品はとにかく“濃い”キャラクター揃いなので、その中で(二枚目の)ジミーはあまりキャラ立ちしていなかったかもしれません。もちろんそれは正解ではあったと思うけど、ストレート・プレイのような真っ当で真面目な芝居をしていたので、今回はもうちょっと遊んでもいいかな、と思っています」

――コメディの演技ではどんな点を意識されますか?
「今回のような、話がどんどん進んでいくようなコメディでは、リアル一色の芝居だと面白くなくなってしまうので、要所要所で“非日常感”を出すことが大事だと思っています。面白くしようとしてるのが見える(わざとらしい)コメディほどつまらないものはないので、本気でぶつかっていくしかないですよね。(稽古で)突破口を見つけたいと思っています」

――ミステリアスな部分もあるお役ですが、ジミーは“毎晩違う女の子とデートする”プレイボーイだったのが、ミリーに出会ったことで大きく変わっていきます。それほどミリーが傑出した女性だったということでしょうか。
「それまで、ミリーのように、夢や信念を持って言いたいことをはっきり発言する女性が自分の周囲にいなかったのでしょうね。それと同時に、ジミーはミリーの中に、どこか自分の母親に近いものを感じていたのかもしれません。彼は家族を大事にする人間らしいので、台本に描かれていない部分を想像するなら、きっと母親の影響を受けているんじゃないか。そのあたりも最後の“答え合わせ”で見えてくるので、僕の感じ方も間違ってはいないと思います」

――ジミーがミリーへの思いを吐露するナンバー“I Turned The Corner”(原題)は、素朴であたたかみのある表現が素敵ですね。“Your smile like home to me(君の笑顔がホームのように感じられた、といった意)”と…。
「大好きな曲です。僕はたいがい、稽古に入るとその前にやっていた作品のことは忘れるのですが、この曲はずっと僕の中に残っていて、この2年間、自然と口ずさんでいました。それくらい、いい曲なんです。
ジミーにとってはミリーとの出会いは人生が変わるほどのもので、言葉では言い表せない、いわゆる“ビビッ”というものが走ったんだと思います。でもそういう時ってだいたいこちらの一方的な思いなので、相手は感じていない(笑)。でもジミーは誠実に、諦めず何度もミリーにアプローチします。大した男だな、と思いますよ」

――ミリー役、朝夏まなとさんとの共演はいかがですか?
「とにかくミリーが輝いて見えればジミーとしては成功だと思っていますが、朝夏さんは華があって手足も長くて、言うことなしです。彼女の魅力を間近に見ることができてわくわくしますね。
2年前の稽古では最初、ペアダンスが大変だったんです。踊りが出来る女性に共通することですが、リードされなくても彼女は踊れてしまう。でもそれではペアダンスとして成立しにくくなるので相談したら、すぐ(リードされるように)踊り方を変えてくれて、さすがだなと思いました」

――小林香さんの演出はいかがでしょう?
「小林さんは人を縛らない方ですね。まずはその人の持っているものを見ようとしてくださる演出家です。
それと、小林さんは仕事と育児を両立するために、稽古は早く始めて早く終わるということを先駆者的に実践されていて、僕も子供が生まれたのですごく賛同しますし、尊敬しています。(変革したいと)思っても実行に移すことってなかなか大変な中で、実行されているのが素敵だと思います。

小林さんも今回の『モダン・ミリー』については、“2年前より面白くします”とおっしゃっていますし、サスペンス的な要素があってもハッピーにまとめられた、よく出来た作品です。癖の強い役が多い僕には(笑)久々の、“超まじめで純粋”な役をご覧いただけますし、2年前の中止がショックだった分、さらに楽しい舞台をご覧いただけると思っています」

中河内雅貴さん。©Marino Matsushima 禁無断転載

――中河内さんには7年前にもインタビューをさせていただきましたが、その時は今後のビジョンとして、“第一線を走りながらも、若い世代への継承をしていきたい”とおっしゃっていました。今はどんな思いをお持ちですか?
「今は、昔よりも縛られることが少ない世の中になってきているように感じます。そんな中で僕自身、舞台ってこういうものという固定観念に縛られるのではなく、どんどん新しいものを受け入れられる人間でありたいです。拒むのではなく、柔軟に対応できる大人でいたいですね」

――そういったことで最近2.5次元ミュージカルにも出演されているのですか?
「お声がけいただいてタイミングが合い、なおかつ出たいと思わせる作品だったのです。一人のエンターテイナーとして、お声がかかればジャンルを問わずどこにでも行かれるようにしていきたいな、と思っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『モダン・ミリー』9月7~26日=日比谷シアタークリエ、10月1~2日=新歌舞伎座 公式HP
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